「小岩、体育祭でも光宏と勝負するんだって?」 「ウッス!」 「期待はしてないけど、面白い勝負見せてくれよなー。」 「期待していいッスから!しっかり見ててくださいッス!!」 「ういー。がんばれー。」 からかうように笑うサッカー部の先輩たち。 拳を握り、いつものように勝利宣言をすれば返ってきたのは気のぬけたような応援の言葉。 くそ、負けるって決め付けてるな先輩たちめ!見てろよ、あんたらの度肝を抜いてやるから。 Run and Run 「あれ?今日光宏は?誰か聞いてるか?」 「ああ、体育祭の実行委員で遅れるって連絡があったぞ。」 あれから数日。体育祭はもう目前。 体育祭実行委員らしいとも日生とも、まともに顔を合わせていない。 だけど実は少しだけほっとしていた。 日生とが仲睦まじく実行委員をしてるところなんていうのも見ていたくないし、 俺がに言った言葉はいまでも自分の中にしこりを残していた。 だったら早くに声をかけるなり、謝るなりすればよかったのかもしれないけれど 俺はもう意地になっていて。体育祭でアイツに勝って、自分に自信を持ってと話したいと思ってた。 そりゃと話せなくて寂しいって気持ちもあるけど、体育祭まで後少し。 自分で決めたこと、俺なりの意地。結局それは俺の我侭だけど、そんなちっぽけな意地でも貫き通したかった。 「遅れましたー!」 「おう光宏。こっち入れ。」 「うーす!」 そんなことを考えているうちに、委員会の仕事を終えたらしい日生が走りながらこちらへ向かってくる。 丁度これからミニゲームをはじめるところだったため、俺のマークとなる日生は笑みを浮かべながら俺の前に立った。 「実行委員って結構面倒なんだなー。すげー疲れたー。」 「じゃあならなければよかっただろ?グチってんなよ男らしくねえ!」 「えーだっていつの間にか推薦されてんだもん。そこで断る方が男じゃなくねえ?」 「やるって言ったからには最後まで文句言わずやれっつーの!」 「何だよ小鉄厳しいなー。いいじゃん友達にグチるくらい。」 「・・・は・・・?」 一瞬間があいて、日生が今なんと言ったのかを理解するのに時間がかかった。 「何言ってんだお前!誰が友達だ!」 「え?!違うの?!俺ずっとそう思ってたんだけど!!」 「誰がダチだ!お前は俺の天敵だー!!」 「うっそ!俺小鉄のこと好きなのに!!」 「きっ・・・気色わりいこと言うなーーーー!!」 「おいそこ二人!うるせえぞ!」 先輩のドスの聞いた声が響いて、ミニゲーム開始の笛がなる。 あまりの予想外の言葉に混乱していた俺を覗き込むと、日生は面白そうにニヤリと笑う。 ・・・もしかして、ていうかやっぱりからかってやがった! 「やっぱり面白いな、小鉄!」 「てっめっえっはっ・・・!!そういうところがムカつくっつってんだよ!」 「別にからかったわけじゃないぜ?俺はお前をダチだって思ってるし?」 「誰が!」 「えー本当なのに。そろそろ日生って止めて、もっとダチっぽく呼び方変えてくれてもいいって思ってるのになー。」 「嘘つけ!呼び方なんかにこだわる奴かお前!」 「あはは!何だかんだで俺のことわかってんじゃん!」 「わかってたまるか!」 日生との言い合いに気をとられて、その隙にマークをはずされ まんまと奴にパスがまわってしまった。くそ!日生め、これも狙ってたなちくしょう。 その後もいいように走りまわされるわ、ボールは奪われるわで散々だった。 日生は先輩に褒められ、俺は何回ミスしてんだと怒鳴られた。なんだこの差。 日も暮れて部活終了の声がかかると、俺は同時にグラウンドに寝転がった。 日生は気色の悪いこと言うし、無駄に走らされたし、普段考えないような難しいことも考えてたし。 すっげえ体力使った気がする。 「大丈夫か小鉄。」 「・・・うるせー。」 「お前うるせーって口癖だろ。後叫ぶのも。」 「・・・。」 寝転がる俺に上からタオルを落として、ヒラヒラと丁度よく俺の顔の上に乗ったタオル。 タオルで視界はふさがれ日生の表情など見えないが、口調からして笑っているのだろう。 「がお前の様子がおかしいって言ってたぜ?」 「!」 「いつにも増して変だって。ははっ。」 それはにも直接言われたことだ。 別に日生に言われなくたって知っている。自分でもわかってる。 「幼馴染なんだろ?心配かけるなよな。」 バカ日生、その原因ってお前にもあるんだぞ。 お前がの側にばっかりいて、の笑った顔を見て。しかも一緒に実行委員にまでなりやがって。 って・・・くそ、女々しいのは俺の方じゃねえかよ。 「・・・お前はさ。」 「ん?」 「・・・なんでもねえよ。」 「はあ?!何だよ気持ち悪いな!」 タオルに隠れて見えないだろう俺の表情。 隠れていてよかった。俺は今そりゃもうものすごく情けない顔をしているんだろう。 「とにかくっ!!」 俺は一呼吸すると、顔にかかっていたタオルをはいで勢いよく立ち上がった。 「お前には負けねえ!!」 さっきまで、タオルの下で情けない顔をしていたことも 全然男らしくない女々しい考えをめぐらせていたことも 全部なかったかのように、宣言する。 格好悪い。そりゃすごく格好悪いけど、コイツの前で格好悪いところなんて死んでも見せたくねえ! 「・・・ははっ、あははは!」 目をパチクリさせながら、俺の宣言を聞いていた日生が笑い出す。 どうでもいいけどこいつ、俺を見て笑う回数多すぎだろ。 「お前っていっつも勢いでごまかすよなー!」 「う、うるせー!」 「また言った!」 「うる・・・だあーーー!!くそっ!」 「叫んだー!!」 ひーひー言いながら腹を押さえてうずくまる日生の姿に腹が立つのは がからんでるからとかじゃない。これは違う、絶対。 「勝手に笑ってろバーカ!」 「ひー!待てよ小鉄、苦しい!」 知るかそんなの!と心の中で悪態をついて(だって実際言ったらまたなんか言うしコイツ) 未だ腹を押さえている日生をほおってグラウンドを出て部室へと歩き出した。 「あー笑った。」 「・・・。」 「よし、じゃあ俺も張り切ろうかな体育祭。」 何だコイツは!張り切る気なかったのか! 俺はこんなにもやる気だったっていうのに!真剣勝負を何だと思ってやがる! 「格好いいとこ、見せたいし!」 そう言いながら俺の前を歩き、先に部室へ入っていった日生の言葉が いつまでも耳に残った。 そういえば一人でずっと考えてはいたけれど、俺は肝心の二人の気持ちを知らない。 そこが一番大事なところなのに、考えもしていなかったなんて俺はどこまでバカなんだ。 格好いいところを見せたい。俺だって。 だけど日生は、誰に向けてその言葉を言った? その思考に捕らわれて、グラウンドで一人立っていた俺は はやく帰れと叫んだ先輩の言葉で我に返り、なんだかんだで結局怒られて学校を出た。 の所属するテニス部の練習はもう終わっていて、と会うこともなく 俺は一人モヤモヤとする思考に混乱しながら、今にも爆発しそうな頭の中を整理しようと必死だった。 TOP NEXT |