何度も願う。 何度も想う。 ねえ、それが奇跡でもいいから。 君を想う - heroine side - ピリリリッ 機械的な着信音。 元々広い人付き合いをしていない私にメールを送る人間なんて限られていて。 「うーわー。また山口くんからラブメールだ〜!」 「いいなー!羨ましい〜!!」 「・・・からかわないでよ・・・。」 合宿に来てから何度目だろう。 部活仲間たちはメールの着信音が鳴る度に、圭介からだと騒ぎ出す。 あながち間違ってもいないので否定もできず、私は小さくため息をついた。 次の目的地へと移動中のバスの中。 私たちの部活の監督は、練習は厳しいがこういったプライベートは割りと多めに見る人だ。 私をからかうように騒ぎ出した部員たちを注意するでもなく、寝入っている。 「ね、なんて書いてあるの?早く返事してあげなよ〜!」 「え?えっと・・・。わ、覗かないでよ。」 友達から隠すように、そのメールの内容を見る。 圭介からのメールがいつもの通りなら、友達に見せられるような内容じゃない。 『部活頑張ってるか〜?俺も今日サッカーで召集あって行ってきた!強そうな奴らがうじゃうじゃいてさ、すっげえ楽しみ! も合宿厳しいだろうけど負けんなよな!』 彼もサッカーという夢中になれるものを持っている。 彼の励ましや応援はとても嬉しかった。 『ところで!そろそろ俺がいなくて寂しくなってきた?正直に言ってもいいんだからな! 正直俺は寂しい。マジで寂しい。早くお前に会いたいって思う。」 圭介は良くも悪くもまっすぐで。 思ったことをはっきり言う。こんな台詞を恥ずかしげもなく。 メールを見ながら、顔が熱くなるのを感じた。 極力友達にその顔を見せないように、窓際へと更に寄った。 合宿中に来たメールのほとんどに、こんな恥ずかしい台詞が入っていて。 正直な気持ちを返せばいいんだけど、私にはこんな恥ずかしい台詞無理。 そんなことを考えているうちに、返せなかったメールがたまっていく。 たまに返したメールの内容も相当そっけないものになってしまった。 だけど。 『そろそろ俺がいなくて寂しくなってきた?正直に言ってもいいんだからな!』 合宿に出るとき、圭介がいなくても平気のような言い方をして。 それは圭介をからかう為の言葉だったけれど。 今の私の態度では本当にそう思われかねない。 小さい頃から一緒にいた幼馴染で。 言葉はなくともわかりあえると思っていたけれど。 違う人間なんだから、言葉にしないとわからないのも当たり前で。 私はいつもいつも、圭介に与えられてばかりいる。 「・・・。」 私は携帯を見つめて、返信のメールを打ち始める。 たまには少しくらい、素直になってみよう。 『正直俺は寂しい。マジで寂しい。早くお前に会いたいって思う。』 ねえ、私も。 キキーッ!! 耳を劈くようなブレーキ音。 何を考える暇もなく、私たちを襲った浮遊感。 ねえ圭介。 私も、寂しかったよ。 貴方に会えない時間がとても、とても。 気づいたときに目に入ったのは、凄惨なその光景。 バスの下敷きになった仲間たち。血だらけで倒れる友達。 自分の体を動かしたいけれど、感覚が全くない。 意識が遠のいていく。 遠のいていく意識の中で、私に笑いかけている人。 呆れるくらいに爽やかな笑顔で。 彼が私の名を呼ぶ。 「!」 伝えたい。 伝えたい言葉があるの。 彼に、伝えなきゃいけない言葉があるの。 それだけで、いいから。 それ以上は望まないから。どうか、誰か、お願い。 圭介に、会わせて。 「ああー。絶対俺の方ばっかりアイツが好きなんだよな〜!」 「!」 願ったその先にいたのは、圭介の声。圭介の姿。 どうして自分がここにいるのかなんて、どうでも良かった。 私は、彼に会えた。想いを伝えることができる。 そして聞こえたその言葉は、やっぱり私が思っていた通りで。 圭介は思い違いをしてる。 私が圭介をこんなに想っていること、わかってない。 でも、それは私が圭介に甘えすぎていたから。 「それはどうかなぁ?」 「それはどうかなって、そんなのどう見たって・・・・・・・」 いつも通りに、いつも側でそうしているように。さりげなく声をかけてみれば。 案の定、彼は大げさとも言えるリアクションで驚いた。 「・・・うわぁっ!!ーーー?!」 「驚きすぎ。相変わらずリアクションでかいなぁ。」 「な、何で?!何でここにいるんだよ?!」 「圭介に会いたくなって。」 「ええ?!」 普段言わないような台詞を言ってみれば、また圭介の驚いた顔。 こんなに驚くほどに気持ちを伝えてなかったんだね私は。 「・・・って言うのは冗談で。合宿がね、都合により早めに終了したんだよね。」 「都合?」 「そ。都合。」 思ってもみなかった。あんなことが起こるなんて。 もう貴方に会えなくなるだなんて。 「なんだよもう・・・。言ってくれればよかったのに。」 「圭介驚くかなぁって思って。」 「驚いたよ!そりゃもうマジで!」 「じゃあ大成功だ。」 いつもと同じように、ちょっとした悪戯をして。 面白いくらいに驚いて騒ぐ貴方が愛しかった。 もっと、ずっと、一緒にいたかったな。 「ねえ圭介。」 「何?」 「さっきの台詞は私的に聞き捨てならないんだよね。」 「さっきの台詞?」 そう言って首をかしげて。 少しの間があいて、圭介は思い当たったように私を見た。 「『絶対俺の方ばっかりアイツが好きなんだよな〜!』・・・って奴?」 「そう。」 「聞き捨てならないって・・・。」 「何、その圭介ばっかり私を想ってるって台詞は。」 「え、いや、だって・・・」 「しかもその後、そんなのどう見たってとか言ってたでしょ?」 「あ、ま、まあ言ってたけどさ。だってそう思うのも仕方なくないか? お前この5日で俺に返信したメール2通だぞ?俺は10通も送ったのにさ!」 「あー、それは、うん。返すの忘れてた。」 本当はね。 何度も返そうと思ったの。中途半端に打ったメールが何通もあるの。 貴方のまっすぐな気持ちに答えようって、私も思ってたんだ。 結局メールを送れなかったから、言い訳にしかならないけれど。 最後のメールこそ、ちゃんとした気持ちを送れるって思ってたんだけど。結局、送れなかったなぁ。 「でも、それとこれとは別でしょ?」 「・・・うん、まあそうだけど。」 「ちゃんと、好きだからさ。圭介のこと。」 「!」 だから今度こそ。 本当の気持ちを伝えるよ。 私の言葉で、この想いを。 「どうしたんだよ。今日は・・・なんか・・・」 「何?」 「素直って言うか、いつもと違うみたいな・・・」 「それは私がいつも素直じゃないと言いたいのかしら?」 「え?!いやいや、そういうわけじゃないけどさ!」 うん。私、素直じゃなかったよね。 幼馴染のときから意地悪くて、圭介をからかって、困らせてばかりいて。 付き合うことになってからも、照れくさくて全然自分の気持ちも言わなくて。 言葉にしなくたって通じるだなんて甘えて。 圭介を不安にさせてたよね。 「言葉にしなくても、形にしなくても、わかるって思ってた。」 「・・・え?」 「だけど、言葉にしないとわからないことってあるんだよね。」 「?」 「はやい話が圭介に甘えてたってだけ。」 こんなことになってからわかったって遅いのに。 だけど、どんな理由でもいい。私は今ここにいられる。 貴方に気持ちを伝えられる。 「今日の・・・素直すぎて怖い!」 「怖いとは何ですか失礼な。」 「・・・あのさ、じゃあ素直なうちに聞いていい?」 「いいよ。」 「俺の好きなとこってどこ?」 好きなところ? そんなのいっぱいあるよ。数え切れないくらいに。 だけど。圭介のいいところって聞いて思い浮かぶのは。 「バカなところ。」 「・・・は?」 「だから、バカなところ。」 「・・・。」 ちょっと意地の悪い言い方をして笑う。 そしてそれと同時に、自分の意識がどこかに引っ張られるような、そんな感覚。 時間は、残りわずか。 誰に教えられたわけでもないのに、そう思った。 「・・・意味がわかりませんが・・・。」 「・・・そろそろ時間だ。」 「何だよ時間って・・・って、うわ!そういやもう深夜じゃん!お前おばさんにちゃんと連絡・・・」 プルルルル、プルルルル そして聞こえた電話の音。 まだ誰も出てさえいないのに、それが私の死を知らせる電話なのだと確信していた。 「・・・?」 「ねえ圭介。」 「な・・・何?」 ちゃんと笑おうと思ったのに、圭介の驚いた表情を見ると あまりうまく笑えていないみたい。 それでも。 「大好きだよ。圭介。」 一番、伝えたかった言葉。 「バカみたいにまっすぐで、バカみたいにお人よしで、バカみたいに爽やかで。」 まっすぐで、誰にでも優しくて、いつだって呆れるくらいに爽やかな笑顔で。 すぐに誰かにだまされて、からかわれて、それでも。 そんな貴方が好きだった。 大好きだった。 「貴方と一緒にいられて、楽しかった。嬉しかった。」 いつまでもそんな貴方でいてほしい。 「だから、この先何があっても。」 だから、私がいなくなっても。 「その呆れるくらいに爽やかな笑顔で、いつまでも笑っていて。」 「・・・っ・・・?!」 圭介が私の名を呼ぶ。 そして、いつの間にか震えていた私を引き寄せようと手を伸ばす。 けれど。 彼の手は私に触れることなく、ただ空を切った。 もう、触れることさえ叶わない。 やっぱり、嫌だな。離れたくないよ。 貴方と一緒にいたかった。ずっと、側にいたかったな。 「冗談なんかじゃ、ないよ。」 「・・・え?」 「圭介に、会いたかった。」 「・・・!」 「圭介に、伝えたかった。」 「貴方をちゃんと好きだったって、伝えたかった。」 泣き顔なんて、見せるつもりなかったのに。 だから必死で堪えていたのに。 最後の最後に涙が溢れてくるなんて、格好悪いなあ。 ああ、そろそろ本当にお別れだね。 遠のいていく意識。そして私はここからいなくなる。 乱暴に開かれた扉の音と共に、私はその意識を手放した。 ねえ圭介。 私、貴方の側にいられて本当によかった。 貴方の隣にいることができて、本当に幸せだった。 もっと、ずっと、貴方の側にいたかったけれど。 それはもう叶うことはないから。 だから、最後に。 貴方のこれからが幸せであるように。 笑って、笑って、私が呆れるくらいの爽やかな笑顔で 幸せそうに笑っていてくれることを願う。 「大好きだっ・・・!!っ・・・!!」 それは空耳だったのかもしれないし、都合の良い夢だったのかもしれない。 それでもはっきりと聞こえたその声は、大好きな貴方の声だった。 ねえ圭介。 私も好き。大好きだよ。 だから。 これからも笑っていて。 幸せに、なって。 TOP Keisuke side |