恋愛落着法
「あ!やっぱり椎名だ!何やってんの?」
「おっすー偶然!誰かと待ち合わせ?」
「別に。買い物に来てて適当に店に入っただけ。そっちは相変わらず4人一緒なんだ?」
「まあなー!ほら俺ら仲いいから!!な!!」
「結人が暇なだけでしょ。俺らはそれに巻き込まれてるだけで。」
「ひでえ!ほら一馬!英士に説教してやりなさい!!」
「いや、暇ってのに間違いはないし・・・」
「誰が同意しろって言ったよ!!」
「あははは!!一馬せいかーい!!」
駅近くのカフェで偶然出会ったやかましい4人組。彼らは俺が所属する東京都選抜のチームメイトだ。
サッカーの実力はそれなりに認めているけれど、フィールドから一歩出てみるとこの落ち着きの無さ。
いつもと若菜を中心に大騒ぎしていて、もう少し大人になったらどうかと常々思う。
「椎名も暇そうだなー。」
「お、それ何サンド?美味そう!俺もそれにしよー。」
許可を取ることもなく、彼らは驚くほど自然に隣のテーブルをあわせ、俺を取り囲むように椅子に座った。
しまった。待ち合わせしていると言っておけばよかった。しかも適当に店に入ったとまで言ってしまったから、
特に急いでいない印象も与えてしまっている。実際、他に用事がないことも事実ではあるけれど。
「ちょっと何勝手に・・・」
「「最初はグー!じゃんけんぽーい!!」」
「ハイ!安定の一馬一人負け!!」
「俺ローストチキンサンド!」
「俺はアイスコーヒーでいいや。」
「俺はね、椎名と同じやつ!名前わかんねーから、メニュー見て注文しといて!」
「くそっ・・・!なんでいつも俺が・・・!!今日はいつもと違う手を出したのに・・・!」
思ったとおり、こちらの都合などお構いなしに、話がどんどん進んでいく。
まずい。このままだとこいつらのペースに乗せられる。
「お前ら人の話聞け!俺は一緒に食べる気まったくないんだけど!!」
「まーまー。ここで会ったのも何かの縁じゃん?」
「そうそう。俺らと一緒に話そうぜー!」
「・・・郭。なんなのこいつらのテンション。」
「暇すぎてテンションおかしくなってるんだよ。うざったいことこのうえない。」
「なんだと英士このやろー!!」
「そういうお前も好きだぞこのやろー!!」
「・・・やっぱり帰・・・」
「まーまー。飲み物おごるからさ。一馬、俺らの注文と一緒に椎名用の水もついできて!」
「たかが飲み物をおごるって言われ・・・って、水かよ!それおごりでも何でもないし!!」
「お前らここぞとばかりに・・・!ちくしょう、行って来ます!!」
「「行ってらっしゃーい!」」
いつもならば、無理やりにでもこの場を去っていたし、おそらくこのやかましすぎるノリに対抗する術もあっただろうけれど。
このときの俺は妙に疲れてしまって、これ以上の抵抗をやめることにした。
同じチームにいるとはいえ、普段からしょっちゅう話すような関係でもない。ほっておけばそのうち飽きるだろう。
その後、彼らの注文を一手に引き受けた真田が注文したものを持ってくるのに、注文カウンターと俺らの席を二往復して席についた。
手伝わないんだろうかとも思ったけれど、真田はまったく気にしている様子はない。これが当たり前になっているのだろうか。
もちろん助け舟を出すほど俺もお人よしじゃなかったけど、
慣れって恐ろしいな。
「そういやこの間、女子高の教師になったらどうするって話をしてたんだけどさー。」
「お前ら本当に暇なんだね。」
「そこから話が発展してさ、俺らの先生になるんだったら誰がいいって話になったんだよな。」
「ふーん。」
「そのときはが一番人気だったんだけど。」
「照れるぜ!」
「椎名も結構教師向き?」
「妙な妄想に俺を巻き込まないでくれる?」
「あー、確かに面倒見いいもんなあ。マシンガントークと毒舌がたまにキズ。」
「勝手に瑕にしないでほしいんだけど。
俺は本当のことを言ってるだけだし、変に隠したり誤魔化したりするよりも、よっぽどいいと思うけどね。」
「椎名先生Sだからなー。ほら、俺ら結構傷つきやすいから・・・。」
「一馬くらい耐性がないとダメかもね。」
「なんの耐性だよ!?」
こいつらは本当に・・・いつもこんな話ばっかりしてるんだろうか。
俺が何を言っても話をやめようとしないし。
あと、俺をSキャラに仕立てようとするのはやめてほしい。
言っておくけど、周りにツッコミどころが多い奴らがいるってだけで、俺自身はいたって普通だからね。
でも、そう思ったことを口に出すのを諦めるくらいには、今日は気分が乗らない。
その理由はわかっている。だからこうして、数駅離れたこの場所まで一人で来てるんだけど。
「一馬にはあうんじゃね?椎名先生。」
「だからなんでだよ!何が基準であうんだっつの。」
「SとM的な意味で?」
「誰がMなんだよ誰が!」
「結人にこそ必要なんじゃない?甘やかしちゃいけないって意味で。」
「えー!俺かよわいからダメだってば!椎名付近で言うなら・・・そうだな、黒川がいいわ。」
「あーわかるー!包容力ありそう!」
「だろだろ?なんかこう・・・口数少ないけど頼りになるっつーか、相談しても優しく諭してくれそうっていうかさー。」
「わかるー!俺も黒川先生見てみたいわー!」
「何この女子みたいな会話。」
「・・・。」
「何?椎名も混ざりたいの?黒川先生は俺のものとか言いたいの?」
「混ざりたくないし言わないし関わりたくない。」
よくもまあ本人を目の前にして、こんな話題に華を咲かせられるものだ。
そりゃ柾輝はいい奴だし、落ち着いてるし、頼りにもなる。
普段それほど絡まない奴らにも良い評価をされてるっていうのは、喜ばしいことだ。
いつもなら、そう思うくらいの余裕はあるのに。だめだ。今日はやけにイライラしてしまう。
「椎名、今日は口数少なくない?調子わりいの?」
「別に。」
「いつもの長々としたマシンガントークがないよなー。」
「長々は余計なんだけど。」
「ほら、ツッコミが弱い!そんな弱々しいツッコミで俺らが止められると思うなよ!?」
「いや、とまりなよ。」
思ったよりも面倒なことになってきた。
適当に俺に絡んで、飽きたらまたどこかへ行くだろうと思っていたのに。
普通にしていたつもりなのに、野生の勘でも働いたのだろうか。ありえる。直樹もたまにそんなことあるし。
「なんでもないって・・・」
「よし一馬!椎名はどうしてこんなところに一人でいるのでしょーか!」
「は?」
「いつも誰かしら引き連れてんじゃん!」
「いや、別に一人で買い物したくなるときだってあるだろ?普通じゃん。」
「あーもーお前は!だからかじゅまなんだよ!」
「どういう意味だよ!!」
「じゃあ!」
「そうだなー、『俺の周りは騒がしすぎる。なんだか疲れたよ・・・。一人になりたいんだ。静寂の中で風に吹かれながら一人でいろいろ考えたい・・・。そして新しい自分を見つけたい・・・。そうだ、京都へ行こう!』っていう気分だったというのはどうだろうか!」
「どうだろうかじゃねえし!まじめな顔して何言ってんだ!」
「そうだよ。ここは京都じゃないよ。」
「つっこむとこそこじゃねえよ!!」
壁際の席、取り囲まれて退路を断たれている俺は、ここから離れることもできない。
少し悩んでいるのは事実だけれど、それをこいつらに相談しようとは思わないし。
適当にやり過ごそうと思った次の瞬間、
「あ、誰かと喧嘩したとか!」
「もしや例の彼女と!?」
「!」
とぼけたやりとりの後だったから、余計に油断していて、思わず肩を揺らし反応してしまった。
それはほんの少しだったけれど、鈍感な若菜や真田はともかく、や郭が見過ごすはずがない。
「・・・椎名くん?」
「なんだよ。」
「彼女と喧嘩しちゃったの?」
「別に。喧嘩ってほどのことでもない。」
「前にあんなに自信満々に彼女自慢してたのにね。」
「ば、ばか!誰だってそういうことあるんだから!彼女とは喧嘩なんかしないね不安にさせないねツーと言えばカーだね!とか言ってても、そういうことは起こりえるんだから!」
「の言ってたことあながち間違ってないんじゃないの?失恋の傷を癒すために京都行って来たら?」
「いいね!俺も京都行きたい!」
「話それてるし、意味がわからないし、そもそも喧嘩してるなんて言ってないし!勝手に話を進めないでくれる!?」
「・・・え!椎名、彼女と喧嘩したの!?」
「だから違うって言ってるだろ!」
なんなんだこいつらは!こういうときって、気遣ってそっとしておくものじゃないわけ?
つっこまれてからかわれるかと思ったら、全然違う方向へ話がそれていくし、呆れるくらいに遅い反応を返す奴もいるし。
なんでこんなに調子が狂わされてしまうんだ。
「わはは!前に自信満々に不安にさせないとか、機嫌取りなんてしないとか言ってたのにー!」
「結人、それ1分前に俺が言った。」
「そうそう。それで結論は京都に行こうってことになった。」
「なんで!?」
「お前らさあ・・・もう少しデリカシーってもんを・・・」
「何?一馬。」
「・・・なんでもない。」
唯一まともそうな反応をした真田も、一瞬にして引き下がった。
これ以上何か言っても無駄だと思ったのか、巻き込まれたくないと思ったのか。
せめてもう少しねばれよ。
「で、何が原因なんだよ?彼女がいる者同士、腹割って話そうぜ!」
「・・・喧嘩をしてたとして、若菜には絶対相談したくないけどね。」
「な、なんだと・・・!」
「言わなくてもわかるだろ。」
「うん。」
「そうだね。」
「そうだな。」
「まさかの全員同意!?」
ギャーギャーとわめく若菜に、それを面白がる郭と、巻き込まれて右往左往してる真田。
もう俺帰っていいかな。別に俺の話なんてしなくても、勝手に仲良くやってればいいと思うし。
話を聞こうとしてるのだって、暇つぶしでしかないんだろうし。
「じゃあ椎名の話は置いといてさ、結人は彼女と喧嘩したらどうするわけ?」
「俺?そりゃ、すぐに謝るとにかく謝る!変な意地張っても仕方ないかんな!」
「それだとすぐに解決しないだろ?」
「なっ・・・なぜわかる!!」
適当な理由をつけて帰ろうかと思ったけれど、結局また話が始まってしまった。
俺はため息をついて、彼らが飽きて会話が途切れるタイミングを待つことにした。
「一馬は?」
「ちょっと!大事なとこスルーしないで!教えて!!」
「お、俺?俺べつに・・・彼女出来たことねえし・・・。」
「でも彼女じゃなくても誰かと喧嘩はするだろ?どうすんの?」
「・・・そりゃ、俺が悪いと思えば謝る。」
「嘘!」
「なんでだよ!」
「一馬は妙なところでプライド高いからなー!悪いと思ってても素直になれないんだよ。
いいか一馬、目で訴えるだけじゃ謝ってるって言えないんだからな?口に出さずとも察してくれるのはごくわずかだからな?」
「・・・わかってるよ・・・!」
「お前のツンデレもいいところだけど、ツンはほどほどに!!時々がいいんです時々が!!」
「う、うるせえよ!」
奴らのやりとりを眺めながら、しょっちゅう彼女と喧嘩したり、プライドが高くてなぜか他人ともめやすい奴らの話を聞いても、
驚くほど何も参考にならない、なんてぼんやりと考える。
「じゃあ英士は?」
「謝らない。」
「え?」
「だから、謝らない。」
「みんなー!!英士の王様キャラがついに出現したぞー!!」
郭は予想どおりというか、予想以上に参考にならない。
「どういうことですか英士様。自分からは絶対謝らないで相手に謝らせるってことですか。」
「時と場合によるんじゃない?」
「謝らせることもせずに、身をすくませるオーラでも放つんですか。」
「・・・謝りたいなら勝手に謝ればいいと思うけど。」
「それで謝らなかったらどんな目にあうんですか英士さ・・・」
「そろそろ殴っていいかな?」
「ダメですやめてくださ・・・ってキャー!もう手が出てる痛い痛い!!」
「バカだなー結人。英士は普段から口数が少ない分、言葉を選んでるんだよ。
後悔するような、後から謝ることになる言葉は言わないってこと。な!」
「そ・・・そうなのか・・・!」
「・・・・・・うん。まあね。」
「今の間は何!?」
まあ、こいつらは好き勝手に生きてそうだよな。
少しでも話を聞いてみるかと思った俺がバカだったのかも。
それに、何かを参考にしなくたって、自分がどうすればいいのかはもうわかってるんだ。
「もーじゃあは?ていうか、さっき言ってた謝っても解決しない理由、教えてよ。」
「俺も皆と変わんないって。悪いと思ったら謝る。だけど、自分が譲れなかったら謝らないし。」
「それで解決すんの?」
「基本はそれでいいんじゃないかなとは思うけど。
でも、結人みたいにさ、理由はわかんないけどとりあえず謝っとけーっていうのは性質が悪い。」
「なんでよ。だって怒ってたらまずは謝るだろー。」
「とりあえず謝っとけっていう考えは、言葉だけだって受け取られかねないんだよ。
理由を理解して、自分のここが悪かったってわかったうえで謝る。これが基本!」
「・・・お、おお・・・。」
「男女限らず、自分の気持ちをわかってほしいって思うわけじゃん?好きな奴なら尚更なわけで。
だからまずは話を聞くことが大事なんだよ。そこで謝れなくても、自分なりの意見を言うのもありだと思う。
結果、もめることはあっても話はちゃんと聞いて、考えてるってことが伝わるし。」
「なるほど・・・。」
「それでもダメなら、一緒に京都旅行でもしてみたらどうだろうか。」
「いつまで引っ張るのそれ。」
「俺、修学旅行、京都じゃないんだよ・・・!」
「心底どうでもいい。」
もはや奴らの騒ぎなど右から左に流れ、の言っていたことを、ぼんやりと頭の中で繰り返していた。
別に何かを参考にしなくても、どうして彼女が怒ったかとか、俺が怒ったかとか、理由はわかってる。
でも、お互いに素直になれなくて、心にもないことを言ってしまって、距離が離れてしまった。
謝ればその場は丸く収まるのかもしれない。だけど、それだけでは意味がないんだろう。
お互いわかりあっていると思っていても、少しのすれ違いで喧嘩は起きる。
何も言わなくてもいい、なんてただの綺麗ごとで、きっと言葉にしないとわからない。
わかっていたから、一人になって考えようとしていた。今の状況をどうするべきか。彼女に何を伝えるべきか。
まさか、ここでこいつらに会うなんて、思ってもみなかったけれど。
あまりにもくだらないやりとりと、わかるようでわからない回答のおかげで、頭は少し冷えた気がする。
「椎名は?」
「え?」
「椎名はどうするの?」
先ほどの流れの続きだろう。こともなげに聞かれたその言葉に、俺は笑みを浮かべて答えた。
「なんで俺が答えなくちゃならないわけ?そりゃあそっちは彼女とか人付き合いとか随分と大変そうだけど、
あいにく俺は困ってないし、ここで話題にして訳のわからない盛り上がり方されるのも嫌だしね。」
「なんだと!お前、彼女と喧嘩したんじゃ・・・」
「だから勝手に決め付けないでよ。勝手に想像して、勝手に自分たちと同じだと思い込んで、勝手に盛り上がってたら世話ないよね。
人の心配をするくらいなら自分の心配をしたら?特に若菜なんていつ別れてもおかしくない状態なんじゃないの?」
「ち、ちち、ちがーう!!俺らラブラブだもん!ラブラブ・・・だよな?」
「いや、そんな助けを求める目されても・・・。」
「さてと、俺はそろそろ行くよ。そっちほど暇じゃないし、そろそろ解放してくれる?」
半ば強引に席をかきわけて、鞄を持って、じゃあ、と軽く声をかける。
落ち込んでいる若菜とそれをなぐさめている真田は、こちらを見ようともしていない。人を引き止めておいて失礼な奴らだよね。
ただ、だけは俺を見上げてニッコリと笑っている。こいつだけは読めない。一体何を考えているんだか。
「また今度遊ぼうな!黒川たちにもよろしく!」
地元の駅について、俺は真っ先に彼女の家に向かった。
家に荷物を置くよりも先に、彼女に会いたかった。
喧嘩をして腹を立てた。なんでそんなに意地をはるのかってイライラした。
一体どうしたらいいのか。何を言えば伝わるのか。一人で考えるために、わざわざ遠出までしてしまった。
結局一人ではあまり考えはまとまらなかったけれど、偶然出会ってしまった騒がしい4人組。
彼らを見ていたら、自分の悩んでいることがくだらなく思えた。
そうだな、ある意味では・・・話せてよかったのかもしれない。
「翼・・・!」
彼女の家に到着すると、どこかから帰ってきたところだったのだろう。家の門に手をかけようとしている彼女を見つけた。
俺の姿に気づき、驚いたように声をかけ、こちらへと駆け寄ってくる。
「あの、私・・・翼とちゃんと話したくて・・・家まで行ったんだけど・・・いなくて・・・それで・・・」
俺の家まで行ってくれていた、俺の同じ考えを持ってくれた。
そのことが無性に嬉しくなって、言葉を言い切るのを待つこともせずに、彼女を抱き寄せた。
彼女は突然のことに慌てたけれど、やがて大人しくなり、俺の胸に顔を埋めた。
話はこれからいくらでもすればいい。ただ、今はこのままでいたいと思う。
喧嘩をしても、少し距離を置いてしまっても、イライラしたって、俺の結論は変わらない。
だから考えていた。だから悩んでいた。これからも彼女と一緒にいるために。
俺の中に、彼女を手放す選択肢なんてないんだ。
「なあなあ椎名。この映画って観た?」
「ああ、見たよ。ストーリーはいいと思うけど、配役がちょっと残念。
もっと演技力のある役者を持ってくればいいのに。」
「あ、もしかして彼女と観たの?」
「そうだけど?」
「ふーん。そっかー!」
4人と会ってからも、特に変わったことはないし、今までどおりに普通に話すけれど。
最近、どうもの笑顔に裏を感じるような気がしてる。
元々食えない奴だとは思っていたけれど、それ以外にと考えて、ある一言に辿りついた。
「また今度遊ぼうな!黒川たちにもよろしく!」
一見、なんてことない一言。でもどうしてあそこで柾輝の名前が出てきたんだ?なんでよろしく、だったんだ?
いつも俺と一緒にいる柾輝たちも含めて、一緒に遊ぼうって意味と捉えるのが普通とは思いながら、
最近のの笑顔を見ていると、あの台詞を言ったときの意味ありげな表情と重なってしまう。
「。」
「なに?」
「この間会ったときの最後・・・柾輝たちにもよろしくって言ってたよね。」
ここできょとんとした顔のひとつでもすれば、意味なんてなかったと思えたのに。
は問いかけの意味を悟ったように、意味深に笑みを浮かべて、俺をじっと見つめた。
「うん、言った。」
「・・・なにか妙なこと企んでるんじゃないだろうね。」
「悪い、ちょっとした好奇心。あんな一言でも、椎名って勘がいいから何か反応あるかなって思って。」
「?」
「黒川の話題が出たとき、ちょっとそわそわしてたじゃん?」
「・・・え?」
「もしかして喧嘩の原因、黒川が関わってたのかなーとか?」
・・・まさか、が俺たちの喧嘩の理由を知るはずもないし、そんな素振りを見せた覚えだってない。
なんでだとか、ありえないだとか思いながら、わかったような顔をするの次の言葉を待ってしまっていた。
「ピーンときたね!お前と黒川が仲良すぎて、彼女にやきもち妬かれたんだろう!」
「は?」
「わかるわかる!お前らときどき夫婦みたいだもん!彼女が不安になるのもわかる!」
「え・・・いや、あの・・・」
「まったくさー!いちゃつくのもほどほどにしておけよ!!」
「妙な誤解しないでくれる!?俺と柾輝じゃなくて、アイツが柾輝の方がって言うから俺も・・・」
「・・・・・・ほう。」
しまった。の誤解はすぐ解かなければ面倒なことになるなんて思って、墓穴を掘ってしまった。
これもが吹っ飛んだ考え方をしてるからだ。本当にコイツは予想外の行動ばかりする。
「・・・はあ。彼女と柾輝、幼馴染なんだよ。」
「へー。」
「彼女が柾輝を信頼してるのは知ってるし、それは俺自身も同じで、今更どうこう言う気はなかったんだけどね。
ちょっとしたすれ違いがあって、彼女も俺も相手よりも柾輝を褒めて、そこから話がこじれたってだけ。喧嘩とも言えないくだらない理由だよ。」
「なるほどね。二人とも黒川ラブ!ってことだな!」
「そういう言い方やめてくれる!?」
ケラケラと笑ってはいたけれど、それ以上話を聞いたり、俺をからかうこともなかった。
の性格上、もっと話題にするなり、それをネタにからかわれたりするかと思ったのに。
話題はあっという間に別のものになっていた。
何も考えていないようで、はっとするようなことを言う。
話を面白おかしく引っ掻き回しているようで、最後にはなぜか着地点にたどり着いている。
意識してそうしているんだか、そうじゃないんだか。俺にはまだ、という人間はわからないけれど。
そんなの奔放さに少しだけ助けられた、なんて思ってしまったことは、悔しいから黙っていることにしよう。
TOP
おまけ。