チャンスをあげる









東京の各学校から集められた、サッカーのうまい奴らが集まる東京都選抜。
そこにマネージャーとして参加している紅一点。

その綺麗な顔立ちに誰もが見とれ、
他の女子とは違う自分たちに媚びることのない気風の良さに好感を持つ輩が多数。

選抜練習のあった今日も平和に、彼女の取り合いが始まっている(むしろもう慣れ過ぎてなんとも思わない)





ー!これから暇?一緒に遊んでいこうぜ!」

「ちょっと待て若菜ー!何抜け駆けしてんだよ!!!俺と・・・」

「お前もだよ桜庭。ちょっとは立場ってものをわきまえたら?」

「何だよ椎名!じゃあお前ならいいとでも言うのかよ!」

「まあね。」

「何だコイツ!ちょっと頭がいいからって調子に乗るなー!!」





彼女、の取り合いが始まり、くだらない言い合いが繰り広げられる。
そこに翼も参加しているのが笑える。あいつならもっとうまくやりそうなのにな。
けれど・・・仕方がないか。ははっきり言って普通の女じゃない。

と一緒に帰る権利を巡った戦いを(戦いと言うのもどうなのかと思うが)
呆れながら見ていると、後ろから肩に手をかけられる。





「じゃ!私帰るわ!後は頼んだ黒川!」






気取ることのない笑みを残して、鼻唄を歌いながらその場を去る。
・・・が、それに気づかないほどこいつらも馬鹿じゃなかったようだ。





「「「ーーーー!!」」」





その声を聞いて、彼女は面倒くさそうに振り向く。





「アンタらはいつまで経ってもこりないね。私は誰とも付き合う気はないって言ってんでしょうが!」

「それでも俺は一緒に帰りたいの!」

「別に付き合えなんて言ってないし。一緒に帰るくらいなんてことないだろ?」

「そうだそうだ!俺ら友達だろー?!」

「・・・じゃあ友達の意見を尊重してくれる?ついてくるなウザイから。





何も知らない奴が見れば見惚れてしまいそうな笑みを浮かべているのに
言っている言葉は有無も言わせない一刀両断。
さすがの俺も、こいつらに同情すら覚えてしまった。





「・・・ホラ。若菜がウザイからは困ってるんだよ。」

「はぁ?!俺?!」

「そうだな。俺も若菜のせいだと思う。」

「え?ええ?!」

「じゃ、ウザイのは若菜に決定ってことでー!」

「何これイジメ?!」





さっきまで言い合いを続けていた奴らが一致団結。無理やり作った結論に拍手の音まで聞こえる。
ターゲットは若菜。悪い若菜。俺にはどうしてやることもできねえ。する気もないけど。





「誰が若菜がウザイって言ったのよ。」

「っ・・・!!俺嬉し・・・」

「全員よ全員。」





まさに一刀両断。
そう言われるのを避けたいがために、若菜を犠牲にしたというのに
若菜の犠牲は何だったのか。男たちが膝をついて各々ショックを表現していた(結構笑える)





「あーあ。のせいでコイツら当分使い物にならないよ。」





不敵な笑みを浮かべた郭が、絶妙なタイミングで現れる。
絶対狙って出てきたよなコイツ。





「知らないわよ。大体これくらいでサッカーが出来ないなら、プロとは言えないでしょう?」





いや、俺らプロじゃねえから。
そんな突っ込みは心の中に置いておこう。





「まあその通りなんだけどね。けどそうやって俺たちのことを何も知らずに切り捨てるくらいなら
せめてチャンスくらいくれてもいいんじゃない?」

「・・・は?」

「自分のことを知られもせずに断られてたら、そりゃ諦められないのは当然でしょ?
だから俺らにもを知るチャンスと、俺たちを知ってもらうチャンスをくれない?」





郭の言葉に、は唇に手を当て考えこむようなポーズをとる。
その間に俺の目に映ったのは、またもや不敵に笑う郭。
コイツ絶対計算してる。ある意味翼よりもやっかいだ。(これからもあまり関わらないようにしよう)





「・・・わかった。郭の言い分も一理あるわね。チャンスをあげるわ。」

「そう。よかった。じゃあまずは
「まりおカートよ!!」・・・・・・・・・は?」





が叫んだ言葉に、郭が唖然とした表情を浮かべる。
コイツのこんな表情、なかなか見れるものじゃないな。
ってそんなことは置いといて、俺の聞き間違いじゃなければ今は・・・。





「ゲームというものは時として人間の本性をむき出しにする。お互いの本性がわかるじゃない。
それが戦いであるならば尚更よ!そこでまりおカート!!」

「・・・・・・?」

「そして私よりまりおカートが弱い人は、はじめから対象外なのよね私。」

「・・・。」

「私の好きなゲームよ?私を想ってくれるなら・・・死ぬ気で練習することね。





え?あの・・・こいつらふざけてるようで、結構本気だと思うんだけど・・・。
その本気を試すのがまりおカート?確かあの・・・チョビヒゲの親父(失礼)が主人公のレースゲーム・・・だったはず。





「ぃよっしゃぁぁーーーーーー!!俺の天下だぁーーーーー!!」





うなだれていたうちの一人、藤代が叫ぶ。
確かに東京選抜内で一番のゲーマーだと言っても過言ではないだろう。
藤代が有利なのは誰の目にも明らか。





「いや・・・!お前の天下は格闘ゲームだ!まりおカートなら俺にも・・・!!」

「何言ってんだよお前ら。バッカじゃないの?」





そうだ翼。お前はまともなはず。
こいつらにしっかりと言ってやった方がいい。
の言葉を真に受けて、まりおカートなんかに振り回されてどうするんだ。





「あんなゲーム、コツさえ覚えれば数日でお前らなんて超えられる。」





馬鹿はお前だ翼!!
お前だけはまともだと思ってたのに・・・。
クレバーで底意地の悪いお前はどこに行ったんだ。帰ってこい!

が俺の様子を見て、意地の悪い笑みをこぼした。
それは確かに綺麗で、皆が見惚れるとは思うけど。

仮にも仲間である奴らをウザイとか言ったり。
一刀両断したり、さらにはお互いを知るためにまりおカートとか言い出すんだぞ?

お前らのにかける情熱が一体どこから来るのか。
切実に聞いてみたい。・・・いや、やっぱり聞きたくない。





奴らは未だまりおカートについて熱く語っている。・・・こんな奴らはほっといて、もう帰ろう。





「じゃあね黒川!お疲れ!」

「あれ・・・?」

「ああ、あいつらまりおカートの話で盛り上がってたから置いてきちゃった。」

「置いてきたって・・・。」

「ちゃんと約束は守るわよ?決戦は次の選抜練習のときだから!」

「・・・決戦ね・・・。」

「私は誰にも負けないわよ?まりおカートで負けるなんて私のプライドが許さないわ!」





ああ。西園寺監督。
アンタが選んだ東京選抜は結構えらいことになってますが。
・・・いや、監督ならこの状況。楽しんでみているんでしょうね。



声をかけて、そのまま俺を抜き去っていったの後ろ姿を見て
盛大にため息をついてから帰路についた。






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