最近妙におかしいと思う瞬間がある。 「ウス。」 「え?あ、これ?いいよいいよ!自分で持てるから。」 「持ちます。」 「いや、あの・・・」 「持ちます。」 「・・・じゃあ、お願いしようかな。ありがとう、樺地くん。」 大量の資料を抱えるに、樺地が手を貸す。 は遠慮しながらも、樺地に笑顔を向ける。 「、よこせ。」 「え?」 「それだ。俺が持つ。」 「え、あ、いや、私一人でも・・・」 「いいからよこせ。」 「あ・・・はい。どうも・・・ありがとうございます。」 俺が樺地と同じように手を貸す。 は遠慮しながら、おびえるような目で俺を見る。 「・・・・・・・・・なぜだ!!!」 「え?!何?!何ですか?!」 「差別か?!差別なのかお前ともあろうものが!!」 「ええ?!」 「それとも俺が美しすぎるからか?!」 「意味がわからない!か、樺地くん!」 「ウス。」 「ウスじゃなーい!」 初めて出会ったあの日から、俺とは親交を深めてきた。 俺に対し警戒していたも、今ではこの通り敬語も遠慮もなくなった。 生徒会の仕事も覚え、日々俺のサポート役として傍にいて。 なのになぜ、あの時のように笑わない? 大体同じクラスの奴らや樺地には笑うくせに、俺にだけ見せないのが気に入らない。 確かに俺は美しい。成績もいい。すべてにおいて優秀だ。 しかしそれによる庶民の緊張など彼女はとけているはずだ。 そうしたらなんだ。対抗心か? そういえば以前、俺の順位をぬこうとして必死に勉強していたな。当然俺が勝利したが。 あのときも悔しそうな顔ひとつ見せていなかったが、心のうちでは俺に闘志を燃やしていたんだろう。 「、俺はお前がわからない。」 「わ、私も跡部くんがわかりませんけど・・・!」 「俺が、この俺が!こんなにもお前を思っているのに!」 「・・・何が?」 「意地をはるのはやめろ。俺はお前の敵じゃない。」 「いや、別に敵だと思ってませんけど・・・」 「お前、そう言いながら樺地の後ろに隠れるな!樺地、そいつをこっちに。」 「ウス。」 「ちょ、ちょっと樺地くーん!!」 怯えるような顔をして、俺を見つめる。 俺は美しすぎるのは仕方がない。俺が彼女より優秀なのも当然のこと。 しかしそれが彼女の枷となり、俺の前で素直になれない原因ならば。 俺はその枷をはずしてやろう。 我慢する必要も、意地をはる必要もないと教えてやろう。 この俺の思いを伝えれば、そんなちっぽけなことに捕らわれなくなるはずだ。 そう、もっとはやくこうしていればよかった。 「俺はお前が好きだ。」 遠慮なんてする必要はなかった。俺らしくもない。 「それは・・・どうも、ありがとうございます。」 ちょっと待て。 なぜ先ほど荷物を持ったときと同じ反応なんだ?! 何か勘違いをしているのか、この期におよんで・・・! 「お前は有能だ。しかしバカだ。けれど美しい。そんなお前を俺は愛している!」 さらにたたみかける。さすがに理解するだろう。 どうだ。この俺から愛の言葉を告げられることを光栄に思え! 「・・・あ、はい。どういたしまして。」 ・・・・・・・・?! どういたしまして?!なんだその返事は?! それは礼にたいして返す言葉だろう。日本語をわかっているのかこいつ。 いや、彼女がそんな馬鹿でないことは俺がよく知っている。 「あははっ、跡部くんって相変わらずどこかずれてるよね。」 そして、なぜそこで笑顔を見せる?! ずれてるのはお前だ!! 「これからも頑張るよ。ありがとう。」 何をだ?! ちょっと待て。俺は何か間違えたか? いや、何も難しいことは言っていない。 彼女を綺麗だと思い、愛しいと思うからそれをそのまま伝えただけだ。 それがなぜ、見たかった笑顔とともにすべて流されている?! 「・・・なぜだ!」 「どうしたん跡部、えらい荒れとるやん。」 「うるせえ忍足。俺様は今機嫌が悪いんだ。」 「なんや、女にふられでもしたん?って、まさか跡部が」 「うるせえっつってんだろ!ぶっとばされてえか!」 「・・・え?!ええ?!ホンマに?!」 「ああ?!ふられてねえよ!」 機嫌の悪いところに、うるさい奴がやってきた。 誰がふられただ。俺がふられるわけないだろうが。 「・・・お前、好きだと言われたらなんと答える?」 「え?跡部俺のこと好きなん?」 「お前じゃねえよ。アホなこと言うのもたいがいにしやがれ。」 「ガラ悪いんやからもー。そりゃあ相手が好きなら俺も好きで、そうじゃないならごめんやなあ。 そのときの気分と好みにもよるけど。」 「そうだな。」 「それが何や?」 そうだ。それが一般的なはずだ。どういうことだ、庶民は答え方が違うというのか? しかし何をどうしたらどういたしましてという返事に繋がるんだ。何を頑張ろうというんだあいつは。 「『どういたしまして。』」 「え?何?」 「好きと言って、返事がどういたしましてというのはどういうことだ?」 「ふは!跡部、そう言われたんや?」 「うるせえな。部屋から追い出すぞメガネ。」 「相手、あほなんちゃう?」 「それはねえ。」 「それならていよくふられたんやろ。残念なことに。」 「それもねえ!」 「プライドたっかいんやからなあ、跡部は。」 俺が女にふられるなど、ありえない。 そもそもが本当に、万が一そう思っていたとしても、あの反応はないだろう。 「・・・跡部さん。」 「なんだ、樺地。」 「おそらく、伝わっていません。」 「あ?」 「あの人は・・・跡部さんが眩しすぎて同じ位置に立っていると思っていない・・・です。 だから、すべて冗談と捉えたのだと思います。」 「・・・ああ?!なんだとあの女!」 「跡部さんの気持ちが伝わっていれば、あんな反応を返すはずがないです。」 「ああ、そうだ!お前はよくわかってる樺地!」 「ウス。」 「こうなりゃ実力行使だ!何が何でもわからせてやる!」 「ウス。」 「ちょ、ちょお、犯罪に手は染めんといてな〜?」 俺は部室を出て早足で生徒会室へと向かう。 には仕事を頼んでおき、放課後までと期限もつけていたから、 昼休みの今、おそらくそこにいるはずだ。 バンッ 中に誰がいるかも確認せず、俺は扉を開け放った。 「わっ!あ、跡部くんか・・・!どうしたの、そんなに慌てて。」 俺は彼女の質問に答えず、そのまま速度を緩めず彼女へと進んでいく。 「あ、跡部く」 「好きだ。」 が俺の言葉を理解していなかったとして、 けれど、この言葉以外にどう伝えろというんだ。 彼女を抱きしめ、もう一度耳元でささやく。 「好きだ、。」 が手にしていたファイルが、音をたてて床に落ちる。 ようやくわかったか。鈍感女。 「・・・あ、あの・・・」 先ほどとは明らかに反応が違う。 ようやく伝わったのだ、俺の思いが。 さあ、お前の本心も言え。意地を張らずに言え。 「跡部くん。一体なんのゲーム・・・?」 ・・・・・・。 ・・・この女・・・。 「何がゲームだ!いい加減にしろ、バカ女!」 「だ、誰がバカ?!私だっていきなりこんなことされたらびっくりもするよ!」 「いつまでもそんなこと言ってると終いには襲うぞ!」 「や、やだよ!何それ!」 「嫌だと?!光栄の間違いだろう!!」 「何で襲われて光栄だなんて思わなくちゃいけないの?!」 「あああ、もういい!」 こいつがここまで鈍いとは計算外だった。 鈍いも度を通り越してる。さすがの俺も対処法が浮かばない。 「・・・跡部くん、もしかして疲れてる?」 「・・・ああ、だいぶ疲れてるな。」 「跡部くんから弱音が出るなんて、よっぽどだね。 ここには休みにきたんでしょ?私、出て行くからゆっくり休んで。」 「・・・いい。ここにいろ。」 「え、でも・・・」 やっぱりこの女、腹立たしい。 普段生意気なくせに、俺を疲れさせているのはお前なのに、 そんなときに優しい顔を見せる。いつもの無表情や怯えた顔はどうした。 しかし、そんなところでさえも愛おしい。 こうなったら時間がかかっても必ず・・・ 「聞こえなかったか?ここにいろ。」 「・・・もう・・・わかったよ。」 「あーん?本当にわかってんのか?俺がいいって言うまで、」 「ここにいる。」 が照れるように笑みを浮かべて、俺は考えを改める。 やはり短期戦だな。 あまり長いことこのままじゃ俺が耐えられなそうだ。 耐えることなど俺の性にあわない。 いまに見ていろ。 お前がどんなにバカでも鈍感でも、無視できないくらいに攻め込んでやるよ。 俺にいかに愛されているか、それがどんなに光栄なことか、存分に思い知ればいい。 TOP |