「な、なんだよ英士。何言ってんの?」





英士ってば実は冗談を言うタイプなの?
それとも、こんなファンタジーな話を信じちゃうタイプだったの?





「さっきの話。結人がふざけてるだけだと思った。
でも、そうじゃないみたいだ。」

「なーに言ってんだよ英士。いつもの俺の冗談じゃん。どうしちゃったの?」

「じゃあ、さっきの練習は?」

「それも調子が悪くて・・・」

「調子が悪いようには見えないけど?」





もう本当怖いよこの子・・・!
漫画から伝わるオーラと実際に伝わるオーラって違うんだね!学習した!
一体どうしたらこの状況から抜け出せるんだろうか。





「結人がふざけてるのも、調子乗りだってことも知ってる。
だからさっきみたいな冗談を言うことだってあると思ったけど・・・」

「・・・だったら、」

「サッカーに対して手を抜いたことはないし、いくら調子が悪くたってあんな状態になることもない。
ふざけて見えて、いつだって真剣だってことも知ってる。」

「・・・。」

「似せてるつもりなんだろうけど、口調もプレーも別人だ。何かあったのかって考えくらいするよ。」





どうやら私の最初の予感は的中したみたいだ。
いくら結人になりきったように見せかけても、騙しきれない人がいる。
ほんの少しの時間で、ここまで考えるなんてさすがイチャイチャトリオだ!

でもさ、でもさー!





「だ・・・」

「何?言い訳?」

「だ、だ・・・」

「・・・?」

「だから私は最初から言ってたでしょーーー!!」

「?!」














my precious story














「最初からちゃんと話したのに!別人だって言ったのにー!
鼻で笑ってふざけるなって怒ったのは英士でしょー?!」

「当たり前でしょ。そんな話いきなりされたって信じる奴なんていないよ。」

「なのに何ですか!俺は最初から怪しんでたーみたいに格好つけて!英士のかっこつけ!」

「・・・。」

「怖い怖い!無言の圧力はやめて!」

「・・・とにかく。話を聞かせてもらうから。」

「わ、わかりましたよー!」





そりゃあ私も調子に乗って、結人になります!とか思ってたけどさ。
でも私は最初正直に言ったよ?だから全部悪いってわけじゃないと思うの。
なのになんで私が悪いみたいな雰囲気になってるの?英士の魔力?

















英士と一馬に連れられて、通りにあるファミレスにやってきた。
席に座り適当に注文を頼むと、目の前の英士と一馬が私をじっと見つめる。
・・・なんなのこの二人。すごい綺麗なんですけど。男のくせにこんなに綺麗って反則じゃないですかね?





「どう思う?一馬。」

「どうって・・・信じられねえよ。こんな話。」

「そうだよね、俺もそう。」





そして先ほど話したことを、もう一度丁寧に伝える。
私は結人ではなく、別の世界の人間であること。
加えて、その世界では現在のこの世界が見え、だから英士や一馬の名前も知っていたということ。





「でも、結人じゃねえなとは思う。」

「そうなんだよね。」





私にちゃんと話せって言っておきながら、何この疑り深さ。ひどくない?
それと二人でまじまじと見つめないでください。ときめきすぎて倒れるから。





「俺はよく知らないけど・・・テレビとかであるよね。別人格が生まれたとか・・・そういうこと?」

「そういう話だったら、幽霊とかがとり憑くっていうのも見たことあるぞ。」

「だからー、私は別の世界ではちゃんと体もあるんだってば。」

「ちょっと黙ってて。」

「ええ?!何ですか、私の話を聞いたら用済み?!ひどいよ英士!」

「うるさい。」

「すみません。」





あれ、私悪くないはずなのに、また謝っちゃったんですけど。
反射的っていうのかな、危険信号を感知したっていうのかな。
悔しいけど、本能には従っておこうと思う。





「名前、何だっけ?」

です!漫画が好きです!妄そ・・・想像力があるねって言われるよ!
好物は英士と同じキムチです!あ、リンゴとヨーグルトももちろん好きだよ?」

「・・・なんでそんなに俺らのこと知ってんだ・・・?」

「だから私の世界からは君らが見えてるんだよ。そりゃあ、全部ってわけじゃないけど・・・」

「見えるってどういうこと?」

「テレビの中の物語を覗くように、こっちの世界が見れるものがあってね?
だからメインとなるストーリーは見れても、その裏側は見れない。そんな感じ。」

「・・・病院に連れていった方がいいよな?」

「そうだね。」

「うわー!全然信じてないし!病院なんか行かなくて大丈夫なのー!」





結局ちゃんと話しても信じてくれないし!
私だって確かに、やっぱり夢かなあとか思ってるけどさ。
それにしては、視界も感覚もリアルすぎるんだよね。





「ただ・・・」

「英士?」

「病院に連れていったら、明後日の選考会は出られなくなるだろうね。」

「あ・・・」

「選考会?」

「・・・俺らが所属してるチームのレギュラーを決める選考会。」

「へー、ユース?それとも東京都選抜の方?」

「・・・そこまで知ってるんだ。ユースの方だよ。」

「選考会なんてあるんだねー。」

「あるんだ、じゃないよ。次の試合は以前に1点差で負けたところなんだ。
俺らは絶対に試合に出て、今度こそ勝つって決めてたんだよ。」

「でも三人なら選ばれるでしょ?」

「今までの結人ならね。」





U-14で有名な三人組っていうくらいだもん。
レギュラーを取れる可能性はすごく高いでしょう?
って、私も思っていたけれど。





「今までの実績と、選考会での評価でレギュラーが決まる。先発にだって影響すると思う。
今日みたいな姿を見られたら、結人は確実に落ちる。」

「・・・え、」

「それ以前に今の結人の状態が誰かに知れたら、それこそ試合どころの話じゃなくなる。」

「・・・そ・・・それは・・・」

「一馬、少し待とう。」

「ま、待つって・・・?」

「俺たちで結人を元に戻すんだ。」

「ええ?!」





私の意見なんて関係なく、英士はどんどんと話を進めていく。
頭が追いつかないけど、とにかく結人は今正念場の時期だったってことだ。
さっきまでのうきうき気分が飛んでいった。





「リミットは明後日の選考会まで。それまでに戻らなかったら・・・病院に連れていこう。」

「・・・わかった!」

「ちょ、ちょっと待って・・・!戻すってどうやって・・・!」

「どんな手を使ってでもアンタを追い出すってことだよ。」

「な、なんで私が敵みたいになってるの?!ロマンスは?!ハーレムはーー?!」





私の叫びは英士にも一馬にも届かない。
二人で見つめあって、頷きあって、こんなところでも仲良しか!私は無視か!





「結人。」





と、思ったら私も肩を掴まれ、見つめられた。
え?やっぱりハーレムルート?





「3人で勝つんだよな!負けんなよ!」





負けんなって何に?
私にか!結人に私に負けるなって言ってるのか!





?」





・・・ギャー!英士が私の名前を呼んだあああ!!





「逃げたくなったらいつでも逃げてだしていいんだからね?どうぞ奈落の底まででも。」





しかし言ってることは怖い!相変わらず怖い!笑顔で言う台詞じゃない!












こうして私のハーレムとなるはずだった世界は、あらぬ方向へと走り出していったのでした。





この世界に来て嬉しいのに、幸せなのに。あれ、どうしたのかな。





ちょっと泣きそうです。








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