にっこり笑顔で強烈な一撃 「それでは今日はここまで。解散!」 「「「お疲れっしたー!!」」」 東京の各学校から選抜されたサッカーのうまい奴ら。 グラウンドに集まった俺たちはコーチの声とともに練習を終えた。 ここはやはり選抜というだけあって、いろいろなタイプの選手がいる。 別に部活のサッカーに不満があったわけじゃないが、ここで俺の力が活かせると思えるのも事実。 「天城、お疲れ。さっきのシュートすごかったね!」 「ああ、ありがとう風祭。」 この選抜の中でまだ補欠状態の風祭。 練習試合にも出してもらえない状態なのに、笑顔で俺に声をかける。 だから俺も素直に礼を言う。 少し前までは沈みきっていた心。立ち直るきっかけをくれたのは風祭だったな。 そんな奴と仲間となり、試合をするのも悪くないと思いながら。 「お前も早く試合に出られるといいな。」 「・・・うん!ありがとう。」 やはり昔の俺にはなかった、穏やかな時間を過ごす。 「「「ーーー!!」」」 穏やかな時間を・・・ 「あ!燎一!奴ら引き止めといて!」 「は?おい!!」 「風祭もじゃあねー!」 「うん、また次の選抜で!」 過ごせると、思っていたんだけど。 「ああ!天城どけよー!」 「・・・お前らもこりない奴らだな・・・。」 「何だそのため息!何だその余裕!このヤロウ!」 「一人だけと同じ学校だからっていばってんじゃねえぞチクショウ!」 「一人だけに名前で呼んでもらってるからって自慢してんじゃねえぞチクショウ!」 「・・・。」 選抜試験の時は思いもしなかった。 一緒に受かったこいつらが、こんなにガキくさいだなんて。 「なんかすっげえガッカリした顔してるぞコイツ!」 学校では顔は綺麗だが性格が悪い、だなんて噂され 敬遠されがちなの追っかけになっているだなんて。 今でこそなりふり構わずを追っかけている奴らだが、 勿論最初からそうだったわけじゃない。 奴らがと初めて出会ったのは、選抜試験最初の日。 が選抜のマネージャーとして皆の前で紹介された時だ。 『彼女が3日間、貴方たちのサポートをしてくれるさんよ。さん、自己紹介して。』 『・・・です。よろしく。』 たった一言の挨拶。無表情・・・というよりも不機嫌そうな表情。 選抜の奴らの反応は様々だった。 だが、は誰が見ても見とれるくらいに綺麗な顔立ちをしてるから、 そのそっけない挨拶でさえも、『大人しい女の子』として見る奴は多かった。 『はいはーい!さんは学校どこなんですかー?あ、下の名前も!』 尾花沢監督が話を終え、正式なミーティングが終わると監督たちと部屋を出ようとしていたに質問が飛ぶ。 同い年の女なんているはずもないと思っていたところへ、綺麗な顔をした。 浮かれるのもまあわからないでもないが、ここへは都選抜の試験に来ているのに お気楽な質問をする奴もいたものだと呆れたのを覚えている。 『答える必要はないと思うけど。』 『でも3日間、一緒に過ごす仲間だしー。ちょっとでも知っておきたいじゃん?』 『・・・。』 『いいじゃんそれくらい。教えてよサーン。』 は心底面倒そうに、ため息をついて。 『 。国部二中。』 『じゃあ俺、ちゃんって呼ぼー。ちゃん、彼氏っているの?』 『・・・。』 『その顔はいない?いやあ、ひとつ楽しみが増えたなー。俺張り切っちゃおっと。』 『止めてくれる?』 『え?』 に質問を繰り返していた男に、は静かにけれど怒りを露わにしながら呟いた。 状況が理解できていないそいつは、未だヘラヘラと笑っている。 『アンタみたいな奴に名前なんて呼ばれたくないわ。不愉快。』 『・・・え・・・?』 『アンタここに何しに来たの?サッカーしに来たんじゃないわけ?』 それまで一言二言しか話していなかった。 彼女が大人しい子なのだろうと予想していた大半の奴らが驚いた表情を見せた。 同じ学校の俺は勿論、がそんな発言をするだろうことは予想できていたけれど。 『選抜試験に選ばれたからって浮かれてんじゃないわよ。 ま、アンタみたいな奴が真っ先に落ちるんでしょうけど。』 『な、何だとっ・・・!!』 『女の子がお好みのようだけど、アンタみたいな奴微塵もときめかないから。 安心してサッカーに集中して?それでも受かる可能性少ないかもしれないけどね。』 相変わらずの毒舌。 おいおい、ここには必死で選抜に残ろうとしている奴も、神経過敏になってる奴もいるんだぞ。 俺はお前のことを知ってるけど、ほかの奴らは・・・。 『うわ・・・キツ・・・。そこまで言わなくてもよくねえ?』 ホラ、何でお前っていつもそうなんだ。 同じ学校で同じ部活の俺だって、お前のことを理解するのに時間がかかったっていうのに。 だけど、そんなのはっきりとした物言いに好感を持つ奴も少なからずいた。 『・・・ははは!そこまではっきり言う奴も珍しいよね。』 『・・・笑うとこじゃないと思うけど。』 『安心してよ。僕らはそこの奴と違って純粋にサッカーの技術を高めたいだけだから。』 雰囲気最悪の中で笑い出し、に声をかけたのは飛葉中の椎名だった。 その言葉で雰囲気も少しは変わると思ったが、当の本人は。 『そんなの当たり前のことでしょ?格好つけて言うことじゃないから。』 ああもう、どうしてそう世渡りが下手なんだよお前は・・・! って、俺が言えることじゃないけどな! 椎名の笑顔が歪んだ。 後ろで苦笑している飛葉中の面々。 『・・・へえ。俺、強気な女って結構好きだな。この3日でお前を落とせるかかけようか?』 誰だお前は。一体どこのナルシストだ。そしてここに何しにきてんだ本当に。 見たこともない男が、に向かってニッコリと笑みを向けた。 そしても、その笑顔に応えるようにニッコリと笑い、 「消 え ろ 色 ボ ケ」 ナルシスト(仮)に向けて強烈な一撃。 鼻で笑って、唖然とする俺たちをほって。 はミーティング室から出ていった。 「顔はいいのに性格があれじゃなあー。」 どこからともなく聞こえてきた声とため息。 ざわつきだした部屋から聞こえるのは、の悪口ばかりだった。 そう、と東京選抜の最初の出会いは 最悪と言っていいほどの、険悪さだけを残した。 TOP NEXT |