恋愛旋奔走
















「・・・ふう。」

「・・・。」





そもそも俺は基本的に自分のことで精一杯だし、誰かが悩んでいるのを見て
気の利いた言葉をかけられるほど、人間が出来ているわけでもない。
だけど同じチームメイトで、偶然二人になった状況、偶然目の前でため息をつき、
さらにはそれがいつもならそういった表情を見せない相手だとしたら。
声のひとつやふたつはかけようって思うだろ?





「どうしたんだよ、元気ないな。間宮。」

「・・・ん?ああ、いや・・・」





間宮という男は他の奴らと違って、感情を表に出さないというか、掴みどころがないというか、不思議というか・・・
まあ、とりあえず俺にとってはよくわからない奴だった。
そんな奴が俺にすらわかるくらい、調子悪そうにしてるんだ。さすがに心配になる。





「調子悪いなら、ここの片付けは俺が引き受けるから、お前は休んでろよ。」

「・・・別に調子が悪いわけじゃない。大丈夫だ。」

「マジで無理しなくていいんだぜ?それかあれ、何か悩み事でもあんの?
それだったら俺が相談に乗ってやろうかー?」

「・・・。」

「ははっ、なーんて・・・」

「桜庭。」





ちょっとした冗談でも言って、場の空気を明るくしてみようとしたんだけど。
正直、それほど交流のなかった間宮がそれに乗ってくるとか思わなかったわけで。





「嫌いなものを好きになる方法ってなんだと思う?」





突然の言葉に意味がわからず、間の抜けた表情を浮かべて数秒。





「嫌いなままでは困る。」

「・・・えっと、な、何が?」





・・・ん?





「相手には嫌いなものがある。しかし、自分はそれが大好きで、生活するうえで無くてはならないと思っている。
そんな状況だとして、お前ならどうする?」

「・・・い、いきなりどうしたんだよ。」

「自分だけでは偏った考えになりがちだ。お前はどう思うんだ?」

「え?あ、あは・・・それってもしかして恋愛系の、は、話だったり・・・?」





冗談まじりで確認してみる。いや、そんな、まさかね。








「恋愛・・・?ああ、そうだな。」








まさかの恋愛話?!全然興味なさそうに見えるのに!!
いや、それは俺の先入観だとしたって、何で俺がその相談受けてんの?!
自慢じゃないけど俺、人の相談のるのって苦手だし、恋愛系なんてさらに苦手なんですけど・・・!!




















結局その場はありがちなアドバイスとも言えないだろう言葉を告げ、事なきを得た。
次に間宮に会ったときも、あいつは自分から話しかけてくることはなかったし、
あの場限りのちょっとした質問のつもりだったんだろう。

・・・なんて、考えるのは都合のいい話だろうか。

間宮、選抜メンバーとも自分から話していくタイプじゃないし、同じ学校の藤代とかに聞くと、
それは普段の学校生活でも変わらないみたいだ。
アイツ、一人で悩んでるのかも・・・。誰かに協力を求めたくて俺に話したのかもしれない。
そりゃ、誰かに話したかっただけで、それがたまたま目の前にいた俺だったってだけかもしれないけどさ。





「うわっ!」

「おお?どうした渋沢?!」

「俺の鞄にこんなものが・・・。いつの間に・・・。」

「『爬虫類の不思議』?何これ?渋沢、生物の勉強でもしてんの?」

「いや・・・」

「それどころかキャプテンは爬虫類嫌いっすよね〜!」

「へーそうなんだ。じゃあ何でこんなもん入ってたんだ?」

「誰かのが紛れ込んだとか?」

「こんなもん誰が持ち歩くんだよ・・・って、あ!間宮じゃねえ?!お前、トカゲとか好きじゃん!」

「・・・いや、俺じゃない。」

「・・・まあ誰のかわからないんじゃ仕方がない。ここにも用務員か管理人かがいるだろう。その人に渡してくるよ。
場所がわかる奴はいるか?」

「あ、はーい!俺さっき監督に頼まれて備品返しに行ってきたから!一緒にいくよ。つーか俺が渡しにいこうか?」

「いや、俺の鞄にあったものだし自分で行こうと思う。すまないが案内してくれるか、。」

「おっけー。」





ちょっとした不思議な出来事に、皆がざわついて。
けれど、それほど興味をひくことじゃなかったからか、ざわめきは少しすると収まった。





「桜庭、先に行ってるぞー。」

「あ、おう。」





早々と更衣室を出ていった奴らを見送ると、俺はまだ残っていた間宮へと近づいた。
ざわついていた中で、特に何の反応も示さなかった間宮。
それだっていつものことで、誰も気になんかしてなかったけれど。





「・・・またため息?」

「・・・ため息?」

「自分で気づいてねえのかよ。・・・あーもー!どうしたんだよ!」





俺が聞いたって、多分何も出来ないのに、なんでこう気になっちゃうのかなあ俺。





「お前に言われたことを試してみたつもりだったんだが、うまくいかなかったな。」

「お、俺?」

「『自分の好きなものをさりげなく相手に見せて、徐々に慣れていってもらう。』」

「・・・あ・・・」





確かにそれは、間宮と話したあの時に、咄嗟に思いついて言ったことだけど・・・。
え?ええ?意味がわからない!ていうか間宮、主語がないままいきなり話し始めること多いっつの!





「・・・・・・あ、ああ!学校とかで試してみたのか?」

「何を言ってるんだ。試しただろう、今。」

「今?」





今って何?!今、間宮ってなんかしてたっけ?
あーもうわかんねえ!俺、そんなに勘のいい人間じゃないんだよ・・・!





「あの本は俺のものだ。」

「ほ・・・本・・・」

「あのまま家に持って帰ってもらうつもりが・・・先に見つかるとは。後で取りに行かないとな・・・。」

「・・・は?え?ええ?!」

「なに間抜けな顔をしてるんだ。」

「いやいやいや・・・いやいやいやいや!!」

「何が嫌なんだ?」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待てー!!何?!さっきのって渋沢のこと?!」

「ああ。それがなんだ?」

「なんだじゃねえよ!じゃあお前の言ってた相手って・・・」





考えが全然追いついてくれない。
なんでコイツはいつだってこう、俺の予想を裏切ることばっかり言うんだ・・・!
何?何なの?!間宮は渋沢のことが好きなの?!
まあ、同じ学校の同じ部活、同じ選抜のキャプテンだもんな。俺だってアイツはすごいと思うし、憧れるのもわかる。
そっか、つまり間宮は渋沢ともっと仲良くなりたいとかそういうことか。まったくまわりくどい言い方を・・・



って、あれ?





「・・・間宮。」

「なんだ?」

「この間話してた相手っていうのは、渋沢ってことなんだよな?」

「ああ。」





ちょっと待て?
俺、すごい大事なことを忘れてるような気がする。

でも、思い出してもいけない気がする。





「え?あ、あは・・・それってもしかして恋愛系の、は、話だったり・・・?」

「恋愛・・・?ああ、そうだな。」





うええええええ??!



そうだよコイツ!恋愛の話だって言ってたんだよ!
いやいやいやいや、ちょっと待って!嘘だろ?!冗談だよな?!





「どうしたんだ?桜庭。」

「い、いや!何でもない!」

「おかしな奴だな。それなら着替えも終わったし、出るか。」

「ま、まままま間宮!お、俺・・・まだここにいるよ!と渋沢、鞄置いたまま出て行っただろ?誰かいないと!」

「そうか、それなら俺も・・・」

「お前は生物図鑑取ってこないといけないんだろ?!」

「生物図鑑じゃない。爬虫類の不思議だ。」

「どっちでも良くない?!」





これ以上間宮と話してたら、俺の頭と心が持たなそうだったから、一人でここに残ることにした。
間宮はよほど爬虫類図鑑・・・あ、違うか。爬虫類の・・・ってどっちでもいい!
とにかくその本が大切なようだ。あっさりと頷くと一人で更衣室を出て行った。


















「・・・・・・だろ・・・?」

「・・・だが・・・と・・・」





ほっとしたのも束の間、今度はドアの外から足音と声が聞こえてきた。
それは近づいてくるほどに、はっきりと聞こえるようになり、と渋沢だとわかる。





「別に無理する必要なんてないと思うよ?俺はさ。」

「でも、それを気に病んでいると思うと・・・」





もうドアの目の前にいるんだろう。途切れ途切れにしか聞こえなかった会話の一部が聞こえた。
何の話だなんて考える余裕は俺にはなかったから、気にせず聞き流していたけれど。





「しっかし、間宮かあ・・・!」





なのに、どうしてこう、俺を動揺させる単語ばっかり聞こえてくるのか・・・!





ガチャッ





「やっぱり誰も・・・って、桜庭!」

「もしかして俺たちが帰るのを待っていてくれたのか?」

「あ・・・ああ・・・あは、あははっ・・・」

「桜庭がおかしい。」

「こら、言い方が悪いぞ。桜庭も疲れているんだろう。」





もう何がなんだかわからない。マジでパンクしそう。
何もしないべき?放棄するべき?それとも、もっと突っ込んで聞いてみるべき?俺、どうしたらいいんだ?
















今日の練習も終わり、最後の挨拶をして解散。
並んで歩く上原にどうしたんだと心配をされつつ、俺は腹をくくって目標に向かい一直線に歩き出した。





っ。」

「お?何、桜庭。」

「一緒に飯でも食わねえ?」

「おごり?」

「おごり!」

「マジで!やった!」

「・・・それで、出来れば他の奴らはいれたくないんだけど・・・。」

「・・・えー、何?なんか密談?告白?」

「そんなもんだ。」

「ええ?!俺、告白されんの?!」

「そっちじゃねえよ!!」





若菜たちと歩いていたに声をかけ、さりげなくそこから引き離す。
いくらなんでも誰彼に言ってしまっていい話じゃないと思うしな。





「どうしたんだよ、桜庭。お前、今日本当におかしいぞ?」





一緒にいた上原が心配そうに俺を見た。上原には・・・どうしよう。
間宮のことは言わないで、たとえばの話で話そうとしてたけど、
俺、たぶんあんまりうまく話せないだろうし、は勘がいいから言い当てられたりするかも・・・。
・・・いや、上原だったら信用できるし、これ以上心配もかけたくない。





「上原、お前も時間ある?」

「え?ああ、あるけど・・・」

「じゃあ一緒に来て!」





上原はともかく、だけを飯に誘うなんて怪しまれるかと思ったけど、
仲の良いいつものメンバーは丁度良く皆用事があるようで、は元々寄り道せずに帰る予定だったみたいだ。よかった。
















駅までの途中で適当な店を見つけ、そこに入る。
が遠慮なくここぞとばかりに注文してるけど、まあいい。
いや、よくねえよ。くそう、足元みやがって・・・!





「桜庭、なんだよ、深刻な話か?」

「いや、俺の話じゃないんだけど、ちょっと相談っていうか・・・お前らの意見が聞きたくて。」

「ふーん。」

「その、これは・・・俺の友達の話なんだけど・・・」





話の切り出し方がいかにも怪しいけど、仕方ない。
俺、嘘とか本当苦手だもん。顔に出るっていうかさ。





「・・・同じスポーツやってて、同じチームにいるんだけど、
なんか、その中に好きな奴が出来たみたいなんだよ。」

「ふんふん。」

「でも、相手が嫌いなものを自分は大好きで、それは手放せない。
どうにか相手にそれを好きになってもらおうって頑張ってるんだ。
普段そんなに感情見せない奴なんだけど、あんまり交流のない俺に相談するくらい、悩んでるみたいで。」

「へえ・・・でもそれって、桜庭にはどうしようもなくない?本人が頑張るしかさ。」

「まあ、そうなんだけど・・・。多分、悩んでる理由にもっと大きいことがあって。」





間宮は言わなかったけど、多分あんなに何度もため息をついてたのは、そこが原因なんだろう。
俺が同じ状況になるとは考えづらいけど、もしもそんな状況だったら躊躇するだろうし、多分ずっと悩んで苦しいと思う。





「相手が同性なんだよ。友達も、相手も男。」

「え。」

「ええ?!何、お前本当に告白?!俺に?!」

「だから違うって言ってんだろ!!人の話聞いてた?!」





いやいやいや、落ち着け俺!
が人をからかうのも茶化すのもいつものことだ。
でもなんだかんだで頼りになるのが。・・・多分。





「上原は意外と反応薄いな。俺、かなり衝撃を受けたんだけど。」

「俺はまあ・・・身近にそういうの詳しい子がいるんで・・・」





・・・そういえば上原の彼女は結構前にその道が好きだってカミングアウトしてたんだっけ。
この間、と一緒に上原のとこに遊びにいったとき、前に見かけたときよりも活き活きとしてたもんな。
ちょっと怖かっ・・・いやいやいや、だからそんな思い出話も今は置いといて。





「本人たちがいいならいいと思うけどなあ。」

「そうだけど・・・相手はどう思ってるかわからないし、悩むのも当たり前だろ?
でも、俺・・・何もできないし、どうしたらいいのかわからなくて。頭パンクしそうでさ。」

「桜庭・・・。お前って割と良い奴だよな・・・。」





は軽く腕を組むと、何かを考えるように天井の方へ視線を向けた。
・・・ならなんとかしてくれるかもって思ったけど、いきなりこんな話をしたって訳がわからないだろう。
俺だって未だにぱにくってるし。本当のことを言って、もっと詳しく話せればいいけど・・・
それでや上原が、間宮や渋沢にたいしてギクシャクするのも嫌だもんな。





「ていうか俺ね。」

「え?」

「それに似た話を聞いたことがあるんだけど。」

「ええ?!」

「ちなみに上原。今日、更衣室に桜庭と一緒に残ってた奴って覚えてる?」

「え?ええっと・・・俺が声かけたときにはもう全員・・・あ!間宮!」

「!」





やばい!俺、今ものすごく反応してしまった・・・!
がじろじろ見てる。なんかすげえ楽しそうに見てる・・・!
なんだ?何を知ってるんだは?俺が話したあの情報だけで勘付くとかは・・・さすがにないよな?!





「なるほどねー。間宮かあ。」

「え?ええ?間宮がどうかしたの?」

!なんか知ってんの?!お前も、間宮に相談されたとか・・・」

「はあ?!さっきの話って間宮のこと?!チームメイトってまさか、選抜の中?!」

「あ!」

「あーあー」

「うそお?!」

「あ、う・・・その・・・」

「そっかそっか。そういうことね。」

「なっ・・・一人で納得してんなよ!」





何かを知ってるような態度のに詰め寄るように問いたてる。
コイツ知ってる・・・!絶対なんか知ってる・・・!





「そっとしとこうぜ。」

「・・・は?」

「心配しなくたって両思いだよ。」

「両思・・・うえええ?!」

「あははっ、顔、顔!顔ひどいぞー!」

「じゃあそれって渋沢の方も・・・」

「相手、渋沢?!!」

「ああ!しまった!!やっぱり上原連れてこなきゃよかった!」

「お前、心配かけた友達に言う台詞?!」

「あははは!」

「「笑い事じゃねえよ!」」





の言葉にも訳がわからない。
なんだよ両思いって!間宮と渋沢が両思いってこ・・・えええええ?!
確かに同じ学校だし、間宮は割と孤立しやすいから、渋沢が声をかけてる姿はよく見てたけど・・・ええええ?!





「気になってることは気づいてるんだろうけどなあ。気遣いすぎなんだよ、お互いに。」

「ちょ、ちょちょちょちょ、頭がついていかねえんだけど・・・」

「俺もさすがに・・・」

「いいじゃん、どんな形でもさ。本人たちが選んだ道なんだから。」

「・・・それは・・・そうだけど・・・」

「桜庭、お前が悩む必要なんてない。間宮はきっと誰かに聞いてほしかっただけなんだよ。
何も出来なくたって、傍にいたり、話を聞いたりするだけで楽になることってあるだろ?」

「・・・・・・」

「お前、信用されてんだよ。あの間宮にだぜ?!すげえじゃん!」

「・・・俺、あんまり話したこともなかったのに。」

「話さなくたってわかることってあるだろ?同じチームなんだから。」

「・・・そっか・・・」

「まあ今ポロッとばらしちゃったけどね!耐え切れなくて俺らに相談とかしちゃったけどね!」

!最後に落とすのやめろ!桜庭泣きそう・・・!!」
















そして俺は、間宮と渋沢のことで悩むことが少しだけ減った。
って、言ってもやっぱり衝撃が強すぎて、たまに思い出しては大丈夫かと心配してしまうんだけど。
確かに俺は気の利いたことも言えないし、すぐてんぱるし、いろんな意味でキャパシティは少ないし、
予想を超えた状況についていけなくて、誰かを頼ってしまうなんて情けないこともしたけれど。





「間宮!」





でも間宮がどんな理由でも俺を頼ろうと思ってくれたのなら、
それに応えられれば・・・ほんの少しでも力になれればいいとは思う。





「大変だとは思うけど・・・また何かあったら言えよ。
力になれるかはわかんないけど、話聞くくらいはできるからさ。」





だから、俺はただ見守っていよう。結局は本人たちの問題だから。
でもそれは見捨てるとか、面倒だとか、そんな意味をこめてるわけじゃない。





「・・・いや、きっともう大丈夫だ。」

「え?」

「この間、キャプテンの本心を聞いた。」

「そっか・・・!じゃあ・・・」

「ああ。」





本当にの言ったとおりだったんだな。間宮も心なしか清々しい表情をしているように見える。
あれ?そういえば、が二人のことを知ってたのは何でだったんだろう。





「間宮!」

「キャプテン。」





渋沢が笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
いつも柔らかい表情をしてるとは思ってたけど、それよりもっと嬉しそうだ。
いや、嬉しそうっていうか・・・ちょっと照れてるみたいな。

うーん。未だにやっぱり信じられないところはあるんだけど、本当に本当なんだな・・・。
俺はさりげなく少し二人から離れた位置に歩きだした。





「今日は練習の後、家に帰るんだよな。少し時間をもらってもいいか?」

「構いませんが、何かあるんですか?」

「和菓子屋で買いたいものがあるんだ。彼女に渡したいと思っているんだが、豆大福は嫌いではないか?」

「いえ、食べ物に関しての好き嫌いはないです。」

「そうか・・・。よかった。」





・・・あれ?
ちょっと待て。なに?今なんか違和感が・・・





「この間はありがとうございました。姉も喜んでいました。」

「え・・・?あ、いや・・・」

「姉さんが本気でうちの家族を捨てるかと思うと気が気がなかったんですが。」

「それは・・・す、すまない・・・」

「あの美しさがわからないだなんて、未だに信じられない。」

「はは、俺も努力はしているんだが・・・」

「お互い気を遣いすぎて踏み切れてなかったのに、突然積極的になったのは何故ですか?」

「少し・・・話を聞いてもらった奴がいてな。
そいつに嫌いなものに怯えるより、自分の好きなものをたくさん教えてやれって言われたんだ。」

「・・・ほう。」

「確かにと思ったよ。彼女が何を好きでも、苦手なものがあったって、彼女自身であることに変わりはない。」

「・・・。」

「間宮にも迷惑をかけたな。この間の本もお前だったんだな?」

「・・・ふっ。」

「ははっ、相変わらず変わった奴だな。でも、ありがとう。」






・・・。



・・・・・・。



・・・・・・えええええ?!!





落ち着け、落ち着くんだ俺!ハイ、深呼吸!無理!できねえ!

今の会話、何?!どういうこと?!
どう考えても、何かがおかしいんだけど。いや、おかしくないんだけど、明らかにおかしいんだけど!
あれ、俺何言ってんの?!俺がおかしいの?!どうなの?!そうなの?!









「・・・っふ、は、あははははは!!」









豪快な笑い声に我に返り、俺はそちらの方向へと振り向いた。
やっぱりだった。やっぱりだ。すっげえ笑ってる!腹抱えて転がりかえってる!





「・・・っ?」

「あはっ・・・あはははっ・・・ひーひー!・・・っ・・・はっ・・・あははは!!」

「どういうことだよあれ!!何がどうなってんだ?!」

「ふはっ、あははっ・・・だ、だから、間宮と渋沢が両思いだって言ったじゃんよー。」

「両思いって・・・」

「間宮(姉)と渋沢が。」

「・・・・・・・・・・。」

「さ、桜庭がっ・・・すごい想像力でっ・・・とんでもない勘違いを・・・し、してたって・・・わけ・・・で・・・ふはははっ・・・!」





笑い転げるにたいし、怒りが沸くよりも唖然としてしまっていた。
つまり、間宮がずっと話してたのは、間宮自身のことじゃなくて、姉の話だったってことか・・・?
ああ、そういう・・・



って、まぎらわしすぎんだろ?!!








「〜〜〜!お前、何で教えてくれなかったんだよ!」

「だ、だって俺だって渋沢の気持ちを簡単に誰かに言えるかよっ・・・!
お前が間宮の名前出さなかったのと一緒だよ!」

「・・・っ・・・」

「ほとんど交流なかったのに、そこまで悩んでさ。
バカみたいな勘違いしてたけど、そういうお前だから間宮は相談したんだな。」





そうやってうまくまとめようとしやがって。口のうまい奴はこれだから腹がたつんだ。
バカみたいとか言われてるのに、ちょっと嬉しいじゃんか。





「・・・まあ・・・よかったけど、さ!」





これからあいつらは大変な思いをするんだろうとか、やっぱりこのままでいいのかとか、
いろんなことを一人考えて悩んだりもしたけれど、結果、あいつらは嬉しそうに笑ってて。





「桜庭。」

「お?おお?!・・・って、間宮!」

「これをやろう。」

「ポケット図鑑?何これ?トカゲ?」

「世界中の種類や習性など詳しく載っている。小さくてもあなどれないぞ。」

「は、はあ・・・どうも・・・。」

「ああ。じゃあな。」





結局俺は何もしてないし、にも大爆笑されるくらいの勘違いをしてたけど、





「・・・。」

「よかったな?」

「ははっ・・・なんだよもう・・・。」





何も得ることができなかったって訳じゃないみたいだ。














「さて、じゃあ今回最後の仕事といこうか。」

「え?」

「仲良く話す渋沢と間宮を見て、深刻な表情を隠しきれていない子が一人・・・」

「あ!上原ー!!」

「このまま誤解させとくのも楽しいかもしれないけど。」

「誰がそんなことするか!俺はお前と違って性格悪くねえからな!」

「ははっ、確かに!」





そんな爽やかな顔で、思いっきり肯定されたって、俺は嬉しくもなんともないし!

騙されたっていうのに、もっと腹が立ってもいいはずなのに、気分はなぜか割とすっきりしてる。
それは悩んでいたことが解決したからか、それとも・・・におだてられたから・・・は嫌だな。俺、どんだけ単純だよ!

もしかしたら、後から徐々に怒りが沸いてくるのかもしれないし、
やっぱりもう全部スッキリしてるのかもしれない。
でも、やっぱり悔しいものは悔しいから、今度、仕返しにを騙して大爆笑してやる・・・!
なんて、それが実現できる可能性は限りなく低い気もしてしまうけど。



まあ今はまず、上原の誤解を一刻も早く解いてやることが最優先だけどな!









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