「ちょっと聞いてんの?」

「大人しそうな顔して、自分の立場もわかってないくせに。」





私は生まれて初めて、"女子"から学校の裏庭に呼び出しを受けた。
男子からの果たし状はいくつも受けたことがあったけれど、これは初の体験だ。
昔読んだ漫画の世界が現実にもあるんだなあ、なんて暢気なことを考えつつ。





「・・・何のことですか?」

「アンタと三上くんが一緒に出かけてるとこ見た奴がいるのよ!」





ああ、くだらない。
何で私が三上のことで、呼び出しなんて受けなければならないのか。



転校してから今まで悪い意味で目立ったことなんてなかったのに。



どうしてくれるんだ、あの根性悪男。













戦う少年少女













「この子はね、まだ三上くんのこと好きなの。三上くんだって同じはずなんだから!
そこに割って入るような真似しないでくれる?!」

「別に割って入ってなんて・・・」

「じゃあ何で一緒に出かけるのよ。」

「・・・偶然会っただけです。」

「適当な嘘ついてんじゃないわよ!」





この話し方からすると、三上の元彼女といったところだろうか。
こんな綺麗な先輩を彼女にするなんて、三上も生意気だ。
なんて考えてる場合じゃなく、ああもうやっぱり一緒にいるとこ見られてるじゃないか。
だから私は嫌だって言ったのに。どう言い訳すればいいんだ、こんな思い込みが激しそうな先輩サマに。





「そしたら言えばいいじゃねえか。
私は昔のことをバラされたくなくて、三上くんの荷物持ちをしてましたって。
俺は悪者。お前は同情してもらえて万々歳だ。」





・・・口が裂けても言えるか、そんなこと。





「・・・私と三上くんはただの友達ですし、お互い恋愛感情とか持ってないですから。」

「何余裕ぶってるわけ?!バカにしてるの?」





・・・じゃあ一体なんて答えれば満足するというのか。
私は三上とつきあってないと言ってるのに。大体三上は私を嫌ってるっていうのに。
逆につきあってますなんて答えたってこの人たちは怒るんだろうな。





「三上くん本人に聞いてもらうのが一番はやいと思います。」

「三上くんに助けを求めるつもり?どこまで根性汚いのよ!」





あーどうしよう。すっごいイライラするんですけど!
三上本人に確認してみろって当たり前のこと言ってあげてるだけでしょうが。
どうもこの先輩方は私が怖がって怯えないと気がすまないらしい。

でも昔の名残というかなんというか。
こういうところで負けず嫌いの性格も出てきちゃうわけで。
怖がって怯える演技なんて簡単だったけれど、この人たちの前ではしたくないなんて思ってしまって。





「じゃあ今から一緒に三上くんのところへ行きましょうよ。
私は彼には何も言いませんから。」

「何その態度・・・!いい加減にっ・・・」

「何をしているんだ?」





今にも私に手をあげてやろうかといった先輩の表情がかたまる。
そして声がする方向へと視線を向ける。





「・・・し、渋沢くん・・・!」





驚いたように目を見開いて、取り繕うように笑顔を浮かべた。
渋沢くんと言えば三上の友達でありこの高校の有名人。当然、その存在も知っているのだろう。





「・・・なんだか大きな声が聞こえたものですから・・・。どうかしたんですか?」





先輩たちは顔を見合わせて、何でもないよとニッコリと笑いながらこの場を後にした。

・・・さっきまでの殺伐とした雰囲気と、般若みたいな表情はどこへ行ったんだ。
私もその演技力を見習いたい・・・いや、やっぱり嫌だ。
















「大丈夫か?さん。」

「え?うん。別に・・・」

「すまない。あそこで先輩たちを怒れば後々は結局君に矛先が向くと思ったから・・・」





私の方へと駆け寄ってきた渋沢くんを、ポカンとした表情で眺めていた。
ああ、渋沢くんは全部わかっていたのか。
けれど、ただ怒るだけではなく、後々の私のことまで考えてくれていたらしい。
つくづく出来た人だなあ・・・。うん、見習うのならこういう人にするべきだ。





「ううん、助けてくれてありがとう渋沢くん。」

「いや・・・さんも大変だな。」

「皆誤解してるみたいで参っちゃうよ。でも話せばわかってくれると思うから。」

「つくづく出来た人だな、さんは。」

「その言葉、そのまま渋沢くんに返すよ。」

「ええ?何故だ?」

「ははっ、無自覚なんだ。それもすごい。」

「何がだ?」





この人は演技でも何でもなく、自然に良い行動ができる人なんだ。
無自覚だから恩着せがましいこともない。だから、たくさんの人に好かれる。
優等生だからとただ頼りにされるだけの私とは全然違う。





「もしまた何かあったら言ってくれ。力になるから。」

「あはは、大げさだよ。私は大丈夫。」

「でも・・・」

「私、こう見えても結構打たれ強いから。大抵のことは平気。」





小さくガッツポーズを作って笑うと、渋沢くんも呆れたように笑った。





「三上にも言っておくよ。あまり誤解を招くような行動はとるなって。」

「いいよ。三上くんも悪いことしてるわけじゃないし。」





・・・ってあれ?何で私は三上をかばってるんだ。
アイツのせいで私はこんなくだらない呼び出しを受けたっていうのに。
渋沢くんから言ってもらえれば、アイツだって少しは控えるようになるかもしれないのに。





「あれから三上はどうだ?君に無理なことを頼んだりはしていないか?」

「うん、友達の範囲内の頼みごとくらい。はは、渋沢くん心配しすぎだよ。」





ああ、そうか。
渋沢くんの口から言われたら、アイツふてくされて要求がエスカレートするかもしれないし。





「それじゃあ、校舎に戻ろうか。」

「あれ?そういえば渋沢くんは何でここに?」

「いや・・・教室から先輩たちに連れられるさんが見えたから・・・。」

「それで心配で来てくれたの?本当にお人よしだなあ。」

「お人よしというか・・・三上にはよくおせっかいだと言われるけどな。」

「うわー。三上くんってば・・・。」

「いや、俺自身もそう思っているから・・・。」





全く三上ってば自分のしていることは棚にあげて。
アンタなんてお人よしでもなければ、他人に興味もない奴でしょうが。
おせっかいの方が全然いいと思うっての。

そりゃあ、三上だってぶっきらぼうで素直じゃないだけで、
人の気持ちに敏感だって思ったこともあったけど・・・。

って、いやいや。敏感だったら私の気持ちも察してくれるはずだ。
やっぱりアイツは嫌な奴。確定。





「私は別にいいと思うけどな。」

「え?」

「たとえ渋沢くんがお節介でも、私はさっき助けられた。感謝だってしてるよ。」

「・・・。」

「そう思ってる人、たくさんいるよ。」

「・・・ありがとう、さん。」





渋沢くんが優しく笑ってくれたので、私も安心して笑う。
彼は私の憧れになりつつあるのだ。三上なんかのせいで落ち込ませてなるものか。





「あ、休み時間終わっちゃう。はやく・・・わわっ!!」

さん?!」





歩き出した地面に、堅い石のようなものがめり込んでいたらしく
私はそれにつまづき体勢を崩した。思わず目をつぶってしまったが、地面への激突はいつまで経ってもこない。





「大丈夫か?」

「渋沢くん・・・!」





渋沢くんの声とともに目を開く。
皆が憧れる綺麗な顔がそこにあって、情けないことに思わず体を強張らせてしまった。
私は男と喧嘩は何度もしたが、抱きしめられるなんて経験なんてあるわけもないんだ。

まあ抱きしめられるなんていっても、実際は転びそうになった私を支えてくれていただけだけれど。





「・・・ご、ごめん、ありがとっ・・・!」

「あ、ああ。ケガがなくてよかった。」





不覚にも顔を赤らめてしまって。
そんな私を見て、渋沢くんも少し照れてしまったようだ。

少しギクシャクとしながら、二人で困ったように笑いそれぞれの教室へと向かった。



男に顔を赤らめるなんて、これもまた初めてのこと。
少しだけドキドキしながら、席につくと不意に三上と目があった。

意地悪く笑み、口を開いて声に出さずに何か言っている。
えっと、「ば・・・?」「か・・・?」



「バカ?!」



その憎まれ口をつい口に出してしまって。
私は周りの席の子から大注目を浴びてしまった。

笑いながら適当にごまかして、三上に視線を向ければ
アイツは何もなかったかのように、飄々とした顔で前を向き、
少しだけこちらに視線を向けて、ニヤリと笑った。
ああもうムカつく!最悪だアイツ!



なんてことを表情に出すわけもなく、私は次の授業の準備に取り掛かった。
隣で次の授業で当てられると嘆いているクラスメイトへのフォローも忘れずに。









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