大好きな二人。 それなら私が応援してあげなくちゃって、そう思ったんだ。 大好きな君達へ 「って本当に黒川に興味ないの?」 「え?」 ざわついた昼休みの教室。 親友の突然の質問には夢中になって食べていたお弁当の箸を止める。 「何が?」 「アンタの幼馴染で、世話ばかりかけている黒川に興味はないのかって。 はっきり言ってしまえば恋愛感情はないのかって聞いてるんだけど。」 「・・・恋愛感情ー?!」 そんな友達、 の言葉には吹き出して笑う。 の表情は至って真剣だが、それとは対照的にはケラケラと笑いが収まらないようだ。 「ないないっ。だって柾輝は男ってよりも、お母さんって感じだもん!」 「・・・ふーん。」 「ちゃん。どうしたの急に?ちゃんがこんなこと聞いてくるのなんて珍しいね?」 「・・・だったらもらっていい?黒川。」 「いいよいいよ・・・ってええーーっ?!」 「何驚いてるのよ。お弁当こぼしてるわよ。」 「なに?!なになに?!何で?!」 急に席を立ち上がって叫んだを、クラスメイトが見つめ そしていつものことか、とまた自分たちの会話へと戻った。 そんなクラスメイトの行動など、全く気にしていない様子のは 目の前でがこぼした弁当のおかずを拾うに、興奮しつつ尋ねた。 「ちゃん、柾輝のこと好きなの?!」 「・・・。声が大きい。・・・少し落ち着け?」 「お、お、おうっ!」 勢いに任せてつい大声を出してしまったが、 確かにこんなこと、大きな声で言える話ではない。 反省する以前に、目の前の友人から黒いオーラには逆らえない。 は涙目になりながら、それでもしっかりと返事を返した。 「ていうか私はの方が信じられない。」 「な、何がでありますか?!」 「どうしてあんなにいい男が側にいて、なんとも思わないの?」 「柾輝がいい男?!何それ!!」 「だって黒川、何気に優しいじゃない。それに背だってそこそこあるし、顔だって整ってる。 何よりを世話できるって我慢強さが気に入ったわ。」 「さん。それちょっと傷つきます。」 「いいじゃない。減るものじゃないし。」 「減ります。私の心が削られています。」 の黒い発言は置いといて、つまりは黒川が好きということだ。 もそれは理解した。 それにしても、この綺麗で何でもできる友人が自分の幼馴染を好きになるとは思わなかった。 ただでさえはサッカー部のマネージャー。黒川よりもいい男がいるだろうに。 「ねえちゃん。何で翼さんじゃなくて、柾輝なの?」 「翼さん?・・・。私のさっきの言葉覚えてる?」 「え?」 「私が求めるのは、ツンデレでもマシンガントークでも、可愛い顔でもないの! ワイルドさに隠れる、さりげない優しさなのよ!!」 「(そんなこと一言も言ってないしー!)柾輝ワイルドじゃないよ?どっちかって言うと、疲れた主婦だよ?」 「それはアンタの世話してるからだと思うわ。」 「ひどっ!私、そんなに世話かけてないもん!」 「・・・へーえ。」 「とっ・・・とにかくっ!」 明らかに「それはないだろお前」的な視線を投げかけられ、 否定する言葉も浮かばないは、それに続く言葉を遮るべく自分から言葉を発した。 「ちゃんが好きなら私、応援するよ!柾輝なんて女の子に免疫ないし、 ちゃんが誘惑すればコロッと落ちるね!だって柾輝だもん!!」 「それはそれは。高く評価してくれてありがとう。」 何だか張り切る様子のに、表情を変えずを見つめる。 彼女たちの思惑はうまくいくのかいかないのか。 その答えを持つ少年は何も知らずに、階段の踊場にて購買のパンを頬張っていた。 「やあやあやあ!柾輝少年!元気かね!!」 「・・・朝っぱらからテンション高えな。お前は。」 「柾輝は低すぎ!もっと元気に行こうよ若者よ!!」 「日曜で部活も休みの朝7時に何の用だよ。」 「遊びに来たよ!」 「朝7時に来て、堂々と言う台詞じゃねえから。」 柾輝はそう言うと、ため息をつきながらも自分のベッドから体を起こす。 どうやら寝起きはいいようだ。欠伸をしながらも、きちんと自分のベッドを整え、 に文句を言うこともなく、手馴れた手つきで立てかけてあった小さなテーブルを中央に置いた。 しかし、寝起きがいいと言うよりは、この少女の非常識な行動に慣れてしまったと 言ったほうが正しいのかもしれないが。 「母さんは?」 「起きてたよ!私を入れてくれたのおばさんだもん。」 「・・・何で普通に入れてんだか。」 「私とおばさんの仲だし!」 「わかったわかった。、母さんに何かもらってこいよ。」 「ええー!私ー?お客さんだよ?!」 「朝7時に来て、寝てる人間を叩き起こす客はウチにはいない。 俺もその間に着替えとかするし。」 「わかったよ母さん!」 「・・・よろしく。」 もう反応するのも疲れたとでも言うように、柾輝は再度盛大なため息をついた。 「今日の朝ごはんはご飯と味噌汁と鮭でございます!日本の和食!最高だね!!」 「あっそう。」 「柾輝!ノリ悪い!おばさんが一生懸命作ってくれたんだよ?!」 「ていうかそれ、昨日俺が作った夕飯の余りだから。」 「・・・えっ?!何それ!!おばさんの愛は・・・?!」 「こもってねえな。」 「くぅっ・・・朝はおばさんの手料理と決めていたのに・・・!!」 「勝手に人の家に来て、勝手に変なルールを作るな。」 おいしいおいしいと頬張っていた料理は、柾輝が作ったもの。 料理が出来ることは知っていたが・・・いつの間にこんなに腕を上げたんだ! はそんなことを考えながら、柾輝を睨んだ。 悔しがる視点が明らかにズレている。 「そうだ柾輝。こんな料理作れますなんて自慢している君に質問!」 「してねえよ。つーか普通に質問しろ。」 「柾輝の好きなタイプは?!」 そう。が今日ここに来た理由は愛すべき友人のためだ。 そしてこの話は柾輝にとってもいい話だろう。 からの柾輝への扱いはあまりいいものとは言えないが は柾輝に感謝している。良いお母さんには、良い幸せを。 誰から見ても綺麗な友人。性格も黒いところはあるが、根は優しい・・・と思う。 あんな子が側にいることは、男にとっては何よりの幸せではないだろうか。 「何だよ急に。」 「いいじゃん!知りたいんだもん!!」 「ねえよ。そんなもの。」 「何それ!健全な男の子らしくない!!」 「意味わかんねえし。つーか好きなタイプってより、好きになった女がタイプなんじゃねえの?」 慌てることもなく、飄々と述べる柾輝に多少の不満を覚えたが 彼の言っていることも納得はできる。 そもそも柾輝に好きな子なんて出来たことがあるのだろうか。 はすぐに浮かんだその疑問を口にした。 「じゃあ好きな子は?」 「さっきから何?何でそんなこと聞いてんだよ。」 「・・・愛の為に!!」 「意味わかんねえ。」 のことは勿論言えない。 むしろ言ってしまったら、自分はこの世にいられなくなるのではないか。 そんな恐怖に苛まれ、は適当な言い訳を考えた。 だが、浮かばなかったので勢いに任せてみた。やっぱりダメだった。 そもそも彼と恋愛話などほとんどしたことがない気がする。 お互いそう言ったものにはとことん縁がないのだと思っていたが。 あんな綺麗な人から好かれるなんて、柾輝に関しては縁がなかったというわけでもなかったらしい。 「・・・生意気!!」 「何が。」 「私を差し置いて・・・!!」 「だから何が。」 彼女の突拍子もないその言葉にまで反応を返すのも、彼の優しさだろう。 結局その日はの求めていた答えは得られず、彼らはいつも通りの休日を過ごした。 とは言え、その半分は珍しく早起きしたために睡魔に襲われたが眠りこけていただけだったが。 そんな我が道を行く幼馴染を見て、柾輝は苦笑しながらサッカー雑誌を手に取った。 「と、言うわけで。柾輝は料理の腕が上がっていました。」 「一体何がしたかったの。アンタ。」 「ちゃんの役に立てればと思ったんだけど・・・。」 「・・・。全然役に立ててないけど、その気持ちは嬉しいわ。」 相変わらず冷静に綺麗な笑みを返す親友。 何だか刺々しい言葉が聞こえた気がしたが・・・気のせいだろう。は無理やりそう思い込む。 「でも別にいいわよ。私、自分でなんとかできるし。」 「ええ!だってホラ!好みのタイプ聞いたり、一緒に会うきっかけ作ったり・・・!! そういうのが友達じゃない!だから私も頑張ったのに・・・!!」 「あはは。にそんな高度なこと求めてないわ。 ていうか私、サッカー部のマネージャーだもの。きっかけに困ることはないわね。」 「そ・・・そっか!そうだよね・・・。」 少し肩を落としたように呟くには気づく。 そして、そんな親友の姿を見て優しく微笑んだ。 「そんなに心配してくれるなら、サッカー部の見学にでも来る? がよければ手伝って欲しいわ。」 「う・・・うん!!いいよ!!」 「そう。じゃあよろしく。」 そう言って再度微笑むに、は見とれていた。 女の自分でも見惚れるほどの彼女に、羨ましさすら覚える。 こんな彼女に告白でもされたなら、恋愛に興味のなさそうな柾輝であってもきっと。 きっと、その気持ちに応えるのだろう。 柾輝の隣にいる。 の隣にいる柾輝。 笑いあう二人。 大好きな二人。 そうなってくれれば嬉しい。 ・・・嬉しい、はずなのに。 「・・・?」 胸の中にモヤモヤしたものが広がる。 その例えようのない感情は、が疑問を持つ間もなくすぐに消えた。 TOP NEXT |