大きくてがっしりとした身体。日本人っぽくない容姿。そこにいるだけで周りがびくついてしまうような、雰囲気。わたし自身、天城の近くにいると、自分が何かをしたわけではないのに悪いことをしたような気分になってしまう。はっきり言ってしまえば、怖かったのだ。正面から睨みつけられたら逃げ出してしまいそうなほど。けれど、そんな彼の後ろ姿はいつも寂しそうだった。抱きしめて「大丈夫だよ」と言ってあげたくなるほどに、いつも寂しそうで、悲しかった。いつからそうだったのかは覚えてないけど、放っておけなくて、振り返って笑って欲しくて、気づいたらいつもその背中を見つめていた。天城をわたしが笑わせてあげられたらいいのにと考えるようになっていて、それが、いつしか恋に変わってた。いつもいつも天城のことばっかり考えてる。
「てーんじょーう!」
「。何か用か?」
「あのね! 期間限定のお菓子が発売してたの! だから、天城にもあげようかと思って」
「俺、甘いものはあまり……」
「大丈夫だよー甘さ控えめだし。はい!」
「……ありがとう」
「えへへ」
天城がお菓子を持っている姿は面白いくらい絵にならなくて、つい噴き出して笑ってしまう。それを見た天城は、わけがわからないとでも言いたげに首を傾げた。そんな天城の仕草にわたしはまた笑う。笑い続けるわたしに呆れたのかなんなのか、天城は呆れたように口元を緩めた。わたしが、天城を気にかけるようになったとき、天城はそれはもう怖くて、目だけで人を殺せそうな感じだった。だけど、最近の天城は穏やかに笑う。天城の周りで何かがあったのか、心境の変化があったのかはわからない。そんなことを聞けるほどわたしたちは親密ではなかった。だけど、話しかければ普通に言葉を交わしてくれるから、今のところはそれで充分だ。
「天城、今日はいい天気だね」
「は?……ああ、そうだな」
「これはもう、居眠りをしろって言ってるようなもんだよね!」
「何でそうなるんだ」
「ええ? だ、だめかなあ。人は寝ないと生きてけないんだよう」
むう、と頬を膨らまして天城を見る。けれど天城は落ち着いた様子で「授業はちゃんと聞かないと駄目だろ」とぽん、とわたしの頭を軽く叩いて言った。天城に触れられた部分にそっと触れてみるとじわじわと熱を帯びていくのを感じる。けれど、恥ずかしい気持ちを素直に出せるほどわたしは可愛い女の子じゃなかった。
「なんだなんだ、天城はわたしのお父さんか!」
「お、おと……」
「ー、アンタ何騒いでんのよー」
「わ、わたしはですね、正直な感想を」
「天城、コイツただのバカだから適当に扱っていいんだぜ」
「はあ?! ケンカ売ってる? 買うよ?」
恥ずかしさを誤魔化すために発した言葉は、支離滅裂すぎた。親しい友人を先頭に近くにいたクラスメイトが可笑しそうに笑いながら声をかけてくる。他愛のない話題で騒ぐのは日常茶飯事で、わたしも握りしめた拳を振り上げながら笑った。ただいつもと違うのは、その輪の中に天城がいるってことだ。ぎゃあぎゃあ騒ぐわたしの横で天城は、笑っていた。一緒に、笑っていた。それがすごく嬉しくて、笑いが余計に止まらなくなっていたのだけれど、そんなわたしの隙を見つけたのか、友人がわたしの手にあったお菓子の箱を取り上げた。
「ちょ、それわたしのお菓子!」
「いいだろ、1つくらい」
「それ期間限定なんだよ、大事なんだよ」
「……それは俺がもらってよかったのか?」
「ああ、て、天城はいいんだよ、そんな心配しなくて!」
天城の言葉に一瞬時間が止まったような気持ちになった。背中を冷たいようなものが伝った気がしてひやりとした感覚。ああもうほんと空気を読んでくれ! 睨むようにお菓子を強請る友人を見上げるけれど、向こうはにやにやと笑っているだけだ。嫌な奴、ほんっとやだ! うぐぐ、と唸り声を上げてみるけれど、天城が心配をしてくれるばかりで効果はないに等しかった。もう、天城が心配してくれるからいいもん。ばーか、ばーか!
「わかった」
「え、わかったって……何が?」
突然、天城が口を開いた。何、もしかして今のでばれちゃったの? あれ、そんなに天城って女心わかっちゃう人だったの? 実は、女の子大好きですとかそういう感じのタイプなの? ……そんな天城も悪くないけど。……って、そうじゃなくて、そうじゃなくて! こんなクラスの真ん中で振られたらわたしもう立ち直れませんすいませんもうほんと勘弁してください。
「今度は俺がの好きなお菓子を買ってこよう」
「ええ? 何でそんな展開に……」
「本当は、全部1人で食べたかったんだろう?」
「は、はい……?」
クラスに笑い声が響いたのはその数秒後。もちろん、それにわたしと天城のものは含まれていないけど。ああもう、天城、君って本当に……
鈍感なきみを振り向かせる
方法を誰かわたしに教えて
ください
(いつか、ちゃんと伝えるから待っててよ)(っていうか、少しぐらいわたしの気持ちに気付いて下さい)
*
2009*12*06
written by seira.T
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はちみつレモンの星羅さんのサイト1周年&10000ヒットということで、リクエストさせていただきました天城のお話です!
うおおおお…!と叫びだしてしまいそうな、この感情。どうしたらいいですか!鈍感な天城が可愛いです。お菓子を手にしてとぼけた顔をしている天城を想像してときめきが止まりません。こんな素敵な天城を書いてくださって本当にありがとうございました!
サイト1周年&10000ヒットおめでとうございます!今後ともよろしくお願いいたします!
2009.12.23 春名 友
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