こうなることを望んでいたのは自分。





望んだ結果になったはずなのに、





自分が何をしたいか、どうしたいのかもわからなかった。













幼恋















「ねえ結人、どこ見てるの?」





俺がつきあっていた彼女と別れたという話はすぐに広まった。
彼女に遠慮していたのか、チャンスだと思ったのか。
俺の前の席には最近話す回数が多くなっていた、隣のクラスの女子が座っていた。





「あ、さん?幼馴染なんだよね。結人の保護者みたいだって皆言ってるよね。
河野くんと仲いいんだ〜。」





もはや俺の保護者として見られているを見ていたとしても、やきもちなんて妬かない。
彼女は笑いながら俺の視線の先にいたと河野を見た。





「仲いいっていうか、つきあってるんだよあいつら。」

「え!そうなの?でもお似合いかも〜。」





今まで何人もの彼女が出来ていた俺とは違い、誰ともつきあったことのなかった
前の席に座っている河野と笑いあって、心なしか俺といるときよりも楽しそうにも見える。





「河野くんってさ、実は人気あるんだよ。頭いいし顔もそこそこいいし。
でも告白されても全部断ってたんだって。さんのことが好きだったってことなのかな。」





河野は俺とは違い真面目な優等生のイメージがあるけれど、話してみると結構ノリもよく話もあう。
と一緒にクラス委員をしていて、二人が話している姿もたまに見かけていたけれど
ノートを広げて真剣に話す二人の姿を見て、ああ勉強の話でもしてるのかなんて思ってた。
だから、いつの間にあんなに距離が縮まったのかもわからない。





「ところで結人、今度の休みなんだけど私暇なんだよね。」

「・・・あれ?それは俺が誘われてんの?」

「わかってるくせに!ね、遊ぼうよ!」

「午後からサッカーあるから午前だけな。」





目の前の彼女はやった、と嬉しそうに笑った。
俺はそんな彼女を見ながら、最初は皆そうだったな、なんて冷静に思う。
最初は俺の都合も予定も理解してあわせてくれる。
だけど、段々と自分よりも他のことを優先する俺にイライラしてくるらしい。
すれ違ってケンカして面倒になって、最後には別れてしまう。

穏やかに笑って話すと河野を眺めながら、
二人はどうだろうか、なんてぼんやりと考えていた。



















ー!宿題写させて!」

「宿題教えて、じゃなくて写させてって時点で気が抜けるんだけど。」

「だってめんどいんだから仕方ねーじゃん。」

「正直すぎ。」





突然現れた俺を嫌な顔ひとつせずに迎え入れる。
宿題をすると言えば、小さなテーブルを広げて端に置いてあった座布団を置いた。

彼氏が出来てもは何ひとつ変わらない。
河野のことを知ったときには驚いて何かモヤモヤしていたけれど、やっぱりあれは一時的なものだったみたいだ。
俺が望んでいたことはとの変わらない関係。何も変わってなんかないじゃないか。





「でも私も一生懸命やった宿題だから、結人も考えてね?」

「えー!」

「教えてあげるから。ていうか私はそこまで甘やかさないよ?」

「マジで母親かよお前・・・」





まあわかってたことだけど、と俺はテーブルに持ってきた教科書を広げる。
も当然のように、俺の前に座った。
わからないところを軽く教えてもらいながら、俺は真面目に宿題にとりかかる。

・・・わけもなく、当然のように雑談を始める。
それは今、一番気になっていること。





さー」

「うん?」

「河野とはどう?うまくやってる?」

「まあね。」

「ふーん、河野っての前だとどんな感じ?」

「優しいよ。あと気の遣い方がうまいよね。」

「・・・俺とは違って?」

「そりゃあ結人とは違うけど。」

「アイツ、男友達の前では優しくなんてないぞ?!毒舌だし!あとエロイことも言う!」

「・・・ふはっ、結人に言われたくないんじゃない?」

「そこは、え〜!河野くん、紳士って見せかけてエロイの〜?!とかだろ!」

「何それ。別に普段から結人の話聞いてるし、いきなり言われてもよくわかんない。」





普段から俺の話聞いてるからって何だよ。俺はそんな変なことばっか言ってねえぞ。
ていうか、つきあうのが初めてのくせに冷静すぎだよな。
・・・からかいの言葉なんて気にする必要もないほど、河野とうまくいってるんだろうか。





「どうして河野とつきあったんだ?」

「・・・つきあいたいと思ったからじゃない?」

「河野のこと、好きだったのか?」





自分は好きとか関係なく、告白されただけでつきあったりもするのに。
にこんな質問をしてる自分は矛盾してる。

俺は何がしたいんだろう。
自分の行動すら省みないで、彼女にそれを聞いてどうするというのだろう。





「好きじゃなかったらつきあわないよね。」

「!」

「結人もそうでしょ?」

「・・・うん。」





の言葉にすぐに頷くことができなかった。
俺は今までつきあってきた子たち皆を好きだったと、そう言えるだろうか。
見た目がよくて、話が合って。俺に告白してくれて、俺のことを好きでいてくれて。
だから付き合った。そんな彼女たちを可愛いとも思ってた。

でもそれは、が口にする「好き」と同じものと言っていいのだろうか。





「そういえばさ、河野は怒らねえの?俺がこうやっての部屋に来てても。」

「怒らないよ。結人は幼馴染だから。」





"幼馴染"
自分も使ってきた、そんな当たり前の言葉がやけに胸に響いた。





「恋愛感情があったらとっくにつきあってるし、他の人とつきあったからってその関係を変えることなんてない。
相手が嫌がってるなら別だけどね。」





は俺を好きで、俺もそれを知ってて。だけど見ないフリをして。
だからはいつまでも彼女を傷つけるだけの俺を想うことを止めた。
当たり前だ、俺がそうなるように望んでいたんだから。

変わりたくなかったから。と恋愛をしたくなかったから。
俺に気持ちを告げようとしたの言葉を遮って、話題をそらして。

自分でそう、仕向けたくせに。





「河野は・・・嫌がってないんだ?」

「うん。」

「余裕だな、アイツ。」

「そうだね。」





俺は望んでいたはずだ。今までどおりの幼馴染の関係を。

お互いに好きな人ができても、誰かとつきあっても。変わることのない関係。
今その通りになっているというのに、消えることのない胸のざわめきはなんなのだろうか。



俺は無意識に頭を振って、答えの見つからないこの感情を振り払う。
そんな俺を見ては不思議そうにしていたけれど、笑ってごまかして。

俺も新しい彼女を見つけよう。そうしたらきっと、この胸のざわめきも不安も消えてくれる。








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