左の道へ入っていくと、先ほどから少し見えていた人影が動きました。
純粋無垢な白雪姫は警戒することもなく、その人影に近づいていきました。
「そこにいるのは誰?」
「こんにちは。貴方は・・・」
「まず背負ってる猟銃を地面に置こうか、少年。」
「え?あ、ええ?」
『またナレーションと違う方向にいっちゃったぞ。めっちゃ警戒してますけど。』
『山口の焦り具合からすると、完璧のアドリブだな。』
・・・えーと、少年ってお前も年かわらないだろとつっこみたくなるようなことをまさか白雪姫が言うはずもありません。
純粋無垢なはずの白雪姫がすっごい警戒してるとかあるはずありません。
なんだか空耳が聞こえてしまったようなので、もう一度彼女の言葉を聞いてみましょうか。
『・・・設楽怒ってるぞこれ。』
『めんどくさいって言ってたわりに意外とまじめだよな。』
『いや、めんどくさいからこそ妙なことすんなってことじゃね?』
「・・・な、なんでもない。こんにちは、貴方は誰?」
「狩人です。道に迷われたのですか?」
「あ、アクセサリーを落としてしまって・・・ネックレスなんですが、この辺りで見なかった?」
「ああ、この間拾ったものがあったな・・・。それなら俺の家にあります。すぐそこなのですが、いらっしゃいますか?」
「うん!」
狩人の爽やか笑顔にすっかり安心して、白雪姫は言われるがままさらに森の奥深くへと進んでいきます。
けれど家らしき建物は見当たりません。日も暮れてきたので、白雪姫は再度確認しようと狩人に声をかけます。
「狩人さ・・・「ここまで来れば大丈夫かな。」」
「・・・え?」
「白雪姫、貴方の悪行は聞いてる。俺はある人に君を懲らしめろと頼まれたんだ。」
「!」
なんと爽やか狩人は王妃からの刺客だったのです。
森の奥深くで彼女を亡き者にするというのが狙いだったのです。あー、それはびっくり。
『なんか設楽なげやりになってね?大丈夫か?』
『さっきのお前のナレーションよりは大丈夫だと思う。』
「私は悪行なんてしてないよ!」
「王が自分にあまいのをいいことに、国民の税をあげてまで豪華な暮らしをしているそうじゃないか!
実際、国民は税金が払えなくて苦しんでる!」
「それはお父様の政治力のなさから来てるものだと思うんだ。いや、本気で。」
「・・・そ・・・い、いや、父親のせいにするなんて噂どおりだな!」
「せっかく豊富な資源があるんだからそれを活用しようって進言してるのに。
正直、お父様が政治をするよりもお母様がしたほうがよっぽど国は豊かになると思う。貴方もそう思わない?」
「え?!」
「その焦り具合はそう思ってる証拠ね。」
白雪姫の人柄に唖然とした様子の狩人でしたが、白雪姫が悪行を行っているとよっぽど聞かされていたのでしょう。
まだ納得がいかない様子です。我に返りもう白雪姫を問い詰めます。
「自分の父親をそんな風に言うのはどうかと思う!」
「・・・は?」
「王様は白雪姫を愛してるんだろう?それなのにそんな風に言ったら傷つくだろ!」
「そ、」
そっちに食いつくの?!なんてつっこみを白雪姫がするはずもありません。
純粋無垢な彼女ならば、家族思いの人なのだろうと彼を慈しむに決まってます。そうですよね、そうでしょうとも。
「・・・そうですとも。」
『ナレーションに反応しちゃったーーー!!』
『これ、絶対山口への反応じゃねえよな・・・。』
「だろ?父親に足りない部分があるんだったら、補ってやればいいじゃん。」
「そうですね・・・。」
「それで王妃が言ってた悪行っていうのは誤解ってことなんだな?」
「うん。」
「そうか、家族のすれ違いってとこか。それじゃあ俺が仲介役になってやるよ!」
「いいえ、母は私を殺そうとしていたのでしょう?」
「!」
狩人はある人に白雪姫を懲らしめるよう頼まれたと言っていましたが、白雪姫は母親が自分を亡き者にしようとしていたのだと気づいていました。
彼女の言葉に動揺し、言葉を失ってしまった狩人の姿がよい証拠です。
「お互いに少し、頭を冷やす期間が必要なんだよ。」
「そんなこと・・・!すぐにでも誤解は解いた方が・・・!」
「いいえ、お父様が私を溺愛しているのは本当だし、お母様が私を疎まなくなる根本的な理由も解決してない。」
「そうしたら王様にもちゃんと話をすれば・・・!」
「お父様は聞く耳持たな・・・」
「大丈夫だよ!ちゃんと話せばわかってくれるって!」
「いや、だからね・・・」
「やればできるよ!頑張ろうぜ!」
「・・・。」
狩人の言葉に胸を打たれた白雪姫はニッコリと可憐な笑みを浮かべます。
「ふふふ。」
「白雪姫、わかって・・・って、うわああああああ!」
そうして狩人に近づこうとすると、偶然にも彼女の足がもつれ、偶然にもすごい勢いで狩人にぶつかってしまいます。
狩人は偶然にも坂になっていたそこを転がっていってしまいました。ああ、偶然っておそろしい。
『ああ、面倒くさくなっちゃったんだな・・・。』
『・・・それにしても乱暴すぎる。』
「ありがとう、狩人さん。」
こうして暗殺依頼を受けていた狩人からの慈悲で白雪姫は難を逃れることができました。
暗殺依頼の真実を知り悲しみながらも、さらに森の奥へと進んでいきます。
そして、さらに奥深くで小さな家を見つけます。
小さな子供ならばともかく、大人が暮らすには少しばかり小さく見える家です。
白雪姫はそういえば森の奥深くに小人が住んでいる、と噂を聞いたことがあると思い出しました。
しかし、もう日も暮れ疲れ果ててしまっていたので、深く考えることもなくフラフラと家の前まで向かいます。
ノックを繰り返しても返事がなく、思わずドアノブをまわすとドアが開きました。
中には誰もいません。身も心も疲れきってしまっていた白雪姫は見つけたベッドで眠りについてしまいました。
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