ありがとう。





優しい、優しい悪魔。
















同じ月を見ていた


















「言えよ。お前の本当の願いを。」






驚いた。
だって、亮がだよ?

私の命にしか興味ないって言ってたくせに。
自分の能力を上げるためだって、それ以外の理由なんてないって。
そう、言ってたのに。



どうして最後まで、貴方はそんなに優しいのだろう。





『・・・ありがとう・・・。』

「・・・お前みたいな無気力な命、もらってもたいした力にもならないかもしれねえし。
どうせなら、もっと成長しきってからの方がいいと思っただけだ。勘違いすんじゃねえよ。」





こんな時まで憎まれ口で、素直にお礼の言葉さえ受けてくれない。
あまりにも亮らしくて思わず笑いが零れた。





『嬉しい。』

「だから勘違い・・・ああ、もういい。契約変更ってことでいいんだな?」

『・・・だけど、契約はこのままでいいよ。』





私の言葉が予想外のものだったらしい。
亮は目を見開いて、私を見つめた。





「何、言ってんだ?生きたいんだろ?お前。」

『うん、生きたい。』

「じゃあ何なんだよ?」

『・・・生きたいけど貴方を犠牲にしてまで、生きていたいと思わない。』

「!!」





貴方が私に教えてくれたこと。
訳がわからないこともあったけど、忘れてなんかいないよ。





『「人間の生死に関わってはならない」』

「・・・お、前っ・・・。」





亮が教えてくれた、悪魔の掟。
死ぬはずの私の命を助けることは、間違いなく人間の生死に関わること。





「掟だよ。これを破ると罰が待ってる。下手すりゃ存在が消える。」





その掟を破れば、罰が待ってて。
人間の命を救うことが、どれほどの罪なのかはわからない。だけど。
下手すれば存在が消えるというのなら、その罰というものはよっぽどにひどいことなんだろう。
それこそ、彼の命に関わってくるほどに。





『私を殺したら困るって、亮は言ったよね。生かしても困るんでしょう?』





亮が言葉もなく、悔しそうに顔を歪めた。
それだけで私の予想は間違っていないのだとわかる。
だけど私は、嬉しかった。
その表情は私のためにしてくれているものだと、そう思えたから。





「・・・別に死にはしねえ。」

『・・・嘘。』

「何でお前がわかんだよ。これは悪魔界の・・・俺の問題だ。お前が気にすることじゃねえだろ?!」

『気にするよ。』

「・・・何・・・」

『亮のことだもん。気にするに決まってるよ。』





そう、私にたくさんのことを教えてくれた貴方だから。
悪魔だって言いながら、性格の悪いところばっかり見せながら
私の側にいてくれた。本音で話してくれた。

それが契約の為であっても、貴方といて楽しかったことも嬉しかったことも本当だから。



たった3日間。けれど貴方と過ごしたその時間は、私にとってかけがえのない時間だった。





『私はもともと、死んでしまう運命だったんでしょ?』





「お前はもうすぐ死ぬんだ。」





『何もせずに、何も知らずに、お母さんにもらった命を無駄にしてしまうところだった。』





「丁度よく俺がお前の目の前にいたからってことか?」





『あの時、側にいるのは誰でもいいと思った。だから、貴方に願った。』





「私が死ぬまで、側にいてくれないかな。」





『だけど、亮でよかった。』





「あはははっ!」

「おっ前・・・。明らかに俺を見て笑ってんな?!何だっつーんだよ!」





『何も知らずに終わってしまうはずだった、最後の時を貴方と過ごすことができて嬉しかった。』





「契約変更、許してやるよ。」





『ありがとう・・・。』





「言えよ。お前の本当の願いを。」





『ありがとう・・・亮っ・・・!!』













自分が消えてしまうかもしれないのに、それでも私を生かす道を選んでくれて。



それを私に告げようともせずに、助けようとしてくれて。



貴方のおかげで私は、幸せだった。










視界が徐々にぼやけて、それは自分の涙のせいではないとわかっていた。
目の前にいる、亮の手を取って。私は笑った。
亮が怒ってしまうような、作り物の笑顔なんかじゃなく。
貴方が呆れるような、精一杯の笑顔で。





『せっかくだから、いっぱい役立ててよね。』

「・・・っ・・・。」

『私の命。亮にあげる。』










私を守って育ててくれたお母さん。



初めて出来た友達。



貴方と会えなくなること。



悲しいけれど、寂しいけれど。



それでも私は、こうして笑ってる。





笑って、逝くことができる。





ねえ、これってきっと幸せなことでしょう?













見ないフリをしていた自分の弱さ。



逃げていただけの強がり。



側に誰かがいてくれることの安心感。



一緒に笑ってくれる人がいる楽しさ。



他人を知ろうとする勇気さえ。








それがどんな理由であっても、確かに私は貴方に救われた。










たくさんの想いを、ありがとう。














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