「一馬って写真うつり悪くね?」

「・・・は?」





この間遊んだときに撮った、焼き増しの有無を確かめるために持ってきた写真を眺めながら、結人が呟く。
写真を1枚1枚めくり首をかしげて、ほらやっぱり、とこちらを振り向いた。





「なあ英士!一馬って昔はもっと写真うつり良くなかった?」

「言っておくけど、結人も自分が思ってるほど格好良くないよ。」

「なあ俺ちょっとした世間話しようとしてるだけなんだけど。どうしていきなり攻撃してきたの?俺の胸をえぐるようなこと言ったの?」

「確かに、真顔とか、しかめっ面が多いよね。」

「それだよ!その回答が先!さっきのは何なの!?」

「なんだよ急に・・・俺、別にそういうの気にしたことないぞ?」





写真写りなんて特に意識したことは無くて、けれど、昔から俺を知る結人と英士の意見は一致しているようだ。
結人の持っている写真を俺も覗きこむ。・・・真顔がどうとかよりも、写真に写る自分を見るのは気恥ずかしくて少し苦手だ。





「なあ、!見て見て!一馬って写真に真顔が多いんだけど、なんでだと思う?」

「ん?どれ?」

「これとか、これとか、これとか!」

「あはは!結人が半目ー!」

「なんなのお前ら!俺を貶める打ち合わせでもしてんの!?」

「確かに笑ってるのが少ない!お兄さん悲しい!」

「いつ俺の兄ちゃんになったんだよお前。」

「昔はさ、すっげー満面の笑顔で写ってんのとかもあったんだぜ?」

「なにそれ見たい。俺の知らない一馬見たい。」

「今度持ってくるわ。」

「じゃあ俺も。」

「やめろ!嫌な予感しかしない!」





昔は満面の笑顔だった、なんてよく覚えてるよな。
昔から一緒にいるんだから、写真うつりなんて少なからず変わると思うけれど、こいつらがネタにするくらい、俺に変化があったということなんだろうか。





「まあ、なんとなくわかるような気もするけど。」

「さすが!一馬にどんな心の闇が!?」

「勝手に闇をつくんな!!」

「俺、今日デジカメ持ってるから試してみようぜ。ちょっと待ってて。」





そう言うとは鞄の中からデジカメを取り出し、俺たちにレンズを向けた。
突然のことに驚く俺と違い、結人は慣れているのか反射的にポーズをつくり、英士は悟ったようにため息をついた。





「ほら一馬、笑って笑って!英士も笑って!」

「えっ・・・いきなり言われても・・・」

「結人が必要以上に決めポーズとってるから、別にいいでしょ。」





パシャッ





シャッター音が鳴り、が今撮った写真を確認する。そして納得するように頷いた。






「なあ結人!お前また半目!!決めポーズで半目!!」

「頷いたのそれ!?もう俺のことはほっておいてよ!!」





だったら俺の写真うつりのこともほっておいてくれねえかな。
でも言ったところでどうせ却下されるし、今の結人以上に絡まれることがわかってるから言わないけど。





「まあまあ、見てごらんなさいな。」





が撮った写真画面を皆で覗き込む。
そこには、一人だけポーズをとったのに肝心なところで気を抜いて半目の結人。
カメラ目線ではあるけれど、やる気がまったく感じられない英士。
そして、突然カメラを向けられ、笑えと注文され、どうしていいのかわからない俺の苦笑いが写っていた。





「早い話が一馬、写真が苦手なんだろ。」

「えー!昔は平気だったのに?それに一馬、俺らとだったらあんまり嫌がんないじゃん。」

「平気は平気なんだろうけど、あれだよ。写真を撮るときの"間"に弱い。」

「間?」

「普段の写真でも記念写真でも、カメラを向けてから実際撮るまで、数秒間だけどちょっとした時間が発生するだろ?
その時間、写真用に作った笑顔が持たない・・・というか、そもそも作り笑顔が下手なんだろうな。」

「ああ、なるほどね。」

「だったら最初から笑顔を作らなければ迷うことはないってことで、基本真顔。笑えーって言われたときは一応笑おうとするから、苦笑いかしかめっつらか、その中間の中途半端な顔になるってわけ。」

「でも昔は大丈夫だったのはなんで?」

「小学生の頃だろ?今よりも勢いでなんとかなるからな。たとえば周りとギャーギャー騒いでるところに、今から写真撮るって言われたら、その場の勢いで表情豊かなまま撮れたりするじゃん。笑ってなくても、ちょっと照れてて感情が読みやすい表情とかさ。」

「そういえば昔の一馬は今よりも単純ですれてなかったもんね。」

「英士!?」

「小学生の頃は、写真を撮られるってことで変に意識したり、構えたりしなかったんじゃない?」





自分で意識していたわけじゃなかったけど、確かに俺はあの間が苦手だ。
藤代とか結人とか鳴海とか、あんな決め顔とかポーズして、よく耐えてられるなと感心する。
笑えと言われて、それに応えようとしてたのが裏目に出てたってことか。





「たかが写真に悩むって、一馬らしいと言えば一馬らしいよね。」

「別に悩んでたわけじゃ・・・って、英士、お前だって写真で笑ってること少なくねえ?なんで俺ばっかり言われてんだよ!」

「それはもう、あれだよ。キャラの違い。」

「キャラ!?」

「英士、基本は表情豊かじゃないじゃん?まあ俺からすればすごくわかりやすいし、ちょっとした表情でも伝わるけどね?」

「そういうのいいから。続き。」

「なんだよ。デレろよ。」

「は?」


「・・・見た目も物静かそうだし?だから、写真で表情無くても自然に見られるんだよ。」

「お、俺だって・・・」

「お前は人見知りでとっつきづらいだけで、むしろ表情にめっちゃ出てる奴だからね。」

「くっ・・・!」





くそ、なんてこというんだ・・・!でもまったく否定できない・・・!
べ、べつにいいんだよ!わかってくれる奴らがいれば、俺はそれで・・・





「でもさあ、俺、ちょっと悔しいよ。」

「え?」

「なんだかんだ言っても、一馬っていい奴だしかっこいいじゃん?写真だけ見た奴に印象悪く持たれるのは嫌だなー。」

「・・・な、なに言ってんだよ!」

「写真って残るものだし、さっきみたいに思い返したときに、やっぱり笑顔の一馬であってほしいとも思うもん。」

・・・」

「たとえば一馬をリラックスさせて自然な一馬を撮ったり、カメラを向けられたときのことを練習したりさ。苦手意識を克服していくとか出来ないかな。」

「そうだね。俺も協力するよ。」

「英士・・・」

「俺もするかんな!!」

「結人・・・」

「なあ一馬!俺ら一馬のこと好きなんだよ!だから協力させてくれ!」

「お・・・お前らっ・・・!!」





一見どうでも良さそうなことなのに、いつも人のことをからかっては笑ってるくせに。
どうしてこういうところでは団結力が強いのか。妙なところで気遣い屋というか。
少し気恥ずかしかったけれど、あいつらがここまでやる気になってるんだ。付き合わないわけにはいかない。

それに俺だって、あとで笑われる写真ばかりじゃ、やっぱり嫌だしな。









「はーい!それじゃ撮るぞー!!顔の角度は?」

「右斜め45度!!」

「そしてー?」

「あごを引いて、レンズの少し上を見る!!」

「さーらーにー?」

「笑顔!楽しいことを思い出せ!それでも笑えなければ奥歯を強く噛むか、舌を下の歯に押し付ける!」

「さっきからなんで結人ばっかり答えてんだ!一馬はどうしたー!!」

「・・・。」

「そんな疲れた顔していい写真が!いい笑顔が!!撮れると思ってんのか!!」

「違うよな?なんか違うよな!?お前ら結局、俺をからかって遊びたかっただけだよな!?」

「おっ前・・・!俺たちの友情を甘くみるんじゃねえよ!!お前のことが大好きだって言っただろう!!」

「うっ・・・ぐ・・・もう!なんなんだよお前らはー!!」





人をからかって遊びたかったのか、という質問にまったく触れられていないことに気づかず、結局こいつらのペースに乗せられてしまう。
散々注文をつけられてシャッターが切られ、ようやくこのくだらないやり取りから解放された。





「腕は前に出せって言ったじゃん!小顔効果があんだぞ!」

「女子か。」

「はっはー!と俺だけ顔がちっちゃく見えちゃうな!」

「ああ、俺も一馬も結人よりは顔小さいから同じくらいになったかもね。」

「!!」

「つーかこれ、英士、すげえ写り良くない?角度ついて、笑顔もそこそこ・・・って、はっ!!」

「ふーん。結構変わるもんだね。」

「もしや、お前・・・!さっき一馬に言ったこと実践しただろ!!」

「さあ?」

「やだこの人!どうでもいいって顔しながらあざとい!!」

「で、肝心の一馬は?」





そこには疲れながら、いつまでもからかうように注文を続ける結人とに、怒りをぶつけている俺の姿。
なんだこれ。さっき言ってた笑顔とはほど遠いじゃねえかよ。





「これぞまさに自然な一馬。」

「いや、無理しなくていいよ。失敗でしょこれ。」





まるで女子がプリクラでも撮るようなポーズをきめている結人と、二人に囲まれるように中央に立つ英士はめずらしく格好つけてて、俺は一人で怒鳴っている。





「なんだよこれ!」

「ふはっ・・・見事にばらばら!」

「まあ、いつものことじゃない。」

「そうそう!楽しかったからいいじゃん!」





笑いながら文句を言い合っていたのに、なぜか俺はその写真が気に入った。
あとで笑われる写真は嫌だけど、一緒に笑える写真ならば、悪くは無い。



その後、がいたずらめいた表情を浮かべ、もう一枚の写真を表示した。
セルフタイマーを使って、失敗したからもう一回とか、何回か繰り返していたけれど、他にも写真を撮っていたらしい。

そこには、気兼ねもせず屈託なく笑いあう、いつもどおりの俺たちの姿が写っていた。





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