「こいつがあの時逃げた奴・・・?なんだか随分雰囲気が違う気が・・・」

「つまり、『俺の好みじゃねえよこのやろー俺は舞踏会にいたようなごつい女が好きなんだ。』ということでいいですか?」

「よくねえよ!ふざけんなお前・・・!!」

「・・・あのー・・・私に何の用ですか?」





シンデレラに声をかけてきたのは、二人の男。
二人ともどこかで会ったような気はしますが、シンデレラにはよく思い出せません。
身なりからすると、相当な地位を持っているように思えます。





「まさか、この人が誰だかわかっていない?」

「・・・えっと・・・」

「そう威嚇するなよ。別に知らない奴がいたっていいだろ。そもそも俺はそんなに公に出ていかないし。」

「・・・まあいいでしょう。こちらはこの国の第二王子。
先日の舞踏会で貴方を見かけ、后候補として選出させていただきました。」

「王子?!王子がなぜ私のところなんかに・・・!」

「そ、それはっ・・・」

「貴方に一目惚れしたそうです。」

「・・・。」





自分でははっきりと言わず、煮え切らない態度を見せる王子を
シンデレラは訝しげに見つめました。すると、王子はさらに視線を泳がせます。





「・・・后候補と言うことは、私以外にも相手がいるということですか?」

「ええ。地位などないに等しい貴方をいきなり迎え入れるわけにはいきませんから。」

「私を后候補としても何もメリットはないと思いますが、それでも?
一目惚れでそんな大事なことを決めてしまっていいんですか?」

「それは貴方が考える必要などないことです。」

「・・・王子。」

「な、なんだ・・・?」

「・・・本当に王子は、私のことが好きなのですか?」

「・・・あ・・・」

「候補なだけだとしても、結婚は一大決心が必要です。私は貴方を気持ちを信じてもいいのですね?」

「・・・っ・・・!!」





まっすぐに王子を見つめるシンデレラに対し、王子は視線をあわせようとしません。
そんな様子を見かねた従者が王子の前に立ちます。





「町人のくせに随分と生意気な口を・・・「待て!」」

「王子?」

「彼女の言うとおりだ。俺は結婚が嫌なあまりに彼女を傷つけるところだった。」

「・・・。」

「お前に一目惚れしたというのは嘘なんだ。
・・・俺は決められた結婚が嫌で、とにかく相手を探すことに必死だった。」

「結局正直に言うんですか・・・。それなら俺も。
そうです。あの日のむさくるしい舞踏会の中で一番マシだった貴方を選ぶことにしたのです。

「言い方ーーー!!」





王子を試すようなことをしたシンデレラにも、誠実に本音を伝えてくれた王子に、
シンデレラは怒るわけでもなく、呆れたように笑顔を浮かべました。





「・・・俺も悪かったけど、なんでお前は自分から王妃の地位を棒に振るような真似をしたんだ?
正妻にはなれないにしても、今よりはよほど良い生活が出来たんじゃないのか?」

「・・・私にその地位は恐れ多いです。それに・・・」

「それに・・・?」

「子供っぽい夢だと思われるかもしれませんが・・・私は自分を愛してくれている方の元へ行きたいのです。」

「相手でもいるのか?」

「あはは、これから現れてくれる・・・予定です。」

「理解できませんね。この誘いを断ったこと、後で後悔することになりますよ?」

「もしその日が来ても、自分で選んだ道ならば、納得もできると思うのです。」





王子と従者の言葉にも、シンデレラは自分の考えを変えることはありませんでした。
従者は呆れるようにため息をつき、王子は驚いたように、けれど少しだけ瞳を輝かせて彼女を見つめました。





「わかった。」

「・・・王子?」

「お前の意志を尊重する。」

「いいのですか?」

「ああ、いろいろ勉強になった。」

「それじゃあ王子は他の女性と結婚「それは別問題だ!」」

「チッ・・・」





町娘である自分の考えを汲み取ってくれた王子に感謝しつつ、その後ろ姿を見送ります。
そして自分も家へ帰ろうと歩き出したそのとき、別の場所から声が聞こえ振り向きます。





「あーあ。バカなことをしましたね。」






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