「ねえ、私アンタとデートなんてしたくないんですけど。」

「は?誰がデートだよ。勘違いもいいとこだ荷物持ち。」

「勘違いするのは周りでしょ?こんなとこ見られたら言い訳できないんですけど・・・!」

「そしたら言えばいいじゃねえか。
私は昔のことをバラされたくなくて、三上くんの荷物持ちをしてましたって。
俺は悪者。お前は同情してもらえて万々歳だ。」

「・・・。」





できるものならな、とでも言っているようなその笑みを崩してやりたくなる。
私は両手に抱える買い物袋を持ち直すフリをして、彼にその袋をぶつけた。





「・・・いって!何すんだよお前!」

「あーすみませんー。荷物が多すぎてぶつかっちゃった。」





三上が私を睨みつけているのなんて気付かないフリをして、気にせず先を歩いた。
サッカー用品を買うだかなんだか知らないけど、せっかくの休日までパシリにされたんだ。
ささやかな復讐くらいしてもいいと思う。

三上の両手にも買い物をした袋がぶらさがっていたから、
三上は私に何もせず、小さく舌打ちだけをして私の隣に並んだ。














戦う少年少女















「今日の買い物はこれで終わりですか?三上クン?」

「気持ち悪い。キャラ変えてんじゃねえよ。」

「三上って友達いないの?こんなのサッカー部の友達とでも来ればいいじゃない。」

「こんな大量の買い物して、荷物持ちだけさせんのか?
俺はお前じゃねえからそんな面倒なことにダチはつき合わす気にはならねえな。」

「・・・私はいいんデスカ?」

「お前は下僕だろ。」





もう一度買い物袋をぶつけてやろうと思ったけれど、
次はさすがにアイツも怒るだろうと思って止めた。
三上の暴言にも結構慣れてきたし、もう少しくらいは我慢できる、はず。





「しかしお前って昔と変わってねえんだな。」

「は?」

「相変わらずの怪力だよなって話。その袋重くないんだろ?」

「・・・!」





しまった。こんな重いもの持てないとか言えばよかったのか。
少し重いとは思ったけれど、意外と持ててしまったから特に気にしなかった。
まあそれを言ったところでコイツが代わりに持ってくれるなんてありえなかったけど。





「・・・言わなかったけど、実は結構重いんだよね。」

「思い出したように言うな、バレバレだバーカ。」





しかし重いとわかってるのに持たせるなんて、男の風上にも置けない奴。
・・・なんて、昔はそうやって女扱いされることが嫌だった。私にはその考えが根付いてるんだろう。
だからこういうときも、『女』を使って誰かに頼るって考えが浮かばないんだ。





「ところで買い物終わったなら、私帰りたいんですけど・・・。」

「あ?勝手に帰ればいいじゃねえかよ。この荷物を運んでからな。」

「・・・家まで持っていけと?」

「そうじゃなきゃ何の為にお前を呼んだんだよ。」

「・・・はあ。」





少し予想はしてたけどやっぱりそうか。
ああもうため息しか出てこない。

・・・でも待てよ。このままだと三上の家まで行くことになる。
もしかしたらコイツの正体につながる何かが見つかるかも・・・。


















「あれ?おい、亮じゃん!」

「お・・・?よう、久しぶり。」

「小学校以来かー!お前は今武蔵森だっけ?」





三上の家の方へ向かうと、その途中で見たことのない男が三上の名を呼ぶ。
話の内容からすると、どうやら小学校のときの同級生のようだ。

・・・ん?小学校?!





「・・・あれ、そっちは誰?彼女?」

「あー、コイツは違えよ。俺の「友達です。よろしく。」」





どうしよう、三上が私のことを知ってるのなら、
彼の小学校のときの同級生も私を知ってるかもしれない。
三上にはすぐにバレたし、なるべくならすぐに去りたいんだけど・・・。





「・・・はっ、何ビビッてんだよお前。」

「だ、だって・・・」

「俺も転校してココに来たから。お前のことは他に誰も知らねえよ。
大体お前がいた場所と全然違う場所じゃねえか。」

「・・・そう、だけど・・・。」





三上って前例がいるんだから、怖がるのも当然でしょうが。
しかも慌ててる私の姿を見て笑うとか、本当に性格悪い。





「どうかした?彼女さん。」

「か、彼女じゃないですってば・・・!」

「またまたー。二人で仲睦まじく買い物袋なんて持ってるのにー?」





三上の買い物に付き合って、その買い物袋までぶら下げて。
二人で並んで歩いて・・・勘違いされても仕方のない状況だ。

だから言ったのに。当の本人はそんなのどうでもいいって顔をしてる。
見られたのが同じ学校の人じゃなかったのが救いだ。





「これから小学校の奴らで集まってサッカーすんだよ。
せっかくだから亮も来ない?武蔵森のサッカーレベルも見たいし!あ、でもデート中か・・・。」

「別にそんなんじゃねえから、構わないけど。」

「マジで?じゃあ来いよ。ホラ、彼女さんも一緒に!」

「え、いや、でも私は・・・」

「彼女さんもサッカーできるの?って、いくら名門武蔵森だからって
全員が全員サッカー好きなわけじゃないっか。」

「そ、そう!私サッカー出来な「出来るだろ?。」」

「マジで?それじゃあ退屈しないな!それじゃあ行こうぜ!」





な、いきなり何てことを言うんだ・・・!
どうやっても私を巻き込もうとしてるよコイツ・・・!

前を向いて歩き出した三上の友達の後ろで、私は小声で三上に話しかける。





「ちょっと、私本当に出来ないんだけど・・・!」

「何言ってんだよ、昔、男に混じってサッカーしてたじゃねえかよ。」

「いや、そんな昔の話を持ってこられても・・・」

「うるせえな。命令だ命令。」





一体どこまで私を振り回せば気が済むんだこの男は。
正直なところ、サッカーがうまいわけじゃないが人並みにできないわけでもない。
参加することに問題はないのかもしれないけど・・・コイツの思い通りになっていることがちょっと腹立たしい。





「ああー!亮じゃん!ひっさしぶりー!!」

「あれ?しかも彼女連れてきてねえ?!マジかよー!」

「まあお前らと違ってこっちはよりどりみどりなんで。」

「うっわ、お前会うたびふてぶてしくなってねえ?!」





見事に男ばかりだが、皆久しぶりの友達との再会に喜んでいるようだ。
私やっぱり来なくてもよかったじゃないか。
もしかしなくてもこの男、自分に彼女がいるって見せかけて自慢したかっただけだろう。





「彼女さんもサッカーできるんだってさ!」

「ええマジ?!さすが武蔵森!」

「って、武蔵森全員サッカーできるわけじゃないから!俺もさっき彼女さんに聞いちゃったけど。」





三上とは違って、すごく気さくな人たちだなあなんて思いつつ
私はいつも通りの笑みを浮かべて、彼らをやり過ごす。

少しだけ談笑した後に、数時間借りてあるというグラウンドに向かった。





そして彼らと一緒にサッカーをしてみたはいいけれど、思った通りに私はついていくことが精一杯で。
サッカーなんて小学校以来だ。やっぱりその時の技術だけじゃ到底叶わない。
特に三上は、ずっとサッカーをやってきただけあって段違いのうまさだ。

盛り上がる彼らからさりげなく抜けて、グラウンドの端に座りため息をつく。
昔は自分に叶う人など誰もいなかったけれど、今となっては技術力以前に体力すらも追いつかない。





さん。ハイ、お疲れ!」

「あ、ありがとう。」





笑顔でどこからか買ってきたポカリを私に投げ渡す。
やっぱり三上とは全然違う人たちだ。
三上はこの友達といい、渋沢くんといい、周りにいる人たちを見習えばいいんだよね。





さん大丈夫?無理に付き合わせちゃったんじゃない?」

「ううん、そんなことないよ。皆がうまくてビックリしたけど。」

「俺ら一応、小中とサッカー部だったから。
高校になって止めちゃった奴もいるけど、それなりにはできるつもり。
さすがに武蔵森に行った亮には叶わないけど。」





確かに三上は素人目から見ても、他の彼らより飛びぬけてうまい。
そういえば中学校のときはチームの司令塔だったと誰からか聞いた気がする。
武蔵森は練習も競争も厳しいというけれど、その中でレギュラーを勝ち取るのは大変なことなんだろう。





「アイツってさ、口は悪いけどすっげえ努力家だよね。
しかも努力してる姿とか見せようとしないから誤解もされやすいし。」

「・・・。」

「でも俺らはそんなアイツの努力、知ってるからさ。
亮が武蔵森で活躍してくれてんのを聞くと嬉しいんだ。」

「・・・そう、なんだ。」

さんもそういう亮だから、付き合ってられるんだろ?」





・・・ここで違います、なんて答えたらせっかくのいい空気が台無しじゃないか。
肯定も否定もできないので、私は黙り込んでしまった。
三上が努力してきたっていうのは、まあ認めるとしても。
でも貴方たちが褒めている三上は、過去を盾に脅して人をパシリやら下僕やらいう男なんですけど・・・。





「亮もなー、転校したての時はこんな根性ある奴だとは思わなかったけどなあ。」

「・・・根性が無く見えたってこと?」

「ああ、アイツのふてぶてしい態度とは別で。見た目がね。」

「・・・見た目・・・?」

「チビで色白くてヒョロヒョロでー・・・まるで「おい、!」」





うわあ、来た。
上から見下ろさないでよ全く。何でアンタはいつもそんなに偉そうなの。





「何サボってんだよお前。そんな柔じゃねえくせに。」

「ちょっと亮ー、お前自分の彼女だろー?そういうこと言わない!」

「ああ?彼女じゃねえよ。」

「えー、だってさっきそう言って自慢してたじゃんか。」

「うるせえな、とにかくコイツはあの程度で疲れるような女じゃねえんだよ。甘やかすな。」

「全くねえ?もう少し素直になったらコイツももう少しモテると思うんだけど。
どうせコイツ、俺がさんと話してるのが気にくわなかったんだぜ。」

「はあ?!誰がだよ!適当なこと言ってんじゃねえよアホ!」

「ハイハイ、すみませんでしたー。俺も戻ろっ!」





なんだか学校で見る三上とは違うなあ。
なんていうのか・・・いつもより幼い感じ。
渋沢くんが言ってた、気心が知れた人には遠慮がないってこういうことだろうか。





「・・・何だよ。」

「別に。」

「・・・さっきアイツと何話してた?」

「うわー、本当にヤキモチですか?」

「誰がだよ!アイツがお前に余計なこと言わなかったかって・・・」

「・・・余計なこと?」





三上が一瞬、しまったという表情を浮かべた。
昔の友達と会って、気が緩んだのかコイツがボロを出したのなんて初めて見たかも。





「もしかして三上クンも過去に秘密があるのかしら?」

「ねえよ、あとその喋り方もうぜえから止めろ!」

「いいよ、後で彼らに聞く・・・」

「変な真似したらバラすぞ。凶暴女。」

「・・・。」





またそれか。アンタはそれを言う以外に芸がないのかと言いたくなる。
私に問い詰められたことで慌てたのか、三上はすぐに振り返りグラウンドに戻っていった。
・・・私を引き戻すためにここまで来たんじゃなかったのか?
まあいいや、何も言われないのだったらもう少しここで休んでよう。

しかし三上は普段は何事にも無頓着なくせに、サッカーに関してはやたら熱くなるんだなあ。
いや、そんな目に見えて熱血してるってわけでもないけど・・・。



・・・あれ?



「チビで色白くてヒョロヒョロでー・・・まるで・・・」



熱くて、チビで色白でヒョロヒョロ・・・?



三上とはかけ離れていて完璧に除外していた一人が思い浮かんだ。



・・・いや、アイツはありえない。





さーん!そろそろ入れるー?」

「あ、うん。」

「いつまでサボってんだよ。」

「あはは、ごめんね三上くん。」

「・・・。」





自分の考えに首を振って、さあもう一度考え直しだと思いなおして。
スキを見て三上のことを聞き出せないかと卑怯なことを考えてつつ、私を呼ぶ彼らに笑って返事をかえした。








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