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 天城に、少し年の離れた妹がいるのは、知っている。
 天城が、その妹を大切に思っているのも、知っている。

「黒川にも妹がいるなんて、知らなかったな」

 クロカワとは、彼のチームメイトの一人のことで、この間の合宿で、なにやら意気投合してきたらしい。

 天城の妹は、わたしも何度か会っているし、かわいい女の子だ。
 その妹に向ける天城の表情は、昔のちょっと険しかったそれとは似ても似つかない。
 元々、やさしさを持っていなかったわけではないのだろうけど、それが出るようになったのだと思う。
 中学の頃から知っているわたしとしては、天城の変わりように驚きや嬉しさが入り乱れている。
 ほんのちょっとの嫉妬もね。

 だって、天城が妹に向ける眼差しは、わたしに向けるのとは違う。
 相手が違うのだから、当たり前といえば、当たり前なのだけど。
 天城は、相変わらず、口数は多くないけど、よくサッカーの話をしてくれたり、時々妹や家族の話、そして、わたしの話に付き合ってくれたりする。
 表情だってころころ変わるわけでも、思っていることをすぐに表現することが多いわけでもないけど、ちゃんと、伝えてくれる。

「そろそろ、行こうか、

 うん、と頷いて、天城の隣に並ぶ。
 天城は、わたしが隣に並ぶのを待っていてくれて、それから、何も言わずに手をひいてくれた。
 自然と。
 きっと、妹が小さい頃も、こうして手をひいていたのではないかと思う。
 その時の天城は、「やさしいお兄ちゃん」の表情を、妹にだけ向けているのだろう。
 それは、決して、わたしに向けられるものではない。
 ほんのちょっと、羨ましいな、と思うこともあるけど。

 天城は、わたしにだけ。
 他の誰でもない、わたしにだけ。

 少しきつめの眼差しの中に、ほんのちょっぴりの照れと、それ以上のやさしさと愛しさを込めた表情を、いつも届けてくれる。



 間近の天城が、囁くように呼ぶ名前。
 その名前の人物が、天城にとって妹とは違う特別な存在なのを、知っている。
 わたしのこと、わたしの名前、わたしと天城の特別な関係。
 羨ましいでしょ?




END




2008/09/15
To Tomo Haruna! LOVE!
From Haya.


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