「俺的にはありだと思うんだけどなー。お互い緊張してるってのも可愛いと思うよ。」

「そりゃ俺が可愛いことくらい知ってるけどさ!」

「お前じゃねえよ。」

「だって、やっぱり彼女の前ではいつだってかっこよくありたいっていうか?」

「ははっ、かっこよくありたいって、もういろいろ今更じゃん?」

「爽やかに笑いながら全否定すんな!!」





用があって少し遅れた俺を待っていてくれたのはわかる。
しかしこの二人はいつもやかましいな。往来で一体何を騒いでいるんだか。





「別にいつだっていいんだよ。隣歩いてたら、自然に近くなるわけだし。
不自然になっちゃうのは、緊張して空回ってるだけだって。」

「だってさ、そのタイミングってのが掴めないんだよ。なんでかちょっとギクシャクしちゃうんだもん。」

「別に絶対この時!ていうのが決まってるわけでもないしなー。やっぱり経験じゃねえ?」

「その経験がないから困ってるのに!」





いまいち話の意図が掴めない。
これ以上二人の会話を眺めていても無意味だろう。俺は二人に声をかける。





「二人とも何やってるの?」

「お、英士!おっつー!」

「ちょっとな、に講義を受けてた!」

「講義って何の?」

「えー・・・それはちょっと恥ずかしいっていうか・・・」

「彼女と手をつなぐタイミングが掴めないんだって。」

「い、言わないでよ!ひどい!」

「きもいわー。」

「ひでえ!!」





どうせくだらないことだろうと思っていたけど、やっぱりどうでもいいことだった。
他人の恋愛話とかどうでもいいし、早いとこ話を切り上げて、違う話に持っていきたいところだったけど・・・。
こうなった二人を止めるのも面倒だし、もう少し様子を見ていることにした。





「彼女に笑われたとか、いっぱいいっぱいなところがバレたとかじゃないんだろ?じゃあ別にいいじゃん。」

「俺は余裕を持ちたいの!余裕の男・若菜結人になりたいわけ!わかる!?」

「知らん。」

「たとえばさ、隣を歩いてても、手つなごうつなごうと意識集中させてるから、会話そっちのけで彼女の手ばっか見ちゃうわけですよ。
そしたら話聞いてたの?って怒られるし!!手つなぐどころじゃなくなっちゃったし!踏んだり蹴ったりだよ!!」

「お前はあれだよな。エロいことばっか考えてると思ったら、妙なところで純情だよな。」

「そうなの!俺ってピュアなの!」

「あっはっはー。もういいかな、行こっか英士。」

「そうだね。」

「おいいいい!!!」





やっぱりも面倒だったらしい。
適当に話を切り上げると、なにやら叫んで怒ってる結人はお構いなしに、俺の方へ体を向け話し始めた。





「なんだよ!俺の師匠じゃなかったのか!」

「一馬は連絡ついた?」

「ああ、うん。来週は会えるって。」

「無視すんなお前ら!」

「4人揃ったらさ、今度これやろうぜ!」

「なに?新しいゲーム?」

「そうそう!この雑誌のレビュー面白くってさー!思わず買っちゃった!
おかげで今月無駄遣い出来ません!英士、おごってくれてもいいよ!」

「やだよ。」

「ですよねー。」

「くそう・・・二人して無視しやがって・・・!薄情な奴らめ!俺の悩みなんてどうでもいいんだな・・・!」





まああんまり結人に構っても、調子に乗るだけだし。こうやって落ち込んでても、少し経ったらコロッと忘れる性格だし。
ていうか元々どうでもいい話題だったし。大げさに落ち込みだしたけど、まあいいか。

そんなことを考えていたら、いつの間にかが俯く結人の横に立った。
の影に気づいて結人が顔を上げる前に、結人の頭に触れ、髪が乱れるくらいにかき回した。





「な、何すっ・・・」

「拗ねるな拗ねるな。」





そう言うとは結人の手を取った。
そのまま結人の顔を覗き込むと、ニコリと笑う。







「ごめんな?行こ?」

「・・・!!」







結人は突然のことに口をパクパクさせて、を見つめた。手を引かれてなすがままに歩く。
おい、顔を赤らめるな。ていうか、この光景、前にも見たことがあるような気がする。
おかしいな、何回もあっていい光景じゃないと思うんだけど。





「と、いうのはどう?」

「っ・・・は・・・はあっ・・・はあ・・・・・・」

「待ってどうして顔が赤いの?息が荒くなったの?ちょっとやめて、俺に発情しないで!!」

「し、してねえよ!!」





言葉に詰まるところが余計あやしく見えてるって、気づいた方がいいと思う。
よかった。周りに人目が無くて。俺も同類に見られるところだった。





「違う・・・!俺は衝撃を受けたんだ・・・!」

「衝撃?」

「俺は男にときめく趣味なんてないはずなのに!!」

「俺もですけどね。」

「でもドキッとした!きゅんとしたんだよ・・・!」

「やめて。力説しないで。」

「お前は一体なんなんだ!俺をどうしたいんだ!!」

「どうもしたくねえよ!!」





一馬がいれば、突っ込みのひとつやふたつ入れて・・・いや、これは一馬がいても一緒に赤くなってるパターンか。
しかし俺一人でここにいるのも嫌だな。巻き込まれるのも嫌だ。

よし、ほっといて帰ろう。





「英士!さりげなく帰ろうとしない!」

「だってお前ら面倒くさい。」

「直球!!」

「せめてそれっぽい言い訳くらいしろよ!」





やっぱりというか、なんというか。
結局引き止められてしまった。妙な空気のまま、二人を残して帰るのも面白かったのに。





「言っとくけど、これって別に自然じゃないかんな?ほんの一例。」

「おっけーおっけー。やっぱりはただ者じゃないな!」





先ほどと一転して機嫌の良くなった結人は、と同じことを彼女にするつもりなんだろうけれど。
結局以前と同じく、笑われたり失敗するんだろうなと思う。結人とってキャラが似てるようで、全然違うし。
正直、今の光景を結人で想像しても、笑いしか出てこない。



そして数日後。
半ばやけになりながら、に泣きついていた結人の姿が、その答えを物語っていた。









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