自分らしくもない言葉、行動。





バカにされても格好悪くても





変わらない想いがある。














想い

― 変わらない想い、変わりゆく想い ―













「好きです!」

「・・・ごめんなさい。」





昼休みの屋上。晴れ渡った空に、心地よい風。
そこには緊張した様子の上ずった声と、申し訳なさそうに返事をする聞き覚えのある声。
せっかくの告白が即答で断られてやんの。あーあご愁傷様。





「そ、そっか・・・。俺じゃダメか・・・やっぱなあ。」

「・・・気持ちは嬉しいよ。ありがとう。」

「気にしないで!気持ち伝えたかっただけだからさ!」

「・・・うん。」





ああ今日は随分聞き分けのいい奴だな。
一人分の足音がこの場所から遠のいていく。
そしてそこには告白された側が一人、取り残された。





「相変わらずモッテモテなことで?サン?」

「・・・三上。」





がここで告白されるのは、もう何度目になるかもわからない。
あまり人が訪れないこの場所。うちの学校の絶好の告白場所のひとつとなっている。





「覗きなんて悪趣味だよね。」

「そっちが勝手に来て、勝手に告っていったんだろ?」





俺は悪びれもせずに笑みを浮かべると、は呆れたようにため息をついた。

は今やこの学校の有名人となっていた。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能で性格までいいという完璧人間。という周りの評価。
それに加え、もうひとつ。を有名にする噂が流れていた。





は誰にも落とすことができない。』





そんなバカみたいな噂が流れ出した。
事の発端はアイツの幼馴染、渋沢がとまた付き合いだしたことだった。

渋沢という脅威が消えてからへ告白する男は急激に増えた。
高等部の奴らは勿論、中等部の奴までがに言い寄ってくるようになっていた。
しかしは誰からの告白も受けず、全てを断った。

それからはどうにかしてを落としてやろうという自信過剰のバカまで現れては
結局ふられるというパターンが続いている。





「お前学校中の男に告られるんじゃねえの?」

「何バカなこと言ってんのよ。」





コイツが渋沢に告白して、結局ふられて。結構な時間は経っている。
けれどこうもしょっちゅう告白されていては、コイツも気が休まる暇などないんだろう。





「つーかムカつくんだけど。」

「何、急に。」

「渋沢に彼女が出来たらお前に告るとか、お前が誰にも落ちねえから告るとか。」





そんな中途半端な想いでコイツを好きだという奴らに腹が立って仕方がない。
真面目なコイツがどんな想いでそれを断るのかも知らずに。
告白をされるたびには渋沢のことを思い出すのだろう。
その言葉に自分の想いを重ねて胸を痛めるんだろう。





「・・・まあ、私のどこを好きになってくれてるのかとは思う。」

「うわまた言った。嫌味だぜそれ。」

「何でそうなるのよ。だって皆、私とあまり話したことのない人たちばっかりだよ?」

「男なんて大体そんなもんだろ。お前、見た目はいいもんな。」

「それって性格は悪いって聞こえるんだけど?」

「そんなこと言ってねえだろ。ただエセ優等生だってだけで。」

「だから誰がエセよ!」





あれから俺との関係も変わっていない。
他の奴らよりも少しだけ仲のいい友達。
その現状に満足しているわけではないけれど。





「大体三上に性格悪いとかって言われたく・・・」

「・・・?」





の言葉が不自然に止まり、その視線を追う。
そこには仲良く笑いながら、校舎へと入っていくあの二人の姿。





「お前、いつまで引きずんの?」

「別に引きずってなんか・・・」





がずっと想いつづけてきた渋沢と、その彼女となった
あいつらに振り回されて、それでも後悔はしていないと笑った
だからと言って何年もの想いが消えるわけもなく、はあいつらを見ては
誰にも気づかれないくらいの表情の変化を見せる。





「・・・ていうかさ、気づかないフリくらいしてよ。」

「何で俺がお前にそんな気遣わなきゃなんねえんだよ。」

「あーそうねー。三上ってそういう性格だもんねー。」





渋沢の前で笑って。
の気持ちを知ることのなかったと仲良くして。
そんなお前の気持ちなんて知らない、バカな男どもの告白をしょっちゅう聞いて。
それでもお前は大丈夫だと、何も問題なんてないと笑う。周りをごまかす。一人で苦しもうとする。
俺がなんと言おうとも、たとえそれが渋沢であろうとも、コイツはその考えを曲げない。

だから、憎まれ口でも何でもいい。俺くらいはお前の本音を知っていたいと思う。
たくさんのことを一人で耐えて、押しつぶされてしまわないように。
・・・なんて、あーもういつの間にこんな健気な奴になったんだよ俺。
コイツがあまりにもバカすぎて、俺まで感化されてしまったのかもしれない。





「言っとくけど・・・結構ふっきれてきてるんだからね?」

「はっ。どうだか。」

「何よその言い方。人を疑ってばっかりじゃいいことないわよ。」

「お前が嘘ばっかりつくからじゃねえか。」

「人のせいみたく言わないでよ。私はいつだって正直ですー。」





だけど、最近思うんだ。
俺もコイツを想いつづけて、何度もふられて。
まだ渋沢を諦めきれてないを、それでも追いかけてる。
そんなの、俺らしくないことも格好悪いことだってわかってる。
それでも諦めようとは、諦められるとは思えない。変わることなくコイツの側にいたいと、そう思ってしまってる。






「まーいいや。そういうことにしといてやる。」

「うわー偉そう。」

「だけど、」

「?」

「また泣きたくなったら俺の胸貸してやるよ。」

「!」





だったらとことん格好悪くなってやろうじゃねえか。
が渋沢を思い続けようとあがいても、絶対こっちを振り向かせてやる。





「お前の泣き顔知ってるなんて俺くらいだし?
泣いた後の顔がどんなにひどくてもショック受けないですむし?」

「っ・・・バカ三上!最悪!」





渋沢に彼女が出来た日。
渋沢はお前なんて見てないと、俺がお前に告げた日。
そして、渋沢を諦めると決めた日。

お前はアイツを思って、何度も何度も涙を流した。
それはきっと、俺の知るよりももっと多く。
今だって一人で涙を流すことだってあるんだろう。





「お前、もっとずるくなれよ。」

「・・・は?」

「好かれた方の特権、もっと使え。」

「何が・・・?」

「何でも一人で解決しようとしてんじゃねえよ。使えるものは使え。頼れるものは頼れ。」




あー、また俺らしくもないことを言ってしまった。
が驚いたような顔でこっちを凝視してるし。
そんなことできないとか、もともと頼る必要ないとか反論されそうだ。
変なとこに意地はるんだもんなコイツ。





「すでに・・・結構・・・頼ってますけど。」

「・・・あ?」





予想外の反応に俺は思わず間抜けな声をあげてしまった。
ていうか別に俺頼られてねえし。何を思ってはそんなこと言ってるんだ?





「私、あの日から・・・本当に泣いてないんだよね。」

「・・・また強がりかよ。」

「違うよ。だから本当だって言ってるじゃない。自分でも驚いてるんだから。」





あの日とは渋沢を諦めた日のことだろう。すぐに想像がついた。
まっすぐな、真剣な目。確かに嘘を言ってるようには見えない。





「あの二人を見てること、つらかったのは本当。
だけど、本当に私は泣いてないの。自分でも何でだろうって思ってた。」

「・・・。」

「疑問だったけど・・・でも、三上と話してたら何だかわかった気がした。」

「は?」

「あの日、思いっきり泣いたからなんだろうなあって。」





あの日、悲しい顔でそれでも笑おうとするにイラついて。悲しいのなら泣けと彼女を抱きしめた。
堰を切ったかのように泣き出した。そこには渋沢への全ての想いがあるように見えた。





「三上には克朗への想いも、こんな格好悪く引きずってることも、全部知られちゃってる。」

「・・・。」

「だからこそ、隠し続けてきた本心も話せる。それが支えになってるんだよ。」





いつも憎まれ口を言い合うばかりの、の言葉。
コイツが冗談でこんなことを言う奴じゃないこともよく知ってる。










「三上はもう私を救ってくれてるよ。」










照れたように笑顔を浮かべるは、本当に綺麗な顔をしていた。
俺は不覚にもそんな彼女にみとれてしまい、言葉を失った。










「・・・あー!もうこんなこと言うつもりなかったのに!
三上が変なこと言うからつられちゃったじゃん!」

「・・・お前・・・」

「わ、私教室戻るけど、三上は?」

「・・・まだ休憩ー。」

「そんなこと言って午後の授業もサボるとかは止めてよね。」

「へーへーわかりましたよ、委員長サマ。」

「・・・もう、ちゃんと授業でなさいよ?」









適当な返事を返し、がまたため息をついて。
教室に向かう足音と屋上の扉が閉まる音。



それを確認すると、俺は大きく息をはきだした。
ひどくはやく打つ胸の鼓動。あがっていく体温。
あーくそ、こんな顔見られてないだろうな。

こんな、ほんの少しのことで。
アイツのたった一言だけで。
何でこんなことになるんだ。本当格好悪いんだけど俺。





頼れっつったのも俺だし、気持ちを知ってるからと言って
遠慮だって気を遣われることだってされたくない。
だからアイツはいつだってまっすぐで正直な言葉をくれる。





だけど・・・あれは反則だろ。不意打ちもいいとこだ。










・・・やっぱ遠慮は無しだな。絶対アイツを捕まえてやる。





そして今度こそ、悲しいばかりじゃない、苦しいばかりじゃない。そんな想いを持ってほしい。





だからもう過去の想いに捕らわれるな。はやくこっちを向け。






俺が、お前を幸せにしてやるから。









TOP