従者らしき者が王子と呼んだのは、明らかにシンデレラの隣にいた青年でした。
シンデレラは目を丸くして、彼を見つめます。
「わ、悪い・・・。黙ってるつもりはなかったんだけど・・・」
「王子の顔を知らない客という方が失礼です。この舞踏会の意図をわかっていますか?」
「舞踏会の意図・・・」
そう、この舞踏会の目的は、王子の后探し。
そもそも会場にいる男性は王宮の客人、従者、そして・・・王族の者なのです。
「ご、ごめんなさい!私・・・」
「いいよ、そんな謝らなくたって・・・!普通に話してくれた方が・・・俺も、その、楽しかったし・・・」
「まったく。お兄様の方は会場の女性に囲まれていましたよ。」
「あいつらに?!」
「ああ、トラウマがまた増えていくのが目に見える・・・」
「それなのに貴方という人は。部屋から逃げ出した挙句、こんな寒空で得体の知れない女性とおしゃべりですか。
無用心もほどがある。」
ピシャリと言い放つ従者の前に、王子は返す言葉もありません。
「ピンクの衣装に浮かれてる暇があるなら、もっと積極的に動いたらいかがですか。」
「ピンクは関係ねえだろ?!!」
「ああ、確かにピンクアピールは凄まじいのに、本人がこれじゃ・・・」
「俺が選んだんじゃねえええ!!!」
そうです。ピンクの王子様はもっとピンクをアピールしていくべきです。その方が面白いです。
『いいぞ横山!俺もピンクの一馬がたくさん見たい!』
『話がそれていくというのに、誰も反対するものがいないな・・・』
「くっ・・・」
「・・・まあピンク様、あ、間違えた。王子。」
「お前わざとだろ?!わざとだろーーー!!」
「今回は私がすべて見ていましたからいいですよ。」
「すべて・・・?すべてって?え?」
「王子が女はコワイ・・・コワイ・・・と怯えているところから。」
「誰がそんな怯え方した?!」
「まああながち間違っては・・・」
「お前まで参加するなあ!!」
カラーン・・・カラーン・・・
「?何の音ですか?」
「時計の鐘の音ですね。数時間置きになるんですが、
今は・・・23時ですね。0時になればもっと長く、違う音が鳴りますよ。」
「23時か・・・もうそんな時間なんですね。それじゃあ私、そろそろ帰ることにします。」
「え?」
「今日はとても楽しかったです。お話してくれてありがとう、王子様。」
「あ、お、おい・・・」
「双子の姉ももしかしたらもう外に出ているかもしれない。外で待機している者たちと探してみます。」
魔法のタイムリミットは0時まで。
魔法使いにそう伝えられていた彼女は、余裕を持ってお城を出ることにしました。
深々とお辞儀をして、テラスから出て行こうとすると、彼女の腕が掴まれました。
「・・・あの・・・?」
シンデレラの腕を掴んだのは、王子ではなく彼の従者でした。
疑問の表情を浮かべるシンデレラに対し、従者は表情を変えぬまま口を開きます。
「王子は女性が苦手です。」
「は、はあ・・・」
「その王子とこれほど長く、二人で話されていたのを見たのは初めてです。」
「・・・え?」
「そんな女性が現れたというのに、簡単に逃がすと思いますか?」
それまで表情を変えなかった従者が、初めて笑みを浮かべました。
しかしその表情に、シンデレラはなぜか背筋に寒気を感じてしまったのです。
「お、おいっ・・・そんな無理やりに・・・!」
「貴方のためでしょう、王子・・・あ!!」
そんな従者を王子が引き止めると、シンデレラは逃げ出すようにその場から駆け出しました。
王子は従者をひと睨みして、睨み返され目をそらしつつも、シンデレラの後を追っていきました。
その途中、少し遠くで声が聞こえました。
「あーもう、わかったよ!アイツ!アイツにする!」
「せっかく私が王子の仰るとおりの娘たちを連れてきたのに・・・」
「俺がいつゴリラ連れてこいって言った?!」
「差別はやめてください、王子。」
「とにかく今駆けていった女だ!追うぞ!」
王子は嫌な予感を感じつつ、それでも必死にシンデレラを追うのでした。
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