「三上くんと委員会が一緒だったっていうのは言ったよね。元々目立つ人だったから、存在は知ってたの。
はじめは正直ね、怖い人だなって思ってたよ。」





亮くんの紹介で出会ってから、私は個人的にちゃんと遊ぶようになった。
ちなみに亮くんや近藤くんは、春からの部活開始に備えて、練習に余念がなく忙しいようだ。





「文化祭実行委員や整美委員だったんだけど、雑用や集まりも多くて。途中で面倒だとか、用事があるとかで帰っちゃう人もいたんだよね。
でも三上くんは怖い顔しながらも、いつも最後まで手伝ってくれてたの。部活が終わってからわざわざ来てくれたりもしてたなあ。そのとき、いろいろ喋るようになったんだ。」





相手が亮くんの好きな人ということはわかっていた。
けれど、私は彼女自身に好感を持っていたし、それを理由に敬遠したいとは思わない。





「それから三上くんと仲の良かった近藤くんとも話すようになったの。」

「それで、好きになったんだ?」

「う、うん。」

「近ちゃん良い人だもんねえ。」

「・・・でも、なかなか前に進めなくて・・・。」

「そういえば最近付き合いだしたんだよね?」

「そう。二人がサッカー部の寮から一時帰宅する日だったから・・・ちゃんが引っ越してきた時期と同じだね。」

「・・・そっか。」

「近藤くんと付き合えることになったのは、三上くんのおかげなの。
三上くんが背中を押してくれなかったら、私たちは今でも変わらないままだったかもしれない。」

「亮くんが?」

「うん。なんでもないってフリをしながら、周りの人のことを考えてくれてる。優しくて、堂々としてて、すごく尊敬してる。」





ちゃんが、亮くんを信頼し、大切にしていることがわかる。
亮くんにこんなちゃんの姿を見せたら、なんて思うだろう。

嬉しいって喜ぶのかな。それとも、やっぱり切なさだけが残るだろうか。













純恋走愛論














「というわけで、ちゃんと遊んできたよ!」

「なにわざわざ報告しに来てんだよ。帰れ!」

「だって亮くんが、忙しい忙しいってかまってくれないから。」

「俺はお前と違っていろいろあるんだよ。」





亮くんが家にいたのは、私と出会って数日だけのことだったみたいだ。
おそらくその数日で春休みの課題や用事を済ませて、残りは自主練に費やすつもりだったのだろう。
見た目や口調に似合わず、なんて真面目で勤勉なんだろうか。





「ねえ、亮くん。ずっと疑問だったんだけど。」

「なんだよ。」

「なんで亮くんは、ちゃんに告白しなかったの?」

「っ・・・ごほっ、ごほっ!な、なんだよお前はいきなり!」

「だって、ちゃんと仲良くなったのは、近ちゃんよりも亮くんが先なんでしょう?亮くん、手はやそうなのに。」

「勝手なイメージをつくんな。別に、お前に関係ねえだろ。」





ちゃんと話すたび、疑問は膨らんでいく。
亮くんは私が初めて見たときそう思ったように、顔は間違いなく、美形の類に入るだろう。
性格に難はあるけれど、ちゃんからの信頼は掴んでる。
近ちゃんに会わせる前に、亮くんはちゃんを捕まえておくことが出来たんじゃないだろうか。





「好きだったことに気づくのが遅かったとか?」

「あーもーうっせえ。」

「それとも実は見た目に反して、かなりの奥手?!」

「はいはい、ソウデス。」

「あらあら、もじもじしてるうちに近ちゃんにとられちゃったのかあ。」

「・・・お前、人で遊んで楽しいか?」

「まあね。」

「帰れ!」





亮くんの気持ちを知り、彼が私に遠慮なんてしないことも知っている。
それならば私だって気を遣って大人しくなんてしていられない。
怒られるのは承知の上だし、既に慣れた。私は亮くんの上辺じゃなく、本心が知りたい。
彼はちゃんが好きだという。けれど、近ちゃんとちゃんが付き合うことに協力したのも彼なのだ。





「亮くんは、ちゃんに気持ちを伝えるつもりはないの?」

「ない。今更どうでもいい。」

「どうでもいい?」

「俺のは一種の気の迷いっつーか、そうかもなって思っただけ。
アイツと近藤ならお似合いだし、俺がわざわざちょっかいかける必要もねえだろ。」

「その割には、しょっちゅう引きずってる顔してるけど。」

「・・・は?」

「そんな顔してたら、いくら鈍い二人でもいつかバレちゃうよ?」

「そんな顔って・・・どんな顔だよ?」

「切なそうな、悲しそうな・・・不憫さ満載の顔?」

「不憫ってなんだ、ざけんな!」





三人が仲が良かったのは事実で。きっとこれからも二人は、亮くんを信頼して、大切な友達として付き合っていくのだと思う。
けれど、亮くんが気持ちを持ち続けている限り、彼は救われないじゃないか。
一緒に遊んでその場は楽しくても、きっとどうしようもない辛さや切なさが、何度も彼を襲うだろう。





「私を彼女にすれば万事解決なのにね?」

「絶対やだ。」

「なんで!?」

「好みじゃねえっつったろ。」

「無償の愛がついてきますよ?」

「いらん。」





傷心の亮くんなら、少しはほだされてくれるかとも思ったけれど、やっぱり今日も失敗だ。
ちゃんを諦めるというのなら、少しは新しい恋にも目を向けてくれればいいのに。





「大体さ、好みのタイプってイコールちゃんなんでしょ?全然吹っ切れてないじゃない。」

「・・・あ?」

「そんなに好きなのに、気持ちを知ってもらえなくて。
これからどんどん仲良くなっていく二人を見続けるんだよ?亮くんはそれでいいの?」

「・・・。」

「自分の気持ちをこもらせてばかりで、言葉にしてないから、気持ちだけが強く残っちゃうんだよ。
どんな形でも、好きって言っちゃえば、」

「うるせえな。」





一言だけ呟かれた言葉は、普段よりも低く小さいのに、耳によく通る。
それは先ほどまでの適当なあいづちではなく、明らかな怒りを帯びていた。
さりげなく続けた会話が、先ほどまでの穏やかな空気を一転させる。





「何も知らねえくせに適当なこと言ってんじゃねえよ。」

「・・・あき・・・」

「誰でもが気軽に好きだ好きだ言えるんだったら、苦労なんかない。
すべてを自分基準で考えて、好き勝手言ってんな。」

「・・・。」

「お前みたいな適当な奴にどうこう語られたくねえんだよ。余計なお世話だ。」





手をあげられたわけじゃない。声を荒げて、怒鳴られたわけでもない。
静かに淡々と言葉を紡ぐ亮くんに、私は何も言えなかった。

それは、怖かったんじゃない。ましてや怒りを感じたわけでもなく。



ただ、痛かった。

















少し発破をかけるだけのつもりだったのに、深く入り込みすぎた。
亮くんのことを知りたいとは思っていても、彼を傷つける気なんてなかったのに。





「誰でもが気軽に好きだ好きだ言えるんだったら、苦労なんかない。」





自分の気持ちを押し隠して、二人の応援までして。
そしてこれから先も隠し続けるんだろう。

出会ってからずっと、亮くんに気持ちを告げ続けていた私をどう思っただろう。
私に障害はなかった。亮くんに好きな人がいると知っても、言葉を押さえる必要などなかった。
好きと告げるのに、気を遣う相手すら、いなかったから。そんな私は亮くんの目に、どう映っていただろう。





誰にも告げられず、言葉にすることも出来ずに。
叶うことなんてないのに、気持ちは大きくなるのに、吐き出すこともできずに、ただ強く大きくなっていく。



不器用で、わかりづらくて、けれど一途でまっすぐな想い。





胸がぎゅっと苦しくなる。



亮くんの本心が知りたいと思う。



けれど、知ろうとすればするほど、貴方は離れていくのかもしれない。



私が気持ちを伝えれば伝えるほどに、貴方は傷つくのだろうか。







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