「・・・?」

「・・・。」

「え、いや・・・え!?どういう・・・」

「言葉どおりです。」





口に出してしまった言葉に、少しすっきりした気持ちを覚えながら、大半を占めていたのは焦りと緊張と不安だった。
けれど先輩があまりにも予想どおりの反応を返すから、私の方が先に冷静になってしまって。

このままでは先輩が混乱して、勝手に結論を出し、冗談かって笑って終わってしまう。
意地っ張りな私もそれにきっと乗じてしまうから。そうなる前に、





「私、根岸先輩のことが好きみたいです。」





もう一度、唖然とする先輩に向けて、はっきりと気持ちを伝えた。














幸せの理由














「なっ・・・な、な、なにっ・・・冗だ・・・」

「冗談じゃないです。」

「だ、だってお前、俺のこと冷たい目で見たり、うざいって言ったり・・・」

「それは本当ですけど。」

「本当なの!?」

「でも、先輩がそれだけじゃないって、知ってるから。」

「・・・!」





先輩が慌てるのも、動揺することもわかっていた。
先輩にとって私は、自分の話を最後まで聞いてくれる"良い後輩"。
きっとそれ以上でも、以下でもなかったはずだから。





「本当に?マジで?」

「大マジです。」

「お前、全然そんな素振りみせなかったじゃんかよー!」

「見せてましたよ?」

「え?い、いつ?」

「私の悩み、テストじゃなくて、先輩のことだったんです。」

「え?」

「と言っても、私は本当にこの人が好きなのか、そもそもどこが好きなんだろうっていう悩みだったんですけど。」

「!?」





先輩の心にはずっと、彼女だった""さんがいて。
そこに誰かが入り込むなんて出来なかった。先輩自身も入らせないようにしていた。
だから先輩はずっと彼女を忘れられない。幸せの元だった人がいないから、ずっと悲しいままだ。





「でも、何度考えてみても、答えは同じだった。」

「・・・でも、俺、お前に好かれることしてた覚えなんて・・・てか、むしろ格好悪いとこしか・・・」

「だから、そういうのも全部今更だって、前にも言ったじゃないですか。」

「あ、やっぱそこは否定してくんないんだ。」

「わかってて、それでも変わらなかった結論なんです。」





この気持ちが、すぐに受け入れられるなんて思ってない。
だけど、少しずつ気持ちを変えていくことは出来るのかもしれない。





「先輩がまだ前の彼女を好きなことはわかってます。だから、今すぐどうこうなりたい訳じゃないんです。」





私は先輩の友達にも、良い後輩にもなりきれない。
それ以上の関係を望んでしまっているから。





「以前に言ったとおりに、何でも話してくれていいんです。彼女の話を聞かされても、不思議と嫌じゃないですし。」





今までどおりだっていい。
ただ、ひとつ。違っていることを、先輩が知ってくれているならば。





「少しずつでもいいから、変わっていきませんか?」





ただの先輩と後輩で、気兼ねなく話せるよき相談相手。
けれど私が先輩を好きになったように、気持ちは変わっていくから。





「恋愛できないって、好きな人が出来ないって嘆くよりも、よっぽど前向きだと思いませんか?」





ニッコリと笑う私に、唖然とした表情でかたまっている根岸先輩。いつもと立場が逆だ。
先輩が話しだすまで少し待ってみたけれど、先輩は頭を抑えたり、首をかしげたり、振ったりと、
体は動いても言葉が出てこないようだった。





「・・・そうですか。」

「・・・へ?」

「少しでも先輩の力になりたくて、恥ずかしいのを我慢して、素直に気持ちを伝えたのに・・・。」

「・・・あ・・・」

「やっぱり私はただの後輩であって、それ以上にはなれないんですね。」

「え、いや、ちょっと待っ・・・」

「変わっていこうなんて思える価値、私にはないんですよね。そっか・・・。」

「ちょ、ちょっと待て!そんなこと、あるわけないだろ!?
あんまりそういう風に考えたことなかったってだけで、お前自身のことは・・・」





口に出そうとした言葉を手で抑えて、顔を真っ赤にしながら、しまったという顔で私を見た。
私から滅多に零れることのない弱音を、先輩が否定してくれることはわかっていた。
わかっていて、先輩からの言葉を待っていた私は、性格が悪いだろうか。





「先輩。私、先輩といると、楽しいです。」

「・・・おう。」

「先輩はどうですか?楽しくありませんか?」

「た、楽しい・・・けどさ。」

「じゃあ、一緒にいましょうよ。」

「でも、俺はのことが・・・」

「知ってますってば。言ったでしょ?そういうの全部ひっくるめてるって。」





先輩への気持ちを一度認めてしまえば楽だった。
ちょっとした言葉に泣きそうになったのも、一緒に過ごす時間を楽しみにするようになったのも、すべての感情の答えにつながった。

そして、言葉にすると、もう悩むこともなくなった。





「試してみてください。本当に恋愛が出来ないのか。」

・・・。」

「付き合えって訳じゃなくて、ちょっと意識してくれればいいんです。お試し期間って奴です。」

「お前、それ、ずるい。」

「え?」

「意識なんて、するに決まってんだろ・・・!」





彼女に対する、今にもとろけてしまいそうな顔。
自分に対する態度が冷たいと怒る、不満そうな顔。
友達とバカやったって、思い出しながら浮かべる楽しそうな顔。

いろんな先輩を見てきたけれど。

見てわかるほどに真っ赤になって、行き場のない視線を泳がせる。こんな先輩は、初めてだ。





「良い傾向じゃないですか。どんどん意識してください。」

「お前、いつの間にそんな大胆な奴に・・・!」

「恋愛って人を変えるのかもしれないですね?」

「っ・・・」





先輩が彼女の話をしてるとき、ここまでのぼせるかってくらいに、その人に夢中だった。
いくら続けても尽きることがない話、友達にうざったいって煙たがられるくらい、周りが見えていなくて。
恋愛ってどういうものだろうと考えていた。こんなに人を好きになれるのかと思っていた。

あんなに呆れていたのに、今ならその気持ちが少しだけわかる気がするなんて。
そう思う自分がなんだか可笑しくて、思わず笑みが零れた。










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