「よりによって顔見知りだぜ?会えなくて寂しいってなんだよー!学校違う俺にどうしろっていうんだ!」

「・・・。」

「俺はこんなに愛を語っていたのに!溢れ出しすぎて、お前にも話してたくらいなのに!なあ!」

「そうですね。」

の好きな花だって、こんなに好きになって世話もしてたのに・・・!どうしてだよ!なあ!」

「そうですね。」

、俺の話聞いてんの?」

「聞いてます先輩。だから早く仕事始めてください。」





「いつもみたいに、言いたいことを言ってくれていいです。大人しい先輩なんて、調子が狂っちゃうから。」





つらいことを溜め込んで、目の前で無理して笑う姿なんて見たくなかった。
だから私は、先輩に伝えた。気遣わず、言いたいことを言ってほしいと。

けれど今、私はちょっとだけ、後悔しはじめている。





「なんだよなんだよ・・・お前も俺より別の奴を選ぶのか・・・!」

「別のや・・・植物にまで嫉妬するのやめてくれます!?」





彼女にふられ、私の前で気兼ねなくネガティブモードに突入するようになった根岸先輩は、
惚気話をしていたとき以上に、面倒くさい状況になっていた。













幸せの理由














「何でも言ってくれていいって言ったの、じゃんかよー!」

「別にいいですよ。でも私、"今までどおり"って言いましたよね。」

「うん?」

「別になぐさめもしないし、自分が思ったことしか言わないです。先輩が面倒な性格なの、わかってますから。」

「ひどい!俺、面倒なんかじゃないし!」





あれから根岸先輩は、ぽつりぽつりと彼女とのことを私に話してくれた。
彼女は他校の吹奏楽部で、出会ったきっかけはサッカーの大会。その学校も武蔵森と同じく、上位に名を連ねる強豪校。
応援にやってくる彼女と知り合い、話をしていくうちに、いつしか根岸先輩は彼女を好きになり告白した。

はじめは学校が違っても、携帯で連絡を取って近況報告をしたり、休みをなんとか合わせてデートも繰り返していた。
けれど、やはり違う学校であること、お互い部活があったことで、会えない日が続いていた。
そんな中で彼女が同じ学校の人に告白をされ、それを受け入れてしまった。
くしくも同じサッカー部。他校とはいえ、根岸先輩も何度も顔をあわせていた人らしい。
寂しさに耐えられなかったと、そう告げられて、二人は別れることになってしまった。





「離れてても、お互いが好きなら大丈夫だって・・・そう言ってたのになー。」

「・・・うまくいってる人たちもいるとは思いますけどね。寂しい人はやっぱり寂しいんじゃないですか?不安にもなるだろうし。」

「俺、不安にさせてたのかな・・・!どう思う?」

「さあ?私は同じ経験をしたことがないので。」

「そうかーそうだよなー。大丈夫大丈夫、いい奴だからちゃんと彼氏できるよ。」

「大丈夫って何ですか。哀れみの目で見ないでくださいよ!」

「哀れみ・・・どうせ俺は哀れな男ですよーだ!」

「人の話聞いてください。」





先輩は前以上に面倒で、うざったいことになってしまったけれど。
それでも失恋直後よりは、だいぶ元気になってきたように思える。
私に彼女とのことを話してくれた後の先輩の落ち込みようは、目もあてられなかった。
私に気を遣うな、と言われたことで、先輩も肩の力が抜けたんだろう。つらそうな表情を隠すこともなかった。
けれど、悲しそうに笑うより、感情を隠されるより、よっぽどよかった。





「先輩、今日はこの後サッカー部の集まりがあるんじゃないんですか?そろそろ時間ですよ。」

「あー・・・もうそんな時間かー。」

「お昼休み中に委員の仕事とサッカー部の集まりって大変ですね。
委員会の担当、別の日に代えてもらえばよかったのに。」

「まあ、そうなんだけどさ。俺、お前と話してると、結構癒されるんだよね。」

「え?」

「だってさー!俺が彼女に振られて悲しい思いしてるってのに、
あいつら皆して調子乗ってるからだーとか、ざまーみろとか言うんだぜ!?ひどくねえ!?」

「・・・先輩。もしかしていじめられて」

「ないです!いじめられてなんかないけども!・・・いや、これはいじめか?いじめなのか!?」

「・・・っ・・・大変ですねっ・・・」

「お前っ、そこ笑うとこじゃねえよ!」





あいつらとは、先輩が惚気話をしていたときも、相手にしなかったという先輩の友達。
たぶん今も、心配すればするほどに先輩の、彼女の引きずり具合に拍車がかかることをわかっているんだろう。
けれど、いつも一緒に楽しそうに笑ってる彼らの姿を目にしているから、本当に先輩を突き放していないことも、なんとなく分かる。





「でも、失恋直後にご飯おごってくれたって言ってませんでした?」

「失恋パーティーって名目だったけどな!」

「あははっ」

「だから笑うとこじゃねえだろ?」





先輩がこうして元気になっていること、それはきっと彼の周りにいる人たちのおかげなんだろう。
素直じゃなく、からかうように、それでも、先輩を心配して元気付けてくれる人たちがいる。私が出来ることなんてちっぽけなものだった。





「優しくしてくれるのは、だけなんだよな。」

「私、優しいですか?」

「あいつらに比べたら、そりゃもう。」

「私だって、面倒とかうるさいとか言いますよ?」

「でも、いつも最後まで話聞いてくれるじゃん。」





先輩が笑う。それは私がずっと見てきた笑顔とは少し違うけれど。
それでも楽しそうに、無邪気に。







「お前が優しいから。甘えちゃってるの。」







そのときこみ上げてきた感情は、なんだったんだろう。
私は先輩をまっすぐ見ていられなくなって、思わず顔を背けてしまった。







「ありがとな、。」







私の頭を軽く撫でて、先輩は校舎に戻っていった。



私が何か出来ると、期待していたわけじゃなかった。
ただ、先輩の話をずっと聞いていたから、彼女のことをどれだけ好きかを知っていたから。
少しでもいい。力になれればと思った。先輩がまた笑ってくれることを望んだ。



だから、先輩の言葉が嬉しかった。





嬉しかったのに。





しばらく俯いて、顔をあげることができなかった。



自分で自分がわからなかった。



どうして私は今、必死で涙をこらえているんだろう。








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