決して離れていかないっていう自信。
ずっと続いていくなんて、根拠さえもない。
いつか来るとわかっていたはずなのに。
幼恋
「ー!!」
「結人・・・ってきゃあ!どこ行くの!」
「ちょっとつきあえよ!やけ酒!」
「酒って・・・ここ学校!」
とは同じ学校で同じクラスだったりする。
昼休み、友達と弁当を食べていた彼女の首に腕をまわして無理矢理にその場から連れ去る。
「若菜のお守りも大変だねえ。次の授業までには帰してあげなよ〜?」
「行ってらっしゃーい。」
こうしてを連れていくのは初めてではなく、彼女の友達も呆れたように俺たちを見送る。
一時期は俺たちがつきあっているような噂も流れたけれど、今ではそれもない。
高校に入ってからすぐに、俺が以外の女子とつきあったからだ。
入学した頃は俺のファンだという奴らのやっかみに巻き込まれていただけど、
今では俺の保護者のような立場で見られているみたいだ。ていうかなんだ、保護者って。幼馴染だっつの。
「はい。」
「・・・酒じゃない。」
「だからここ学校。ていうかわたしお酒とか飲まないし未成年だし。気分の問題なんだからいいじゃない。
それで?何か話したいことがあるならどうぞ?」
「・・・本当お前、俺の母ちゃんみたいだな。」
「せめてお姉ちゃんにしてよ。」
そんなやり取りをしながら、が渡してくれたオレンジジュースを一気に飲み干す。
乱暴に口をぬぐって、俺は大きくため息をついた。
「・・・彼女と別れた?」
「は・・・?な、なんでそれを・・・!お前はエスパーか!」
「頬が赤くなってる。平手うちでももらった?」
「やっぱお前エスパーだろ。」
先ほど一緒に弁当を食べていた彼女に別れを切り出された。
俺の無神経さとか、愛が足りないとことかに愛想がつきたらしい。
俺が彼女を引き止めることもなくあっさりと了承したのも気に入らなかったらしく
最後には平手うちのおまけつきだ。
「俺って無神経?」
「結構ね。」
「愛が足りないんだって。」
「かもね。」
「・・・俺は来るもの拒まず去るもの追わずな性格なだけなのに?」
「せめて去る人は追う素振りくらいは見せたら?」
「素振りって・・・!それこそ面倒だし失礼だと思わね?」
「それが出来ないならそこまでだよね。引き止めたいともその子と続けたいとも思わなかったんでしょ?」
「・・・そーだけど。」
の言うことはいつも真面目で正論だ。
それを教師とか監督とかに言われると腹がたつのに、に言われると自然と受け入れられるのが不思議だ。
「でも最後ひっぱたかれたんだぜ?ひどくね?」
「それだけその子の愛が深かったということで。」
「えー、そんな愛はいらねえよ俺。」
「そんなこと言ってるから愛が足りないって言われるんでしょ?」
「俺的にはちゃんと可愛いと思ってたんだけどなー。」
「難しいね。」
俺のまとまりのない言葉も、思いついたように続ける台詞も
は全て受け止めて、厳しいことも言うし、こうして一緒に頷いてくれたりもする。
「結人ならすぐに新しい彼女、できるよ。」
「そう思う?まあ俺もてるしね!」
「そうそう。」
「すっげーなげやりじゃね?」
「まっさかー。」
俺の考えを無理に変えようなんて思ってない。それは俺の性格を理解してるから。
「でも結人、もっと彼女を大切にしてあげなよ?
今回は平手うちで済んだけど、そのうちエスカレートしてもしらないから。」
「昼メロみたいな愛憎劇とか?」
「結人はシャレにならないかもねー。」
さっきまで怒りに満ちていた心はもう落ち着いてる。
が笑い、俺も笑って。穏やかで温かな空気が流れだしたみたいに。
「はそんなのに巻き込まれることはないよな〜。相手いねーもん。」
そして俺はそんな空気に気が抜けきって、何度も何度も繰り返す。
俺のことが好きな彼女に向ける、残酷な言葉。
はそれを聞いて、ため息をつきながら呆れたように笑う。
自身の気持ちを隠すように、笑ってごまかす。
「巻き込まれることはないだろうけど。」
俺にしかわからないほどに、切ない表情を浮かべながら笑う。
だけど、今日のはいつもと違っていた。
その笑顔の中に見えたのは、ほっとしたような穏やかさと安堵感。
そしてその後の彼女の言葉に俺は耳を疑う。
「相手はいるよ。」
思わず話してた体勢のままかたまって。
その数秒後にの方へ顔を向けた。
驚いてる俺とは違い、はいたって冷静。俺を見てどうしたの、といつも通りに問いかけた。
「・・・それって・・・」
「マヌケな顔。何?」
「・・・彼氏ってこと?!」
「うん。」
あまりにもあっさりと答える彼女に、俺はただポカンと口をあけて。
そんな俺を見てがまた笑う。
「驚きすぎ。どうせ私は結人みたいにモテないですよーだ。」
「そうじゃなくて・・・、お前・・・」
「・・・何?」
俺のことが好きだったんだろ、なんて言えるわけもない。
の気持ちを無視し続けて、他の彼女を作っていた俺に。
元々と恋愛関係になるつもりなんてなかった。いつかこの日が来るのはわかっていたことだろう。
「あ、いや、おめでとう。」
「ありがとう。」
「で?誰だ?妙な男に引っかかったんじゃねえだろうな?」
「そんなまさか。結人じゃあるまいし。」
「・・・ちょっと待て。今のって俺が妙な女にひっかかってるって言いたいの?俺が妙な男だって言いたいの?」
「ご想像にお任せします。」
「お任せすんな!」
はずっと彼氏なんてつくらなかった。
それはきっと俺が気持ちを告げさせることもせず、
それでも一番近くでありたいと、ずっと彼女を縛ってきたから。
そんな最低な自分。
が幸せを見つけたときくらい、笑って祝ってやらなきゃ。
「河野くん。」
「河野・・・って、同じクラスの河野?!」
「そう。」
「お前らいつの間に・・・!」
「内緒。また今度ね。」
「なんだよお前はー!俺の彼女の話は聞くくせに!」
「それは結人が勝手に話してくるんじゃない。ホラ、予鈴なったし教室戻ろう。」
胸がざわつく。落ち着かない。モヤモヤして気持ち悪い。
めでたいことのはずなのに、俺の気持ちは晴れなくて。
たとえば俺に彼女が出来たときでも、俺たちの関係が変わらなかったように。
に彼氏が出来ても、きっと何も変わらないはずなのに。
胸にぽっかりと穴があいたように、空しい気持ちで。
先を歩くの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
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