恋愛回想録












と郭って仲いいよなあ。」





練習の疲れの反動か、思い思いの格好でダラダラと過ごしていた昼休憩。
芝に寝っころがっていた数人の中の一人が呟いた。





「あ、それ俺も思ってたー。」

「俺もー。はともかく、郭は真田とか若菜とかにしか心開かなそうだったじゃん?
俺、最初お前ら3人の中には絶対入れねえって思ったもん。」

「えー、お前ら大げさなんじゃねえの?まあ確かに俺たち仲いいけど!」

「大げさっていうか、お前ら3人いちゃいちゃしすぎなんだよキモイ。」

「誰だ今キモイって言った奴!」





よほど暇だったんだろうか。なぜかすぐ近くで雑談をしていた俺とに話の矛先が向き、一馬と結人にも話がふられた。
選抜試験から集まった奴らと違い、俺たちの付き合いは長い。それなりに距離が近くなるのは当然のことだと思うけど。
とりあえず今キモイと言ったのは鳴海だ。あとで覚えとけ。





「どうする英士、俺たちのことが話題になってるぞ?」

「ただの暇つぶしでしょ。」





面白そうに笑うに呆れ、軽くため息をつく。
俺たちのそんなやりとりなど気にせず、他の奴らの話は続く。





「そんなキモイくらいにいちゃついてた3人に入っていったんだぜは。
しかもその中でも一番気難しそうな郭と一番仲良くみえる!」

「お前らこの野郎!は俺の師匠なんだからな!英士ばっかりに渡さないぜ!」

「つっこむとこそこかよ!しっかりしろ結人!」

「なーなー、何でお前らそんなに仲良くなったんだー?」





どうやら奴らの暇つぶしの恰好の標的にされたようだ。
ていうか、そんなに俺に友達が出来ることが珍しいのだろうか。
確かに俺は人付き合いがそんなに多い方ではないし、それを苦にも思っていないけれど
何かバカにされているようで腹が立つな。とりあえずそこにいる奴の顔は全員覚えておこう。





「どうしてもこうしても、なあ?」

「相手にしなくていいよ、くだらない。」

「そうだなあ、あえて言うなら・・・」





相手にしなくていいって言ってるのに。
は元々結人みたいにノリのいい性格だから、ついついそれに答えてしまうようだ。
もう俺が何を言っても無駄なことはわかってるから、これ以上は何も言わないことにした。





「俺は英士が大好きになって、英士もそれに答えてくれたってことだな・・・!」

「誤解されるような言い方しないでくれる?!」





ノリがいいのもたいがいにしてよ。何も言う気なかったのに、つい反応してしまった。
他の奴らもそれに便乗して、「うわー」だとか「キャー」だとかアホみたいな悲鳴をあげてる。
はあ、すごく疲れる。東京の中学校から選抜された奴らの集まりだとは思えないよ。

・・・そういえば最初はのこのノリについていけなかった。むしろは俺にとって苦手な人種でもあった。
友達なんて特に理由もなく自然になっているものなのだろうけれど、そう考えると俺とにはきっかけがあったように思える。



とこんな風に話すようになったのは、いつからだっただろうか。

























「おーっす結人!」

「おー!久しぶり!」

「一馬と英士も!元気してたか?」

「あ、おう。」

「・・・まあ。」





東京都選抜試験で俺たちと同室になり、いつの間にか結人と仲良くなっていた
人見知りをする一馬とも、持ち前の明るさというか強引さでよく話すようになっていた。
試験に合格し、数回目の都選抜の練習日。は一番最初に俺たちに会った日のように満面の笑みで近づいてきた。





「あ、これ前言ってたゲーム。すっげーおもしろい。」

「お!サンキュー!あ、でも今うちゲーム従兄弟に占領されてんだよなあ。
しばらく出来ねえかも。」

「じゃあ今日うち寄っていくか?確か今日の練習って3時までだっただろ?」

「マジで?!行く行く!一馬と英士はどーする?」

「せっかくだから二人も来いよ!一緒に対戦しようぜ!」

「あ、ああ別にいいけど・・・。」

「俺は遠慮するよ。別にそのゲームに興味ないし。」

「遠慮するなって!英士ってうちから結構近いじゃん。ちょこっと寄ってくくらいいいじゃんか!な!」





・・・結局どう答えても連れていかれそうだ。
正直、こういうタイプは結人だけで充分だ。俺は元々うるさい奴とか強引な奴は苦手だし。
よほどそいつとの性格があうとか、共通点があるとかじゃないと友達とも思えない。

だからそんなの態度にはうんざりしていたけれど、結人も一馬も彼に心を許しかけている。
俺たちの中にずかずかと入ってきて、いつの間にか馴染んでいるのも気に入らなかった。















「本当に貸さなくていいのか?」

「ああ、来週また練習あるし、そんとき貸して!
今持ってかえってさらに従兄弟にゲーム占領されてんのやだし。」

「はは、なるほどな!わかったよ。」

「じゃあな、菓子とかごちそうさま。」

「おー、一馬は礼儀正しいいい子だな!」

「・・・なんかバカにしてねえか?」

「何言ってるの!すごく褒め言葉じゃないの!」

「その態度がもうバカにしてるよな絶対!」





結局俺も半ば強引にの家に連れていかれることとなってしまった。
ゲームを楽しみ、その間に女がどうだとかそんな話でも盛り上がり(特に結人とが)
数時間が過ぎ去ると、俺たちはようやくの家を後にした。





「なあなあ、ってどこまで進んでると思う?」

「進んでるって何が?ゲームか?貸すって言ってるくらいなんだからもう全クリして「お前はアホか!!」」

「女の話!アイツうまくはぐらかしてたけど、絶対好きな子いると思わねえ?」

「し、知らねえよそんなこと!」

「しかものことだから、既に彼女になっててやることやってそうだよな。ちくしょー!羨ましい!」

「・・・結人も彼女いるんじゃなかった?」

「まだ違うんだよ、残念なことに!もうちょっとなんだけどなー・・・。」





なにやら結人が一人落ち込んでしまったので、とりあえずそれ以上の話を止めた。
ついでにその奥にいる一馬を見たら、一馬も落ち込んでた。結人にアホって言われたがショックだったのか。
相変わらず面倒くさいなこの二人。





「あ。」

「どうしたんだ英士?」

「・・・財布忘れた。」

「えー、何やってんだよ英士ー!」

「結人に貸してたお金を返してもらったときに出したんだけどな。」

「すみません。」

「・・・まあいいや、戻って取ってくる。俺はここから近いし先に帰ってていいよ。」

「え、でも」

「二人とも・・・特に一馬は時間かかるんだから。じゃあまたね。」

「ああ、ごめんな英士!」

「じゃあなー!」





本当は一人での家に戻るなんて少し気は重かったけれど、忘れ物が財布じゃ無視するわけにもいかないし。
かと言って小さい子じゃないんだから、忘れ物を取りにいくくらいで二人を付き合わせるわけにもいかない。
何の縁かとは意外と家が近いことも判明していたし。









「・・・で・・・なのに・・・の・・・!!」

「・・・?」





の家に近づくと、なにやら女の人の声がした。何かを叫んでいるみたいだ。





「もう嫌だ・・・!助けてよー!!」





静かに門の中を覗くと、そこには直立不動になっていると彼にしっかりと抱きつく女の人の姿。
・・・これはもしや、修羅場というものに遭遇してしまったのだろうか俺は。





「・・・なんでかなあ・・・。なんでうまくいかないんだろう・・・!」





泣いているその人の頭をは優しく撫でた。
言葉は何もなかった。けれどその顔は何か愛おしいものに触れるような、彼の見たこともない表情。

そして彼女の髪を撫でてはいたけれど、それ以上どうするものかと迷っているみたいに
彼女の肩や背中の傍で手が行ったりきたりしてる。
表情も先ほどの優しい表情から、今度は複雑で困ったような表情になってる。
さっきまで女のことについて偉そうに話してたのに、と思わず笑いが零れた。





「・・・未優・・・。」





結人の言葉が頭をよぎる。おそらく今抱きついている女がの彼女・・・もしくは好きな人なのかもしれない。





「ああもうは優しいなあ。カッコいいなあ。可愛いなあ。ちくしょー!」

「・・・落ち込んでんの?怒ってんの?ふざけてんの?」

「全部。」

「・・・あっそ。」





に抱きついて、叫んで泣いて、気が済んだのか女の方が顔をあげた。
背は小さくて服装だけだとわからなかったが、結構年上のようにも見える。
はふてくされたようにそっぽを向いているけれど、本当に怒ってなどいないとバレバレだ。



さて・・・あっちも一段落ついたようだし、そろそろ俺の財布を取らせてもらわないと。





。」

「え・・・?って、英士?!な、なんだよ!どうしたの?!」





先ほどのことを見られたと思ったんだろう。慌てて彼女を離し、ひっくり返った声を出した。
いつも余裕で人をからかう側で、騒ぎはするけれど何事にもあまり動じない性格。
こんなに慌てたの姿は見たことがなかった。





「財布、忘れたことに気づいて。」

「あーそうなの?!英士ってば意外とうっかりさんだなあ!」

「なになに?のお友達?やーだー!すっごいカッコいいんだけど!」

「ちょ、英士はそういうノリだめな子だからな!変なこと言うなよ?」

「ノリって何?私はいつでも本気の本気よ!」

「いい年してそのテンション止めろよなー。」

「誰がいい年よ!ばかもの!」





やっぱり彼女の方は年上だったか。なんて俺にはどうでもいいことだけれど。
普段と違うを見れたのはなんというか、まあ面白かった。しかも本人照れてるし。
二人のやり取りを見てるとの片想いか・・・やっぱりつきあっているのかも。
偉そうに女のことを語っていても、結局はも年上の彼女に振り回されてるということか。





「ちょっと待ってて。部屋から取ってくるから。」

「うん。」

「ねえねえ、えいしくんってモテるでしょ?とはどういう関係?」

「サッカー仲間!もう未優も中に入れよ。いたいけな中学生を誘惑しようとすんな!」

「ひどい!私は純粋にえいしくんと仲良くなりたいのに!」

「未優が言うとあやしすぎなんだよ。」





しかし家まで来るって、しかも普通に家の中に入るところを見ると、家族公認の仲?
がこの人に振り回されてるのはともかく、関係としては結人の言うとおり、大分進んでる仲なのかもしれない。





「じゃあまた来てねえいしくん!これからも弟と仲良くしてやってね〜!」





引きずられるように家の中に入っていった彼女。
に似てテンション高いな、似た者同士だなんて思っていたのは一瞬で
その後すぐに、彼女の言葉の違和感に気づいた。







「・・・弟・・・?」







それまでの考えが覆されて、というよりも予想もしなかった二人の関係。
確かに何も知らずにあの二人の言い合いを見ていたら、それも頷けたし予想も出来ただろう。
でもその考えが初めから外れていた理由は・・・

言葉もなく、愛しそうに彼女の見つめていたの表情。





「ほら英士!もう忘れちゃダメだぞ!」





いつも余裕でいる彼が慌てて口ごもり、そして今も表情がかたい。
そんなに付き合いの長くない俺でもわかるくらいに動揺してる。





「・・・なに?俺の顔になんかついてる?」

「・・・別に。じゃあね。」





きっと俺の知らない何かがあるんだろう。
そう思ったけれど、その頃俺はが誰を好きになろうがつきあおうが
極度のシスコンだとしたってどうでもいいと思っていたから。
軽く挨拶をかわすとすぐに振り返って歩き出した。

その後ろではが、複雑な表情でしばらく俺を見つめていたことも気づかないフリをして。










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