「おかしい・・・!」
「いつものことじゃん。」
「何が・・・って俺か!?俺がいつもおかしいって言いたいのか!?」
「・・・。」
「真顔はやめて。」
「・・・。」
「悲しそうな顔も!」
「・・・。」
「良い笑顔を浮かべんな!!」
「・・・。」
「蔑むのもやめろーーーー!!!」
休憩中に半ば強引に集められたメンバー。谷口の一言に言葉では無く、表情で返す俺たち。
それぞれの表情を浮かべているのが誰かわかるだろうか。谷口の勢いに任せた相談に、俺たちもだいぶ慣れた。
と郭は最初からこうだったから、気苦労もなにもないんだろうけど。
ていうかこんな目にあっても、懲りずに相談を続ける谷口のメンタルも相当なものだと思う。
「前にがアドバイスくれたじゃん?伊賀みたいな男を目指せって。」
「ああ、谷口にはハードル高すぎたよな。ごめんな。」
「なんでそんな深刻そうな顔すんの!?」
「そうだよ。人には持って生まれたものがあるんだから、希望だけ与えて無理難題を言うなんて。」
「いや、俺は無理難題とは思ってな・・・」
「そうだよな・・・。谷口が伊賀を真似したって笑いにしかならないってわかってたのに・・・くっ・・・!」
「くっ・・・!じゃねえよ!いや、俺頑張ってるよ!?日々良い男目指してるんだから、無理なんてこと・・・」
「本人がそう思うなら止めないけど。」
「谷口・・・!どんなに報われなくてもお前の雄姿は忘れない!!」
「ぐっ・・・うっ・・・うおおおおおおん・・・!!」
「谷口!!しっかりしろ!!いつものことだろ!?この二人はいつもこうだろ!?」
「そうだ!気をしっかりもて!そのうち慣れるから!慣れるまでの辛抱だから!!」
強いと思ったメンタルもあっという間に崩れた。
まあ仕方ないと思う。多少耐性はついてきたとはいえ、俺や上原だっていつも崩されかけてる。
それでも何度も頼ったり相談したりしてしまうのは、なんだかんだで問題解決に向かうことが多いからだ。
この毒舌を乗り越えることで、道が開けるって
・・・なんだろうこれ、なんの試練?
「伊賀を観察して、男力をあげようと思って。」
「伊賀が悪寒がするって言ってたのはお前が原因か。」「だってが見本にしろって!!」
「俺は・・・なんてことを・・・」
「でも、おかしいんだよな・・・。俺はあいつの行動を見てきゅんきゅんするのにさー。」
「だからお前からその擬音を聞きたくないんだってば。あ、あっくんならいいよ。」
「お、俺を巻き込むな・・・!」
「いいからいいから。試しに言ってみろって。」
「いやだよ!」
「谷口と比較して、本人にわかってもらいたいんだよ!!」
「な、なんでそんなこ・・・」
「いいから!!」
「き・・・きゅんきゅん・・・する・・・」
「よし、お前の彼女に報告しとく!!あっくんがきゅんきゅんって言ったって伝えとく!!」
「なんで!?やめて!!洒落にならないんですけど!!」
「大丈夫!!」
「なんの根拠があるんだよ!?」
「つーか脱線してる!!俺の話を聞いて!!」
谷口が縋り付くように話に割り込んだ。
そうなんだよな。谷口の相談なのに、いつの間にか話が脱線して別の奴が巻き込まれるんだ。
を止められるのは郭だと思うけど、郭は我関せずだし。それどころか顔に似合わずたまに乗っかってくるし。
「さりげなく重そうな荷物持ったり、困ってたら手助け申し出たりもしてるんだけどさ。いまいち効果が出ないっていうか・・・むしろ気味悪がられたりしててさ。なんでだと思う?」
「顔?」
「顔は関係ないんだろ!?顔だけじゃないってそう言ってただろ!?」
「いやあ、なんて言うかさ。」
「うざったいからね。」
「郭・・・!なんでお前はそういつもいつもさー!」
「・・・。」
「無視!?」
「谷口、落ち着けって。えーとほら、やっぱりいきなり行動したって、慣れないっていうかさ。」
「そうそう。最初からそのキャラだったならともかく、突然はさ。皆びっくりするじゃん!」
「桜庭・・・上原・・・」
谷口の中で俺らは多分、すごく良い人認定されている気がする。
まあ、この二人の前では大体そうなりそうだ。容赦ってもんがないもんなー。
ある意味、正直だからこそ信用できるとも捉えられるけど。
「しっかしクラスの女子、ひどいんだぜ!谷口のくせにとか、気持ち悪いーとか、なに企んでんの?とか言うの!」
「実際企んでるからなあ。」
「企んでねえよ!ただ俺は男子力をあげたいの!」
「それはつまり?」
「モテたい!!」
「それって企んでるうちに入らないの?」
「うるせえ郭!イケメン!!俺の気持ちなんてわからないくせに!!」
「英士、褒められたよ。」
「谷口に褒められてもね。」
「うがーーー!!!」
「都合が悪くなると叫ぶのはイケメンなの?」
「ふぬーーーー!!!」
「そろそろ本気でやかましいぞ谷口!よし、ここはお手本に答えを聞いてみようぜ!」
「伊賀に?」
「おーい!伊賀ー!!」
少し離れた場所で休憩していた伊賀に声をかける。
満面の笑みで手を振るに気づくと、伊賀がこちらまで歩いてきた。
「なんだ?」
「谷口がさー、重そうな荷物持ったり、困ってたら手助けしたりしてるのに、女子にモテないって嘆いてるんだけど、なんでだと思う?」
「なんでって・・・ていうか、なんで俺に?」
「だって伊賀何気にモテてんだろ!?俺も同じことしてんのに、全然成果が出ないんだよ!他にも何かしてんじゃないかって思って・・・」
「別にモテねえよ。つーか、困ってたら助けるのなんて当たり前のことじゃん。」
「え。」
「女子とか男子とかじゃなくて、目の前で困ってたら手を貸すくらいするだろ。モテるとかモテないとか関係なくないか。」
「・・・えっと、」
「だから、俺から言えることなんてないよ。それに、お前いい奴なんだから、特別なことしなくたってわかってくれる奴はいくらだっているだろ?
俺は、不特定多数よりも自分をわかってくれる奴らに好かれていたいと思うけど。」
「・・・っ・・・い、伊賀っち・・・!!」
「なんで突然その呼び方になった?」
からかわれてばかりでなかなか優しさに触れられない谷口がえらく感動している。
感動のあまり、呼び方が変わってしまったくらいだ。もそう呼んでたことがあるけど
・・・なんでだろう。谷口が言うとなんとも言い難い気持ちになる。
その証拠に、これまで優しかった伊賀も若干引いてる。
「わかったか?谷口。」
「伊賀にときめいた。」
「気持ち悪い。」
「なんで!!」
「下心があって人に優しくする奴と、それが当然と思って自然に人に優しくできる奴。どっちが魅力的かって話。」
「ぐっ・・・」
「女子なんて特に、そういうの鋭いからな。お前が何を考えてるかわかっちゃうんだよ。」
「じゃ、じゃあどうすれば・・・!」
「それは、お前が自分で答えを見つけるんだ・・・!そうじゃなきゃ意味がない!」
「・・・!」
「「「・・・。」」」
「お前ら皆、同じ表情してるけど、どうしたの?」
伊賀が不思議そうに俺たちを見た。
郭とまで表情も心情も一緒になるとは珍しい。
「谷口!お前ならやれる!」
「・・・!俺、頑張るぜ!!」
さながら青春ドラマのような二人を見ながら、俺たちの心は一致していた。
ああ、面倒くさくなって、また煙に巻いて誤魔化してるんだな。と。
しかし、相談前の曇った顔は晴れやかになり、やる気を取り戻した谷口を見て、
これでよかったんだろうと思ってしまう俺たちも、や郭に感化されてしまっているのかもしれない。
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