「あ、鉄平。」 「よ、よっ・・・よう!」 「・・・?」 当たり前に側にいた、幼馴染。今は見るだけで心拍数が上がってる。 「鉄平、いつにも増して変だよ。」 「変じゃねえよ!ていうかいつにも増してってなんだ!」 くそう、ちくしょう。 俺は一体どうすればいいっていうんだ。 Run and Run 「あー!小鉄じゃん、何やってんのこんなところで。またに用事〜?」 「うるせえな!またって何だよ!」 に会うとなんだかおかしくなってしまうようになった俺だが、だからといってを避けたいと思うわけもない。 昔から忘れ物のひどい俺が、それを借りる相手はいつもで。だからこのクラスに来る頻度も高くなる。 また、なんて言われても仕方のないことだけど、自分の気持ちを自覚した今となってはそれがやけに恥ずかしく感じる。 まさか、まさかだけど、もしかして俺はただ単にクラスの違うに会いたかっただけ・・・とか・・・ 「ぬがーーー!!」 「きゃあっ!何?!うるさいし!いきなり叫ばないでよ小鉄!!」 「うるせー!!」 「アンタがうるさいっつの!」 真っ赤になってしまうような自分の思考に思わず叫んでしまう。 のことが好きだとかはともかく、俺がそんな女々しい考えするか!違う、絶対違う! 「ていうかならいないよ。」 「え?」 「みっくんと委員の用事で教室出て行った。あの二人、体育祭実行委員だからね。」 「・・・へ、へえー。」 ピクリ、と肩を揺らして。何でもない風を装いながら自分の胸がざわつくのを感じた。 二人で。二人でね。へえーそうか。まあ委員会じゃ仕方ねえよな。 「小鉄もさあ、離れしなよ。」 「・・・は?」 「とみっくんさ、いい感じだと思わない?」 「・・・はあ?!」 「私ら、あの二人くっつけようって狙ってんだよね。ってあまり表情出さないのに、 みっくんの前だと結構笑ってるじゃん?みっくんもいつもに構ってるしさ。見た目もお似合いって感じ?」 「はあーーー?!」 「もううるさいな小鉄は!さっきから「は?」しか言ってないじゃん! アンタもには世話になってるんだから、快く応援するって気にならないのー?」 が日生の前だとよく笑ってること、気づいていたのは俺だけじゃなかったんだ。 まあ、そりゃそうだよな。でも、つまりそれだけはアイツと一緒にいてずっと笑ってるってことだ。 そして、日生も。周りがお似合いっていうくらい、の側にいる。 「・・・ってねえ・・・。」 「え?」 「似合ってねえよ!あんな性格悪い奴とがあうわけねえだろ!」 「みっくん性格悪くなんてないよ。ていうか小鉄が勝手に勝負して負けて性格悪いって言ってるだけじゃん。」 「・・・っ・・・!」 ちくしょう。すげえ悔しい。 幼馴染でずっと一緒にいる俺はとお似合いだなんて言われたこともないのに。 そりゃ最近までは当たり前に一緒にいすぎて、そんなの考えたこともなかったけど。 俺も、俺だって・・・。 「顔も良くて、性格もよくて、アンタとの勝負にも勝ち続けて。 何の文句があるのよ。小鉄も大人になってとみっくんの幸せを祈りなさいよねー。」 そりゃが喜んでくれれば嬉しいし、幸せを祈れっていうなら祈ってやる。 だけど、それをにしてやれるのが日生だなんて嫌だ。いや、他の誰だって嫌だ。 アイツの隣にいるのは、アイツが笑っている隣にいるのは、俺でありたい。 「うがーーーっ!!」 「うるさいって言ってんでしょ小鉄!」 「何すっ・・・ぬあっ・・・痛えーーー!!」 軽く頭を殴られて、ついでにその勢いで柱に頭をぶつける。 予想外の痛みに思わず涙を浮かべながら(泣いてないぞ断じて!) また恥ずかしいことを考えていた自分に顔を蒸気させながら、俯き加減に頭をさすった。 「あ、小鉄!」 「どうしたの?」 「、みっくんおかえりー。」 頭をさすりながら自分の名前を呼ばれたほうへと振り向くと、そこには例の二人だ。 さっきまでこいつらをくっつけると豪語していた目の前の彼女は、ニヤニヤしながら二人を見つめていた。 「小鉄、また忘れ物したんだってー。いい加減に頼るの止めなって言ってたんだけどさ。」 「はは!お前忘れ物多すぎ!」 「何忘れたの?鉄平。」 「あーもういい!他の奴に借りる!」 はともかく、残り二人は確実に俺をバカにしている。 あーもう腹立つ!誰もてめえらに借りるなんて言ってねえし、俺が物を忘れるのは昔からの性分だ! はきっとそれをわかっているだろうけど、こんな状態でまたに頼ったら格好悪すぎるだけで。 俺は以外の二人に怒りを表しながら踵を返した。 「小鉄、いい加減離れしなよねー。いくらが大好きだからってさー。」 「っ・・・!別に好きなんかじゃねえよ!!」 その言葉に特別な意味なんてないのはわかってた。 でも、からかわれるように言われたその言葉に、俺は思わず反応を返してしまって。 「うっわ、これだけ頼っといて何その言い草!」 「素直じゃないよな小鉄ー。」 相変わらずの野次が飛んできたけど、俺はそれどころじゃなくて。 特別な気持ちに気づいていた自分の、思ってもない言葉。 気になっていたのは、の反応だけだった。 はいつもマイペースで表情の変化の少ない奴だけど、人の気持ちには人一倍敏感だから。 「・・・。」 何も言わず、表情すら変えない。 長く付き合ってきてるけど、その心は読めない。 でも、俺の思い上がりかも知れないけど。 今の言葉はきっと、を傷つけた。 「?」 「ん?」 「いや、急に黙ったから。どうしたのかと思って。」 「私、普段そんなに喋ってるキャラだったっけ?」 「いや、うん。違うな。けど、意外と喋る奴だとは思う。」 「あ、そうなんだ。」 淡々と話す二人の姿を、ただ見つめて。 走りで負けて、サッカーで負けて、その上の隣まで? そんなのまっぴらだ。俺は後先考えないし、バカだし単純だけど。 のことはきっと一番知ってる。 何考えてるのかわからないことだって多いけど、それでも絶対、のことは俺が一番知ってるんだ。 「日生!」 「え?」 「勝負だ!!」 走りもサッカーもの隣も。 譲らない。譲ってなんか、やるもんか。 「勝負って、いつもしてんじゃん。」 「体育祭!走る組、お前と同じにする!」 「するって・・・そりゃどうとでもなるだろうけどさ。」 自分の指でその決意を示すように、日生へと向ける。 ポカンとした表情の日生。表情を変えない。 「そんでお前を負かす!絶対だ!」 日生に勝ったら誰にも文句なんて言わせない。 意地をはって誰かを傷つけるようなガキから卒業だってしてやる。 「じゃあな!首を洗って待ってろ!」 そう宣言して今度こそ俺はそこから走り去った。 自分の情けなさに胸がチクリと痛んで、それでも意地でもアイツに勝つんだと決意を新たにしながら。 TOP NEXT |