恋愛心一路











。なんか俺、妙な幻が見えるんだけど、気のせいかな?」

「気にすんなよ結人。俺、お前がどんなことになっても友達でいてやるから。」

・・・!俺だってお前のこと・・・って違うわ!!」

「タラララーラーラーラーラッララー!ゆうとはノリツッコミを覚えた!」」

「レベルアップおめでとう。よかったね。」

「うん!ありがとう!でも聞いて?俺の話聞いて!?」





の結人いじりは相変わらずだなあとか、英士も無表情なのにノリがいいよなあとか。
結人はあまりにいじられすぎて耐性がついてきたなあとか。隣に並ぶ3人を他人事のように眺める。
向かいを歩く女子大生らしき集団にクスクス笑われているとかもう気にしない。無心だ無心。あー今日もいい天気だなー。





「あそこにいるのさ、天城じゃね?」

「天城?」

「本当だ。」

「わざわざ確認しなくても、あのガタイと風貌からして天城・・・」





別に遠出しているわけじゃないんだから、同じ東京に住んでる知り合いを見かけたっておかしくはない。
けれど、結人が俺たちに確認をとったのには理由があった。





「だよな、天城だよな?」

「まあそれに間違いはないと思うけど・・・」

「・・・なんであんな店の前で突っ立ってんだ?」





そう。外見に似つかわしくない、ファンシーというかメルヘンチックな店の前に立ちつくしていたからだ。
言ってはなんだが、似つかわしくないどころか、正直怖い。あ、店に入っていく女子たちが怪訝な表情で天城を見てる。





「趣味っていうのは人それぞれだからね。」

「趣味!?天城の!?」

「いや、いくらなんでもそれはないだろ。」

「わかんないぞ。天城、昔はやんちゃしてたらしいから。
周りに怖がられすぎて、自分を癒してくれるアイテムがああいうファンシーグッズだったのかもしれない。」

「えっ!」

「見た目で判断するなよ。そりゃ天城はちょっと強面だけど、本人に似合う似合わないっていうのは問題じゃないんだよ。」

「そ、そっか・・・。」

「一馬が女装好きっていうのと一緒だよな。俺ってば・・・!」

「お前まじでぶっとばすぞ!!」





またと英士で俺らをからかってるんだって思うのに、真面目な顔されると自信が揺らいでしまう。
適当なことを言っているようで、なぜか説得力があるのがやっかいだ。





「まあ普通に誰かへのプレゼントだと思うけど。」

「「おいいいい!!」」

「しっかし、大量の女子の視線に気づいてないみたいだし、声かけてくるわ!」





同じチームとはいえ、天城とはあまり話をしたことはない。
も特別仲が良いわけじゃないとは思うけど・・・こういうところで物怖じしないのがアイツのすごいところなんだよなあ。
俺らもここに突っ立てても仕方ないし、正直、好奇心もあったから、についていくことにした。





「てーんじょう!なにしてんの?」

「!・・・か。お前こそ。」

「俺は英士たちと遊んでた。お前って結構可愛い趣味してんのな!」

「何言って・・・って、違う!なんで俺の趣味だと思うんだよ!」

「気にするなよ・・・!俺、天城がどんな趣味だとしても、受け入れられる器量くらい持ってるつもりだぜ・・・!」

「受け入れなくていい!というか、妙な勘違いをするな!」





・・・あの気難しくて、大きな声をあげてるところなんて見たことの無い天城が、慌てふためいて必死になってる。
つーかお前、普通に誰かへのプレゼントだろうって言ってたばっかじゃねえか。どうしてもからかうところから始めたいんだな。
あと、今言った台詞、さっき結人に言った台詞とほぼ同じ。結人に言うより力こもってたけど。





「えー違うの?じゃあなんでこんなところで突っ立ってんの?」

「それは・・・その、人にあげるものを・・・」

「はっ!もしかして彼女!?」

「そうだけど・・・って、若菜、お前いつの間に・・・。」

「なんだよー!天城彼女いんの!?プレゼントかー悩むよなー!わかるわかる!!」

「・・・。」

「ごめんなー、この子恋愛ごとになると過剰反応するから。」

「自分の恋愛がうまくいかない分、夢見てるからね。」

「英士?今聞き捨てならないこと言わなかった!?」

「うん。」

「否定すらしないの!?」





そして、彼女という単語に結人が食いついた。お前って本当に自分のも他人のも、恋愛話が好きな。
まあ結人の場合は、食いつく話題が幅広すぎなんだけど。
食いついてもすぐに毒舌コンビニ打ち負かされるのがオチなのに、いつも繰り返すんだよなあ。





「彼女、誕生日とか?」

「違う。もうすぐ部活の大会があるから、何か御守りになるようなものでもと考えてた。」

「へー、天城ってそういうところマメなんだな。意外。」

「いや、こういうものを選ぶのも渡すのも、今回が初めてだ。」

「・・・もしや付き合いたて?」

「・・・まあ。」

「ひゅーひゅー!!」

「・・・。」

「あ、ほっといて。この恋愛バカは聞き流してくれていいから。」

「なんだよ!盛り上げようとしたのに!」

「明らかに盛り上げどころを間違っていることに気づけ。天城を見てみろ!」

「すごい複雑そうな顔してるよね。」

「本当は迷惑そうな顔したいんだよ!うざいって言いたいんだよ!
でもそれをあえて心の内に秘める!なんという優しさ!お前も見習え?」

「お前はもう少し俺に優しくしろよ!!」





・・・こいつらのやり取りはもう日常茶飯事なので置いといて。
俺らの質問に天城が素直に答えてくれることが意外だった。
それほど話したことのない俺らに、自分の彼女のことをずけずけ聞かれるなんて、俺だったらこっぱずかしくて耐えられない。
結人の空気の読めない盛り上げ方はともかく、他の質問については淡々としている。実は結構話しやすい奴・・・なのか?





「プレゼントって言えば、この間、小岩も悩んでたよな。最初は花束が無難っぽいこと言ってたけど・・・」

「小岩が花束持って目の前に現れたら笑い転げるとか一蹴してたけどな、お前。」

「・・・小岩だったら笑い転げるけど、天城だと結構しっくる来るよな。なんでだろ、顔?」





そんな、お前、見も蓋も無い・・・!
別にここに小岩がいるわけでも、仲がいいわけでもないけど、すごく可哀想に思えてきた。





「ここに立ってたってことは、買うもの決めてんの?入りづらいなら一緒に入ってやろうか?」

「いや、こういう店なら何かしら良いものがあるのかって考えてただけだ。」

「それでお前、こんなファンシーな店で、あんな怖い顔してたのか。」

「?」

「ちなみに俺らも随分注目されてるけど。気づいてる?」

「そりゃあお前、カップルくらいしか男がいない店の前に、男5人がかたまってたら、俺だって見るわ。」

「・・・!ああ、そうか。俺、目立ってたんだな。」

「ちょっとだけな。」

「それで声をかけてくれたのか。ありがとう。」

「「「・・・。」」」





あれ?天城って普通にいい奴じゃねえ?
さっきのの台詞じゃないけど、やっぱり俺も見た目だけで判断してる部分があったのかな。





「邪魔じゃなければ一緒にどう?男一人で入りづらい店もあるだろうし。」

「・・・できれば頼んでいいか?正直、この店も入るのにも躊躇してた。」

「はは!了解!お前らはどうする?」

「先輩のアドバイスも必要だろ!つーわけで俺らも行くぜー!」

「俺らって・・・返事してないのに勝手に入ってるし。」

「まあ、いつものことだよな。」





英士は言葉は不満そうなのに、態度では嫌がっていない。
俺も、特段行きたいってわけでもなかったけれど、どうせ暇だし。振り回されることには慣れてしまった。
願わくば、天城も余計な気苦労がかからなければ良いと思う。

















他の奴らのときも思ったけれど、の知識と行動力は素直にすごいと思う。
過去にどうだったかは未だに謎だけど、少なくとも今はに彼女はいないはずだよな。
それなのにどうして、目的に見合った店がすぐに思いついて、アドバイスまで出来るのだろう。





「食器系を買うならここでー、いろんな種類の雑貨を見たいならこっち。
アクセサリーだったらー・・・駅前の路地を入ったところに良い店があるんだよね。手作りの店でアットホームな雰囲気だから入りやすいと思うわよ!」

「どこでそういうの覚えてくるの?」

「ふふ!秘密!」

「そのわざとらしい女口調やめてくれる。」

「女の子に贈り物をするときはだな、相手の気持ちになることでより良いものが選べるんだ。
つまり、好きな子に贈るなら尚更なりきらないと!恥も外聞も関係ない!」

「さっ・・・さすが!!」

「そこ称えるところじゃねえよ!」

「気持ちを考えるはわかるけど、女になりきる必要はないでしょ。ばかじゃないの。」

「・・・っ・・・お前ら、本当に仲が良いよな。」

「まあね!」

「もはや愛だよな、愛!!」

「愛ってお前・・・」

「はあ・・・よくそんな恥ずかしいことが言えるよね。」





気恥ずかしさからでも、誰一人否定しないのがちょっと恐ろしい。
まあ実際・・・仲はいいのは確かだけどさ。





「そういや天城の彼女、どんな子なの?同い年?」

「真面目で明るくて優しい。年は同じだ。学校は違うけどな。」

「へー。学校が違ってどうやって知り合ったんだ?」

「お互いの親の仕事の関係で、昔から知り合いだったんだ。」

「じゃあ幼馴染みたいなものか。幼馴染ってあれだよな、響きからしていいよな!」

「あーわかるわかる!お隣さんで窓越しの会話とかしてみたいわー」

「着替えてるとこ見えちゃったりするんだよな!!」

「「「「・・・・・・。」」」」

「なっ・・・なんだよ!お前らだって考えんだろ!やめ、ちょ、そんな目で俺を見るな!!」





結人の気持ちはわからないでもないんだけど。
というか、別に皆して蔑みの眼差しをすることもないんだけど。
発言者が結人なので仕方がない。
結人の必死の訴えを無視して、は会話を続けた。





「でも、付き合ったのは最近なんだ?」

「そうだな。俺も荒れてたし。」

「ふはっ、淡々としてんなー。」

「いろいろな人に迷惑をかけた。助けてもらった。・・・彼女も何回泣かせたかわからない。」

「あらら、悪い男だな。」

「ああ、そうだな。」





天城は淡々としていたけれど、どこか遠くを見るようだった。
荒れてたと話す天城が、実際どんな状態だったかは知らないけれど、
それは後悔しているようでも、感謝をしているようでもあった。








「だから、その分・・・いや、それ以上に大切にしたいんだ。」









その言葉を聞いて、素直に応援したいとそう思った。

ガタイが良くて雰囲気だって近寄りがたい。
口数も多いほうじゃないし、他人と関わるのを避けているのか苦手なのか、進んで輪の中に入るタイプでもない。
そう思っていた天城は、意外と天然で、意外と素直で、思った以上に良い奴だった。





「わかるわーその気持ち超わかるわー俺も彼女を大切にしたいもん!」

「若菜、彼女いるのか?」

「今更!?さっきまで結構話してたんだけど!」

「郭が夢を見てるとか言ってたからてっきり・・・」

「夢じゃないから!本当にいるから!!」

「そうそう。夢を信じるも信じないも自由なんだよ。」

「夢を諦めない!素晴らしいことだよな!」

「・・・そうか、そうだな・・・。俺が口出しすることじゃなかった。」

「天城!お前今絶対誤解してる!!申し訳なさそうな顔すんなあ!!」





が紹介したいくつかの店をまわり、天城は無事にプレゼントを決定した。
プレゼントは本人に選ばせるというの持論で、店に入っても天城を見守るというおかしな構図になり、男5人ということも相まって結局は注目の的になってしまった。
俺以外の4人はまったく気にしてなかったけど。少しは気にしろよ!





「今日は助かった。ありがとう。」

「おう、いいってことよ!」

「どうせ暇だったしね。」

「・・・ほぼが一人で助けてた気がするけどな。」

「彼女、喜んでくれるといいな!」

「ああ、若菜も頑張れよ。」

「おう!・・・って、え?なにを?」

「じゃあな天城。健闘を祈る!照れずに堂々と渡せよー。」

「当然。」

「あらやだ、格好いい。」

「からかうな。じゃあな。」





天城と別れ帰路につこうとすると、結人が首をかしげながら、俺たちに問いかけた。





「なんで頑張れよって言われたの?俺。」

「彼女のこと、頑張れって言ったんじゃね?」

「なんで?」

「夢を夢のままにするなっていう激励だろ。」

「その誤解、必死で解いたんだけど。ラブラブな彼女が実在するって言ったんだけど。」

「・・・そういえば英士、結人が誤解を解いたあと、天城と何か話してたよな。何話してたんだ?」

「別にたいしたことじゃないよ。結人の良いところを伝えてただけ。」

「えっ・・・英士が?まじかよ照れるじゃんか!なんて言ったの?」

「結人の無を有にする力とか、周りに何を言われてもくじけずに自分を貫くところ、すごいと思うって。

「なんでそれ、俺が誤解を解いた直後に言った!?天城また誤解したよね?絶対したよね!?」





結人が何を言っても、英士はのらりくらりとかわし、結局何も解決しないまま、俺たちもそれぞれの電車に乗る。

次の選抜練習では、律儀そうな天城から、彼女へプレゼントを渡した結果が聞けるだろう。
そして、結人は再度、天城への誤解を必死に解こうと奮闘する。

今までほとんど話したことの無かったチームメイトとのやり取りを想像して、思わず一人、笑ってしまった。








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