恋愛大論争
「あ!おい、なあ一馬一馬!」
厳しい練習が終わり、備え付けのシャワーを浴びて一息つく。
持ってきていた水筒の中身を飲み干したところで、落ち着きのない声が俺の名を呼んだ。
「かっずまー!聞こえてんのか、かじゅまー!!」
大体わかる。雰囲気で勘付く。
長年の友達経験が物語るのは、これから俺はアホらしくてくだらない騒ぎに巻き込まれるだろうということ。
「・・・なんだよ。」
でも、こんな奴でも長年付き合ってきた親友だ。
無視するわけにもいかず、俺はゆっくりとその声の方へと視線を向けた。
「お前も胸の大きい子の方がいいって思うよな!!」
ホラ、やっぱり。
「えー、マジで?!一馬ちっちゃい方がいいの?!」
「誰もそんなこと言ってねえだろ?!ただ俺は・・・そ、そんなにでかくなくてもいいって言っただけで・・・」
「でかい方がいいに決まってるじゃねえかよ、なあ若菜!」
「そうだそうだ!俺は大きい方が好きだぜ!」
厳しい練習が終わった後だって言うのに、何の話してんだよこいつら。
シャワー室から出て、結人と鳴海っていう珍しい組み合わせで盛り上がってたから
何かと思えば女の胸の話かよ。本当お前ら、何しにここに来てんの?!
でもまあ結局その話題に俺は巻き込まれたわけなんだけど。
だってどうしろって言うんだよ。無視はできねえし、かと言って真面目に答えてみればこれだ。
そりゃそういう話題に興味がないわけじゃないけど・・・こういうとこでする話じゃねえよな?!
「じゃあ一馬はちっちゃい派だな!英士と一緒だ!」
いや、だから誰もそんなこと言ってな・・・って英士?!
「別に小さい方がいいってわけじゃないけど。適度にあればいいんじゃない?」
「まったまた英士ってば気取っちゃって!でも、あった方がいいってことは巨乳派に転向か?!」
「適度って言葉がそれに当てはまるならね。」
「適度・・・適度・・・基準が難しくね?どう思うよ鳴海。」
「いや、それはダメだな!大きいのがいいって言ってるわけじゃねえからな。却下!」
「却下だって英士!」
「・・・。」
却下された。英士が却下された。
しかも鳴海に却下された。
鳴海も結人も笑ってねえで空気を読め!英士の周りに黒いオーラが出てきてるのに気付けよバカ!
「何だよ、これで2対2かー。でかい方が好きって奴って意外といねえのかなー。」
「いや、そんなことねえと思うぞ俺は。」
「でもこいつらはさー・・・っておお!
ー!!」
周りを見渡した結人は、丁度いい奴発見!とでも言うように目を輝かせ
今シャワー室から出てきた
の名前を呼んだ。
はガシガシとタオルで頭をふきながら、俺たちの方へとやってくる。
「なになに?どうしたんだ?」
「なあ
はさ、女の胸は大きいのと小さいのどっちが好きだ?」
結人は恥ずかしげもなく、先ほど俺にした質問と同じことを聞く。
はポカンとした顔で、何言ってんだお前と結人に問いかけた。
うん、全くその通りだよ。
結人、お前何やってんだ本当に。
「今、ちょっと戦ってんだよ。巨乳派と貧乳派。どっちがいいかって!」
いや、戦ってるのはお前と鳴海だけだから。
もう本当にどっちでもいいからさ、早く俺を解放してくれ。
「ちなみに俺と鳴海が巨乳派、英士と一馬が貧乳派な!」
もはや英士は何も言う気がおきないらしい。
もちろん俺も何も言わない。ここで反論しても墓穴を掘るだけだと知ってる。
長年の経験で嫌というほどわかってる。
「バッカだなーお前ら。そんなことで盛り上がってたのかよ!」
全くだ。
でも
、勘違いしないでほしい。盛り上がってたのは鳴海と結人。鳴海と結人だから。
俺と英士は巻き込まれただけだから。
くそ、どうにかして逃げる方法が思いついてればな。
でもさすがに無視はできなかったし、大きいか小さいかって二択で聞かれたら
誤魔化す答えだって浮かばねえし。
このノリだと結局
もどちらか答えて、このアホらしい論争に巻き込まれるんだろうな・・・
「じゃあお前はどっちが好きなんだよ、
!」
「俺?俺は全ての女の子が好きです。巨乳貧乳どんとこい!」
逃げた・・・!そうか、これなら確かにどちらにもつかずに済むし、この話題から逃げられる。
俺も
みたいに言えばよかったのか。巨乳貧乳どんとこ・・・って言えるか!!
「でも面白そうだから、俺も参加しようかな。」
「何だよその理由!まあいいけど。」
いいのかよ。いつも思うけど本当適当な奴だな結人は。
「英士はちっちゃい派なんだ?」
「らしいね。どうでもいいけど。」
「じゃあ俺もこっち!」
「ええ!何でだよ!」
「だってお前、英士と俺は一心同体だぜ?」
「え、何それ、お前らいつからそういう関係?!」
「そんなの秘密だよ、なー英士。」
「そうだね、バカたちには言う必要ないよね。」
英士の言動がなんだかひどく感じたのは気のせいじゃないだろう。
絶対さっきの鳴海からの却下に怒ってるよコイツ。
それにしても
と英士はなんだか異様に気があってるよな。
おそらく性格の違う黒属性でひかれあってるんだろう、なんて思ってても言わないけど。
「なんだよ、じゃあそっち3人か。おっかしいな、何でそんなにちっちゃい方がいいんだよ。
こっちが不利になっちゃったじゃねえかよー。」
「じゃあ俺抜け「もう一人、暇そうな奴発見ー!!」」
・・・くそう、今のチャンスで抜けてやろうと思ったのに。
絶対わかってて声かぶせやがったな結人。
「水野ー!!」
「って、オイ!水野かよ!アイツにこんな話したら鼻で笑われるぜ?!」
鳴海に同感。
いくら目についたからって水野はないだろ水野は。
多分バカにされて結人が怒って終わりだぜきっと。
「何だ?」
「お前は巨乳派?貧乳派?」
質問がどんどん簡単になってきてるんだけど・・・!
バカっぽく見えるから止めろ結人!
確かにお前は元々バカだけど、それ以上自分を落とすな・・・!
そしてお前が暴走すれば暴走するほど俺たちも巻き込まれるのが目に見えてるんだよ!
「は?いきなりバカなこと聞いてんなよ。」
「ホラ見ろ、やっぱり水野みたいなぼっちゃんはこういう話はしねえんだよ。」
「あれ?でも俺、水野は巨乳好きだって聞いたよ?」
「「「・・・。」」」
ポツリと呟いた
の一言が、俺たちを沈黙させる。
そして、一瞬の沈黙の後、
「えええ!マジかよ!お前もそういう話するのかよ水野!」
「気取ってみせて結局は水野もガキだよね。」
「なんだよ水野も仲間じゃん!巨乳仲間!!」
「嫌な言い方するな!ちょっと待て、誰がそんな話したんだよ!適当なこと言うな
!!
」
全員が一斉に水野を問いたてる。
水野は顔を真っ赤にさせながら、その原因である
に詰め寄った。
「ええー、適当じゃねえよ。俺、聞いたし。」
「誰から!どこから!」
「うーん、本人に悪いからヒントだけな。ちょっとした知り合いがね、
「タツボンはおっぱい星人やねん。」って言ってた。」
「シゲか!シゲなのか!ていうか何でお前はシゲとそんな話をしてんだ!!」
ヒントどころか隠す気ねえだろお前。
多分関西選抜の藤村だよな。水野と同じ中学の・・・。
それがバレバレなのは置いといて、確かに何で
が藤村とそんな話してんだ?
初対面でもすぐ打ち解けるし、顔の広い奴だとは思ってたけど・・・。謎な奴だ。
「まあいいや!じゃあこれで3対3だな!」
「ちょ、ちょっと待て・・・俺は・・・」
「おう、おっぱい星人って言われるほど好きなんだろ!心強いぜ!!」
「・・・。」
「・・・っ・・・」
・・・英士、笑ってる。笑ってるよな絶対。
お前、人の不幸を喜ぶタイプだろ。そして今、水野の不幸をめちゃくちゃ楽しんでるだろ。
「あれ?戦うんだっけ?」
「そうだな、巨乳派と貧乳派の戦いだな!」
「って、誰が判定すんだよ。」
「あー、そっか!」
「そんじゃあさ、大きい方がいい理由を教えてくれよ。
それで小さい派がそっちに傾いたら大きい派の勝利。」
「おっしゃ!いいぜ!」
・・・なんとなくだけどさ。
どうも結人が
のいいように動かされてる気がする。
結人は
の言葉に威勢よく返事を返し、腕を組んで誇らしげに口を開いた。
「よく考えてみろよお前ら。でかいことは素晴らしいことだろ?」
なあ、全然理由になってねえよ結人。
誇らしく言うセリフでもなんでもねえよ。
「・・・一馬くん。つっこんであげなさい。」
「え?!俺?!」
「いつも
がつっこんであげてたら、結人も一馬も成長しないよ。」
いや、いらない。
俺はそういう成長なんて望んでない。
でもこいつらには逆らえないんだよ、ちくしょう。
「ていうか今お前、心の中でつっこんでただろ。それを言えばいいんだよ。」
何故わかった?!
マジで止めろ人の心まで読むの!
お前らにそんな技を覚えられたら
俺は一体どこでこの不満を叫べばいいって言うんだ。
「・・・結人、それじゃあ理由になってねえよ。具体的にどういいのか教えてくれ・・・。」
「ええ!わっかんねえの?!やっぱりかじゅまはアホだなあ!」
アホはお前だ・・・!何だこの理不尽さ・・・!
正直、ここで俺怒ってもいいと思うんだ。普通の奴らは怒っても当たり前だって言ってくれると思うんだ。
うん、だけど怒らない。我慢する。
なぜならここにいる奴らは普通じゃないからだ。怒ったら倍の被害になって返ってくるんだ。わかってる。
「だってあんなに柔らかくて、なんか気持ちいいのが大きいんだぜ?
小さいより大きい方が気持ちよさも倍になりそうじゃねえ?」
「お、言うじゃんか結人。もしかして彼女とうまくいったか?」
「・・・。」
「それは禁句だよ
。結人、前に彼女を襲ってから警戒されて体に触れさせてももらえないんだって。」
「ええ!嘘!俺があんなにいろいろ伝授してやったのに!」
「・・・だ、だって・・・だってアイツ・・・!何であんなに警戒すんだよ!彼氏だぞ俺はーーー!!」
「でも俺も自分の彼氏が巨乳巨乳って叫んでたらひくわ。」
「結人は自分の行動を見返してから文句言ったほうがいいよね。」
「ちがーう!俺のこれは反動だ!!アイツ全然触らせてくれねえんだもん!」
「あれ?触ったことねえの?」
「あ。」
結人が、しまったという顔で口をポカンと開いたまま固まった。
と英士が軽く目を見合わせて、ニヤリと笑う。
「何だ、じゃあ柔らかいやら気持ちいいやらは全部妄想なんだ。」
「そこは言ってやるな英士。年頃の男の子だもん、妄想くらいするわよ!
しかも彼女に拒否られ続けてるんだもん。妄想くらいするに決まってるわよ!」
「妄想妄想言うなお前ら!俺だってきっともうすぐ・・・」
「そうだな、妄想は自由だ!」
「そうだね、ごめん結人。妄想は自由だよ。」
「・・・うっ・・・」
「止めろよお前ら!若菜が可哀相だとは思わねえのか!」
「・・・うわああ・・・!」
「・・・鳴海、フォローのつもりの追い討ちは一番つらいんだぞ。」
「あーあ、結人が再起不能になったら責任取ってよね。」
「ああ?!何で俺のせいみたいになってんだよ!」
結人が頭を抱えて、近くの椅子に座りこんで黙ってしまった。
そこまで追い込んだ本人たちは飄々とした顔で鳴海に全ての責任を押し付けている。
でもな鳴海。
確かに最後のとどめはお前だったと俺も思うぞ。
大体、考えてみればこっちのチームって最強じゃねえか?
だって英士と
のタッグだ。最強って言うか、最凶って言うか。
あーよかった。俺、こっちのチームで心底よかった。
「仕方ねえな。若菜が脱落しちまったからには、俺が語るしかねえか。」
今度は鳴海がでかい体をどんと構え、俺たちの前に仁王立ちする。
そういやコイツ、選抜合宿のときに女の車で来たのを見たことがあったな。
実は結構いろいろ知ってる奴なのかもしれない。結人と違って。
「若菜の言ってることはあながち間違ってもないぜ。
ちなみに俺は正真正銘触ったことがある。」
「へー。」
「ふーん。」
うわー興味なさげ。お前ら話聞く気ないだろ。
「女は俺たちにはないものを持ってる。そのひとつが胸だ!
柔らかくて気持ちいいっていうのも間違いじゃないし、それがでかい方がいいっていうのも当然だ。
実際にそれを知ってる俺が言うんだ、文句ねえだろ?」
「・・・文句って言うかさ。」
「・・・ねえ。」
「何だよ。」
「お前が女の胸について語ってるのって、なんか嫌。」
「爽やかさのかけらもないよね。」
「な、何?!」
「俺たち中学生なんだからさ、もっとこう・・・若々しく可愛くいこうぜ!」
「なんか生々しいよね鳴海が話すと。」
「・・・!!」
止めてやれ!もう止めてやれ!
鳴海も俺たちと同じだから!ふけてても俺たちと同じ中学2年生だから!
いじめはよくない!ていうか、居たたまれない・・・!!
「だから、女の胸・・・」
「もっと爽やかに!」
「いや、だから大きい方が・・・」
「もっと中学生らしく。」
「柔らかくて・・・」
「「生々しい!」」
「・・・っ・・・」
「ダメだ、鳴海に中学生らしさを求めた俺たちがバカだった。」
「そうだね、ゴメンね鳴海。無理させたね。」
「・・・う、うおおお!!」
二人目、撃沈。
あの、俺思うんだけど。
もう大きい方がいいとか小さい方がいいとかじゃなくて
誰を撃沈させるかって話になってねえ?
「さあ、水野はどうする?何かある?」
「だ、だから俺は元からこんな話に参加するつもりはっ・・・」
「やめなよ
、聞くだけ無駄だと思うよ。」
「え?何で?」
「水野が俺たちを納得させられるようなこと言えるわけないでしょ。」
「な、何だと郭!お前人をバカにして・・・」
「へえ、じゃあ語ってよ。女の胸について思う存分心のままに語ってみなよ。」
「・・・っ・・・」
表情がほとんど変わってないように見える英士。でもわかる、俺にはわかるぞ。
わかりすぎて本当に嫌なんだけど、
お前、生き生きしすぎだ・・・!
お前って水野がからむとチクチク指すような毒舌から、抉るような毒舌に変わるよな。
「あれ?もう巨乳派がいなくなっちゃったじゃん!」
「本当だね。どうしちゃったんだろうね。」
お前らのせいだお前らの。堂々ととぼけるな。
「そう気を落とすなよ、お前ら!」
だからそう仕向けたのはお前らだお前ら。
「もうこんなバカげた話はいいじゃん。お開きにしようぜ!」
「何だよバカげた話って!」
「バカげてんじゃん。だってお前ら、胸の大きさで女を好きになるわけ?」
「・・・。」
「そりゃあ俺だって興味はあるけどさ。そんなの二の次じゃん。
まずは好きになってからだろ?」
うなだれていた三人が顔をあげて
を見つめる。
奴らのポカンとした間抜けな表情も気にせずに、
は言葉を続けた。
「たとえばさ、結人の彼女の胸が小さかったら好きにはならなかったか?」
「そんなことねえよ!あるわけねえし!」
「だろ?だから俺、最初に言ったじゃん。巨乳貧乳どんとこいってさ!
好きになった子なら何でもいいんだよ。」
ポカンとした表情から、目を輝かせて立ち上がったのは結人。
の手を掴み、握手するようにブンブンと振り回す。
「そうだな
!さすが俺の師匠!」
「うむ、わかればいいのだ!」
「・・・なんだよ、偉そうによ!別にただの好みの話じゃねえか。
どうせ好きになるんだったら、好みの胸の方がいいってのは変わりねえだろ?」
単純な結人とは違い、鳴海は納得いかないらしく
を睨んで食いついてきた。
ていうか、女の胸の話で険悪になるなよ。格好つけても全然格好ついてないからな。
「まあ、好きになった子が自分の好みの胸だったらいいだろうけどなあ。」
「だろ?今回のはそういう話だ。巨乳の方がいいに決まってるね。」
「・・・実は俺、好みの問題に関しては思っていることがある。」
「は?」
鳴海の反論に対し、同意もしつつ
はあごに手をあてて真剣な表情で考え出した。
「そういう意味だと俺は適度な大きさが好きなわけよ。大きすぎず、小さすぎずな。」
「あ?それが?」
「で、例えば彼女に俺の胸の好みがばれるとするじゃん?」
「・・・はあ。何が言いたいんだお前・・・。」
「すると彼女は気にしだす。自分の胸は俺の好みじゃないんだと・・・!」
「・・・。」
「大きかろうが小さかろうがいいんだよ。それよりも・・・」
「・・・。」
「自分の胸の大きさで悩んでるのってすっげえ可愛くねえ?!俺は正直たまりません!」
「お前とはいいダチになれそうだ。」
早っ!!変わり身はやっ!
どうやら
の考えは鳴海にクリティカルヒットしたらしい。
二人が固く握手をかわしている。それに結人も感心しながら頷いてる。
え?何このアホ集団・・・!
「水野も混ざりたければ混ざれば?」
「・・・はっ!だ、誰が・・・!!」
英士の一言で我に返ったかのように、水野が驚いて返事を返す。
どうやらの考えは水野にもクリティカルだったらしい。
「水野と鳴海っていう、空気の読めない二人を取り込むとは・・・さすが
だね。」
いや、さすがって言うか。え、そんな褒め称えるところかそこ。
それから英士、お前はさっきから水野と鳴海の扱いがひどすぎる。
「で?一馬は実際のところ、どっちの方が好きなの?」
「・・・でって何だよ・・・。
さっき
だって言ってたじゃねえか。好きになるのが先で、大きさなんて二の次だって。」
「それとは別に好みの話。一馬とそういう話ってあまりしたことなかったからさ。単純な好奇心で聞きたいんだけど。」
「え、こ、好奇心って・・・!」
何だよ、まさか英士からこんなこと聞かれることになるとは。
これも答えなきゃダメなんだろうな。聞かれてる相手、英士だもんな・・・。
「そんな、結人たちが言うみたいな大きさじゃなくていい。手のひらに収まるとか・・・それくらいでも・・・」
「みんなー。一馬は手のひらサイズが好きなんだってー。」
「「「何ー?!」」」
「え、英士?!お前っ・・・!」
「いや、だって一馬さっきから全然喋ってなかったからさ。
引っ込み思案な一馬はこうでもしなきゃ、話に混ざれないでしょ。」
いや、混ざりたくない!混ざりたくないから!!
お前は気遣いの方向を激しく間違えてる!
「お前、
の話聞いてたのか?!胸の大きさは二の次だって言ってただろー?!」
「やっぱりお前は貧乳好きなわけか真田!とことん俺とは気があわねえな!」
「なになに?一馬も俺たちと語り合いたいのかよ!仕方ねえな、このムッツリめ!」
アホどもに詰め寄られている先で、英士がニッコリと笑みを浮かべた。
そうだよな、わかってた。お前はそういう奴だ。気遣いでも何でもなく、わざとだよな・・・!
英士から少し離れたところでは、水野が哀れそうな目で俺を見ていた。
目があうとすぐに視線を外し、そそくさとその場を去っていった。
ちくしょう水野め・・・さりげなく逃げやがって・・・!
「じゃあ、この後は俺んち行くぞ!とことん語りあおうぜー!」
「「おお!!」」
ああ、日に日にアホな奴らが増えていく。
平穏が崩されないように、ひっそりと遠くから見守っていようと思っていたのに。
どうやったって、俺はこいつらに巻き込まれてしまう運命らしい。
俺の望む平穏は・・・一体いつやってきてくれるのだろうか。
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