何でも知っている気でいた。
彼女の気持ちも、自分の気持ちさえわかっていないくせに。
幼恋
と河野がつきあいだしても変わらないと思っていた俺たちの関係。
けれどやっぱり何も変わらないなんてことはなく、俺とが二人で会う時間は格段に減った。
と河野を見て感じたイラつきや痛みの答えを探すことはせず、俺は二人と距離を置いた。
同時に俺は以前ほどの家に行かなくなる。から俺の家に来ることはあまりないから会う機会が減るのも当然だった。
それでも距離を置いたって所詮同じクラス。
能天気に笑う二人が見えてしまうのも当然で。
「あれ、若菜寝てんの?」
「お前最近疲れてるよな〜。サッカー厳しいの?」
やっぱり俺、おかしい。
若菜はいつも元気だよなって皆に呆れられてたくらいなのに。
何でこんなに心配されてんだよ。何でこんなに調子でないんだよ。
何も考えたくないのに、視界に入る二人、楽しそうな声。
考えたくない理由は、その答えに行き着きたくなかったから。
俺の中を巡る、1つの考え。
避けようとすればするたびに、それは確信に近づいていく。
「結人?何してるの?」
なんだか一人になりたくて、いつもと道を変えて帰ってみた。
橋の上で一人、川なんか眺めてしまったりして。
なのに、そこに現れたのは。なんていうタイミングだよ、ていうか何でここにいるんだよ。
「ちょっと考え事。は何でここにいんの?道違うだろ?」
「この先の店で買い物してたから。」
「ふーん、河野と?」
「うん。」
頭の中でいろんな感情がぐるぐると回ってる。
のこと、河野のこと、最近の自分のこと、サッカーのこと、友達のこと。
俺は今までどうしてたっけ。こんなに考えること、たくさんあったっけ?
「・・・結人、最近悩んでる?」
「・・・別に。」
クラスの奴らに気を遣われるくらいなんだ、にわからないはずがない。
でもその原因がと河野だなんて言えるはずもないし、本当にそれが理由だという確信だって持ててない。
俺は適当に返事をしてごまかした。
「・・・そう。」
何かあることはわかってるのに。それでもは無理矢理聞き出そうとはしない。
黙って隣に並んで、一緒に空を眺めた。
そう、はこういうとき俺がどうしてほしいかを知ってるんだ。
「なあ、。」
「ん?」
「お前、河野のこと好き?」
「・・・またそれ?」
前にも一度聞いたこと。
彼女の答えだって聞いたのに、またそれを聞いて俺はどうしようというのだろう。
わからないのに聞きたいと思う。はいつ俺を見なくなって、河野を見るようになったのだろうか。
「好きじゃなかったらつきあわないって、私言ったよね?」
「・・・お前のその言い方、なんかひっかかる。」
「・・・何が?」
「本当に好きなのかはっきりしないっていうか、にごした言い方に聞こえ・・・」
ボーッとした頭で思ったことをついそのまま口に出してしまった。
さすがにまずい、と思って口をつぐんでも遅かった。言葉はほとんど声になってしまった後だ。
「・・・なんでそんなこと言うの?」
「いや、あの、悪い・・・」
「結人、最近おかしいよね。」
「あ、だ、だからさ・・・」
「・・・最近じゃなくて、私が河野くんとつきあってからって言った方が正しい?」
「!」
思っていたことを言い当てられ、驚いて言葉を失う。
「私が河野くんとつきあうって聞いて、びっくりしてたよね?」
「・・・。」
「それって私が誰かとつきあうから驚いたわけじゃないでしょう?」
「・・・そ・・・れは・・・」
「・・・私、もう結人に振り回される気はない。」
こんな話、したことなかった。だけどきっと俺が気づいていたように、だって気づいてた。
俺がと幼馴染のままでいたいと思っていたことを。そのために彼女の気持ちを無視してきたことも。
「だから結人も、今更私なんかに振り回されないで。」
の言葉が痛かった。
散々彼女を振り回してきて、彼女ならばずっと傍にいると思いこんで。
今更こうしてバランスを崩すなんて。
「私と河野くんを見て、イライラしてたんでしょう?」
彼女は気づいてた。
「それでもしかしたら自分はのことを好きかもしれないって、そう思った?」
気づかないはずがなかった。
「だから、気になりだした。いつ私が河野くんを好きになって、つきあうことになったのか。」
彼女は俺と違って、俺を傷つけるような言葉は言わない。
俺の強がりも、かっこ悪いところも、あえて口に出すようなことはしなかった。
俺の様子がおかしかった原因も、きっと最初から気づいていてそれでも伝えることはなかった。
でも俺がなかなか調子を戻さないから、その原因を伝える必要が出てきた。
だからこそ今彼女は、俺に真実をつきつけている。
「・・・そうだよ・・・!俺は・・・お前らが気になってるよ!」
にはすべて見透かされている。
もう隠しても仕方ないと、俺も気持ちを吐き出した。
「俺は・・・やっぱり・・・」
「結人。」
俺の言葉を遮って、が真剣な表情で俺を見つめる。
「それは違うよ。」
彼女の強い言葉、俺をまっすぐ見つめる瞳。
目をそらすことも言葉を続けることもできなくて、俺はそのまま次の言葉を待つ。
「今まで傍にあったものが無くなって、寂しいだけ。」
「・・・っ・・・」
「今まで自分が一番だった場所に、別の人が来て悔しいだけ。」
「恋じゃない。」
の強い言葉が頭に響き、体を巡る。
今まで一緒にいた時間が繰り返し繰り返し流れていく。
本当にそうなんだろうか。
この気持ちが、感情が、恋ではなく別のもの?
わからない。
答えは出てこない。
けれど、そうではないと否定することもできない。
「・・・暗くなってきたね。」
が少し目をふせてから、顔をあげて優しく笑う。
けれどそれはどこか切なくて、儚い。
「そろそろ、帰ろう。」
ずっと無視し続けてきた彼女の気持ちが、なぜか今痛いほどに伝わって。
今までどおりでいようとしてくれる彼女に、俺を元気づけようと優しく微笑む彼女に
何も返せない自分が情けなくて、悔しくてしかたなかった。
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