「・・・くだらない。そんなもの誰がしようが同じだろう。何をそんなにもめているんだ?」 それまで騒いでいたクラスメイトたちは一転、 その一言で静まりかえり、ざわめきはピタリと止んだ。 「へえ、誰がやっても同じなんだ?」 騒ぎの中心にいた男子が、その声の主を睨む。 けれど睨まれた本人は意にも介さないように、無表情のままだった。 「じゃあお前がやれよ不破!もう俺絶対やんねえからな!」 その感情の意味は、 もうHRも終わっているはずの時間だというのに、ずっと続いていた押し問答。 その原因は今月終わりにやってくる、球技大会の団長決めだ。 団長なんて大層な名前ではあるが、要は体のいい雑用係。 当然誰も立候補なんてするわけもなく、クラスの一人が手をあげ推薦したのが 今騒いでいた男子。クラスのムードメイカーで、運動神経は抜群。 雑用とはいえ、「団長」という肩書きは確かに彼に似合いそうだ。 時間はどんどん過ぎていき、とにかくもうこんな話し合いを終えたいという空気も流れていた。 雑用なんて嫌だという彼をなだめ、もちあげて、ようやく彼も頷きそうな矢先だった。 「なぜそうな「じゃあこれで決まり!後は我がクラスの不破大先生が引き受けてくれっから!」」 同じクラスの不破大地はこの学校始まって以来の天才児であり問題児であることで有名だ。 この中学に入学して数ヶ月、その短い期間でそりゃもういろんな意味でいろんなものを壊していくから、つけられたあだ名はクラッシャー。今、この中学で最も話題の人だろう。 けれど、そんな個性的で何でもできてしまう彼は敵も多かった。それは同じクラス内も然り。 不破が話そうとした言葉を遮り、数人の男子が席から立った。 もうこの話しあいにもうんざりしてただろうクラスの子たちも、次々に席を立つ。 薄情だとは思わなかった。もともと不破は物言いがきつい。 あれだけ話し合っていたことを、たとえ真実といえどもはっきりとくだらないと言い切ってしまった彼だ。流れ上、任されてしまっても仕方ないと思える。 ただ、それは私の中で大きな問題となる。 「皆賛成ってことでいいんだな?」 クラス委員長が皆に同意を求め、皆はそれに答えて頷き、賛成を表すよう高らかと手を上げた。 「じゃあうちのクラスの団長は不破、副団長はだ。二人ともよろしくな。」 そう、既に推薦で決まっていた副団長。それが私。 不破を睨みつける男子が数人。もうどうでもいいという表情を見せるのが多数。 あーあ、うちのクラス最下位になるかもなんて思いつつ、疑問の表情を浮かべたままの不破を見てため息をついた。 「はい不破、もらってきたよ。」 「何だこれは?」 「私たちがやることとか、球技大会のルールと種目が書いてあるプリント。 皆を各種目に振り分けないと。あとはクラスではちまき作りとかその他いろいろ。」 「こんなものなくとも、先ほどの話を聞いていればわかるだろう。」 「いや、普通は覚えきれないからね。」 結局あの後も不破はぶつぶつと何かを呟いていたのだけれど(多分彼らの理不尽さが疑問だったんだろう)もう何を言おうととも誰も聞く耳もたず、そのまま不破はうちのクラスの団長となった。 先ほど学校全体で代表会議があり、私たちはそこでルールやこれからすることを聞いてきた。これからクラスにそれらを伝え、指示しないといけない。 「・・・と、いうわけで。皆が出たい種目の票を取ります。」 「ハーイ!俺サッカーねサッカー!」 「俺はバスケ!実はミニバスやってたんだよなー!」 「じゃあわたしバレーがいいー!」 会議で聞いてきた内容をかいつまんで話し、出場種目希望を取れば運動好きの子たちが一斉に手をあげる。 「ちょ、ちょっと待って!一応希望用紙をつくったからそれに・・・」 「えー!今決めちゃおうぜ?面倒くせえ!俺、バスケだから!」 「俺サッカー!」 「いや、だからさ、他の皆の意見も聞かないと。」 「やだー!俺バスケでいいよな皆ー!いいともー!ハイ決定ー!」 「え!じゃあ俺も俺も!サッカーでいいー?!」 「・・・わからん。」 「・・・は?」 ざわついた教室にまた静寂が走った。 いつも思うんだけど、どうして不破の一言はざわめきの中こんなにもよく通るのだろうか。不思議だ。 暴走しかけた彼らを止めてくれたのはよかったけれど、状況が良くなるとは思えない。 今だってわざわざ団長の不破でなく、副団長の私が皆に話をしたのは、不破が余計なことを言ってクラスを混乱させるのを避けるためだったのに。 「なぜそんな意見が通ると思っているんだ?止めろ、時間の無駄だ。」 「な、なっ・・・!なんだと!!」 「意見があるのなら、希望用紙に書けばいいだろう。第一希望にそう書けばその通りになる確率は高い。」 「そ、そんなのわかってんだよ!バカにすんな!」 「なんだわかっていたのか。それならそうしたらいいだろう。何故そんな騒ぎ立てる必要がある?」 「やっぱりバカにしてんじゃねえかよ!何だよお前・・・ちょっと頭がいいからって・・・!」 「ストップストップ!今は話し合い中だよ!落ち着いてよ二人とも!」 「だってコイツが・・・!」 「何を言っている。俺ははじめから落ち着いてい「じゃあ皆、希望用紙に書いてねー!!」」 不破が口をはさんだだけでこれだ。 彼の言っていることは確かに正論なんだけれど、どうも言い方がよくない。 まるでケンカ売ってるみたいなんだもんなあ。 クラスの大半は私の苦労を理解してくれているようだ。 配られた希望用紙を手に取り、真面目に記入してくれている。 「。」 「話は後で聞くから、不破も希望用紙に書いてね。」 「む。」 不破は正論を言った自分の言葉がまたも遮られたことに納得がいっていないんだろう。 けれど、頼めば不満そうにしながらも用紙に書き込みはじめた。確かに扱いづらい人ではあるけれど、根は素直なのだ彼は。 「さっきはなぜ止めた、。」 「こだわるなあ・・・わかってたけど。」 「何のことだ?」 集めた希望用紙を振り分けながら、不破は当然のごとく先ほどの質問の答えを求める。 「あんなくだらない言い合い、時間の無駄でしょう?」 「・・・む。なるほど。」 あ、よかった。同意してくれた。 なんだか訳のわからない言葉を並べて問い詰められたらどうしようかと思った。 「・・・ありゃ、田中くんもバスケじゃん。バスケ大人気だね。」 「運動などどれも同じだろう。どうしてこうも差が出るのだ?」 「どれも同じじゃないからでしょ。」 「同じだろう?どれも少し学べば出来ることだ。」 「それは不破だけでしょ。他の子は出来ないの。そう簡単にいかない。 だから努力して出来るようになりたいと思うんだよ。」 不破が私の言葉に興味を持ったように顔をあげた。 私は少し迷って、けれど作業している手は止めずに言葉を続けた。 「私、バスケ部。なかなかうまくならないことにもがいてる一人です。」 「どうしてうまくならないんだ?」 「何でかな。努力不足と才能不足?でも、止まってるわけじゃないから。 ちゃんと少しずつだけど進んでる。今まで出来なかったことが出来たりすると嬉しいよね。」 「・・・わからん。」 「少しはわかってよ。」 「わからないものはわからない。」 「あーそうですかー。」 入学してから、はっきりとした物言いで敵を作っては勝負を挑まれ、相手のプライドをズタズタにする。そんな彼についたクラッシャーの異名。 確かに彼の言葉に傷つくこともあるし、悔しい思いをすることもある。 けれど私は周りの皆がそうしているほどに彼を怖いとは思わないし、ひどい人間だとも思ってない。 「不破も見つかるといいね。夢中になれるもの。」 「別にそんなものはいらないが。」 「でもさ、不破って何かを考察してるとき、かなり楽しそうに見えるけど。」 「・・・・・・・・・。わからん。」 「あはは!間が随分あいたけど?少し迷ったでしょ?」 「・・・お前はおかしな奴だな、。」 「・・・は?」 不破の言葉の意味がわからなくて、思わず間抜けな声をあげる。 「何が?」 「お前は他の奴らとは違う。」 「違うって・・・だから何が?」 「お前の話していることはわからん。だが、わからないから興味が沸く。」 「は、はあ・・・。」 「俺自身のことだってそうだ。 この学校の誰も、俺が考察中に楽しそうだなんて言った奴はいないぞ。」 「そ、そう?」 「確かに俺は迷った。楽しいというのかはわからないが、ただ答えが知りたいからという理由ではない気がする。」 「・・・。」 「自分自身のことで疑問が沸いてきたのは初めてだ。 自分のことでも、わからないことがあるのだな。」 「そりゃあねえ。人間ですから。」 「人間だから?それは答えになっていないぞ。」 「・・・不破にノリで発言って通じないよね・・・。」 「ノリ?」 「何でもない。さてと、さっさと集計しちゃおう。」 無理矢理に話を切ると、また疑問の表情を浮かべて首をかしげた。 そんな彼がなんだかおかしくなって、ついつい笑みを浮かべてしまう。 こんな表情、また絶対問い詰められるから見せたりなんかしないけど。 同じクラスになって数ヶ月。 入学してからすぐ注目の的となった不破。 初めは好奇心と怖いもの見たさから、しばらく彼を観察していただけだった。 観察をしていた彼はつけられた異名に勝るとも劣らないほどに、挑んでくる奴らを一刀両断しては追い返していたのだけれど。 いつの間にか気付く。彼は確かに人を傷つけているけれど、行動も言動も正直そのものだ。 気を遣うということも、遠慮するということも知らない。真っ正直で、よく言えば純粋。 それに"才能"というものが付随して、嫌味に見えてしまうかもしれないけれど。 それに気付いてからは不破を怖いとは思わなくなった。 だから、不破が団長に決まったときも大変だとは思ったけれど、嫌じゃなかった。 今まで見ていただけの彼と話す機会が出来ること、それは素直に嬉しかった。 「高橋はバレーボールか。体育で組んだことがあるが、あいつにはジャンプ力がない。 別の種目に・・・」 「バレーは空いてるでしょ!勝手に変えない!」 「む・・・。」 まあ、今ばかりは周りを見ることも知ってほしいとは思うけど。 教室に飾ってある、カレンダーを見つめた。 6月25日には、担任が張り切ってつけた赤い丸がついている。 球技大会まであと2週間。 私は・・・いや、私たちは無事、球技大会を迎えることが出来るのだろうか。 TOP NEXT |
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