「さて、これからどうする?」 「サッカーでもダメだったもんな・・・」 「・・・くだらない冗談だって聞き流してもいられないか。 、こうなった状況をもう一度しっかりと話して。」 「え!」 「何?都合の悪いことでもある?」 「いえ、話しているうちに英士くんが段々怖くならないなら、まったく問題はございません。」 「誰が怖いの?心外だな、俺はいつだって冷静で正直だよ。」 サッカーをすれば結人が戻ってくる説は、見事効果がなく、私たちは次の手を考えることにした。 けれど、こんな現実離れしたことに対し名案などすぐに浮かぶはずもない。そもそも元に戻る方法というものが実際あるのかすら不明だ。 途方にくれる前に、話を整理することに決めた。ていうか、あれだけ必死で説明したのに、英士も一馬もまだ私の話を信じていないのが悲しいところなんですけど。 「なんだっけ?妄想だけだった変態が、行動を起こす変態になった話だっけ?」 「も、もう少しオブラートに包めよ。意識しないうちに行動で示すタイプの変た・・・」 「どっちにしても変態なの?!」 my precious story 「結人の秘密を暴露でもしていこうか?恥ずかしくなって、飛び出てくるんじゃない?」 「!!い、いいんじゃない?!」 「・・・いや、やめておこう。」 「え?!なんで?!」 「アンタを喜ばせるのが嫌だから。」 「よ、よろこ・・・喜んでなんてないよ?!」 「そういう台詞は鏡で自分のにやけた顔を見てから言って。」 ゴロゴロゴロ・・・ガツンッ 「あ、そういうなら、英士や一馬の秘密でもいいんじゃない?!」 「は?何言ってるの。」 「秘密とか思い出話をしたら、結人から何か反応が返ってきたりさ・・・」 「アンタの中に結人はいないんじゃなかった?反応って何?」 「でもさっき英士だって、飛び出てくるとか・・・」 「は?」 「・・・ご・・・ごめんなさいい!英士と一馬の話が聞きたかっただけです・・・!」 ゴロゴロゴロ・・・ガツンッ 「ふざけてると投げるよ、これ。」 「それはシャレにならないでしょでしょ!!」 「・・・お前らさあ・・・あのさー・・・」 「何?一馬。」 「お帰りー」 「・・・。」 あの後にやってきたのは、なぜかボウリング場だった。 ボウリング球を片手に不気味な笑顔を浮かべる英士を引きとめながら、 今投げ終わり、疲れたような表情を浮かべる一馬へと振り向く。 「・・・なんでボウリング?!俺、苦手なんだけど!」 「ねー。ちょっとびっくりしたよねー。一馬、まさかの連続ガーター!」 「気づいてたんなら反応しろよ!からかわれんのも嫌だけど、無反応もきついんだよ!」 「だって・・・反応に困るよね。」 「拍手でもした方がよかった?」 「もうやだ!なんだこいつら!!」 次に行く場所が、何か対策を練れるような落ち着いた場所ではなく、 ざわついたボウリング場だったというのは、私も意外だったけれど。 もっと意外だったのが、一馬のボウリングの腕前でした。 「だってファミレスとかだと周りに会話が聞こえるだろうし、 何よりこの話をじっと集中して続けてなきゃいけなくなるでしょ。俺、そんなのは嫌。」 「だからって何も・・・」 「ボウリング場だったら周りがうるさいから気兼ねしなくていいし、ちょっとしたストレス解消にもなる。」 「あーなるほどね!ピンが一気に倒れる爽快感とかいいよね〜!」 「俺にはストレスしか残らねえじゃんかよ!!」 ちなみに先ほど半分ほど終えたけど、私は割と得意だし、英士は小さな動きながらも華麗にピンを倒していた。 一馬についてはノーコメント。 「・・・っ・・・俺の考えはさ。」 「何が?ボウリングについて?」 「違う!結人のこと!」 「あー、はいはい。」 「・・・一番ひっかかるのは時計と電話だよ。英士は多分、未だに信じてないと思うけど・・・ 俺はちょっと・・・お前が別の世界の人間かもって思い始めてる。」 「!」 ゴロゴロゴロ・・・ガシャーン! 「だって、明らかにおかしいだろ?時計も電話も・・・お前の発言も。」 「最後のは余計だよ。だけど、うん。確かに時計と電話は謎だね。」 「何か心当たりはないのか?」 「・・・私も考えてたけど、これと言って何も・・・」 「よく考えろよ!お前だけの問題じゃねえんだからな!」 「わ、わかってるよっ・・・!私だって一生懸命・・・」 ゴロゴロゴロ・・・ガシャーン! 「・・・。」 「・・・。」 「あーあ。一本残しか。残念。」 「・・・やっぱり場所変えた方がよくねえか?」 「まだ落ち込んでるの一馬。いい加減そういう才能の持ち主だって認めなよ。」 「だから俺のボウリングの話じゃねえって言ってんだろ?!」 いまいちシリアスにはなり切れないけれど、一馬の言うことは尤もだった。 私がここに来ることが出来た理由はわからないけれど、強い願いを持っていたことがきっかけな気はする。 そして、私はこの世界に来てから、元の世界に戻りたいと何度も願ったつもりだ。けれど、その願いは未だ叶っていない。 そりゃあ邪な感情があって、心から願えていないからだと言われてしまったら、否定することもできないけれど。 願っても叶わないのならば、次の手がかりは一馬の言ったとおりに、時間の狂う腕時計と反応すらない電話だ。 私がこの世界に来たこと自体、不思議な出来事だからと、無意識に深く考えず通り過ぎてしまっていなかっただろうか。 ゴロゴロゴロ・・・ 英士に取り上げられそうになった腕時計を見る。時間は2時。AMってついてるから午前のことだよね。 実際の時間をボウリング場の時計で確認する。現在の時間は午後の4時みたいだ。ズレは14時間。 確か私が持った時計は1/2の速度で動いてたから・・・その速度に狂いはないみたいだ。 私の携帯につながらない理由は、かけてる先が違う世界だからって思っていたけど・・・ ・・・違う世界? ガシャーン!! 「うわ・・・ストライク。」 「結人・・・じゃないか、のくせに生意気。」 私は何かずっと見逃していたんじゃないだろうか。 「その時間のズレに何か意味があるのかもね。」 英士の一言で、時間のズレに何か鍵があるんじゃないかって考えた。 けれど、思い当たることはなくて。ないと思っていて。 もう一度、しっかりと思い返す。私は何を思った?何を言葉にした? 『あーいいなー!結人いいなー!』 『代わりたい!一日でもいいから代わりたい!』 『そして彼らに囲まれて、ハーレムを作りたい!』 ・・・恥ずかしい。 いいえ!人の忠実な欲望でしょ!何を恥じることがあるというの?! なんて、現実逃避はやめてしっかり考えよう。時間、時間、時間・・・ 『代わりたい!一日でもいいから代わりたい!』 一日でもいいから、という言葉。これが願いの制約になっていないだろうか? けれど、一日が制約で期限だとするなら、私がこの世界に来たのは昨日の12時。 "一日"はとうに過ぎてしまっている。違うか・・・。 「・・・?」 「どうかしたのか?」 いや、よく考えてみて。別に仮説だっていいんだ。 それが何か手がかりに繋がるかもしれない。 電話がつながらない理由は、私が別世界の人間だから。 時計に触れると時間がずれるのは・・・それが、元の世界の時間だから。 この世界と私の世界で、時間軸がずれているのだとしたら・・・? 「英士・・・一馬・・・」 「何だよ?何が・・・」 まだ、"一日"は経っていない・・・? 「閃いた!」 「「・・・。」」 指を差し、ビシッと擬音が聞こえそうなくらい決めてみたけれど、二人の反応は驚くくらいに薄い。 ちょっとちょっと、二人ともクールはいいけれど、ここは乗ってきてよ! 「・・・ふーん?」 「ほ、本当かよ?」 「本当だよ!」 「それじゃあ話してみてよ。穴のない素晴らしい閃きなんだろうね?」 「・・・。」 あれ?なんかすごい閃いた気分になったけど、よくよく考えてみたら、それほどでもなくない? いやいやいや、でもなんだか一歩進んだ気がする。そうだよ、手がかりは何もなかったんだから。 「ま、任せてよ!」 「そう、期待してる。」 「・・・っ・・・」 明らかに期待してない!でも期待しないでほしい気もする。後が怖いから。 目を輝かせつつある一馬と、何かを悟ってしまったような目をする英士に向けて 私は自分の考えを話し始めた。 TOP NEXT |