さあ、どうぞ?





今日は何の日?
東京都選抜練習の日だ。それはつまり・・・





「第1回!争奪まりおカート杯ーーーーーーー!!」

「「「うぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!」」」





・・・いや、だからその情熱をサッカーで見せてくれよ。(サッカーも真面目にやっているんだろうが)





選抜の練習が終わり、俺たちは練習場所から一番近い藤代の家に集まっていた。(結構広くて驚いた)
ここに集まったバカ、もとい勇者たちは7人。藤代、若菜、桜庭、上原、翼、郭と・・・真田?!なぜ真田まで・・・。

ちなみに俺は進行役として翼に引っ張ってこられた。
とはいえ、上で叫んでいるのは俺じゃないのであしからず。
つーか俺いらねえじゃん。勝手に自分らで進めてるじゃん。





「何が争奪よ。お互いを知るための機会だって言ったでしょ?
ただし勝負に負けたら、その時点で私の対象外となるけど。





一刀両断・・・!!
ひでえ!可愛い顔してなんてことを言うんだコイツは。
翼も皆も早く目を覚まして現実を見たほうがいいと思うぞ。(決して口には出さないが)
お前ら結構もてるだろうに。





「・・・そこまで言うなら。勝者には何かあるんだろうね?」

「は?」

「負ければ対象外?それなら勝てばの恋愛対象になるわけだ。
でもそれだけじゃ僕らのリスクが大きすぎる。それなりの賞品はないの?」





お?翼が(めずらしく)冷静な翼に戻ってる。
そうだよ。アンタはもともとそんな奴だった。





「知らないわよ。そんなの。何で私がアンタたちのメリットまで考えなきゃならないのよ。」

「・・・は自信があるんだよね?まりおカートに。」

「もっちろん!」

「じゃあ負けることなんてないんだろ?だったら賞品をつけるくらいなんてことないと思うけど?」

「む・・・。」





さすが翼だ。うまくを誘導したな。
けど会話の中にまりおカートが出てくるだけで、せっかくの雰囲気が台無しになっていると思うのは俺だけだろうか。





「上等じゃない!いいわよ?賞品は何がいい?」

「じゃあ
「キス!!とキスだーーーーー!!」

「「「うぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」





翼との会話を静かに聞いていた若菜が、翼の言葉を待つこともなく叫ぶ。
そしてそれに同意した他の奴らが、雄たけびをあげる。まあそれでいいってことなんだろう。
前の郭といい、今回の翼といい、途中までは思惑どおりって感じで格好いいんだけど。
ことごとく途中でその計画を狂わされてるんだよな。ご愁傷様。





「いいよな。女に二言はねえな?!」

「・・・上等!勝つのは私よ!」

「よっしゃー!燃える!!」

「燃えるーー!!」

「萌えーーーーー!!」





誰だ今、明らかに『もえ』の意味が違った奴がいたぞ。
・・・まあ考えても仕方ないな。
俺の中でこいつらの印象は出会った頃とは180度変わっている。今更考えても無意味だ。

いそいそとDSの準備(今回の勝負はDSでするらしい)をし出した奴らにため息をついていると
沈んだ顔をした真田と目があった。そういえば真田は何故ここに参加してるんだ?





「何で真田がいるんだ?」

「え・・・。」

「いや、お前も争奪に参加したかったのかと思って。」

「・・・いや、俺は結人と英士に誘われて・・・。大体俺、まりおカートなんてやったこともないのに・・・。」

「じゃあ来なければよかったじゃねえか。」

「・・・そう出来ればよかったんだけど・・・。」





そのとき郭と目があったのは偶然じゃないだろう。
何でもないようにニコリと笑みを浮かべた郭の姿に思わず恐怖を覚える。
ああ。つまり郭に逆らえなかったってことか。(確かに俺もアイツには関わりたくない)
ていうか真田。何でお前はいつまでもアイツの親友やってんだ?

人数が増えれば、自分の勝てる確率が下がるだろう勝負。
けれどそこに真田を呼んだ理由は容易に想像できる。
郭は(若菜はどうかしらないが)真田に自分以外の奴らの妨害を頼んだのだろう。
つーか卑怯だなそれ!男の風上にも置けな・・・





『勝負は勝てばいいんだよ。勝てば。』





幻聴が聞こえた。
それはあまりにもドス黒い声のような。
いや、いやいや、俺の心の中の声が聞こえるはずがない。郭は何も喋っていない。
こんなの幻聴だ。郭が俺を見てずっと笑っているように見えるがそれも幻覚





「黒川ー!皆準備出来たぜ!進めてくれよ進行役!!」





なんかもう、勝手にやってくれよ。
それでも大人しく進行役をやってしまう俺。なんか情けなくなってきた・・・。





「ええーと。ではこれより、東京都選抜まりおカート杯を行います。
8人対戦(8人同時に対戦できるのか。知らなかった。)で1回勝負。1番となった勝者には・・・。」

「「「とキスーーーー!!」」」

「・・・だそうなので、皆さん張り切って勝負してクダサイ。」

「「「うぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーー!!」」」














今日3度目の雄たけびと共に始まったまりおカート。
俺はもうどうでもよくなって、誰のDSを覗くこともなくぼんやりと窓の外を眺めていた。
ああ、どうして俺こんなところに来てしまったのだろう。

それから数分後。
聞こえてきたのは藤代の叫び声。





「う・・・嘘だぁぁぁーーーーーーーーーー!!」

「ま、ま、ま、まさかっ・・・!お前が・・・!!」





ああ。が勝ったのか。あの騒ぎようは。
の自信はちゃんと実力もともなっていたようだ。





「こ、こんなの嘘よ!!私が負けるなんて・・・・!!」





・・・ん?
今の台詞は。・・・と、いうことは。










「一馬・・・?自分が何をしたのかわかってるよね・・・?」










真田ーーーーーーー?!
勝ったのは真田?!嘘だろ?!
ていうか郭怖えよ!マジで怖えよ!!





「ち、ちがっ・・・俺、勝つつもりなんてなくて・・・
けどなんかいつの間にか1位に・・・。」

「当たり前よ!取るアイテムがサンダーとスターばっかだなんて・・・!!」





・・・サンダーとスターってのがいまいちわからないが。
要するにすごい有利なアイテムなんだろう。
勝ったのに皆に責められる真田が可哀想になってきた。





「勝者は真田。これは結果なんだから仕方ないよな?」

「そうね。結果は結果。私は真田に負けたわ。」

「「「・・・まさか・・・。」」」

「女に二言はない!真田!!」

「わっ・・・何・・・!!」










「さあ、どうぞ?」










真田の胸倉を掴んで顔を近づけ、が静かに目をつぶった。
絶対誰にも見せないようなその光景に俺たちは固まり、真田は・・・。





「・・・っ・・・あ、うえ・・・?!!」





かつて見たこともないほど慌てふためき、ゆでだこのように真っ赤だった。
そして、ついに真田の理性が切れた。





・・・気がしただけだった。










「うわぁぁぁぁーーーーーー!!」










そんな叫び声とともに、真田が藤代宅からそれはものすごい勢いで走り去っていった。
茫然とする俺たち。表情さえ変えない





「何なの真田ってば!すっごい失礼なんですけど!!」

「・・・じゃ、じゃあ俺が・・・!!」

「どの口がそんなことを言えるのかしら?対象外。」





この雰囲気で、すぐにに声をかけたのは桜庭。
の順位はわからないが、少なくとも桜庭は彼女に負けたようだ。





「さってと。用も済んだし帰ろうっと。」

「・・・じゃあ俺も。送っていくよ。」

「結構よ。彼に送ってもらうから。」





お?誰だよ。
ふと見た彼女の視線の先とうなだれる男たちの視線の先が一致した。

・・・って俺かよ!!





「一番安全な人と帰るのは、女として当然のことだと思うわ。文句は言えないわよね?対象外さんたち。」

「「「・・・!!」」」





の言動から、つまりに勝てたのは真田だけだったということになる。
勝負に負けた男たちは彼女に言い返す言葉も見つからない。





「・・・黒川・・・まさかお前これを狙ってここに・・・?!」

「ああ。なんて奴だ。何ともないフリして狙ってたんだぜ?!」

「柾輝・・・。お前はそんな奴じゃないと思ってたんだけど・・・。」





ああ。もう本当に嫌だ。
バカじゃねえのこいつら・・・。





次の選抜のときに、真田とともにターゲットにされるのは目に見えてるな。
その前に翼のマシンガンの餌食か。どっちにしろ救われねえ。



その後の俺への風当たりを思い、憂鬱になりながら
俺はとともに(男たちの視線を浴びながら)藤代家を後にした。







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