ずっと想ってきた、この気持ち。







たくさんの勇気をもらって、今、貴方に伝えよう。









最後の夏に見上げた空は

−伝えたい想い−











下校時間。
昇降口には寮へ帰ろうとしている人たちであふれ返っている。

ほとんどが遺伝子強化兵のこの学校。
私のように家に帰る人はほとんどいない。かと言って、学校の外へも先生や監視者がいないと
出ることができない。だから皆、寮へと帰っていく。



そんな中で、私は幸せ者なんだと思う。
私の両親は、私を見捨てることがなかった。だからこそこうして、家から学校に通っている。





!待たせたな!」





生徒であふれ返る昇降口で、声をかけてきたのは功先生。私のクラスの担任で、私の好きな人。
自分の仕事もあったのだろうけれど、先生は私をたいして待たせることなく、一緒に帰ってくれる。

他のクラスの子には、こうして先生が一緒に帰ってくれるなんて考えられないって聞いた。
他の先生は、まず生徒を家に返して、それから遅れて家に到着するそうだ。
そして、規則通りに質問をし、いつも通りだと安心し、決められた時間に帰っていく。





「いいえ。全然待ってませんよ?先生こそ息切らせて大丈夫ですか?」

「いやー。俺も年かなー?これくらいで息切らすなんてなかったんだけど。」

「走ってきて他の先生に怒られませんでしたか?」

「え!何でわかるんだ!」

「あははっ。やっぱり。」





それとは対照的に、功先生はいつでも一緒に帰ってくれる。
決められた質問ではなく、学校のこととか、友達のこととか、家でどうしてるかとか
母親に聞き、また先生も話す。話し込んで決められた時間で収まらないときだってある。

そんな先生だからかな。一緒にいて、こんなにも安心した気持ちになれるのは。





「ひどいよな〜。ちょっと走っただけなのに、『先生の自覚あるんですかー!』だって!」

「生徒に注意するべき先生なのに、逆に注意されちゃいましたね。」

「なー?ってまあ俺が悪いか!よし!次からは気をつけよう!」

「とか言って先生、無意識に走っちゃうんじゃないですか?」

「そうなんだよな〜!こればっかりはもう、仕方ないと思わないか??」

「あはは。しっかりしてくださいね?功先生?」





私の家までは約10分。
先生と二人きりで話せるこの距離はあまりにも短くて。
自分の家がもっと遠かったならって、何度も思った。





「・・・?功先生?」





ふと気づくと、笑顔で話す私を功先生が穏やかな笑みで見ていた。
そんな表情をする先生は、皆といるときとは違って、『大人』な微笑みだと感じた。





「よかった。」

「・・・え?」

、最近元気なかったからさ。どうしたのかって思ってたんだ。」





気づかれていた。先生を想うことが苦しくて、気持ちを隠していた。
気持ちを隠すのが苦しくて、先生を避けていた。ちょっと前までの私を。





「けど、また笑うようになったな。・・・よかった!」

「・・・。」

!今回は俺、力になってやれなかったみたいだけど、
悩みがあるならいつだって言えよ?頼りないかもしれないけど、精一杯力になるぞ?」





私を悩ませていたのは貴方なんだよ?
それでも、私の大切な幼馴染や友達が、背中を押してくれたから。だから私はまた笑っていられる。

ねえ先生?
私は貴方の隣で、どんな風に笑っているのかな?





もうすぐやってくる暑い季節の前に、貴方に気持ちを伝えたい。











いつも私を引っ張って、背中を押してくれる有希ちゃん。

大切な先輩に、迷いながら気持ちを伝えたちゃん。

そして、

私に伝える勇気をくれた、鳴海くん。












この気持ちを伝えたって、想いは通じないかもしれない。
ううん。きっと、その可能性の方が高いんだろうな。

けどね。それでも。
この気持ちをなかったことにはしたくない。先生を大好きだったこと、伝えずにいなくなるなんて嫌だから。

傷つくことを恐れて、本音を隠してた。
鳴海くんに言われて、初めて気づいたんだ。ううん。わかってたのに、気づかないフリをしていた。



だから、背中を押してくれた友達を、勇気を教えてくれた幼馴染をまっすぐに見れるように
自分の気持ちに正直になって、貴方に気持ちを伝えたい。





「・・・功先生?」

「ん?何だ?」

「私・・・功先生の側でなら、きっと、ずっと笑っていられます。」

「何だ?俺が面白いってこと?何だよまで俺を・・・」





先生をまっすぐに見つめる。
発する声は、震えていた。それでも、目はそらさずに、まっすぐ先生を見た。





「・・・?」

「・・・功先生が、好きです。
ずっと、ずっと前から、先生のことが好きでした。」





功先生が驚いた顔をして私を見る。
私は目をそらさない。恥ずかしかった。怖かった。不安だった。けれど。
それでも、まっすぐに先生の瞳を見る。





「・・・ごめん。その気持ちには、応えられない。」





功先生もまっすぐに私を見つめる。
きっと、とても言いにくかっただろう。心が痛んだだろう。それでも、目はそらさない。





は俺の生徒で、守ってやりたいってそう思ってる。けど、
お前が向けてくれている気持ちではないんだ。」





まっすぐなその言葉で、正直に気持ちを伝えてくれる。
私が遺伝子強化兵だから同情してくれるとか、もう少しの命だから優しい言葉をかけるとか、そんな気持ちは見えない。
普通の、遺伝子強化兵でも何でもない、普通の女の子として、返事をくれた。





「・・・ありがとうございます。先生。」

「こっちのセリフだよ。・・・ありがとな!!」





先生の最後にくれた優しい言葉に、涙が出そうになった。
だけど、ここで泣いてしまったら先生が困るから、必死で涙をこらえた。










いつも誰かに囲まれてた先生。
笑顔で、優しくて、温かくて、大好きだった。


私が伝えたこの気持ちは、貴方に傷を残してしまうのかもしれない。


優しい先生に、私の気持ちを背負わせてごめんなさい。
私の我侭で、あなたに悲しい思いをさせてごめんなさい。



けれど。



それでも、ありがとうって言ってくれた。
自分の気持ちを正直に、話してくれた。



貴方のクラスの生徒になれてよかった。
貴方に気持ちを伝えられて嬉しい。





貴方を好きになれて私は、幸せです。






























「・・・お前、もしかしてふられた?」

「・・・え?」





次の日、偶然学校に来ていた鳴海くんに声をかけられた。
・・・いきなり、何を言い出すのだろうこの人。・・・まあ当たってるんだけど。





「お前、ただでさえ暗いのに、さらに暗くなりすぎ!誰にだってわかるっつーの!」

「え?ええ??」





有希ちゃんも、ちゃんだって、そんなこと言わなかったのに・・・。
もしかして、私って顔に出やすい人なのかな・・・?





「・・・で?ふられたわけ?」

「・・・。」





少し、言いにくかった。
あんなに私の背中を押してくれた、『幸せになってもいい』と言ってくれた鳴海くんに
ふられたなんて言いにくくて。私は少し黙ってしまった。





「・・・よし!あのヘラヘラ担任に問いつめて「そうだよ!」」





鳴海くんはすぐ無茶をするから、つい言葉が出てしまった。
鳴海くんが不機嫌そうに、「ふーん」と呟く。





「何なのあいつ。生徒が必死で告ったっていうのに、ふりやがって・・・!」

「ううん。必死だったからこそ、正直に答えてくれたんだよ。」

「お前はものわかり良すぎ。俺みたいに脅してでも、ものにしてやるって思わないわけ?」

「・・・うん。気持ちを伝えることができて、それで・・・いいみたい。」

「みたいって何だよ。わけわかんねー。」

「何だろう。でもね私、今すごくすっきりした気分なんだ。
気持ちを伝えられて、嬉しい。よかったって、そう思ってる。」

「それが叶わなくても?」

「・・・叶えばいいと、そうも思ってた。
これからもっと、悲しくなるのかもしれない。寂しくなるのかもしれない。でも・・・。」

「・・・・何?」

「私は、一人じゃないでしょう?」





心から思う。こんなときに一人じゃなくてよかったと。
友達がいる。側にいてくれる人がいる。それだけで、私は元気になれるから。





「・・・あーもう!!バカじゃねーの?!このお人よしがよ!!」

「何でそんなに怒ってるの?鳴海くん?」

「うるせーな!いろいろあるんだよ!」

「・・・??」





鳴海くんが頭を抱えながら、いろいろ叫んでいる。
彼のこういうところは、昔からよくわからないなあ。





「いてやる!!」

「・・・え?」

「側にいてやるよ!お前が一人にならないように!!」

「・・・鳴海くん・・・。」

「一緒にいてやるよ。今までも、これからも。」

「・・・うん。ありがとう・・・。」





今までずっと側にいた幼馴染。
これからも変わらずに、側にいてくれる。

乱暴者と言われて、先生に目をつけられていて、怖がられていても
彼は昔と変わらない。素直になれないだけで、本当はとても優しい心を持っているんだよね。











たくさんの勇気をもらって、大好きな人に自分の気持ちを伝えた。

その想いは届かなかったけれど、それでも私は穏やかな気持ちでいられた。



それは、側にいてくれると怒りながら叫んだ、鳴海くんのおかげなのかもしれない。





だから私は大丈夫。





残り少ない、私の時間。
前を向いて、生きていける。






一人じゃないから。







側にいてくれる人が、いるから。

















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