「練習終わったら俺の家だから!ちゃんと空けといてな!」
この間の練習の帰り際、と話していたときに言われた一言。
次の選抜練習日にの家で遊ぶって話。とはしょっちゅう遊んでいるし、
別に断る理由もないから俺はすぐにわかったと返事をした。
そのすぐ後に、と結人の意味深なアイコンタクト。
それから英士の肩に腕をまわして、ひそひそと話している。
え、俺、堂々と仲間はずれ?
いきなり何だと疑問に思いながらふと気づく。
そういえば次の練習日は8月20日。・・・俺の誕生日だ。
英士と結人の誕生日のように、何かを計画してるのかもしれない・・・
なんて思うのは別に自惚れじゃないよな?
誕生日にパーティーをするなんてこと、昔は特になかったけれど。
と一緒にいるようになってからは、誕生日もちょっとしたイベントとなった。
英士のときはサプライズキムチ(命名)、結人のときも結局はトマトパーティーが決行されたし・・・
じゃあ俺は・・・って、
なんだかとてつもなく不安なんだけど。
だけどやっぱり自分のことを祝ってくれる奴らがいるって嬉しくて。
次の選抜練習が近づいてくるごとに、少しずつその日が楽しみになってきてた。
そして、今日は8月20日。
昨日降っていた大雨もあがって、晴れ渡った青空が広がる。
グラウンドのコンディションが心配だけど、この日差しならば大丈夫だろう。
そう思いながら、いつもどおりに俺は家を出た。
「あー、真田くんじゃーん。今日も練習?サッカーしか友達いねえもんなあ?」
「・・・。」
「なんだよ、無視?相変わらず暗い奴!」
学校で俺を目の敵にしている奴がいるのだけれど、運悪くそんな奴に出くわしてしまった。
せっかくの夏休みでしかも誕生日だというのに、わざわざこんな奴に会わなくても・・・。
俺はいつもそうしているように、そいつを無視して駅へと向かった。
幸いそれ以上絡まれることはなかったのでほっとしつつ、駅に到着すると、
「・・・げっ!」
改札前の電光掲示板に表示されているのは、「電車遅延」の文字。
これは遅刻になってしまうか、いや、早めにつくように設定はしてるから走ればなんとかなるかも。
そして遅れてやってきた電車に乗り込み、長い時間ゆられて目的地に着くと、やっぱりぎりぎりの時間で。
電車が遅れたという理由はあるけれど、やっぱり最初から参加できるならしたいしな。幸い、駅から練習場までも近い。
そうして俺は駅から練習場へと走っていった。
「うっわ!一馬どうした?!雨にでも降られた?!」
「今日は全国晴れじゃなかったっけ?」
「・・・。」
ようやく練習場に着いて、俺を見た第一声がこれだ。
そう、今日は快晴。雨なんか全然降ってない。
けれど、皆が驚いている理由は俺がずぶぬれの姿でいるからだろう。
「水かけられた。」
「誰に?」
「車。」
「あー、まだ水溜りいっぱいあったしなー。」
「ま、早く着替えてこいよ。
なんか一馬のその姿見てるとかわいそうになってくる。」
今日は厄日なんだろうか。
誕生日に厄日って、どれだけ俺ついてないんだよ・・・。
まあいいやもう。気持ち切り替えて練習に集中しよう。
「かーずまー。そんなにへこむなよ〜!」
「そうそう、こういう日もある!」
「今日はコーチも監督もいつも以上に厳しかったなー。」
「でも今日の一馬は凡ミスが多かったから仕方ないけどね。」
「ちょっと英士ってば正直者!一馬泣いちゃったらどうしてくれるの!俺はなぐさめないよ!」
「俺も別になぐさめる気はないけど。」
「え?なに?じゃあ俺しかいない?でも俺、彼女いるしな〜!ごめんな一馬!」
なにも言ってないのに何で俺ふられてるんだろう。
必死で走ってずぶぬれになってまで間に合わせた練習で、俺はこってりとしぼられた。
集中はしていたはずなのに、なぜか体がうまく動かせなくて、凡ミスを連発してしまったのだ。
確かに英士の言うとおり、怒られても仕方ないとは思うし、自分が情けない。
だけど、
「一馬、ちょっとここで待っててな!俺が呼ぶまでここ開けんなよ?!」
今日はおそらく、俺のためにこうして友達が集まってくれてる。
「よし、いいぞ一馬!入ってこい!」
今日がどれだけついてない日で、すごく落ち込んでいたとしても、
そんなところを見せて、あいつらをがっかりもさせたくない。
の家につき、数分外で待たされて、俺はようやく扉を開ける。
その先には、
「誕生日おめでとう一馬!」
「おめでとう。」
「おめでとー!!」
クラッカーを鳴らして、俺を迎えてくれる親友たち。
「ちょっと英士!ここは満面の笑みって言ったでしょ?!」
「え?俺笑ってたよ。」
「ええ?!嘘!だって俺らちゃんと英士の表情チェックしてたもんな!」
「そう!一馬へクラッカーを向けながら英士の顔もちら見してたぞ!」
「気持ち悪いことはやめてくれる?」
「気持ち悪いって何!英士がさっきみたいな嘘つくからだろー?」
「そうだそうだ!」
「だって俺、本当に笑ってたよ。」
「ええ?だから俺らはー・・・」
「心で。」
「「わかんねーよ。」」
・・・俺を祝うのなら俺に集中してくんねえのかな。
「は!一馬が嬉しさのあまり表情を失っている・・・!」
「クラッカーだけで?何、俺らの愛はそれだけでも十分伝わるってこと?」
「俺のときみたいに誰かさんがしけてなかったからじゃない?」
「そこを混ぜっ返さないで!あのとき俺、本当に恥ずかしかったんだからね!」
礼くらい言いたいのに、口をはさむスキがない。
そうこうしている間に2階にあるの部屋へと案内される。
「ようこそ!『りんごが大好きな君に贈る!りんごづくしのリンゴちゃんパーティー!』」
やっぱりな。
お前らいつもりんごりんごってとり憑かれてんじゃないかってくらい言ってたもんな。
うん、俺予想してたよ。こうくるって思ってたよ。
いつも予想の斜め上をいくなのに、こういうところは外さないあたりがさすがというところだ。
りんごにりんごヨーグルトにりんごケーキにアップルパイ。りんごサラダまである。
いや、祝ってくれるのは嬉しい。もちろん嬉しいんだけど、
ここは俺笑ってありがとうって言っていいのか?
「・・・あ、ありがと。」
「何で目そらすの?!」
「なんで言いづらそうにすんの?!」
「・・・。」
こいつら完全に面白がってる・・・!
祝われてるのか、単にお祭りとして盛り上がりたいだけなのかわかんなくなってきたんだけど・・・!
「まあいい。ホラ食え食え。愛しの君が一馬に食べられるのを待ってるからね。」
「お、おう。」
「よし、じゃあ次はプレゼントターイム!」
の掛け声とともに、それぞれが自分の荷物から何かを取り出しはじめた。
とか結人はネタの可能性が高いけど、やっぱりちょっとドキドキする。
「よし、俺いっちばーん!リンゴグッズを集めてた一馬きゅんに
一部の人たちに大人気のりんごろんグッズをプレゼント!」
「「りんごろん?!」」
「可愛い顔をしてるけど、面倒くさがりで一日中ごろごろして過ごし、チャームポイントは鉢巻!
兄にはりん五郎がいます。こっちはごつい顔して乙女趣味。」
「何それ。ひどいね。」
「ひどくねえよ、感動だよ!」
「意味がわからない。」
「ということで、文具だろ、あとタオルとリストバンドもあるから。
練習のときに使ってな。」
「え、や、やだ・・・」
「使ってな?」
「・・・・・・はい。」
「次は俺なー。りんごろんの漫画!」
「漫画?!」
「そうそう、俺もりんごろんは感動すると思うぜ?」
「なー。」
「・・・どこでやってるのその漫画。」
「あれだよ、熱血くんと同じ雑誌。」
「今度本屋に行ったときにでも教えてやるよ。」
「いらない、出来れば出会いたくないから。」
「ちゃんと読めよ?感動するんだから!」
「え、あ、うん・・・」
「返事ははっきり!」
「・・・・・・はい。」
「そんじゃ、ラストは英士。」
「うん。はい、どうぞ。」
「あ、サンキュ。」
やっぱりと結人はネタだった。・・・ネタだよな?
いや、本人たち真面目なのかもしれないけど、真意はよくわからない。
けど俺と一緒にりんごろんとやらに驚いてた英士は、普通のものだろう。
というか、英士がこいつらと一緒にぼける姿が思い浮かばないもんなあ。
「あ、パスケースだ。」
「ぼろぼろになってきたって言ってたけど、もう新しいの買ってた?」
「ううん!これからと思ってたんだけど・・・!ありがと!」
やっぱり英士だけはまともだった・・・よかった・・・!
いくら普段から毒舌が多くても、やっぱりお前はいい奴なんだよな!
そして袋の中にもうひとつ、小さなものが入っていることに気づき俺はそこへ手を伸ばす。
「・・・あれ?中にまだ何か・・・」
「え?」
「お?なになに?・・・って、」
「「りん五郎おおおーーーー!!」」
そこにはごつい顔をしたりんごがいた。
言ってる俺も意味がわからないけど、と結人が叫んでる名前からすると
先ほどのりんごろんの兄をかたどったキーホルダーだ。
「・・・英士?」
「・・・。」
「何かの間違い?」
「・・・ううん。」
「そ、そっか・・・。」
これはボケなのか、本気なのか。
でもさっきりんごろんなんて知らなそうにしてたぞ?知らずに買ったってこと?!
わからない。英士がわからない。
「じゃあプレゼントも無事渡したってことで、飯食うぞ!ゲームするぞ!遊ぶぞ!」
「おー!」
お前ら今こそつっこめよ!英士に真意を聞いてくれ!
何で何事もなかったかのように次へ進めるんだ?!
「お前ら泊まってく?親には話してあるから問題ないけど。」
「マジ?じゃあ俺お泊りー。」
「俺はどっちでも。」
「じゃあ英士もな!一馬は?」
「俺は・・・」
時間は過ぎていき、いつの間にかあたりは暗くなっていた。
俺の家は皆の中で一番遠い。本当だったら泊まらせてもらうのがありがたいけど・・・。
でも、俺は今ここにいていいんだろうか。
朝からついてないことばかりで、もやもやして、でも皆に嫌な思いはさせたくないからそれを隠して笑って。
今は気づかれてないかもしれない。だって楽しいのは本当だ。祝ってくれるのだってすごく嬉しい。
だけど、何かが胸にひっかかってスッキリしてない。こんなに引きずるなんて思わなかったのに。
そんな状態でいて、俺が楽しんでないって思われたら嫌だ。俺が原因で皆が楽しめないのも嫌だ。
「俺は・・・帰るよ。」
「ええ!何で?」
「最近、急な泊まりとか親がうるさくてさ。今日は帰ろうかと思って。」
「ふーん・・・。」
嘘をつくのは苦手だ。
顔に出るらしいし、早口になるし、どうしよう嘘だってめちゃめちゃばれてそうだ。
「そっか!仕方ねえなー。次は泊まってけよ?」
「お、おう!」
「じゃあ俺、駅まで送ってくるわ。」
「え、いいよ別に・・・」
「お黙り!一馬一人じゃ危ないでしょ!襲われたらどうするの!」
「・・・わかった。頼む。」
意外とあっさりと頷いて、がニッコリと笑顔を浮かべた。
あれ、ばれてない・・・んだよな?
暗くなった道をと並んで歩く。
が話すことに笑って頷きながら、情けなさでいっぱいだった。
祝ってくれて嬉しかったのに、楽しかったのに、俺はそれをちゃんと伝えきれてなかった気がする。
嫌いな奴に会ったのも、電車が遅れたのも、車に水をかけられたのも、監督やコーチに怒られたことも、
たまたま嫌なことが重なっただけで、すぐに忘れると思ってたのに。
どうして俺ってこうなんだろう。変なことを引きずって、大事なことが出来なくなって、後で後悔して。
「なあ、一馬。」
「え?」
「お前今日、何かあったの?」
「!」
・・・やっぱりばれるよな。結人も英士もきっとわかっていたのかもしれない。
でも、こんなことを引きずってるなんて言ったら、呆れられるだけだ。
「別に、何も・・・」
「ふーん。」
パンッ
パァンッ
「な、何だ?!」
「よーしあっちだ!行ってみようか!」
「え?ええ?!?!」
近くで聞こえた大きな音。
それを聞くとは俺の腕を引き駆け出した。
何だ?一体何が・・・
パンッ、
「おーい一馬!帰る前に見てけよ!」
広い空き地のようなその場所にあったのは、地面に設置されまっすぐに伸びた棒状のもの。
突然現れた結人がそれに火をつけると、火花が散り、光の玉が上空へ打ちあがりはじけた。
「花火・・・」
「夏だしな。家庭用のだからちっさいけど。」
「・・・これ、元から用意して・・・?」
「へへ、さあね。」
両端から結人と英士が花火に火をつけていく。
花火は次々に打ちあがり、暗闇を照らす。
突然思いついたなんて、そんなはずはなくて。
俺のために、一緒に楽しむために、用意してくれてたんだ。
なのに、俺は・・・自分勝手なことばかりで。
「一馬。」
「・・・ん?」
「言いたくないならいいけどさ。俺らに遠慮してるだけなんだったら、とっとと話せよな。」
「・・・。」
「機嫌悪いなら無理して笑う必要ないし、テンションだってあわせなくたっていいんだよ。」
やっぱり、最初から全部わかってたんだ。
俺が落ち込んでたことも、そのせいでちゃんと笑えなかったことも。
そうだよな。当たり前だ。
「・・・。」
「何?」
「電話、貸してくれ。」
「ああ。」
「それで・・・お前の家泊まってもいいか?」
「もちろん。」
「グチもいっぱい言うかも。」
「いいよ。ただしあまりうじうじしてたら鉄拳制裁ね!俺はあまくないわよ!」
「ははっ、大丈夫。知ってる。」
そのまま俺らは袋に入っていた花火をすべて使い切り、4人揃っての家へと帰っていく。
「俺、すっげえ頑張ったからね?と一馬が出た後、全力ダッシュしたんだからね?!」
「わ、悪い。さんきゅ。」
「うんうん、結人と英士は頑張ったな!」
「ちょっと待って、英士はジョギングくらいの速さだったからね?頑張ったの俺!花火設置したの俺!」
「結人、嘘もたいがいにしなよ。」
「真面目な顔して大嘘つかないでえ!」
やっぱりはじめから嘘なんてつくんじゃなかった。こうしてどうせばれてしまうんだから。
どんなにくだらないと思ったことだって、ちゃんと話してればよかったんだよな。
返される反応には傷ついてたかもしれないけど。
「しっかしさあ、一馬が英士の渾身のボケを流したときには相当重症だと思ったよな。」
「は?ボ、ボケ?!」
「りん五郎!あれ入れといたの俺たち。」
「ええ?!」
「今日の一馬は様子が変だから、とりあえずいつものツッコミをさせようぜって話になっててさ。
英士は乗り気じゃなかったから、りん五郎も自分じゃないっていうかと思ったけど、ちゃんと乗ってくれたよな。」
「俺らはいつものことだけど、英士がりん五郎ってツッコミどころ満載じゃんな?」
「だからお前ら何も言わなかったのかよ!
い、いや、あれは・・・!ボケなんだか真剣なんだかわかんなくて・・・!」
「俺が正気であんなものをプレゼントにするとでも・・・?」
「おも、思わない!思いませんすいません!!」
怖い怖い怖い・・・!怖すぎて思わず敬語になっちゃったし・・・!
わかるけどさ、万が一ってこともあるじゃんか。万が一本気だったらツッコミなんて入れられねえよ・・・!
黒いオーラをまとった(ように見える)英士が、その笑みを解いた。それからすぐにため息をひとつついて。
「慣れないことさせないでよね。」
小さく、けれど優しく笑う。
「・・・ありがとな、英士。」
俺もつられるように笑う。
照れくさくて、ちゃんと顔は見れなかったけれど。
「ちょ、ちょ、ちょー!なにそれ!英士が一番なの?!俺らは?!俺らがんばったよ?!」
「お、お前らにも感謝してるって!」
「ついでみたいに言われたあ!!」
「だからっ・・・」
「こうなったら・・・!」
「え?」
「本日最後のプレゼント!リンゴちゃん写真!」
「なっ・・・ギャー!!!」
「これを拡大して一馬の部屋に貼りにいきます!」
「いいねいいね!」
「よくねえーーー!!やめろ!やめてください!!」
「・・・はあ。」
今日は8月20日、俺の誕生日。
腹がたったり、落ち込んだり、驚かされたりといろいろあった今日。
もう夜も更けてきたけれど、まだ何かが起こりそうだ。
親友たちと過ごす夜はまだまだ長そうだから。
TOP
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素直じゃなくて、プライドが高いわりに、かっこよくなりきれない。そんな一馬が愛しいです。
親友たちにはともかくとして、クラスメイトやチームメイトに突然祝われたらすごく照れて、
素直に喜ぶ姿を見せられないんじゃなかろうか。なんだもう可愛いな!
一馬が密かに喜んで、嬉しそうな顔を一瞬でも見せてくれたら、抱きつきにいってしまう気がします。
お誕生日おめでとう!
※最後に出てきた「リンゴちゃん写真」は恋愛シリーズ本編の「恋愛説得論」に登場します。
おまけ。
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