「だあー!ありえねえ!ありえねえーーー!!」 「ありえないも何もこれが結果だし。また俺の勝ちだな小鉄!」 「ちくしょう!次はぜってえ負けねえからな!」 「いいぜ?いつでも受けて立ってやるから。」 奴が転校してきてから、何度目の勝負だったかなんてもうわからない。 そして何度言ったかわからないくらいの捨て台詞。 俺のプライドはもうズタボロなのに、それでも余裕の笑みを浮かべる男。 いつか絶対負かしてやるから、その日まで首を洗って待ってろよ! Run and Run 「また日生と勝負したの?」 「した!あの余裕の笑顔を崩してやるんだ!ちくしょー!」 「・・・で、負けたと。」 「ぢぐじょーーー!!」 「泣いてる?」 「泣いてねえ!」 小学校からの持ち上がりの生徒が多いこの学校で、突如現れた見知らぬ顔。 足の速さには絶対の自信があった俺のプライドをたやすく砕いていったそいつは、同じ学年の転校生。 「いいじゃん。いつか負かしてやるんでしょ?」 「あったりまえだ!」 「じゃあ泣くな、鉄平。」 「だから泣いてねえっての!」 始めの勝負は先輩のパシリ中の走りあいだったわけだけど、いつの間にか奴のペースに巻き込まれて 今では何故かサッカー勝負が続く毎日だ。 元々サッカーやってたあいつにまあすぐに勝てるわけもない。って、別に負けてる言い訳じゃねえけど! 「でもさあ、日生追いかけてまでサッカー部に入るなんて、何だかんだで仲いいよねアンタたち。」 「気色悪いこと言うな!どこを見てそう言ってんだ!」 俺の横で淡々と俺とアイツ・・・日生光宏との仲がいいだなんて、気色悪いことを言っているのは お互いの部活の帰りが丁度同じになった俺の幼馴染。 昔からマイペースな奴で何を考えてるのか今でもよくわからない奴だ。 「日生がクラスでさ、鉄平の話ばっかりするの。」 「え・・・?」 日生と俺はクラスが違うが、は日生と同じクラス。 それってつまり日生が俺をライバルとして認めてて、話がよく出るとかそういう・・・ 「小鉄ってからかうと面白いよなーって、そりゃもう満面の笑みで。」 「・・・うがあ!!アイツ負かす!絶対負かすーー!!」 「まあケガしない程度に頑張ってね。」 俺はせっかくバッチリとセットした頭を思わずぐちゃぐちゃにかきむしりながら。 俺に勝ったと面白そうに笑うアイツに、負けの二文字を背負わせてやろうと再度誓ったのだった。 「!悪い、数学の教科書持ってるか?」 「持ってるけど、忘れたの?いつもロッカーに教科書置きっぱなしの鉄平が珍しいね。」 「悪かったな。昨日は絶対宿題やってこいって釘さされてたんだよっ! そしたらこれだ。やっぱり教科書なんて持ってかえるんじゃなかった!」 「いや、その解釈はどうかと思うけど。」 「お!小鉄じゃん!どうしたの?」 「げ、日生。」 「げって何だよー。それが同じサッカー部の仲間に言う言葉か?」 「仲間以前にライバルだからなお前は!」 「細かいとここだわるよなお前。」 「うるせー!」 授業で出された宿題なんて、たいていやってこない俺だけど(だってやってもわからねえし) 何か昨日はついに教師に釘をさされた。やってこないとトイレ掃除1週間とか。ちきしょう職権乱用だ。 そんなわけで昨日は真面目に教科書を持って帰って宿題もやった(あってるかどうかは知らない) なのに教科書を忘れるという失態。やっぱり慣れないことなんてするものじゃねえんだよ。 せっかく宿題をやってきたのに教師にネチネチ言われるのも嫌だったし 仕方なくに借りに来たわけだけど、そうだ、このクラスには日生もいたんだ。 ついでに昨日も勝負には負けた。そんな奴に笑顔で話しかけるやつがあるか日生め! 俺たちは友達じゃなくてライバルなんだからな! 「え?ああ、教科書借りにきたんだ?珍しく宿題やったら教科書忘れて?あははは!小鉄らしいな!」 そんで。お前は親切丁寧にこの状況を教えなくていいっつーの! 「あー!小鉄じゃーん!またみっくんに勝負挑みに来たのー?」 「どうせ負けるんだからもう止めとけばいいのにー。」 ドアの近くにいた小学校のときのクラスメイトが寄ってくる。 つーか、みっくん?!小学校からの持ち上がりが多い学校なのに、めちゃくちゃ馴染んでるなコイツ。 人をからかって面白がる嫌な奴なのに!皆騙されてるっつーんだ。そしてどうせ負けるって何だちくしょう。 「うるせー!調子乗ってられるのも今だけだからな日生!ぜってえてめえを負かす!」 「おー、楽しみにしてるなー。」 「そっのっ余裕がムカつくんだよ!アホ日生ー!」 「おー、じゃあなアホ小鉄。部活でなー!」 歯を食いしばって表情で目一杯牽制してやったのに、何だその笑顔。 誰もそんな笑顔で手を振って見送ってくれだなんて頼んでねえ! 「あー、鉄平ー・・・。って行っちゃったし。」 「どうした?。」 「教科書忘れてるけど。」 「・・・っ・・・さすが小鉄・・・!何しに来たんだアイツ・・・!!」 俺が去った後に大爆笑する日生の姿なんて知る由もなく、 に借りるはずだった教科書がないことに気づいたのはそれから数分後。 授業開始のチャイムが鳴っていた。・・・時既に遅し。 俺は今日も教師に説教をくらい廊下に立たされたのだった。 「ちくしょう・・・ちくしょう・・・ちくしょー!!」 「また負けたの。」 サッカー部の俺と、テニス部の。 学校で決められた部活終了時間は同じ。 今日も帰りが一緒になったを並んで歩く。悔しさでかきむしった頭は既にボサボサだ。 「負けっ・・・負けてねえ!負けを認めるまで負けじゃねえ! 違うんだよ!アイツは何でああ嫌味ったらしいんだ・・・!それがムカつくんだあ!!」 「ああ、鉄平との勝負の後って心底楽しそうだもんね光宏。」 「それが嫌味ったらしいって・・・光宏?」 いつものように淡々と俺に返事を返すの言葉に感じた、ちょっとした違和感。 一瞬わからなくて、でもそれはすぐにわかる。あれ、のアイツの呼び方が昨日までと違う。 「?どうかした?」 「え、あ、いや・・・ひ、日生と仲良くなったのか?」 「へ?何で?まあ同じクラスだからそれなりには。」 「あ、あー!まあそうだな!アイツがどんなに嫌味ったらしい男でもクラスメイトだしな!」 いきなりどうしたのかとでも言うように、疑問の表情を浮かべて俺を見る。 そりゃまあそうだよな。俺らだって名前で呼び合ってるわけだし、別にたいしたことじゃねえよな。 むしろ俺は何に反応したんだ。わけわからねえ。 「おーい!小鉄!!」 名前を呼ばれて振り向いた先にいたのは、今日はもう見たくもない顔だった。 ていうか・・・あれ、ちょっと待て。 「悪い悪い。これ、借りてたノート!これないと宿題できないだろ?」 「あれま。すっかり忘れてた。」 「しっかりしてそうで妙なとこ抜けてるよなー。って借りてた俺の台詞じゃない?」 「台詞じゃないね。」 「うわ、直球!」 あまり反応を見せないの表情が、心なしか楽しそうに見えるのは気のせいか? いつも笑ってる日生の表情に嫌味ったらしさを感じないのは気のせいか? 今までって呼んでた光宏が今・・・ 「じゃあ、ごめんな。小鉄もまた明日なー!」 って呼んでるのは・・・気のせいじゃねえし! 「うん、じゃあね。・・・って鉄平?」 「小鉄?」 「え?あ、う、うるせー!明日も負けねえからなー!」 「明日もってなんだよ!いつも俺に負けてんじゃん!」 「うるせー!!」 「ははっ!じゃあなー!」 笑顔で手を振り去っていく日生を眺めながら、隣のを横目で見た。 するとの視線は既に俺に向いていて、目があってしまった。 何も後ろめたいこともないっていうのに、何だか気まずくなってすぐ目をそらす。 「どうしたの?鉄平。何か変じゃない?」 「べっ、別に変じゃねえよ!」 「・・・ふーん。」 納得がいってないように呟く。けれどはそれ以上俺に何も聞かなかった。 まあ聞かれても何もないとしか言いようがない。俺自身だってわけがわからないんだから。 と目があわせられないのも、体の中で何かがざわついているような感覚も。 日生との姿を思い浮かべると何だかムカムカすることも。 おかしい。本当におかしいぞ。 確かに日生はライバルだけど、アイツの人をからかうような態度にはムカついてばっかりだったけど。 自分の友達と日生が話すだけで腹が立つだなんて、そんな心の狭い人間になった覚えはないぞ俺! なのに、何でこんなに落ち着かないんだよ。 「・・・だあーーーーっ!!」 「・・・びっくりしたー・・・。」 「走ってくる!」 「は?」 「こういうときは走るに限る!」 「・・・あ、そう。わかった、行ってらっしゃい。」 が俺の言葉に理解したかのように頷いて、小さく手を振った。 彼女は俺のストレス解消法を知っているから。 昔から走ることが好きだったし、足の速さにも絶対の自信があった。(今はプライドを傷つけられてるけど) だからその自慢の足で何も考えず、ひたすら走る。 そうすれば、ちょっとした悩みなんてすぐに吹き飛ぶんだ。 暗くなり始めた道をひたすらまっすぐに走った。 町内1週するくらいには何かがつっかえているようなこの感覚も、 何故かイライラしているこの気持ちもスッキリと無くなっているだろう。 TOP NEXT |