「・・・っ・・・と・・・」

「・・・い・・・・・・だ・・・・か・・・」





まあ、なんていうか、一言で言えば大好きよ?
世界が違うのはわかっていても、貴方たちのことを思わない日はないってくらいに大好きですよ?
たとえばほんの少しでもいいから、彼らの世界に行ってみたいと夢見ることだってそりゃあありました。
ありましたってレベルじゃないよ。そんなのしょっちゅうだよ。

でも、それが現実にならないことくらい、さすがにわかってたよ。



なのに。





「ちゃんと俺のこと見えてる?わかる?」

「しっかりしろよ!大丈夫か?!」





目の前で私を囲み、必死で話しかけているのは、愛しの彼らじゃないですか。
なんなの、この美味しすぎる展開は・・・!













my precious story













部屋の本棚の一番前に配置していた、私の大好きなサッカー漫画「ホイッスル!」
連載はもう終わってしまったけれど、新刊が出るのをいつだって心待ちにしていた漫画。
もうあれだね、人生のバイブルだと言っても過言ではないと思う。
もちろん登場キャラがかっこいいというのもあるんだけど、外見だけじゃない。
主人公の将くんはもちろん、皆を応援したくなる。彼らにつられて自分も頑張ろうって気になれる。そんな漫画。

魅力的なキャラがたくさんいるから、あれよね。いろいろ妄想をすることもありました。
彼らと一緒に過ごしてみたいー!とか、マネージャーになって恋してみたいー!とか。乙女の夢だよね。当然だよね。



そして今、何がどうなってか、その夢が実現しようとしているようです。





「ほら、腕かけていいから。」





私の腕を持って、自分の肩にかけるのは、辛口クールビューティ英士くんじゃないですか!





「あーもー、気をつけろよ、ったく・・・」





私の体を支え、起き上がらせてくれてるのは、プライドが高いくせに可愛い一馬くんじゃないですか!





今がどうしてこの状況なのかはわからないけど、理由とかどうでもいい。なんて美味しい!
この二人に支えられて介抱されるなんて、下手したら鼻血吹くよ!すでに体温急上昇です!

まあ夢なんだろうけど、こんな素敵な夢を見た自分、グッジョブ!!しばらく醒めませんように・・・。





「結人。本当に平気?」





え?!結人もいるの?!どこどこ!!





「何きょろきょろしてるの。平気なら返事くらいしてよね。」





クールビューティなお顔がとてもとても眩しい英士の視線は明らかに自分に向けられてる。
もしかして私の真後ろに結人がいるのかとも思ったけれど、それらしき人影はない。





「・・・結人?」





続いて一馬も結人の名前を呼ぶ。
けれど視線の先は・・・何で私?!





「二人とも・・・何言ってるの?結人がどこに・・・」





思わずそのまま疑問を口にした。
まあ夢だもんね。どうも私は知り合いの設定らしいから、聞いてみてもいいよね。
ていうか私、声低くない?風邪でも引いたっけ?





「何ふざけてるの?怒るよ?」

「そうだぞ結人!俺ら心配してんだから、こういうときくらいちゃんとしろよな!」





・・・えええ?!
これって明らかに私に向けて怒ってるよね?なんで?なんで?!





「うーん。まだボーっとしてるみたいね。少し休ませましょう。」

「そうですね。郭、真田、そのまま救護室へ連れていってくれ。」

「わかりました。」





って、ちょっとちょっと!そこにおわすは西園寺玲監督じゃないですか!なんてお美しい・・・!
あと、えー、えっと、えーっと、中村コーチ。ということはここは東京都選抜?





「若菜もまだまだだな〜!食ってばっかじゃなくて、筋肉もつけろよ?」

「調子に乗るなよ鳴海。お前みたいに力技だけで突っ込むほど俺らは単細胞じゃないんでね。」

「なんだと郭!てめえ!」

「・・・鳴海だー!」

「お、おう!な、なんだよ?!」

「鳴海は友達になりたいタイプだよねー。うんうん。」

「「「・・・。」」」

「はやく救護室連れていけよ。きもい。」

「言われなくても。」

「きもいとは何ですか!もー!」





鳴海は想像通り口が悪いんだなあ。
でも彼も登場時は嫌な奴だと思ったけど、正直で一生懸命でいい奴だと思うんだよね〜。





「今の時期に怪我なんてシャレにならないからね。」

「そうだぞ。今度の試合も俺ら3人はレギュラーだからな!」





いや、ちょっと待って。

俺ら3人でレギュラーって、私、女なんですけど。
そもそもサッカー自体、あまりしたことないし・・・。今の私はどういう設定?
え、何?俺たちを支えてくれる心のレギュラー的な?

・・・でも、やっぱり何かおかしくない?
英士でしょ?一馬でしょ?私でしょ?これで3人になっちゃうじゃない。
結人の名前を呼んでたし、彼のことを忘れてるってことはないと思うんだけど・・・。





「結人、さっきから間抜けな顔しすぎ。まだ寝ぼけてる?」





そう、やっぱりおかしいの。
何で英士も一馬も鳴海も、私のことを結人って呼ぶの?



そのまま救護室まで二人に連れられ、備え付けてあった鏡が目に入る。





そこに映っていたのは、







「結人ーーー?!」








ほら、やっぱり結人もいたんだ!
今まで一体どこに・・・





「っ何?いきなり大きな声出さないでよ。」

「あー、びっくりしたあっ・・・」





って、待てーい!!
鏡に映る結人が何で私と同じ行動してるの?!
驚いた顔してるの?!英士と一馬に怒られてるの?!



なんで、どうして、





私が結人になってるの・・・?!









よろけて、傍にあったベッドに倒れこんだ。
ベッドの角に腰をぶつけたようで、ずきずきと痛い。
痛いって何。だってこれ夢じゃないの?!夢は痛みを感じないんじゃないの?

そもそも夢にしたって、どうしてこんな夢?
ホイッスル!の世界に来たいとは思ってたけど、結人になりたいとは・・・





『うわー!いいないいな!結人は人懐っこそうだから、いろんなキャラと仲良くなれそうだよね〜。』

『しかも気難しそうな一馬と英士ともいちゃいちゃしてさ!羨ましい!』

『いいなー、結人いいなー。私も皆に抱きつきたい!』





・・・うん、思ってたね!
だって結人羨ましいんだもん!私も皆に抱きつきたかったんだもん!



って、今はそれどころじゃなくて!





「結人?」





この状況をどうするか、なのよ!



夢と思い込んで、結人のふりを決め込んでみようか。
それとも真実を話してみるか・・・。でもこんな話誰も信じないよね・・・?
特に英士とか、鼻で笑いそう。はっ!とか言って一蹴されそう。
それはそれでい・・・ってだからそうじゃないんだってば!



疑問の表情を浮かべる英士と、心配そうに私を覗き込む一馬。
もう可愛いな!どうしてくれようこの子たち!





さて、本当にどうしようか。





・・・いや、英士と一馬をどうしてやろうかって悩んでるわけじゃなくてね?







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