BGM【ひとりごと】 by
ONE's

何度も叫ぶ。





何度も想う。






その言葉を、想いを君に。



















君を想う





















「・・・。」





夜も更けて、現在10時。
俺はテレビを見るでもなく、勉強するでもなく、ただひたすら自分の携帯を眺めていた。





「・・・はぁー。何だよもう。今日も返信なしか?」





誰もいない自分の部屋。
誰が返事をくれるわけでもない言葉を、一人呟く。

うなだれるようにベッドに突っ伏して、メールも電話もしたが一向に返ってこない相手を頭に浮かべ、小さくため息をついた。
それは小さい頃から一緒にいる、そして彼女でもある幼馴染。





「部活の合宿?」

「うん。そう。1週間だけどね。」

「そっか。頑張れよな!そうだ、合宿って言っても、メールとか電話は出来るだろ?」

「まあ別に大丈夫だと思うよ。何で?」

「何でって・・・1週間何も連絡なしなんて寂しいだろ?メールとかしようと思って!」

「え、別にいいよ。これだけ一緒にいるのに、たった1週間連絡取らないくらいで。」

「何それ!お前淡白すぎー!絶対寂しくなるって!」

「いや、むしろ圭介のうるささが無くなって新鮮・・・みたいな?」

「なにー?!お前!それ聞き捨てならないんだけど!!どういうことだよー!!」





幼馴染のは昔から沈着冷静な奴で。
淡白な奴だなーとは思っていたけど、俺たちの関係が恋人になった今でもそれは変わらない。

意地悪く笑って、俺の問いを聞き流しながら。引くことのない俺を見て「冗談だよ」とまた笑った。



合宿へ出かけたから、勿論連絡は来なくて。
専ら俺ばかりがメールや電話をしている。
合宿中なんだ、なかなか返事が返せないのはわかる。俺だってサッカーで合宿中は返事が返せないことだってあるし。

だけど、だけどさ。

メール10通送って、返事が2通ってどうなんだ・・・。
俺も気を遣って1日2通程度にしてるのに、それでもこの返信の少なさ・・・。泣けてきそう。



今日での合宿も5日目。
もうすぐ1週間になる。もうすぐ会える。それは嬉しいけど。

俺と会えない1週間。は全然寂しくなかったのかな。





「ああー。絶対俺の方ばっかりアイツが好きなんだよな〜!」





別にそれが嫌なわけじゃない。
の冷静な性格も、淡白なところも知ってる。
そういうところも全部含めて、俺はが好きだから。

だけど、悔しいっていうかさ。
俺の気持ちと同じくらいににも俺を想ってほしい。そう、思うんだ。





「それはどうかなぁ?」

「それはどうかなって、そんなのどう見たって・・・・・・・」





・・・ん?
ここは俺の部屋。俺しかいない部屋には、静寂しか流れていなくて。
じゃあ、今の声は?





「・・・うわぁっ!!ーーー?!」

「驚きすぎ。相変わらずリアクションでかいなぁ。」





ちょ、ちょっと待て!そりゃ驚くだろ?!驚かないはずないから!
何でがここにいるんだよ。今まで俺一人だったのに!大体は合宿中のはずだろ?!





「な、何で?!何でここにいるんだよ?!」

「圭介に会いたくなって。」

「ええ?!」





普段絶対に聞けそうにない台詞をサラリと言う。
ちょっとマジで俺、夢でも見てるんじゃないのか?
そう思い軽く自分の頬をつねってみれば、そこには確かな痛み。やっぱり夢なんかじゃない。





「・・・って言うのは冗談で。」





ガクッと肩の力が抜ける。
の言葉に思わずにやけていた自分が恥ずかしい。





「合宿がね。都合により、早めに終了したんだよね。」

「都合?」

「そ。都合。」





その都合の内容が聞きたかったんだけど。
まあ、場所の都合とか教師の都合とか、そんなんだろう。





「なんだよもう・・・。言ってくれればよかったのに。」

「圭介驚くかなぁって思って。」

「驚いたよ!そりゃもうマジで!」

「じゃあ大成功だ。」





普段は大人しくて沈着冷静って感じなのに。
はこういう悪戯が意外と好きだ。
そんな彼女の悪戯に俺は何度引っかかってきたことか。

今みたいに俺の部屋に突然現れるのもしょっちゅう。
ここの真向かいに自分の部屋がある彼女はドアを通らず、窓から音も立てずに入ってくる。
危ないって言ってるのに止めないしなぁ。





「ねえ圭介。」

「何?」

「さっきの台詞は私的に聞き捨てならないんだよね。」

「さっきの台詞?」





そう言われてどの台詞かと自分の言葉を思い返す。
ひとつ、思い当たったのは。





「『絶対俺の方ばっかりアイツが好きなんだよな〜!』・・・って奴?」

「そう。」

「聞き捨てならないって・・・。」

「何、その圭介ばっかり私を想ってるって台詞は。」

「え、いや、だって・・・」

「しかもその後、そんなのどう見たってとか言ってたでしょ?」

「あ、ま、まあ言ってたけどさ。だってそう思うのも仕方なくないか?
お前この5日で俺に返信したメール2通だぞ?俺は10通も送ったのにさ!」

「あー、それは、うん。返すの忘れてた。」





表情も変えずにサラリとそんな台詞を返すものだから、俺は気が抜けて反論する言葉さえ失った。
俺ばっかり想ってるってそういうところから思うんだけどね。
返すの忘れてたってことは、それだけお前の中に俺がいないってことで。
お前の中にいる俺は一体どれくらいの存在なんだろうって、たまに疑問を持ってしまう。





「でも、それとこれとは別でしょ?」

「・・・うん、まあそうだけど。」

「ちゃんと、好きだからさ。圭介のこと。」

「!」





また、そんな台詞。
今日のは一体どうしたって言うんだろう。
普段は言われなれていないその台詞。
さっきまでへこんでいたことも忘れて、自分の心臓が高鳴るのを感じた。





「どうしたんだよ。今日は・・・なんか・・・」

「何?」

「素直って言うか、いつもと違うみたいな・・・」

「それは私がいつも素直じゃないと言いたいのかしら?」

「え?!いやいや、そういうわけじゃないけどさ!」





が軽く俺を睨んで。
慌てて自分の言葉を否定する俺を見ると、小さく笑った。





「言葉にしなくても、形にしなくても、わかるって思ってた。」

「・・・え?」

「だけど、言葉にしないとわからないことってあるんだよね。」

?」

「はやい話が圭介に甘えてたってだけ。」





あまりにも優しく笑うその姿。
何度も見ているはずの笑顔なのに、思わず顔が赤くなる。





「今日の・・・素直すぎて怖い!」

「怖いとは何ですか失礼な。」

「・・・あのさ、じゃあ素直なうちに聞いていい?」

「いいよ。」

「俺の好きなとこってどこ?」





うわー。マジで恥ずかしい。
けど今は何故かこんなに素直な
こんなチャンスを逃したら、一生聞けないかもしれないじゃん。





「そうだなぁ。」

「・・・。」





考え出すように視線を上へ向けた彼女。
どうやら本当に答えてくれるらしい。俺はドキドキしながら彼女の答えを待った。





「バカなところ。」

「・・・は?」

「だから、バカなところ。」

「・・・。」





ちょっと、ちょっと待て。
自分の好きなところを聞いて、バカなところって何?
聞き間違えかと思って聞きなおしてみても、やっぱりの答えは変わらなくて。





「・・・意味がわかりませんが・・・。」

「・・・そろそろ時間だ。」

「何だよ時間って・・・って、うわ!そういやもう深夜じゃん!お前おばさんにちゃんと連絡・・・」





プルルルル、プルルルル





俺の言葉を遮るように、部屋にある電話の子機が着信の音が鳴らす。
もしかしての家からだったり・・・。
音はすぐに消えた。恐らく1階のリビングで母親が電話を取ったのだろう。





「あ、それで。ちゃんと連絡入れた・・・」





もう一度彼女に問おうと振り向けばそこには彼女の優しい、けれどあまりに悲しそうな笑顔。





・・・?」

「ねえ圭介。」

「な・・・何?」





のその笑顔があまりに切なくて。俺を呼ぶその声があまりに儚くて。
俺は彼女への問いかけも忘れて、ただ返事だけを返した。









「大好きだよ。圭介。」










まっすぐに俺を見て。
その儚い笑顔で、優しく。











「バカみたいにまっすぐで、バカみたいにお人よしで、バカみたいに爽やかで。」











いつもと違う彼女。
俺が望んでいたその言葉を次々にくれる。











「貴方と一緒にいられて、楽しかった。嬉しかった。」









「だから、この先何があっても。」









「その呆れるくらいに爽やかな笑顔で、いつまでも笑っていて。」











「・・・っ・・・?!」










そんな、最後のお別れみたいな台詞を言うから。
俺は思わず彼女の名を叫んだ。
そして、彼女の震える体を抱きしめようと腕を伸ばせば。






「・・・!!」







触れたかった彼女の腕に、俺の手が触れることはなく。
目の前にいる彼女に触れようとしたその手は、何も掴めずにただ空を切った。





・・・?」





そこには泣きそうに笑う、愛しい彼女。

訳が、わからない。
確かに彼女はそこにいるのに。どうして俺が触れることができない?



今まで冷静で淡白で、自分の気持ちを中々言ってくれなかった。
けれど今、突然帰ってきて俺の欲しい言葉をくれて。優しい笑顔をくれて。

そして、まるで最後のようなその言葉。悲しそうに泣きそうな顔で笑って。





「冗談なんかじゃ、ないよ。」

「・・・え?」

「圭介に、会いたかった。」

「・・・!」

「圭介に、伝えたかった。」











「貴方をちゃんと好きだったって、伝えたかった。」












の瞳から水の雫が流れ落ちる。
何だよ。何なんだよその言葉。
確かに聞きたかった。お前の想いをその言葉で。

だけど。





なあ、何でそんなに切なそうな顔で、その言葉を伝えるんだよ?









「圭介っ!!」









乱暴な音と共に突然開かれた部屋のドア。
慌てた様子で俺の名を呼ぶその声へと反射的に振り向く。
そこにいたのは顔面蒼白になった母親の姿だった。











ちゃんがっ・・・!!」

「・・・?」

「が、合宿中のバスが・・・崖から転落したってっ・・・」

「・・・なに、言ってんだよ母さん。なら今ここに・・・」





母さんのその言葉と、さっきまでの出来事で頭の中は真っ白で。
けれど、確かに今は俺と話していた。
そして、彼女の方へと振り向けば。





もう、そこには誰もいなくて。





「・・・何、してんだよ・・・。」

「け、圭介・・・。」

「また、悪戯?悪い冗談は止めろって言ってるのに。」

「・・・っ・・・。」

「隠れてないで出てこいよ!!」








何度叫んでも、決してもう姿を見せなかった彼女の名を繰り返し叫んだ。
隣で母親のすすり泣く声が聞こえる。それでも俺はただ、彼女の姿を探し続けた。























晴れ渡って雲ひとつないその青空の中で、の告別式が行われた。
たくさんの泣き声が聞こえる中、俺は茫然とそこに突っ立って。
がいなくなった実感もないまま、言われるがままに事務的な手伝いをして。
いつの間にか告別式は終わっていた。

澄み渡った青空はもうなく、そこにあるのはオレンジ色に染まった夕焼けの空。
俺ははっきりとした意識も持てないまま、ただ茫然と立ち尽くして
何度探しても姿を見せることのない彼女を想った。
またいつもの悪戯なんじゃないのかって、何度も何度も思って。
けれど、何度そう思ったって、が俺の前に現れることはなかった。

昔から冷静沈着で淡白で、心の内を言葉にすることなんてない奴で。
そのくせ悪戯好きで、俺の驚いた顔を見ては意地悪く笑ったりする奴で。





だけど。





「ちゃんと、好きだからさ。圭介のこと。」





最後だったその時間。





「圭介に、伝えたかった。」





俺の為に、俺を想って伝えてくれたその言葉。





「貴方をちゃんと好きだったって、伝えたかった。」





ほんの、少しのその時間。
起こるはずのなかった奇跡。
聞けるはずのなかった言葉。

それでもお前は。









「・・・ずるいよなあ・・・。」








自分の言いたいことだけ言って。
俺の望む言葉だけを残して。





なあ、俺もお前に伝えたかった。
何度も何度も、お前が呆れるくらいに伝えていたけれど。

もう聞かなくたってわかるって思っていたのかもしれないけれど。
それでも。








「好きだ・・・。」








何度でも。何度だって。
何回言っても、言い足りない。










「俺も、お前が好きだ・・・!」












空に向けて放ったその言葉。
なあ、聞こえてるか?

大声で叫ぶ俺を見て、また呆れた顔をしてるのかな。










「その呆れるくらいに爽やかな笑顔で、いつまでも笑っていて。」










淡白に見えて、それでも。
お前が優しいことも知ってるから。

お前がいなくなったら、俺がどうなるかって心配してくれたんだろう?
笑わなくなるんじゃないかって、そう思って。
だから、言葉を託した。

俺はバカみたいに単純だから。
お前が好きでいてくれた俺でありたいと思うから。








「大好きだっ・・・!!っ・・・!!」








お前が望んでくれた笑顔を空に向けて叫ぶ。
いつの間にか溢れ出していた涙が頬を伝って。





空に向かって何度も、何度も。
泣きながら笑って、おかしな表情になっていたのだろうけれど。

それでも、何度だって。
どれだけ叫べば、この想いが伝わるだろうか。












お前が好きだよ。ずっと、ずっと大好きだ。





お前が俺にくれた最後の時間。





伝えてくれた、最後の想い。





無駄になんて、しないから。







だから、これからも変わらずに。







きっと、笑える。







お前が望んでくれた、お前が呆れるくらいの笑顔で。














TOP heroine side