大好きな二人。 いつまで、そのままでいるつもり? 大好きな君達へ 「あれ?今日はもいるんだ。」 「はい!お手伝いです!」 「・・・まあ張り切りすぎないように頼んだよ。」 「まあ!何を言うんですか翼さん! 引き受けたからには全力を尽くすのがモットーです!!」 「ていうか、お前が張り切りすぎるとロクなことないんだよ。」 「ひどい!翼さんもちゃん属性ですよね!!」 「ふふふふ。何か言った?。」 や柾輝つながりで何度かマネージャー業をしたこともあるサッカー部。 キャプテンの椎名 翼とも見知った仲だ。 綺麗な顔立ち、周りを引っ張っていくカリスマ性。 身長が低めなことを差し引いても、誰の目にも魅力的に映る存在。 幼馴染の柾輝よりも明らかに、人を惹きつける存在だ。 そして後ろに現れたの親友。 こんな人が側にいても、彼女は柾輝を好きになった。 彼女曰く。 「私が求めるのは、ツンデレでもマシンガントークでも、可愛い顔でもないの! ワイルドさに隠れる、さりげない優しさなのよ!!」 だそうだ。 さりげない優しさはともかく、は柾輝をワイルドだなんて思ったこともなかったが。 「な、な、何でもございません!!」 「ホラ。これよ黒川。は図に乗らすととことん、そりゃあ地の果てまでも調子に乗る性格だから。 黒川にも今度教えてあげるわ。」 「・・・いや、遠慮しとくわ。俺には出来そうもねえ。」 「あら。残念。」 無言のままの後ろにいた柾輝が、引きつった顔での申し出を断った。 どうやら目の前で怯えるの話をしていたようだ。 その、予想すると恐らくあまりにも失礼な内容は置いといて、 やはりが心配するまでもなく、彼らは普通に話せているようだ。 そのまま怯えるを無視して、と柾輝の会話に華が咲いていた。 「うう・・・。人に話を振っておいて無視なんて・・・。寂しいよう!!」 「ホラ。いつまでも悲劇のヒロインぶってないで、仕事しなよ。」 「ううっ・・・。翼さんまで冷たい!ちゃんだって柾輝と話してるのにー!!」 「はもう自分の仕事は終えたよ。お前の仕事はドリンク作りなんだろ?」 「・・・お手伝いなのに、この仕打ち・・・。」 「何か言った?」 「な、何でもございません!!行ってきます!!」 図らずともさっきのと同じ状況、会話になっていた。 やはりこの二人は同じ属性だ!と、は涙ぐみながらドリンクを用意するため給湯室へ向かった。 走り去るときにさりげなく二人を振り返る。 そこには楽しそうにと話す柾輝。 そのときの脳裏に浮かんだのは、 友人に対する労いの言葉でもなく。幼馴染に対する祝いの言葉でもなく。 ― あんな表情。私しか見れないと思っていたのにな。― そんな自分の寂しさだった。 「やっぱりちゃんは私の助けなんていらないよね。」 「何、どうしたの?」 「柾輝、ちゃんと話しててすごい楽しそうだったもん。鼻の下伸ばしちゃってさ!」 「・・・やきもち?」 「へ?何?!そんなわけないじゃんー!!」 確かに寂しいとは感じた。 けれどそれは、側にいたお母さんが弟や妹に取られてしまうような、そんな感情だろう。 は笑いながら、首を振った。 「じゃあ私が協力する必要もないのかー。」 「ううん。また来てよ。がいると黒川と話が盛り上がるのよね。」 「ええ?何で私?」 「あれよ。子供を持った奥様同士の会話みたいな?」 「そんな話で盛り上がらないでください。」 「とにかく!協力してくれるっていうなら来てよね!したかったんでしょ?協力。」 の有無を言わさぬ雰囲気に、は苦笑いをしながら頷いた。 「。また来たの?」 「そんな迷惑そうな顔しないでくださいよ。翼さん。」 「最近よく来るよね。どうしたのさ一体。」 「ちゃんに聞いてください・・・。」 「何?疲れてるの?だったらとっとと帰りなよ。 その暗い雰囲気までサッカー部に持ち込まないでよね。」 「翼さん・・・冷たいっ・・・。」 に言われてから、は毎日のようにサッカー部に来ている。 それなりに仕事もこなしているが、それ以上に失敗ばかりしている。 は自分がここにいる意味がイマイチわからなかった。 は一人でも充分にマネージャー業をこなしているし がいなくても、柾輝と充分会話もしているように見える。 むしろがいることで、仕事の手間を増やさせている気もしている。 それに柾輝とは幼馴染。見かければ会話が始まるのも当然。 それはつまり、と柾輝の会話の時間を奪ってしまっているともいえる。 だったら何故自分が? が言っていた、がいると柾輝と話が盛り上がると言う言葉にも、 あまり説得力が感じられなくなっていた。 「おうおう!ちゃん暗いやないか!どないしたん?!」 「・・・直樹先輩。・・・はぁー。」 「ええ?!なに?いきなりため息つかれてんけど?!どういうことやねん!翼!!」 「僕に聞かないでよ。」 「直樹先輩のテンションの高さにはついていけません・・・。」 「ええー?!ちゃんに言われたぁ!!翼ーーー!!」 「はあ・・・。勝手にやってろ。」 「翼にまでため息つかれたあーーー!!」 サッカー部で一番のテンションの高さを誇る井上 直樹。 彼のやかましい声も今のには聞こえていなかった。 目に映るのは、もう何度も見た親友と幼馴染の楽しげな姿。 彼らを見ると、何だか胸が痛かった。 いつもの自分でいられない気がした。 あんなに応援してたのに。 あんなに大好きな二人なのに。 じゃあこの胸の痛みは? 「。私、この後告白するから。」 「え・・・?」 マネージャー業を終えたとは、用具入れ兼マネージャーの着替え部屋で 帰り支度を進めていた。 の突然の言葉に、も驚きが隠せない。 「いいわよね?」 「・・・いいって・・・いいに決まってるじゃん! ていうか、何でちゃん今まで告白しなかったの?!」 「・・・ま、いろいろね。」 そう言うと、は意味ありげに笑った。 やっぱりその笑顔はとても綺麗で。 きっと柾輝も・・・喜んで受け入れるんだろうな。 部屋を出ようと扉を開けて、が振り向く。 「。」 「何?」 「私、大切なものっていつまでもそこにあるって思わないのよね。」 「・・・え?」 「今まで当然にそこにあるから、なかなか気づかないけど。 無くしてから気づいても、きっと遅いわ。」 「・・・、ちゃん?」 「行ってくる。」 そう言うとは扉を閉めた。 は彼女の最後の言葉の意味がわからなかった。 これから告白してくると言う彼女がどうして今そんなことを? 真剣な表情。まっすぐにを見つめる綺麗な瞳。 今の言葉は、明らかに自分に向けられた言葉。 彼女は何が言いたかった? これから大切なものを手に入れるのは。 無くすのではなく、手に入れる。 じゃあ、それを無くすのは? バンッ 答えに行き着いた訳ではなかった。 ただ、体が無意識に動いて。 は扉を開けて、を追いかけた。 と話す柾輝は本当に楽しそうで。 二人が大好きだった。 だから二人の幸せを願った。 そう、思っていたのに。 そう、思っていたはずだったのに。 自分にしか見せないと思っていた表情を、自分以外の誰かに見せられて。 あんなに楽しそうに誰かと話す柾輝を見て、寂しく思った。 日に日に強くなる胸の痛み。 「今まで当然にそこにあるから、なかなか気づかないけど。 無くしてから気づいても、きっと遅いわ。」 それでもまだ、間に合うのなら。 「?どうしたの?」 「柾輝は?!」 「部室・・・って今も・・・。」 丁度そこにいた翼が言葉を終えるのも待たずに、は部室に向かった。 そして引き戸を乱暴に開ける。そこには。 「うわ!?!」 「・・・。」 抱き合う二人。 いや、一方的にが抱きついているともとれるが、 はそこまで頭がまわらずに、ただ茫然と二人を見つめた。 「どうしたの?。」 「・・・遅かった・・・。」 「何が?」 「ごめん・・・。ごめんちゃん・・・!!」 「何謝ってるの?」 「私、言いたいことがある。ちゃんは怒ると思うけど・・・柾輝に言いたいことがあるの!」 「何・・・むぐっ。」 何かを喋ろうとした柾輝の口に、が自分の手のひらを押し当てる。 少し待て、とでも言うように柾輝を一瞥した。 「いいよ。言いなよ。」 「ありがとう!ちゃん・・・!!」 「柾輝!!」 「・・・?」 に口を押さえられたままの柾輝は、言葉を紡ぐこともなくを見る。 もまた柾輝を見つめ返した。 日に日に痛くなる胸の痛みの正体はもうわかっている。 そう。はずっと前から。 「柾輝が好きだよ・・・!!」 「?!」 「今まで気づかなかった・・・!側にいすぎて、それが当たり前すぎて・・・。 お母さんだなんて、そんな言葉で誤魔化して・・・。」 「・・・。」 「ずっとこのままでいられると思った。だから自分の気持ちにも気づかないでいた。 ちゃんの恋も応援した。柾輝とくっつけばいいと思った。大好きな二人が幸せになってくれればって思った。」 が必死で伝えるその言葉を、も柾輝も真剣に聞いていた。 一つも取りこぼすことのないように。 「だけど・・・!私、柾輝の側にいたいよ・・・!! 柾輝の隣にいるのは・・・ずっとずっと一緒にいてくれるのは柾輝じゃなきゃ嫌だ・・・!!」 が言葉を言い終えて、少しの静寂が流れる。 その静寂を破ったのは、表情を全く変えずにの言葉を聞いていただった。 「よくできました。」 の予想外の言葉に、柾輝ももを見る。 はいつものように、冷静に微笑みを返した。 「気づいてよかったじゃない。」 「・・・ちゃん?!」 「言ったでしょ?無くしてからじゃ遅いのよ。」 「・・・。お前もしかして・・・。」 「さすが黒川。もう理解しちゃった?」 呆れたようにため息をついた柾輝と、未だ状況が理解できない。 は笑って、部室の扉へと向かった。 「黒川。に説明しといて。私疲れちゃったわ。」 「・・・俺にこの後処理を任せるってことか?」 「いいじゃない。の世話には慣れてるでしょ?」 「・・・はー。」 柾輝はもう一度盛大なため息をついて、それでもの言葉を否定できない自分に呆れた。 その間には扉を開け、部室を出て行く。 「ちゃん・・・!」 「安心して?黒川は私の告白、ちゃんと断ったわよ。抱きついたのも私が一方的にだし。 黒川が楽しそうに笑ってたっていうのも、それはアンタの話をしてたからよ。」 「ってちゃん!どういう・・・」 の言葉を聞き終わる前に、は部室の扉を閉めた。 これ以上彼女と一緒にいても、しつこいくらいに真実を聞いてくるだけだろう。 後は適任である柾輝に任せるのが一番だ。 「おせっかいだね。」 「あら翼さん。聞いてたんですか?悪趣味って言われません?」 「うるさいな。あれだけが騒ぎながら入っていったら気になるだろ?」 が外に出ると、そこには壁によりかかって話を聞いていたらしい翼が立っていた。 同じ属性らしい彼らは微笑みを浮かべながらも、言っていることは刺々しい。 「ここにいても、後は聞いてるのも嫌になる甘い世界しかないと思いますよ?」 「別にそんなの趣味じゃないし。帰るよ。」 「何だ。趣味じゃなかったんですか。」 「本当、お前いい度胸してるよね。」 「お褒めに預かり光栄です。」 そうして彼らはどちらともなく歩き出し、暗くなりかけた道を並んで歩く。 翼は前を向いたまま、普段の会話を続けるように、に問う。 「・・・本気だっただろ。」 「・・・ばれてました?・・・そうですね。半分・・・いや、半分以上は。」 「本当に柾輝と付き合う気だったわけ?」 「いえ。それはないです。」 自分の問いにすぐさま返事を返したを見る。 夕焼けに映えるその表情は綺麗で儚く、清々しくも見えた。 「黒川が以外を選ぶわけないと思ってましたから。」 「すごい自信。もし柾輝が告白受けてたらどうしてたのさ。」 「ないです。ずっと見てきたんですから。黒川も・・・も。」 「・・・損な役回りをしたもんだね。」 「いいんです。二人とも好きですから。」 「も結構バカだよね。」 「おせっかいな翼さんには言われたくないなぁ。」 誰もいないその道で、二人の小さな笑い声が響く。 「やけ食いくらいは付き合うけど?」 「翼さんのおごりですか?」 「・・・まあいいよ。今日くらいはね。」 「やった!」 親友でありマネージャーであった彼女のその秘めた想いは 本人たちに知られることなく消えていく。 柾輝が好きだったのは本当だった。 何度もを部活に連れ出し、見せ付けるような真似をしたのは に危機感を感じさせるため。 お互いが好きなのに、いつまで経ってもくっつかないじれったい二人。 は自分の気持ち以上に、二人が大切だった。 寂しくなかったわけじゃない。 悲しくなかったわけじゃない。 けれどがすっきりとした気持ちでいることも本当だった。 二人が一緒に笑う姿を見ることが、あの二人が何より大好きだったから。 そして。 「だから・・・。は俺のこと何とも思ってなかったってこと。」 「だってちゃん、あんなに柾輝が好きだって言ってたのにー!!」 「担がれたんだよ。お前単純だから。」 「たっ・・・柾輝のくせにひどいー!!」 「くせにって・・・。」 こんな状況でも明らかに下に見られてる自分。 さっきの言葉は夢でも見ていたのかと脱力する。 「じゃ、じゃあ・・・柾輝はちゃんと付き合わないの?」 「だから、最初から付き合う気はねえって。」 「何で?ちゃん綺麗だし可愛いし性格いいし、何でもできるよ?!」 「お前と一緒。」 「え?」 柾輝はに顔を近づけ、自分の額をコツンとに当てた。 その行動には赤くなり動けずに、ただ柾輝を見つめていた。 「自己中だし、我侭だし、世話かかるけど・・・。側にいるのは、お前がいい。」 およそ柾輝から聞けそうもない言葉。 予想もしていなかったその言葉に、は自分の顔が更に熱を帯びていくのを感じた。 混乱しながら目の前の柾輝を見る。 もともと色黒な彼ではわかりづらかったが、それでも。 「へへっ。柾輝大好き!」 「それはどうも。」 心に広がる愛しい気持ち。 こんなにも幸せな気持ち。 今まで気づかなかったのが不思議だ。 「ずっと一緒にいてね!柾輝!」 その気持ちが伝わるように、は満面の笑みを浮かべた。 その言葉に柾輝も不器用に、けれど嬉しそうに笑った。 TOP |