目が笑ってないんですが 「!仕事手伝ってやろっか?!」 「いりません。調子に乗ってそんなこと言って後でバテても知らないわよ。」 「大丈夫!に介抱してもらうからv」 「どの口がそんなことを言うか。勝手にバテてろ。」 「うわーん一馬ー!にひでえこと言われたー!!でもそんなとこも好きだー!!」 「俺にふるな。俺を巻き込むな。」 「何どさくさにまぎれて告白してるの結人。」 「ぎゃー!英士なんて呼んでないのに何でそこにいるんだよ!怖えよ!!」 今日もいつもの日常。 U-14世代で有名な3人組も相変わらずだ。 真田はどうか知らないが(むしろ避けてる気もするが)若菜と郭は完全にを気に入ってるらしい。 若菜は持ち前の明るい性格でに何を言われようとも、へこたれずいつも彼女に構っている。 それを牽制するべく若菜を監視しているのが郭。そして何故かいつも巻き込まれてる真田。 今でこその性格にも毒舌にも慣れた面々だけど、実はと一番険悪さを醸し出していたのはこいつらだった。 『お前、あの女と同じ学校なんだって?』 彼らと話した第一声は、の話からだった。 自分の服を洗濯していたら、彼らも同じ時間にこの場所へ来たのが話の始まりだ。 しばらくは三人で談笑しあっていたようだが、話はいつの間にかの話に変わっていて。 『Bのコーチの知り合いだか知らないけどさ。あの性格の悪さどうにかなんねえの?』 どうやらの態度や毒舌でよっぽどひどい目にでもあったのだろうか。 俺が彼らが見下しているBのグループだと言う事も忘れ、嫌悪感を隠すこともなく若菜は俺に問いかけた。 『アイツは口は悪いけど、性格は悪くないと思う。』 何も知らない若菜の言葉には少しだけ腹が立ったけれど、そう思ってしまっても仕方のない態度をもとっている。 だから俺は思ったことだけを正直に答えた。 すると、瞬間ポカンとした表情を見せる若菜。後ろにいる真田も同じ表情。郭は何も変わらない。 『いや、それはねーだろ!どう見たって性格悪いじゃん!俺だってさっきひでえこと言われたんだぜ?!な?!』 『確かに。』 『俺だから何とか気持ち持ち直したけど、一馬だったら立ち直れねえよ!』 『何だよそれ!』 『・・・だから口は悪いって言ってるだろ。』 『口が悪いってレベルじゃねえよ。アイツ、人が傷つくってこと知らないんじゃねえのか?』 『・・・あー。まあ口調はきついし、そういう意味では人をへこませる奴だとは思うけど。』 まあそこは否定できないよな。 実際と出会ったばかりの俺だって、そういう風に思っていた気がする。 『ほら見ろよ。やっぱり性格悪いじゃねえか。』 『だから性格は悪くないと思うって言ってるだろ。良いとも言えるかはわからないけど。』 『・・・お前、あの外見に騙されてアイツが何したって良く見えてるんじゃねえの?』 『どう思うのも自由。お前がアイツを嫌いなら、関わらなければいいだろ。』 あまりにもの悪口ばかりを並べられて。俺は少しだけ怒りをこめて若菜を見た。 俺も勝手だよな。昔はのことを嫌っていたし、淡白で面倒な奴だと思っていたのに。 なのに、今昔の自分と同じ状況にあるこいつらに怒りを感じるなんて。 確かには態度悪いし、口も悪いけど。 だけど、性格は悪くないと思う。人をからかうことが好きなのとかは別にして。 『あの子はさ。』 『?』 返す言葉のなくなった若菜。一瞬、その場に沈黙が流れる。 その機会をうかがっていたかのように、それまで何も話さなかった郭が小さく呟いた。 『何でここに来てマネージャーなんてしてるの?明らかに俺らの世話は嫌だって態度してるよね。』 『・・・さあ。西園寺コーチから頼まれたって言ってたけど。』 『嫌なら断るでしょ。彼女の性格だったら。』 『・・・ああ、そう言われればそうだな。・・・まあ他に理由があるんだったら・・・。』 『何?』 不満そうな顔で、都選抜試験の合宿に参加すると言ったの顔を思い出した。 ああ、コーチが知り合いにいるからかと納得してしまったけれど、そうだは嫌なことは断固として断る性格だ。 若菜とは違い、を知ろうとしているようにも見える郭に少しだけ疑問を感じながら それでも俺は思い当たる理由を浮かべる。 『アイツ、サッカーが好きなんだよ。』 今度は郭も含めた三人が、目を見開いて固まった。 そう、はサッカーが好きで。けれど、理由があって自分ではできない。 それでも彼女はサッカーに関わりたいと思ってる。それほどまでにサッカーが大好きなんだ。 けれど、それは俺から話せるようなことじゃない。 『だからサッカーをバカにする奴も、一生懸命な人間をバカにする奴もアイツは許せない。』 俺の言葉を聞いて、我に返ったかのように若菜が反論する。 『な、何だよそれ!俺がサッカーをバカにしてるとでも言いたいのかよアイツ!』 『いや、Bだって言って見下してるのが気に入らないんじゃないか?』 『だってBなんて女コーチの気まぐれだろ?!』 あーあ。俺がBだということなんて完全に忘れてる。普通の奴だったら怒るぞ。 『お前、Bの力をちゃんと見たのか?知ってるのか?』 『!』 『そういう台詞はしっかりと奴らを見てから言えよ。勿論、俺の力もな。』 『・・・あ・・・!』 そしてようやく、今話している俺もBグループだということに気づく。 バツが悪そうに口ごもり、言葉を失った。 『・・・別にと仲良くしろって言う気はないけど、アイツのこともちゃんと見てから悪口言えよ。 ああ、でももう俺の前では言わないでくれ。』 俺は最後にそう言うと、丁度乾燥まで終わった服を持ってきていた袋に入れて 未だ沈黙の流れるその部屋を出た。 文句さえも返さず、何かを考えているかのように1点に視線を向けていた若菜が印象に残った。 の性格は、一緒にいればいるほどにわかってくる。 気づく奴は気づくだろう。膨大な俺らのデータを誰が解析し、俺たちの詳細なデータと課題まで出しているのか。 選手共用の備品は誰が管理し、準備しているのか。洗濯しているのか。 いかに俺たちが動きやすいように、サッカーをしやすいように考えてくれているのか。 試験の時にに会った大半はきっと、彼女を嫌って去っていったのだろう。 けれど、今選抜に残っている奴らは徐々に彼女を知っていくことになる。 ピーーーーーーッ!! 試合を止めるホイッスルの音。 足を抱えて倒れこんだのは若菜。 そして真っ先に彼の元へと駆け寄ったのは。 『見せて!』 『・・・?!』 『ボーっとしてんな!いいから見せろ!!』 は救急箱を横に置き、若菜の足をしっかりと見て。 ケガした足を少しずつ動かしながら、真剣な顔でケガの状態を確認する。 若菜はそんなをポカンとした表情で見つめる。 『たいしたことねえよ、こんなの。』 『は?今思いっきり転んだ奴が適当なこと言ってんじゃないわよ。』 『・・・。』 『プロ目指してるんでしょ?何でもかんでも大げさにする必要はないけど、大事にしといて損はないよ。』 若菜を取り囲んだ周りの奴らも、唖然としたり、の行動などわかっていたかのように見守っていたり。 そんな視線など気にもせず、は彼女より少し遅れてそこにやってきたコーチと話し、小さく頷く。 『大丈夫だね。けど、ついでに。』 『何・・・いてっ!』 『すり傷。』 一言そういうと、腕にあったすり傷に消毒液を塗る。 先ほどとは違い、適当に(というよりも乱暴に)ガーゼで消毒液をふき取り、そこに絆創膏を貼った。 『じゃあ試合再開で。』 そう言ってグラウンドから出ていくを、唖然としながら目で見送って。 けれど若菜が何かに気づいたかのように、その場を立ち上がった。 『!』 突然の若菜の声に、少しだけ驚いた表情でが振り向く。 『サンキューな!』 今までも何度かと接触し、時には助けられたこともある若菜。 そんな若菜の初めての礼の台詞だった。 『お礼なんていいよ。当たり前のことでしょ。』 またお前は・・・。そこで素直に受け取っとけば若菜もつっかかってこないのに。 『・・・っ・・・。予想通りの台詞・・・!』 またいつもの二人に逆戻りかと思ったのも束の間、若菜はの態度に笑い出す。 『何笑ってんの。』 『当たり前のことだけど、それでも。ありがとな!』 が目を見開いて若菜を見る。 あれだけを避けていた若菜。まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったんだろう。 そして直後、若菜も、そして俺も含めたそこにいる全員がその場に固まってしまった。 は若菜に何も言葉を返さなかった。 だけど、代わりに。 普段見せないような、優しい顔で笑った。 それはほんの一瞬だったけれど、俺たちは確かにそれを見た。 そのまままた振り返って、はベンチに戻っていく。 顔を真っ赤にして動けない奴らが多数。あ、またに落ちた奴いそうだな。 ふとベンチを見ると、西園寺監督が口に手をあて笑いをこらえていた。 思えば若菜がにこんなにも懐くようになったきっかけは、あの日だったのかも。 まさに最初とは全然違ってる。若菜も、真田も、郭も。もちろん他の奴らも俺も。 「!今日一緒に帰ろうぜ?」 「何回言わせれば気が済むの?帰らないってば。方向も違うでしょ。」 「大丈夫!俺ちゃんとの家まで送ってから帰るから!」 「何言ってるの結人。と帰る約束は俺が先にしてるんだよ。」 「堂々と嘘つくの止めてくれる?」 そんな会話をしながら、若菜に捕まっている真田は いい加減解放してくれ、といった表情をしている。(なぜか心が読めてしまった) 「そんな無駄な時間があるなら、練習すれば?」 「無駄じゃねえし!・・・けど、へへ。が言うなら練習してもっとうまくなるぜ?」 「人に強制されてやるものじゃないでしょうが。」 「・・・やっぱりって本当にサッカー好きだよなー!」 そうして今日もいつも通りの時間が過ぎて、結局がいつものように奴らをかわし その場を去ろうと歩き出した。 「・・・!」 「なに・・・」 呼ばれた声にが振り向いて。 その後の若菜の行動に、誰もが固まった。 「「「「・・・。」」」」 何が起こったのかを理解するのに、時間がかかった。 が触れられた自分の頬をさわる。 大きな目をパチクリとさせながら、若菜を見上げた。 の頬に触れたのは、若菜の唇。 「へへ!スキあり・・・」 嬉しそうに笑う若菜に、黒い影がかかる。 「・・・え・・・?」 「若菜くーん・・・何してくれちゃったのかなー?」 めずらしく優しい口調のは、その口調とあわせて笑顔だが。 目が笑ってないのですごく怖い。いつもより数倍怖い。 「・・・?!な、何その金鎚・・・!!」 どこから出したんだ。 いつでもどこでも携帯か。危なすぎるぞ・・・! 「結人・・・今何したの・・・?」 「ええ?!何そのバットーーー!!」 そしてさらに一番近くにいた魔王がバットを持って光臨した。 だからどこから持ってくるんだよそれ。 「マサキ!ロク!!」 「お、おう!」 「・・・。」 椎名が顎で飛葉中の 郭との(危ない)オーラで動けなくなっていた若菜をズルズルと引きずりどこかへ連れ去った。 信者がギャーギャー騒ぎながら後ろからついていっていたので、若菜の明日はないのかもしれない。(一応無事を祈ってやろうと思う) を嫌っていた奴も、クールだと思っていた奴も、女に興味ないって顔してた奴も。 本当、変わったよな俺たち。それだけ人に影響を与えられるってすごいと思うぞ。 「大丈夫?俺が消毒して・・・」 「・・・へえー。郭は若菜と間接キスしたいんだー。」 「・・・。」 「・・・。」 「の為ならそれくらい耐えるよ。じゃあ、」 「・・・知ってる?正当防衛は罪にならないのよ。」 はおもむろに金鎚を取り出し、郭に見せ付ける。 いや、あの、・・・?それ正当防衛っていっても、きっとほとんど犯罪・・・。 「そうか・・・それがの愛の形なんだ。」 「ねえアンタバカだよね?わかってたけどバカだよね?」 「そう、郭はバカだよ。だから、僕が」 「アンタもバカだから安心しなさいよ椎名。」 まあ・・・その変わった方向がいいものだけとは限らないのが難点だけどな。 TOP NEXT |