もっと早くに出会いたかったなんて





叶うわけのなかった思い。





それなら、少しでも一緒に。

















同じ月を見ていた




















何故だろう。
亮には素直に何でも話すことができた。
まだ会ったばかりだと言うのに。お互い何も知らないのに。
彼は私の命が目的の悪魔なのに。





「・・・俺は別にお前の側じゃねえから、言わせてもらうけど。」

「・・・?」

「お前は『友達』って奴にどんな理想を持ってるわけ?」

「!」





理想?私はそんなもの持っていたのだろうか。
友達なんていなかった。だから『友達』がどんなものかもわからなかったのに。
・・・だから?だからこそ、無意識に理想の友達を描いていたとでもいうのだろうか。





「同情とか自己満足とか、そんなもん置いといて。俺でも見捨てるぜ、さっきのお前だったら。」





それは、私がさんを助けなかったことに対する言葉。
どんな感情を持っていたからって、最終的に私は彼女を見捨てたことになる。





「自分が困ってるときに無視されて?それでも優しくしろってどんだけ都合いいんだよ。
助けたから助ける。裏切ったから裏切る。メリットもねえのに無条件に優しくできる奴なんているかよ。」

「・・・。」





亮の言葉に、何と返していいのかわからなかった。
今までたった一人で考えて、ためこんで。一つの考えに固執していたのは確かだった。





「でも・・・でも、同情なんてされたくない・・・!可哀想だなんて思われたくない!
そんなの、自分が余計惨めになるだけじゃない!」

「イラつくなお前。それが逃げてるって言うんだよ。」

「!」

「お前はそれを確かめもしなかったんだろ?」





周りを遠ざけて。
誰も自分を理解してくれないと嘆いて。
けれど、一人ではいたくなくて。





「・・・本当・・・やだなぁ・・・。」

「・・・何だよ。ムカついたならそう言えば?」

「本当に、嫌になる。」











「亮の方が、よっぽど人間らしいよ。」












笑いながらそう言えば、亮がまた目を見開いた。
そして不満そうな顔で、私の髪をくしゃくしゃと乱暴にかき回す。





「だーかーらー!何の嫌がらせだよそりゃ。」

「何でそんなにわかるの?気づかせてくれるの?」

「はー?何を言ってるんだかわかりませーん。」





ねえ亮。
本当に貴方は悪魔なのかな。

自分は人間の心なんて理解できないって言って。
悪魔は冷たくて、残酷だっていうように見せかけて。

でも貴方は私なんかよりも、よっぽど人間らしい。
私の知らなかったものを教えてくれる。
私の欲しかったものをたくさんくれる。

あんなに頑なだった心。なのに貴方の言葉は次々に私の胸に響いていく。
頑固なくせに考えが浅くて。意地っ張りで格好つけで。
こんな私の面倒な性格を溶かしてゆくなんて
私に同情なんてしない、正直なことしか言わない、けれど道を示してくれる。



貴方にしかできないよ。


















さんさ。ずっと私を無視してたんだけど、最近また私に構うようになったんだよね。」

「・・・。」

「それも同情だと思ってた。きっといじめられなくなって大分経ったから、また私を助けようだなんてそんなことを思ってるんだって。」

「・・・それで?」





言葉につまる。
だって、私の時間はあとどれくらいかもわからないのに。
例えば明日私がそれを確かめに行ったって、いい結果が返ってくるともわからないのに。

だったら、傷つくことの無い明日を過ごしたい。
昨日のように、今日のように、亮と二人で。

私が何を言っても、亮はそれを受け入れるだろう。
明日も一緒にいたいと言えばいてくれるし、出かけたいと言えばその通りにしてくれる。
初めに結んだ契約通りに。

だけど胸にひっかかるこの想いは、いつまでも私についてまわる。

残りわずかな時間。
変えようの無い運命ならば、受け入れるしかない。
だから、その時を精一杯に生きようと決めた。
それに気づかせてくれたのだって、目の前にいる彼で。



本当に精一杯に生きようと思うのなら。
楽しもうと思うのなら。
それがわずかな時間でも、希望が見えなくても。

逃げるわけにはいかない。

そして何より。亮の前でそんな姿を見せたくなんてなかった。
おかしいな。格好悪い姿なんて、いくらでも見せてるのにね。





「明日行く場所、決まった。」

「あっそ。」

「亮も一緒でしょ?」

「・・・ていうか、俺は無理だろ。親戚って設定なんだろうが。」





行く場所がどこかなんて言っていないのに。
亮はもうわかってる。まあ当然と言えば当然だけれど。





「ええー。悪魔なんだから何とかできるでしょー?」

「お前・・・俺は魔法使いでも何でもないっての。」

「じゃあ明日は悪魔に戻ってもいいから。」

「あ?」

「それなら私以外には姿が見えないんでしょ?」

「だけどお前、"人間"としていてほしかったんじゃなかったのか?」

「あはは。もうそれいいや。」





亮が疑問の表情を浮かべる。
確かに私は人間として彼に側にいてほしかった。
それが仮の姿であっても、人の温もりに触れられると思ったから。

漆黒の翼のある彼はとても綺麗だったけれど。
その姿はあまりに人間離れしていたから。
人間となってくれれば、周りの人にも見える。
一緒に歩いて、一緒に話して、一緒に遊んで。
誰の目にも私は一人じゃないって、そう映る。そうやって誤魔化せると思った。周りも、自分も。





けれど。





人間とか、悪魔とか関係なく。
亮は、亮だ。









「傍にいてくれればいいよ。どんな姿でも。」









あ、また驚いた顔をしてる。
こんな言葉、言われなれていないのかな。
まあそれは私も同じだけどね。



驚いた表情の亮の顔を見ていたかったけれど、
言いなれていない台詞を言った自分の顔もきっとおかしな表情になってしまっているから。
私は部屋の端へ向かい、窓を開ける。

小さな部屋に、冷ややかな風が流れ込む。
火照った顔を元に戻すのに、丁度いい風。
気づけばもう外は暗くなっていて、空には月が浮かんでいる。

夜空に浮かぶ月は今日も綺麗。
亮に初めて出会った夜と同じくらいに。



もっと、早くに出会いたかったな。
なんて、叶うわけもなかった願いを浮かべた。

貴方の姿が見えるのは、私の死期が近づいたとき。
どうやったって、貴方と過ごせる時間が長くなったわけじゃない。

それでも貴方との出会いは。
私にとってかけがえのないもの。



悪魔のくせに、人間みたいで。
どうでもいいってフリをしながら、意外とおせっかい。
人間なんてくだらないと言いながら、人間以上にその心がわかる。



優しい、優しい悪魔。



私、貴方に出会えてよかったと思える。



ねえ、本当だよ?











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