恋愛勝利者








「うーわー!あっちい!!」

「確かになー。干上がるかと思った。汗の量半端じゃねえし。」

「シャワー浴びて外出ても、また汗かきそうだよな。」

「どっか店寄って涼んでから帰る?」

「あー、そうだなー・・・」





雨が降った後の夏日は、感じる暑さも倍増する。
練習がハードなのはいつものことだけど、これだけ汗をかいて、湿気のせいでベタベタになれば、
いつもよりさらに疲れたような気にもなる。
たった今シャワー室から出てきたの言葉に、まっすぐに家に帰って体を休めようか、
それともの言うとおりにどこかで涼んでいくかと思考を巡らせる。





「それかコンビニでアイス買うのもいいな!うん、アイス!アイスいいな!」

「ああ、まあいいけど・・・」

「この辺コンビニとかあんのかな?椎名たちに聞いてみるか!」





今日の東京都選抜の練習場所は、ちょっとした事情もあり、選抜メンバーも何人か通っている飛葉中だった。
駅で別れる俺たちがその途中に寄る場所を探すには、奴らに聞くのが一番早いだろう。





「何でもいいけど、はやく服着なよ。」

「だってあっちーんだもん。」

「見苦しい。」

「ええ?!この引き締まった体を見て何を言うのよ?!」

「はっ。」

「お前っ・・・ツンデレもほどほどにし・・・」





バンッ!!





英士との相変わらずの漫才を聞き流しながら、黙々と着替えていると、
の言葉を遮って勢いよく扉が開かれた。





「っーーーーー!!!」

「なんだよ結人・・・ってギャー!!きもい!抱きついてこないで!
裸に抱きつかれるとか本当きもい!やめて!!」

「助けてくれよー!なんとかしてアイツ!!」

「その前に俺を助けて!心が折れる!離れろおおお!」





パンツ一丁のに、結人が抱きついて離れないという異様な光景。
そんな光景にも冷静でいられる俺は、どこか心が麻痺してしまったような気もする。





「俺のことすごいバカにすんだよ、もーアイツむかつく!ちくしょう!」

「まあ結人がバカなのは事実だけど。」

「英士?!」

「そうだよお前、本当のこと言われて怒るのは子供な証拠だぞ?」

?!」

「・・・とりあえずから離れろよ結人。何の話か教えてくれないと、何も進まないだろ?」





こういうとき、俺も少しは成長したよなと思う。
少し前の俺だったら、こんなときは黙って事の成り行きを見守るか、その場からさりげなく去ろうとしていたかだ。
まあどっちを選択しようと、結局は巻き込まれることになるんだけど。
でも、ほっといたらほっといたで、話がどんどん脱線していくことも学んだから。
俺は冷静を保とうとする意志と、なんとか話を進めようとすることくらいは覚えた。





「何よかじゅま!冷静ぶっちゃって!」

「そうよかじゅま!お前にも抱きついてやろうか!」

「どうしたのかじゅま。何か悪いものでも食べた?」

「お前らその妙な団結力をやめろ!!」





覚えただけで、それを活用できるまでには・・・残念ながらたどり着いていないけど。





「で?何の話?アイツって誰?」

「それは・・・」





「ちょっと、いつまで時間かけてるわけ?」





結人が伝えようとする前に、開かれたままの扉の先から聞こえた声。
俺たちは視線をいっせいにそちらへと向けた。





「もう解散してるからってゆっくりしすぎじゃない?
他の奴らはとっくに帰ったよ。もう少し周りの迷惑ってものを考えて行動したら?」

「椎名!」





東京都選抜のメンバーでもあり、飛葉中サッカー部キャプテンの椎名だ。
そう、練習が終わり解散もしたけれど、一部の奴らはあまりの暑さと湿度に備え付けのシャワーを借りることにしたのだ。
それほど広くないシャワー室を順番に使い、俺らが最後だったわけだけれど。





!アイツアイツ!椎名だよ!俺のことをバカにしたの!」

「はあ?」

「何言われたんだ?」

「俺が上原たちに彼女の話を・・・」

「あーもういいや。」

「え、ちょ・・・?!」





あまりにも毎度のことで、も結人が何に騒いでいるのか予想がついたんだろう。
言葉を遮り軽くあしらうと、結人を引き剥がしにかかる。





「お前の彼女ののろけ話はもういいっての。つーかもう本当離れろ〜!」

「まだ何も話してねえだろ〜?!聞けよ、聞ーけー!」

「は、離れねえ・・・!
こんなところで無駄な力使わなくてよくない?!そのパワフルさを試合に活かせばよくない?!」

「何でもいいから早く出て行ってくれる?」

「〜〜〜!椎名ってばさっき熱血くんのことバカにしてたんだぞ!それでもいいのか?!」

「なんだと?!それは聞き捨てならねえ!熱血くんは俺たちのバイブルなのに!」

「そうだよ!だからビシッと言ってやってくれよ!」

「おう!任せろ!」

「どうでもいいから服着なよ。」





・・・そうか。結人よりも熱血くんなのか。そうなのか。
ちなみに熱血くんとは俺らの世代になぜか人気のギャグ漫画だ。
熱血くんと言えば大体通じるくらいの知名度。本当なぜだかわからない。
まあ確かに夢中にさせる何かがあるのは確かなんだけど・・・って、そんなことはどうでもよくて。
とりあえず、もう何がなんだか訳がわからないけど、は結人側につくことになったのだった。
















「椎名・・・俺らのバイブルをバカにするとはいい度胸だな・・・!」

!先に俺の話!」

「一体何の話?くだらないことで時間使わせないでよね。俺、もう帰りたいんだけど。
それとも何?家に帰るより有意義な話と時間をお前らがくれるわけ?」

「ぬう・・・!お前さっき俺のことバカにしただろ?!俺は怒っちゃったぜ!」

「怒らせるようなことしたっけ?全然記憶にないけど。」

「俺が彼女の話してたら、横から鼻で笑ってバカじゃないの、とか言ったじゃねえか!」

「ああ、あれ?あまりにバカバカしくて。」

「それだよそれ!その態度がむかつくんだよー!」





・・・いや、確かに椎名もいきなりそんなこと言ったんだったらひどいかもしれないんだけど・・・。
でもさ、それっていつもや英士に言われてることじゃね?





「若菜っていつも自分の彼女の話してるよね。
彼女が機嫌悪くしたとか、怒って話してくれなくなったとか、避けられてるとか。」

「そ、それがなんだよ・・・!」

「そんなに彼女の機嫌を窺ってばかりで楽しいのかって思っただけだよ。」

「別にそれだけじゃねえよ!ていうか、好きなんだから、悩むのだって当たり前だろ?!」

「悩む原因が問題なんじゃない?そんなにしょっちゅう彼女を怒らせてるわけだろ?
それで誰かに泣きついて、関係が修復したと思ったらまたケンカしたって落ち込んで。学習能力ってものがないよね。」

「・・・っ・・・!」

「俺だったら機嫌とりなんかしないね。不安にもさせない。
だから、しょっちゅう悩んでる若菜がバカらしく見えたってだけ。何か間違ったこと言ってる?」





それまで散々騒いでた結人が二の句をつげなくなってしまった。
椎名の言ってることはかなりきついけど、正論だって言えなくもないもんな。





「くそう・・・なんだよもう!なんとか言ってやってくれよ、ー!」

「えー。」

「自分は女を知ってる風に語ってるけどなあ・・・!の方がすげえんだぞ!いろんな経験してんだかんな!」

「別にそんな風に言ったつもりはないけど、こういうことは数の問題じゃないだろ?
なんの自慢にもなってないね、それ。」

「ぬおおおっ・・・!」

「あー、結人くん。君はもう黙ってなさい。」





これは負けるわ。結人がに泣きついてきたわけがわかった。
とりあえず持ってる武器を投げつけてみたけど、使い方が間違ってるような。
そもそも持ってる武器の威力も数も、椎名とは全然違いそうだけど。





「・・・椎名!」

「・・・なに?」





が椎名に詰め寄り、両肩を掴む。
真剣な表情でまっすぐに見つめると、椎名が身構えるようにして顔をしかめた。





「お前、彼女いたの?!」

「・・・はあ?!」





張り詰めた空気が一気に崩れていくのがわかる。
予想していた質問とは違っていたんだろう。椎名が間抜けな声をあげた。





「なんだよー!集まったときに話振っても全然のってこないから、いないのかと思ってた!」

「関係ないだろ?!わざわざそんな話しないし、する必要だってないね。」

「なあ、どんな子?!どんな子?!」

「だからお前に関係ないだろ?!」

「ちょ、、俺の話は?!なんで椎名の話になっ」

「英士、一馬!」

「・・・はあ。」

「・・・了解。」





予想外だったのは結人も同じようだ。俺と、きっと英士もだけど。
そのことを問い詰めようと二人に近づいた結人を俺たちで止める。
・・・名前を呼ばれただけで、意志が通じてしまうというのもどうだろうかと思いつつ。





「椎名が彼女に選ぶくらいだから、すげえいい子なんだろ?」

「まあね。」

「で、椎名が彼氏だから不安にもさせないと。」

「それも当然。若菜の話を聞いてたら、彼女の方が可哀想で仕方ないよ。」

「ちなみにどんな子?」

「だから、お前には関係ないだろって・・・」

「えー、じゃあ畑とか井上とかに聞いちゃうぞ!いいの?!
変にひんまがったイメージとか持っちゃうかもしれないわよ!」

「・・・柾輝に聞くって言わないところが、リアルにそうなりそうで嫌なんだけど・・・!」





目を輝かせて笑うを見て、椎名は呆れたようにため息をつく。
そして面倒そうな顔を浮かべつつ、小さく口を開く。





「別に普通だよ。」

「何かっこつけてんだよー!自慢すりゃいいじゃん!
俺の彼女は世界一だぜ!完璧だぜ!って言えばいいじゃねえかー!」

「相変わらずくだらないこと言うよね、若菜。」

「ああ?!」

「本当に普通だよ。完璧なんかじゃ全然ないし。
それどころか、泣き虫だし行動は遅いし騙されやすい。」

「は・・・?」

「自信はないし、頑固だし、こうと決めたらそれしか見えないような、面倒なところもある。」

「お前・・・それ、けなしてね?」

「別にそんなつもりは全然ないよ。事実なだけ。若菜がアホなのと一緒なだけだよ・・・って
比べるのも失礼だね。彼女に。」

「ああ?!」

「・・・ていうかそんな風に言って、本当に不安にさせてないって言えるのかよ・・・?」

「不安にさせてないとか椎名の思い込みじゃないの?
もう彼女はうんざりしてるとか。俺だったら絶対に嫌だね。」

「お前らの考えでものを言わないでくれる?ていうか何でこんな話になってんだよ!」





「翼。こんなとこで何やってんだ?」

「柾輝。」





俺らとずっと話し込んでいた椎名は、まだジャージ姿だったが、
すでに着替え終え、帰り支度もしていた黒川がそこに現れた。





「あれ?こっちに来なかったか?」

「え?誰が?」

「誰がって・・・」





黒川の言葉に何か気づいたかのように、椎名が辺りを見渡す。
俺たちは何のことかわからないまま、椎名の目線を追った。
そして椎名はある一点・・・更衣室近くの壁裏に向けて歩き出した。





「・・・何やってるの?」

「きゃー!!」





そこに隠れていたらしい女の子が悲鳴をあげて、椎名に引っ張りだされるように姿を現した。
俺たちの姿を見て、バツが悪そうに視線を逸らしたけれど、無理やりに椎名の方へと顔を向けられる。





「いるならいるで声かけなよ。何で隠れてたりしたわけ?」

「あ、あの・・・知らない人ばかりいたし・・・その、邪魔になると思って・・・」

「まったく・・・こんな奴らのことなんか気にしなくていいのに。」

「・・・う・・・うん。」





もしかして・・・椎名の彼女か?
なんだか随分大人しい子だ。こんな子が椎名の彼女なんてやっていけてるのだろうかと疑問に思ってしまうくらい。





「・・・随分大人しいし、なんでさっきから俺を見ないわけ?」

「・・・。」

「あ!もしかして、俺らの話聞いてた?!」

「!」





の言葉に彼女がビクリと肩を揺らした。
どうやら言葉が少なかったのは、どこか気まずい思いをしていたからのようだ。
静かに一歩ずつ、後ろへと後ずさっていく。





「・・・また何か変なこと考えてない?」

「べっ・・・別に・・・」

「隠せてないのに強がるなよ。はっきり言いなよ?何?」

「・・・っ・・・」





椎名に詰め寄られ、俺たちに凝視され、彼女の顔が見る見る赤くなり強張っていく。
まあ当然だろう。俺だって同じ状況に立たされたら嫌だもん。
こいつらそういうのわかってんのかな?・・・わかってねえんだろうなあ・・・。





「・・・どうせ・・・・・・だもん・・・」

「え?」

「どうせ普通だもん!とろいしアホだし面倒な奴だもんー!!翼のバカー!!」





捨て台詞のような言葉を残し、彼女がものすごい勢いでその場から駆け出した。
そんな彼女を追いかけることもなく、さらには焦る様子も見せずに一呼吸おくと、俺たちへと向き直る。





「で、本当にそろそろ帰ってくれない?」

「ええ、いいの?!今の彼女だろ?!ほっといていいの?!」

「そうだよ!泣き虫とか騙されやすいとか面倒とか、全部聞かれてたってことだよな?!」

「あーあ、お気の毒。次の出会いを探す準備でも始めたら?」





さっきまで言い合ってた結人でさえ心配してるのに、英士の相変わらずさときたらもう・・・!
けれど椎名はそれを聞いていたのか、いなかったのか、何事もなかったかのような表情を浮かべていた。





「・・・。」

「なに?。」

「・・・楽しそうな顔してるなーと思って。」

「そう?」

「椎名ってもしかして、好きな子はいじめちゃうタイプか?」

「あんなのいじめたのうちに入らないよ。」

「えー。」

「・・・まあ、俺の一言に一喜一憂して、慌てたり戸惑ったりするのを見るのは面白いって思うけどね。」

「「「・・・。」」」

「SHIINAのSはドSのS・・・」

「妙なフレーズつぶやかないでくれる?!」





心配するだけ無駄だったみたいだ。
椎名の口調からして、先ほどのことなんて日常茶飯事ってくらいなのかもしれない。
隣にいる黒川も呆れた顔はしてるけど、心配はしてなさそうだし。





「まーいいや。俺らももう帰るし、後追ったら?丁度よく黒川もいるから後のことは任せるってことで。」

「そもそもお前らが余計な話をしてこなかったら、面倒なこともなかったんだけど。」

「うーわー、すいませーん。」

「いいよ翼、ここは気にすんな。アイツ、たぶんお前のこと待ってるだろうし。」

「そう?じゃあもう少し待たせ「いいから行ってこい。」」

「椎名のSは、」

「それはもういい。翼、行け。ていうか行ってくれ。」


「まあ、ここでこんな奴らの相手してるよりもよっぽど有意義だね。」

「ああ?!なんだと?!」

「お!そうだ、椎名。」

「何?」





走り出そうとしたところにが声をかけ、椎名が振り返った。
はチラリと結人に視線を向ける。





「結人はアホだし、学習能力ないけどさ。」

「は?!?!」

「それも結人のアジだと思うわけよ、俺は。」

「・・・ふーん?」

「確かに彼女が我慢してる部分もあると思うけど、そういう結人を見放さない彼女を見つけて、
付き合えたっていうのも、結人だからこそだと思うんだ。」

「・・・。」

「その辺は椎名と一緒じゃね?椎名だから、見つけられた子っていると思うし。」

「一緒じゃないよ。ていうか、一緒にしないでほしいんだけど。」

「そんな感じだから、これからはお手柔らかにしてやってよ。」

「さあ?どうなるかは知らないね。」

「ま、その辺は任せるわ。それよりも彼女大切にしろよなー!Sもほどほどに!」

「言われなくても、とっくに。あと一言余計!」

「そっか。ははっ!」

「・・・相変わらず食えない奴だな。わかった風な顔しないでよね。」

「おうよ、わかってまっす!」





が椎名に何を言いたかったのか、黒川が面白そうに笑っているのか、英士が呆れているのか。
俺と結人はいまいち理解できないまま、椎名の後ろ姿を見送った。





「・・・なんかよくわかんねえけど、、今俺のこと褒めた?褒めたよな?な?!」

「え?何が?全然?全く?」

「ちくしょおおおお!!」


















「・・・なあ、椎名がSっていうのはわかったけど。」

「まだそれ引っ張るのかよ。」

「でもさー、彼女の方はやっぱ可哀想じゃねえ?
あんな風にけなすみたいなの聞かされてさ!俺が同じことやったら1週間くらい口聞いてもらえねえよ?!」

「まー確かになー。頑固だとか面倒だとか堂々と言いすぎかもとは思った。」

「ですって。実際どうなんですか、黒川くん。」

「・・・俺にふるか。まあ・・・俺は別に可哀想とは思ってないけど。」

「なんで?!あ、あれか!椎名が彼女を構いたいがために言ってるだけで、本音じゃないってわかってるからとか?」

「いや、あれはあれで本心だろ。」

「本心なの?!」





俺も正直、結人と同じことを思ってた。
確かにあの様子じゃ、彼女の機嫌取りなんかしないのかもしれないけど、
不安にはさせてるんじゃないだろうか。結人のことをバカにできるのかって。





「あー、椎名って嘘つかないもんな。何でも堂々と言うっていうか。」

「え?」

「彼女に対して泣き虫とか面倒だとか思ってることも本当だし、
逆に堂々といい子だって言ってたのも、大切にしてるって言ってたのも本当なんだろ?」

「なんだよ、どういう・・・」

「はやい話がそういうの全部ひっくるめて、それでも手放せないほどに、好きで仕方ないってこと。」





人を馬鹿にするみたいに偉そうに、結人のことも、彼女のことも話していたから、
あまり伝わってこなかったけれど。でも確かにアイツ、すごい堂々と彼女のこと話してたな。
悪く見えるところが多く聞こえたのは、照れ隠しだろうか。面倒と言った椎名こそなかなか面倒な奴だと思う。





「で、さっきみたいに不安にさせたとしても、すぐに取っ払う自信があるんだろ。
だから『不安になんてさせない』ってわけだ。どうですか!黒川くん!」

「・・・いいんじゃねえ?好きに考えれば。本当のところがわかるのは本人たちだけだしな。」

「いいこと言った!椎名に何言われたって、大事なのはお前と彼女の気持ちだってことだよ、結人。」

「え?・・・あー!そっか!うん!」

「お前、何で俺らを巻き込んだのか忘れてただろ?」

「そ、そんなことねえよ!うんうん!大事なのは俺たちの気持ちな!」

「「「・・・。」」」




















更衣室から出て、俺らを正門まで送ってくれた黒川と別れ、俺たちは駅に向かって歩いていく。
道の途中で黒川に教えてもらったコンビニで軽く休憩を取りながら、結人が思い出したように呟いた。





「・・・なあ、結局椎名ととどっちが勝ったんだ?」

「・・・あれって勝負だったの?」

「勝負だよ!俺の傷つけられた心の仇をがとってくれる話だろ?!」

「なにその妄想。」

「もうそんなのどうだっていいだろ?」

「なんだとー!」





冷たいアイスをかじりながら、気づけばが空を見上げていた。
流れる雲を眺めて何も考えていないようにも見えたけれど、その後にすぐ、小さく数度頷いた。





「彼女だな。」

「「は?」」

「勝者、椎名の彼女!」





ぽかんとした表情を浮かべる俺たちに向けて、は面白そうに笑った。





「なんだかんだ言って椎名は、彼女に叶わないと思います!」

「確かに余裕そうに見せかけて、追いかけたいってうずうずしてたよね、あれは。」

「・・・俺らも彼女が逃げ出したとき、すごい心配になったな・・・。
それまで対立してた椎名の彼女だというのに・・・!」

「対立してたのはお前だけだけどな。」

「でも椎名ってあれだけ彼女を蔑ろにしてたんだぜー?それが見せかけだとしてもさ!本当に叶わねえって思う?」

「バカだな結人。Sは何気に打たれ弱いんだよ!M側が本気になったらSなんて一発ノックアウトだ!

「・・・なるほど!なんか深い!!」





なるほど!じゃねえよ。深くもねえよ!なんだその理屈!














アイスもあっという間に溶けてしまいそうな、暑い夏の日。
こんな日でも友達とアイスを食べながら笑いあっていると、時間はすぐに過ぎていく。





「ああああ!!!」

「なっ、何だ!どうしたんだよ?!」

「ちょっと待て!メインが伝わってねえじゃんかあ!!」

「は?」

「熱血くんの良さを全然伝えてねえええ!!」

「「・・・。」」

「わあああ!!ごめん!俺も次は一緒に戦ってやるから!!」

「それはいらない!!」

「なんで?!」





・・・たまに暑苦しいことになるのが、残念なところではあるけれど。



まあ、それももはやいつものことで。



アイスを食いきったら駅に向かおうと話していたのに、どうやら今日も帰りの時間は遅くなりそうだ。







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