「お前があの時逃げた女か。ずいぶんとボロい姿になったな?」
「・・・あのとき追ってきた・・・貴方も王子だったんですか?」
「王子の顔を知らねえとはいい度胸だな。
・・・まあいい。お前を俺の嫁候補にしてやる。城へ来い。」
「ええ?なんでいきなり・・・」
「とりあえず何でもいいから嫁候補を連れていかなきゃならねえんだよ。
舞踏会に来た中じゃ、一番マシだったからだ。」
「それであの時私を追いかけて・・・無様に転んだんですね。」
「無様は余計だ!!」
シンデレラに声をかけたのは、舞踏会の最後になぜか自分を追いかけてきた青年。
その正体はこの国の第一王子でした。
「何でもいいからっていうことは、別に誰でも構わないってことですよね?」
「・・・後々面倒だから正直に言う。俺は今、結婚相手となる女を探してる。
仮でもなんでも探さないと、両親に決められた女と結婚させられるからだ。
そしてこの間の舞踏会を開いて、最終的にお前を選ぶことにした。」
「・・・。」
「お前の境遇の調べはついてる。こんな召使いのような生活よりも、多少かたくるしくても城で暮らす方がいいだろう?
お前にとってもメリットはあるはずだ。」
王子は正直な人間でした。
自分のメリットのために、シンデレラを利用しようとしていることを隠すことなく伝えます。
「正直な方ですね。」
「ああ。どうせ後でばれることだろうしな。」
「それならば、私も正直に話していいですか?」
「・・・まあいいだろう。言ってみろ。」
そんな王子のあまりの正直さに、シンデレラは複雑そうに笑います。
一呼吸すると、今度は彼女が口を開きました。
「お断りします。」
「・・・なんだと?」
「確かに今の生活は、私にとってつらいもの。
双子の姉も別の国に嫁ぐことになった今、ここに残る意味などないでしょう。」
「それならば、なぜ?」
「一度王子の后候補となってしまえば、自由はきかない。
下手をすれば一生閉じ込められた生活になるのでは?」
「・・・。」
「私は豪華な暮らしがしたいわけじゃない。たとえ貧しくとも、大切に思える人と一緒に笑っていたい。
その人たちが困っているときはすぐに助けに行きたいのです。」
生みの母親を亡くしてから、たくさんの不幸に見舞われたシンデレラ。
けれど、その中でも彼女には大切な人たちがいました。彼女を支えてくれている人たちがいました。
「・・・面倒な女だな。」
「ふふ、けれどサンドリヨンもいなくなってしまったし、家から出たいのは本当です。
王宮で雇っていただけるのなら、喜んでお受けしますよ?」
「ふん、何で今振られた女を雇ってやらなきゃなんねえんだ。」
「あはは、そうですよね。」
愛のない豪華な暮らしよりも、大切な人たちに会いに行ける自由。
シンデレラは王子の誘いを断ってしまったのでした。
「後で後悔しても知らねえからな。」
「そんなことがもしあっても・・・自分で決めたことだから納得します。」
「はっ、バカな女。」
呆れとも応援とも取れるような、複雑そうな笑みを浮かべ、王子はシンデレラの前から去っていきました。
シンデレラもその場から離れようと歩きだしたそのとき、後ろから聞こえた声に振り返りました。
「職を探してるのなら、紹介してあげようか?」
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