落ちてきた天使
― とあるサッカー部主将の疑問 ― その学校は、僕らの学校から割合近くに位置し、実力も拮抗している良きライバル。 合同練習や練習試合を何度もしている、見知った仲だ。 「椎名、少し久しぶりか?」 「数ヶ月ぶりってところかな。調子はどう?」 「当然、前より成長してる。」 「それは楽しみ。」 数ヶ月ぶりにやってきた僕らを、部長である水野が迎え、いつもどおりに更衣室へと案内してくれる。 「おーいおーい!!将ー!タオルです!ふかふかですよ!!」 「ありがとう、。」 「え?いやいやそんなお礼なんていいよいいよ!いつもふわふわな将にはふかふかのタオルが似合うと思って・・・!」 「ふ、ふわ・・・ふか・・・?」 「抱きつきたい!癒されたい!でも私には姉御との約束が・・・!なんという障害なの! でもだからこそ燃えるよね!!ね!将!!」 「・・・えっと・・・うん?」 「さすが将!わかってくれるんだね!誰かさんとは大違い!!」 その途中に聞こえてきた、騒がしい声。 何度も試合や合同練習をしていて、見知った奴らばかりだけれど。今まで一度も見たことのない顔がいた。 それもなんだか・・・すごく、目立つというか、個性的というか、いや・・・なんという表現が一番あってるのかな。 「・・・水野。」 「・・・なんだ?」 「見ない顔がいるけど、誰?新しい女子部員?」 「・・・マネージャー・・・。」 「へえ、マネージャーが入ったんだ?」 「・・・まあな・・・。」 新しい部員というのは、喜ばしいものだと思うけれど。 なぜか水野の表情は暗かった。暗いというよりも遠くを見ている、と言ったほうが正しいか。 「あ!翼さん!!」 「将。久しぶり。」 「試合できるの楽しみにしてたんです!今日は負けませんよ!」 「言うようになったね。もちろん今日も勝たせてもらうけど。」 先ほどまで新しいマネージャーに絡まれていた将が、僕らに気づき、駆け寄ってきた。 その後ろでは僕らをじっと見つめる視線。 「あ、。今日の練習試合の相手だよ。この人はキャプテンの椎名翼さん。」 「・・・よろしく。」 「つばさ・・・」 「・・・?」 「シンパシー!!」 「!?」 初対面で馴れ馴れしいとか、失礼だとか、そう思うような経験はしてきていて、 その度に有無を言わさず蹴散らしてやったものだけれど。 彼女の行動と言動は、そういうのを飛び越えて、僕を唖然とさせた。 「つばさ・・・つばさかあ・・・!素敵な名前!!」 「なんなのいきなり?」 「私・・・翼にはすごく思い入れがあるんだよね!!」 「・・・。」 「・・・おい。お前、初対面の相手に失礼だぞ。」 「なによなによタレ目さんだって、いつまで経っても私に失礼な態度とるくせに。 そんなに将に抱きつきたいなら私に当たってないで素直になればいいじゃん!」 「なんの話だ!!」 さっき見た水野の表情の意味がわかった気がする。 人の話を聞かなそうだし、一人で突っ走りそうだし、水野のことをタレ目さんとか呼んでるし。 この手のタイプはどう見ても苦手そうだもんな。 「あーもー!仕事に戻れお前!!」 「まあ失礼な!タオル、スポーツドリンク、スコアボードにグラウンド整備確認!!全て準備万端です!!」 「っ・・・郭ー!!」 耐えかねた水野が呼んだのは、同じチームの郭英士。 あれ?この二人って試合中はともかく、普段はそれほど仲良くなかったと思ってたけど・・・。 あと、僕らはいつになったら更衣室まで連れていってもらえるんだろう。 「・・・困ったら俺を呼ぶの、いい加減にやめてくれない?」 「お前以外に誰が止められるんだよ・・・!」 「はあ・・・最初から諦めるとか・・・」 「俺はに慣れるための努力はしたくない・・・!」 「な、なんですって!!私だって、私だってねえ・・・!タレ目さんなんかっ・・・将!なぐさめて!!」 「水野・・・。」 「水野くん・・・。」 「なんで俺が悪いみたいになってるんだよ!?」 水野をからかって気が済んだのか、将にひっついていた彼女を郭がひっぺがす。 すると彼女もそれ以上は逆らうことなく、郭と一緒にグラウンドの方へと歩いていった。 郭の言うことは素直に聞くんだろうか?まあ水野と違って妙な威圧感があるもんね。 「・・・水野。」 「何も・・・何も言わないでくれ・・・。」 この学校のサッカー部は比較的素直というか、常識人が多いから、 ああいう人種はどう扱っていいのかわからないんだろう。いつか水野の胃に穴でもあきそうだ。 初めこそ見知らぬ彼女に唖然とさせられたものの、試合自体は滞りなく進んだ。 試合を見にきていた黄色い声援に混じって、熱をこめて応援する彼女の姿以外は、だけど。 一試合を終えて、休憩時間となり、顔を洗いに行った水飲み場からの帰り道、先ほど聞いた声を耳にする。 「どうしよう英士・・・!私、新たなオアシスを見つけてしまったかもしれない・・・!」 「へーよかったね。」 「だって名前が翼で、軽やかで華麗で本当に飛んでるみたいだったよ?実は彼も私と一緒なんじゃないかな? 天界の話とかしてみようか?な、なぜそれを・・・!え?君もなのかい?同志だね可愛いお嬢さん!みたいなことにならないかな?」 「ならない。普段バカなことばっかりしてるのに、妄想までバカにならないでくれる?」 「ひどい!!だってあんなに美しいのよ!?私の再来と思わないの!?」 「殴っていい?」 「よくない!!ごめんなさい!!」 意味がわからない。 なにがオアシスなの?僕と彼女の何が一緒なの? 華麗とか美しいとか再来とかなんなの? ただひとつ、郭の気持ちと行動だけは、なんとなくわかる。 「あ!翼!!」 「、いきなり呼び捨てとかやめなよ。椎名は俺みたいに優しくないよ。」 「え?英士みたいに優しいってなんの冗・・・・・・おおっと口がすべった!!優しい英士とは違うのか!そうかー!!」 「口がすべったとか、フォローになってないよ?」 「えええええっと、えっと、じゃあ、つばっさんとかどう?どうですか?」 「何それどういう呼び方?」 「叫びやすいでしょ!おとっつぁんとかおっかさんとかと同じニュアンスで、おとっつぁーん!!おっかさーん!!つばっさぁーん!!」 「・・・。」 「お気に召したみたい!!じゃあつばっさん!!」 「よかったね、つばっさん。」 「良くない!」 おかしい。僕は水野と違って、こういう人種でも扱いは心得てるつもりだし、 初対面での失礼な態度だって、免疫はあるつもりだ。そういうのを言い負かすことに自信だってある。 それなのに、すべての言動が突飛過ぎて、意味がわからなくて、一瞬とはいえ言葉を失うなんて。 「・・・ずいぶん変わったのを入れたんだね?」 「まあ、成り行きでね。」 「なにさなにさ!タレ目さんのいびりにも負けず、英士の脅しにも負けずに頑張ってるのに!」 「そっちのチームにしては随分毛色が違うけど、大丈夫なの?」 「大丈夫ってなに!?大丈夫だよ!!」 「水野とか?」 「水野とか。」 「まあ水野はどうでもいいんだけど、ほかは大分慣れてきたんじゃない?」 「へえ、そうなんだ。」 「慣れって恐ろしいよね。」 「なに?なに?どういうこと!?」 「うるさい。」 「むぐっ・・・!」 まだ全てを見たわけじゃないけど、彼女の扱いを一番心得てるのは、郭みたいだ。 郭はこういうタイプには無関心を貫いて、極力関わらなそうだと思っていたけれど・・・。 「つばさんつばさん!つばっさんはさー」 「その呼び方やめてくれる?」 「もうなんなの!英士といい、つばさんといい、人が愛着こめた呼び名を嫌がるなんて!」 「なんなのって言うのはこっちのセリフ。初対面で話したこともないのにいきなりあだ名をつけたり、馴れ馴れしく接してきたり、もう少し常識ってものを学んだら?無邪気だったら誰でも何でも許してくれると思ったら大間違い。周りの人間に甘えて自分の好き勝手に行動することで、困る人も迷惑がかかる人もいるって自覚した方がいいんじゃない?少なくとも僕はそういうの大っ嫌いだから。」 調子を狂わされていたけれど、ようやく口に出すことが出来た。 こういうタイプには何を言われようとも、きちんと言ってやらないとダメだ。 それで文句を言われようとも嫌われようとも構わないし、口論になったとして、負ける気もないしね。 「・・・。」 何か思うところがあったのだろうか。彼女は無言になり、顔を軽く俯けた。 そしてゆっくりと郭の方へ視線を向け、神妙な表情を浮かべて。 「・・・どうしよう英士。長くてよくわかんなかった!」 「いい度胸だね・・・!わかるまでとことん語りつくしてあげようか?」 さっきからなんなんだコイツは!! おちょくられてる気しかしてこないんだけど!? 「まともに取り合うだけ無駄だよ、椎名。」 「っはあ・・・はあ・・・郭は随分慣れてるんだね?」 「慣れざるを得ない状況だったからね。」 「英士ってば!素直に私と一緒にいたかったって・・・ふぐぐ!!」 「黙れ。椎名、そろそろ休憩も終わりでしょ。戻ったら?」 「言われなくても!!」 「またね!つばさん!」 僕に何を言われたか理解していて、からかっているんだろうか? そういえば水野も随分とからかわれていたしな・・・。意図的なものだとしたら、僕もそれに振り回されたわけで。そうだとしたらすごい屈辱だ。 満面の笑みで手を振りながら、郭に頭をはたかれている姿を横目に、あ、やっぱり計算じゃなさそうだと思ったら、怒りを通り越して呆れて毒気が抜かれてしまった。 疲れがたまるだけだし、もう彼女には関わらないことにしよう。 そう思ったのも束の間、なぜか彼女は頻繁に僕の視界に入る。 「!コールドスプレー切れた!持ってきて!」 「ここに予備が用意してあります!姉御!!」 「だから姉御はやめろって言ってんでしょ!!」 「あ、でもテーピングも包帯もなかった!私としたことが!!では取りに行ってきます!!」 試合の途中で僕のチームの一人が足を痛めた。 元からの古傷ということもあり、本人はたいしたことないと言うのだけれど、念のためということで手当てをする。 ちょうど二試合目の前半が終わったタイミングで、女子サッカー部員が彼の怪我の手当てを買って出てくれた。 「悪かったわね。怪我には気をつけてたつもりだったんだけど。」 「そんなのはお互い様だろ。謝る必要ないよ。」 「そっか。」 数人の女子に囲まれて、赤くなっている部員を見て、 女子サッカー部キャプテンの小島が笑いながら僕の隣に並ぶ。 「相変わらず足速いわねーあの子。やっぱりサッカー部に勧誘しようかなあ。」 「あの子?ああ・・・」 小島が眺めているのは、既に姿が小さくなっている例の彼女だ。 関わらないと決めたけど、なぜ小島も水野も彼女を入部させ、自由にさせているのか疑問だった。 「、椎名には迷惑かけてない?」 「迷惑・・・ってほどじゃないけど、関わりたくないタイプではあるね。」 「あははっ、やっぱり?」 「小島や水野が彼女を入部させた理由がわからない。」 「本当にねえ。最初はどうなるかと思ったわ。心配だったから入部に条件もつけたし。」 「条件?」 「部活の邪魔をしないこと。真面目に仕事をすること。風祭に抱きつかないこと。」 「・・・。」 「あ、引いてる。気持ちわかるけど。」 「わかってくれないくらいに毒されてるのかと思ったよ。」 「まあ・・・他の女子みたいに部員目当てじゃないのはなんとなくわかったし・・・それに、仕事は一生懸命だしね。」 「本当に?あれが?」 「そうなのよ、ああ見えても頑張るの。」 「・・・ふーん。」 正直よくわからないけれど、小島が言うのならば本当なのだろう。 タオルやドリンクを用意しているのも目にしたし、今も全速力で足りない備品を取りに行ったし。 タオルを配るときに振り回してるのはどうかと思ったけれど。 「椎名なら気づいてるかと思ってたけど。 あの子、無駄な動きが多いけど、サポートはなかなかのものだと思うわよ?」 彼女の突飛な言動や行動にばかり目がいっていたけれど。 もしかして、見たくなくても視界に入っていたのは、大げさな行動だけが理由じゃなく・・・ 選手のサポートに駆け回っていたから? 「それに、うちには郭っていう保護者もいるし。」 「郭?さっきから思ってたけど、あの二人ってどういう関係なの?」 「幼馴染。」 「ああ・・・なるほど。」 「あと、付き合ってる。」 「へえ、つきあっ・・・って、ええ!?」 確かに仲は良さそうだと思ってたけど・・・郭があの子と!? 幼馴染までは納得できたけど、付き合ってるとか想像できない。 僕のイメージでしかないけれど、郭ってああいう子が好みだったの? 「そうそう、最初は皆驚くの。」 「若菜!急に現れないでよ!」 「英士っつったら、知的で大人しそうで上品な美人とか好みっぽいじゃん?実際そうなんだろうけど。」 「随分と正反対の子を選んだものだね。」 「それが意外とピッタリなんだよ。表情豊かな英士なんて、俺らかちゃんしか引き出せないと思うぜ?」 「ああ、わかる。郭って基本無表情よね。声を荒げるのだってか若菜くらいだもんね。」 「俺、そんなに怒られてねえよ!」 「どうだかねえ。」 なんだ。随分と受け入れられてるんだな。 水野は心底苦手って感じだったけれど、他のメンバーにはそれなりに認められているみたいだ。 「ちゃん見てると元気になるよな!」 それはどうだろう、と疑問に思ったところで、彼女が息を切らせながら戻ってきた。 姉御!と小島を呼んでまた頭をはたかれている。変なあだ名をつけるのが趣味なんだろうか。 今日の日程をすべて終えて、僕らは帰り支度を始めた。 他の部員よりも早く準備を終えた僕は、一足早く外に出た。 そして、最後の最後にも、視界に入ってきた彼女の姿。 どうしてこう、何度も目の前に現れるのかな。 「つばっ・・・じゃなかった椎名サン!そちらの忘れ物ですよー!」 「・・・ああ。どうも。」 「試合、すごく面白かった!つ・・・椎名サン、また来てね!」 「・・・。」 なんだろうかこの違和感。 おそらく彼女も反省して、あの妙な呼び名から普通のものへ変えたのだろうけれど。 急にこうも真面目になられると、どうしていいのかわからなくなる。 「こちらこそ、いろいろ世話になったね。ありがとう。」 「・・・!」 そんなに心底驚いた顔なんてしないでよ。 僕だって真っ当な言葉には真っ当に返すよ。いくら苦手な奴だって、礼くらい言うし。 「それにしても、さっきまでの失礼な態度はどこに行ったの?」 「失礼って皆ひどい!私はただ、つばっ・・・椎名サマと仲良くなりたかっただけなのに・・・!」 「なんだよ椎名サマって。」 「私はそんなつもりなかったのに・・・姉御と英士が・・・二人で・・・二人で私をっ・・・」 「ああそういうこと。二人が正しいから全て言うこと聞いておいた方がいいよ。」 「そうかー・・・すべ・・・すべて!?」 きっと、根は素直なんだろう。ただ、行動が自由すぎるのと、周りへの迷惑の自覚がないだけで。 だから周りはちゃんと彼女を見て、見捨てないでいる。まあ、甘やかされてるのも本当なんだろうけれど。 「ねえ、ふと思ったけど、なんでサッカー部のマネージャー始めたの?」 「へ?」 「部活って自由な時間が無くなるし大変だし、アンタみたいなタイプには向いてないように思えるけど?」 水野や小島が入部を認めたこと以前に、はじめから思っていたことだ。 その割には周りに認められていたけど、なんて言葉は置いといて。 「うーん、始めは・・・まあ、成り行きだったんだけど。」 「ふーん。」 「楽しそうにしてるのも、笑ってるのも好きだから。」 「え?」 「皆、楽しそうでしょ?皆が笑ってると、私も嬉しくなるから。そういうのが大好き!」 そう言って屈託なく笑う彼女は、なんの計算もなく、迷いもなく、本当に楽しそうで。 あまりにもまっすぐで正直なその言葉に、僕は思わず言葉を失った。 「あと将もいるし!オアシスオアシス!!」 ・・・本当に真っ正直すぎて、やっぱり意味がわからない。 「それにつ・・・椎名サマーみたいな人にも会えるし!!」 さっきから、わざとやってるの?呼び方を変えたことによる抵抗のつもりなの? 「はあ・・・もういいよ。」 「何が?」 「翼。」 「え?」 「妙な呼び方されるくらいなら、翼でいい。」 「え!いいの!!つばっさーん!!」 「だから翼って言ってるだろ!!」 しまった。油断した。少しでも甘い顔を見せるとこれだ。 いくら出会ったばかりとはいえ、少しは見直したとはいえ、油断は禁物だった。 「それで、アンタの名前は?」 「ええ!今更?!」 「今まで自己紹介らしいこともせずに何を言うわけ?」 「そうでした!!です!と呼んでくださいつばさん様!」 「・・・そっちが僕の名前をちゃんと呼ぶなら、呼んでもいいけど。」 「イエッサー翼!!」 「変わり身早いな!!」 監督と皆に挨拶をして、校門まで送ってくれたメンバーとそれぞれが軽く雑談をしつつ、その中にいた郭と目が合う。 その隣には当たり前のように、の姿がある。 「郭も大変だね。」 「まあね。」 「なにが?なにが大変なの?男同士で何か通じるものがあるの!?」 「でも、お似合いだと思うよ?」 「誰に言われても嫌だけど、椎名に言われるとすごい嫌だ。」 「ははっ、オアシスに負けないようにね。」 「・・・オアシス・・・?また馬鹿なこと触れ回ってるの?」 「オアシスがバカって何よ!私にとってどれだけ癒しでどれだけ大切でどれだ・・・ふぎゃっ!!」 郭がまたの口を塞いだ。今日これで何度目だろう。 それでもよく見たら、若菜たちの言っていたとおり、郭の表情が柔らかく見える。 無理やり口を塞いで女性らしからぬ表情をしている彼女を見て、楽しそうにしてるのはどうかと思うところだけど。 「じゃあ、僕らは行くよ。またね。」 「うん。」 「っぷは・・・!バイバイ翼!」 「っ・・・も、じゃあね。」 あんなに失礼で、人の話を聞かなくて、頭からっぽで、イライラするような奴だと思っていたのに。 おかしいな。それを見て笑えるようになってる。たった一日、ほんの少し話しただけなのに。 ふと後ろを振り返ると、皆に囲まれて笑ってるの姿が見えた。 「すごいじゃんちゃん!たった一日であの椎名と呼び捨てになるまでの仲に!」 「だって翼がどうしても翼って呼べっていうから・・・。」 「すげー!!」 やめろ!おかしな情報をばら撒くな!! どうしよう、戻って誤解を解いてこようか。いや、そんなことしたらそれこそまた話がこじれるし・・・ 「どうすんだよ英士!強力なライバル出現!」 「別にどうも。」 「どうもって!どうにかこうにか思ってよー!」 「離れたいならいつでもどうぞって言ってるでしょ。」 「な、なんだこの余裕の発言・・・!腹立つ!なあ、ちゃ・・・」 「うわーん英士ー!見捨てないでー!」 「・・・。」 抱きついたに何をするでもなく、声をかけるでもなく、呆れたようにため息をついて。 それを見ていた僕と視線がかち合う。 無表情のまま僕を見る目は何を思っているんだろう。少し攻撃的で挑戦的なものにも見える。 じろじろ見るな?それともバカにするな?いや、ちょっと違うかな。 ・・・・・・。 ・・・もしかして、僕のことを牽制・・・していたり? 確かに成り行きとはいえ、名前で呼び合うことにはなったけれど。 さすがに郭と違ってそこまでの物好きじゃないし、心配なんてしなくていいのに。 むしろ、そういう心配をされてるほうが心外なんだけど。 表情のあまり変わらない郭。それを崩すような予想外の行動ばかりの。 妙な誤解は心外だけど、今回みたいに彼女に振り回されてばかりというのも癪だから。 せっかくだしこの状況を利用して、次は僕の方が彼らをからかってやろうかなんて、悪戯心が沸いてくる。 そんなちょっとした好奇心のせいで、これから彼らが起こす面倒事に巻き込まれていくだなんて、思いもよらずに。 TOP |