恋愛純青色








「おーい!」

「お、来た来た、!こっちやで!」

「悪い、待たせた?」

「僕らも今着いたとこやねん。」

「そっか?よかったよかった。」

「ほな早速やけど行こか。これから遊びに行きたいとこやけど、時間も時間やしな。」

「まあ明日へのお楽しみってことで!」

「せやな。」





関西選抜の練習を終えた今日。休憩中にノリックから東京都選抜のがノリックの家に泊まりにくることを聞いた。
まあ俺とシゲは同じ東京の中学やし、東京都選抜には俺らのダチもおるからのことは知っとったんやけど。
なんでもの親戚が関西におって、昨日はそっちに泊まっとったからついでに会おうって話になったらしい。
しかしノリックとはナショナルトレセンからの知り合いやろ?家に泊まるてどんだけ仲良くなっとんねん。





「あれ、シゲと井上も来んの?」

「おお、がノリックん家泊まるいうから、それは俺もいかなあかんなと!
って何で先に言うといてくれへんの?!シゲちゃん寂しいわ〜。」

「だって俺とシゲの仲だろ?何も言わなくたって通じ合ってると思ってたから・・・!」

「せやな、俺との仲やもんな・・・ってわかるわけあるかい!」

「えー、シゲの愛が足りないんじゃね?」

「何いうてんねん!これだけ愛を送っとるやないの!」

「あはは、お前らアホやな〜!」





俺とシゲは練習にあわせて東京からこっちまで来とるから、練習の後は日帰りになるか
シゲは実家に、俺は親戚の家に泊まっていくんやけど。
今日はが来ると聞いたシゲが、じゃあ俺も泊まらせてや〜とノリックに言うた。
そんな話聞いたら俺やって当然同じ言葉をかける。何で?何でって・・・





「で?井上も来るんだ?何?俺への愛?」

「なんでやねん!大体俺とお前、ほとんど話したことないやろ!」

「え?じゃあ何で来るの?シゲへの愛?あ、ノリックへの愛?」

「どないやねん!愛からはなれろっちゅーねん!」

「俺らも何でサルが来るのか不思議やねん。」

「なー。」

「なっ・・・!なんでや!俺ら仲間やないか!」

「「そうやったっけ?」」

「そこはボケるとこやないわーーー!!」





何でって、当然仲間やからに決まっとるわ!ちゅーか仲間はずれは嫌やないか!
ちゅーかこいつらのボケ、いつも痛すぎるわ!たまに本気やないかと疑ってしまうわ。
え?いや、本気なわけあらへんやろ。それこそ愛や。愛のボケや。





「なあ、ノリックん家てもうすぐだっけ?」

「せやな。もう着くわ。」

「この人数で行っても大丈夫なのか?」

「あーそれは心配せんでええわ。こいつん家結構でかいねん。」

「なんでそこで藤村が答えんねん。まあ3人くらいなら入れるけど。」





そうやな、突然3人も泊まるなんてうちのオカンやったらもっとはやく言えって怒られるなあ。
ノリックの家はおおらかな家やねんな。
って、あれ?俺知らへんで?ノリックの家がでかいことも家族がおおらかなことも!





「へー、シゲは結構遊びに行ってんのか?」

「せやな。ノリックん家でつくるもんじゃもお好み焼きもなかなかうまいで。」

「一体藤村はウチに何しに来とんのかと思うわ。飯だけ食って帰るときもあるし。」

「・・・!!ちょお待て!俺誘われたことあらへんで!どういうことや!!」

「え?どういうこと言われても・・・。別に藤村だっていつも誘ってるわけでもあらへんしなあ?」

「俺はたまに誘おうとすることもあるんやで?ただサルの存在感がなくて、見つからへんねん。」

「お前はー!!俺こない存在感あるのに!」

にもお好み焼きつくったるわ。本場のうまさを味わえるで。」

「マジで?うっしゃ、楽しみ!めっちゃ食うからな俺!」

「ええで。腹いっぱい食わせたる。」

「ちょ、待って?無視せんといて?無視はいややーーー!!」





俺のことを全く気にもしてないもなかなかのスルー技術やな・・・!
俺とはほとんど話したことないんやから、気遣えっちゅーねん!仲良くなろうという気はないんか!


















「着いたで〜。」

「お、本当に結構でかい家!」

「ちょっと待っててな、母親に言うてくるから。」

「光徳!」





俺らがノリックの家を見上げていると、いつもあだ名で呼んでいるノリックの名前を呼ぶ声。
少し怒ったような声に俺たちはその声の主へと視線を向けた。





「あーんーたーはー!あれだけ言うたのに!」

「いや、ちょっと待ってや、見て?今友達と一緒やねん。」

「知るかそんなこと!乙女の純情を踏みにじっといて!」

「行けないって言うてあったやん!それはお前の勝手な都合やろ?
何で僕がその都合にあわせなあかんの?」

「・・・そうやけど。」





なんや?こんなの俺はじめてや。
修羅場?修羅場なんか?こういうときビシッと止めてやるのがカッコいいんか?





「まあまあ、こんなとこで言い合っても仕方ないじゃん。彼女もホラ、落ち着いて。」





しもた!に先越された!なかなかあなどれへん奴やな・・・!
ここは俺もなんとか言うとかな。だけにおいしいとこは持っていかせへんで!





「せや!大体ノリックも小学生の子にそない強く言うことないやん。大人げないで?」





うんうん。こうしてダチも相手もたしなめてやる。いい男の基本やな。





「・・・が・・・ね・・・」

「ん?なんや?」

「誰が小学生やねん!このサルーーー!!」

「えええ?!!」





なんや?すごい怖いんやけどこの子!
俺、冷静になれ言うただけやん!大人になれって言うただけやんー!!

・・・って、あれ?





「あたしはノリックと同い年や!中学3年や!悪いか!!」

「ええええ?!!」

「おおげさに驚いてんやないわ!ホンマに腹立つ奴やな!!」





嘘やん!誰が中学3年やねん!俺と同い年やねん!どう見たって小学生や!
お前らもそう思うやろ?ノリック、シゲ、ー!!





「本当に失礼だな、井上は。」

「ホンマや。礼儀っちゅーもんを知らへん。」

「なにーーーー!!」

「おお、アンタら二人は話がわかるやん。って、あれノリックどこ行ったん?」

「家ん中入っていったで。」

「なんやとー!ああもう、また逃げられた!!」

「ノリックになんか話あるんだったら、呼びにいくけど?」

「・・・いや、ええわ。今日はあんたらと遊ぶんやろ?邪魔はしたくないし。」

「アンタも一緒に遊ぶか?」

「それもええわ。ちょっと一人になりたい気分やねん。」

「ふーん。そっか。」

「ほなまたな。また会うかもわかれへんけど!
そんで光徳ー!今日のところは勘弁してやるわーアホー!!」





家の中にいるノリックにも聞こえるような大声で捨て台詞を叫んで、
嵐のような勢いで現れ去っていったその女はすぐ目の前にあった家に入っていった。
ああ、ノリックの幼馴染かなんかか。それにしても感情の起伏の激しい奴やったな・・・。








それからすぐにノリックが家から出てきて、俺のオカンとは違う綺麗なオカンが出てきて俺らを迎えてくれた。
シゲやノリックがさっきも言っていたように、お好み焼きの材料がさっと出てきてのためにシゲが焼いてやっていた。
・・・シゲの奴。俺には自分でやれなんて言うくせに。なんやこの差は・・・!理不尽やないか!

それからノリックの家族も交えて話して、俺たちはノリックの部屋に移った。





「はー、食った食った!うまかったー!!」

「やろ?東京帰ってから、絶対恋しくなるで?」

「だろーなー!でもこっち来ないと食べれないんだろ?」

「その辺は心配無用や!俺が認めたお好み焼き屋に連れていったる。」

「マジでー!やっぱ持つべきものは友達だな!!」





俺も思う存分食ったから、なんだか眠くなってきたわー。今日の練習もきつかったしな。
他の奴らの会話をぼんやりと聞きながら、俺はふと窓の外を見る。するとすぐにカーテンが閉まる音がした。





「おいおいサルー、隣の部屋覗いたらあかんで〜!」

「誰がや!俺はただちょっと見ただけ・・・」

「最初は誰でもそう言うんだよな・・・。」

「まあ待て。いくらサルでもそんなこと・・・そんなことするんやろうけど、ちょっとは大目に見てやろうやないか。
僕ら、寛大な心を持ってるはずや。」

「ちゃう言うとるやろー!!」





ああ、もう俺泣きたくなってきたんやけど・・・!
普段無視するくせに、俺をからかうときばっかり団結しよってからに・・・!
やっぱり来るんやなかったかも・・・!でも仲間はずれは嫌やねん!





「隣ってさっきの子?幼馴染?」

「せやね。」

「さっきなんであんなに怒られてたんだ?」

「・・・駅前に映画館あったやん?そこでレイトショー一緒に見ようって言われてん。
でも選抜の練習もあったし、との約束もあったから断ったんやけどね。」

「あらー。俺、お邪魔しちゃいましたか?」

「あー、別にそういう関係やないねん。ちゅーか、アイツ最近わがまますぎんねん。
何回断っても誘ってくるし。僕の都合も聞いてくれへんし。」

「・・・それはそれだけノリックさんが愛されているということじゃないのかしらー?」

「僕、年上が好みやねん。」

「あー!ノリックはそんな感じ!」





なんか話がずれてきた気がするんやけど、まあそれは置いといて。
なんやよくわからんけど、あの嵐のような女・・・めんどいな。ハリケーンでええか。
ハリケーンはノリックのことが好きやねんな。
でもノリックの方は年上好きやから、恋愛対象ではないとそういうわけや。

まああれはなー、同い年言われても全然同い年に見えへんもんなー。
それでさらに年上好きの奴からみたら対象にはならへんよな〜。うんうん。





「シゲは?お前も年上好きっぽい!」

「そんなことないで?タメも年下もいけるで?」

「それは俺もそうだけど!」

「別にこだわりはないわ。」

「俺もです!まあ好きになった子がタイプだよな〜。
とはいえ年上お姉さんの魅力に惹かれるのもすごくわかりますが!」





む、この流れやと俺にも話題がふられるな。
俺のタイプ・・・どんなんタイプやったっけ?そりゃあ年上もいいと思うけど、姉ちゃん見てるとな〜。
ちょっとひいてしまう部分もあったりしてな〜。でもタメよりはそうやな、年下がありかもしれへんな!
よし、準備は万端や!いつでも話題ふってこいや!





「じゃああの子に望みはないんだ?」

「まあどっちかっちゅーと妹みたいに見えるかもなあ。」

「あんまり考えへんことにしてんねん。面倒なことになりたくないし。」

「えー、でもあの子将来すげえ可愛くなると思うぜ?」

「あれ、って2年やなかったっけ?」

「え?そうだけど?」

「中2に将来可愛くなるとか言われたら、アイツ暴れるで。」

「あ、そっか!あの子年上なんだよな!」

「ふはっ・・・!素で忘れとるし〜!!」





あれ・・・?ふっつーに話題流れていくんやけど?
俺は?俺には聞かへんの?!





「あ、サル!」

「おう!なんや?!」

「そこのオレンジジュース取って!」

「・・・おう。」





さ、寂しくなんかないで!俺、今彼女もいてへんし、硬派やしね!
好みの女のタイプなんて聞かれても、困ってまうとこやしね!





「でもまあ確かに、俺もあの子可愛いと思うで。」

「だよな?俺は全然いけるー。」

「・・・アイツ、我侭やで〜?ホンマに子供相手にしてるみたいになるで?」

「まあそれも許せちゃう雰囲気あるよなー。」

「ちっこいのが必死になっとるわーってからかいたくなるな。」

「お前それ可愛がってんのかよ〜。」

「当然や!めっちゃ可愛がったる。」

「・・・まあええけどね。ちょっと下行って飲み物とか補充してくるわ。」





ノリックが席をたち部屋を出ると、シゲとが顔を見合わせて笑った。ん?なんや?





「青いなあ。」

「甘酸っぺー!」

「え?なんやなんや?!なにがや?!」

「ほー、サルにはわからへんか。」

「だから何の話やっちゅーねん!」

「説明すんのめんどいわ。、言ってやって。」

「えー俺もめんどいー。」

「なんやねんお前ら!さっきから俺は仲間はずれか!俺やってそろそろ本気だすで?!本気で泣くで?!

「「泣くのかよ。」」





当たり前や!俺はお前らを仲間やって思ってるのに・・・!
なんやいつもいつもいつもこの仕打ち・・・!愛が届いてへん!愛の形が明らかにおかしい!





「お前、あんなノリック見たことあったか?」

「あんなって?」

「ノリックと言えばいつも笑っとって、本心を見せない。
しかしその笑顔で自分の思い通りに駒を動かすっちゅー曲者や。」





どうでもいいけど、いや、よくあらへんけど、こいつら結構言うな。
まあそれも否定できへんから、俺も何も言わへんけども。





「なのにや。あの幼馴染の話になったらどうや。
あんな風に誰かのことをグチりだしたノリックなんて、滅多に見れへんで?」

「ちょっと本当に迷惑してうんざりしてんのかなーとも思ったけど。」

「せやな、けどさっき俺らがあの子のことを可愛いとか言うたら、ノリックちょっと嫌な顔してたやん?」

「本人無意識のうちにイラついてたよな〜。」

「・・・それって・・・」

「気になってるんだろ、あの子のこと。」

「見た目に反して年相応なところ見たことなかったけどなあ。珍しくそんなとこ見たわ。」

「それシゲも人のこと言えなくね?」

「そんなことないわー。こんなに中学生らしい中学生、滅多にいてへんで?」

「よーしよし、可愛い中学生だなー。」

「お前らアホやろ。」





それからノリックが部屋に戻ってきて、けれどシゲもも何も言わへんかった。
なんや、お節介焼くとかそういう話やないんやな。
まあ、せやな。ノリックも他人から口出されて動くような奴でもないしな。

結局その日は適当に話して、テレビ見て、ゲームをしつつ、いつの間にか眠りについていた。











朝、目が覚めたのは隣に眠っていたがなにやら動いている音やった。
元から早起きなのかはしらへんけど、カバンから財布を取り出して部屋の外へと出て行く。
そういや近くにコンビニがあったなあ。俺ももう目が覚めそうやしついてこかな。

昨日眠ったままの格好やけど、まあジャージなら平気やろ。
すでに目を覚まして俺らの朝食を用意していたらしいノリックの母親に挨拶をして、
俺はの後を追いかけた。

そして外に出るとすぐに、俺と同じくジャージ姿のと・・・あれ、ハリケーンやないか!





「うん、あたし毎日走ってんねん。」

「へえ、運動部なの?」

「陸上部や。」

「ほー。」





ハリケーンもジャージ姿で、さらに会話を聞いてみるとどうやらこれから走りに行くみたいや。
なんや、昨日みたいにいきなり噛み付いてはこないんや。ちゅーか噛み付かれたの俺だけやっけ?





「・・・あのさ、」

「ん?」

「あんた、光徳の友達なんやろ?」

「うん。」

「昨日、ごめんな。あたしが怒ったせいで気まずくならへんかった?」

「おう、全然。」

「全然かい!もっと気にしてや!!」

「ははっ・・・気にしてほしかったんだ?」

「当たり前や。ノリックのこと好きやもん。」

「おー、堂々としてんな。」

「隠してどうすんねん。どうせ本人にもばれとるし。アンタやってその態度じゃわかってたんやろ?」





なんやハリケーン、小学生にしか見えないっちゅーのに意外と男前やな。
いや、小学生以前に女やから男前に見えても仕方ないんやけど。





「ノリックもアンタのこと結構気にしてると思うけど?」

「ええねん。気休めもフォローもいらん。わかってんねん、光徳、年上好きやもん。」

「あれ?知ってんの?」

「当然や、どんだけ幼馴染やってると思ってんの。」

「いや、知らないけど。」

「生まれたときからや。せやからノリックの好みもわかってんねん。
セクシーなボンキュボンが好きやねん。あんな顔しとるくせに・・・!」

「基本的に男は好きだからな、ボンキュボン。」





ボンキュボン、ボンキュボンて一体お前らは何の話をしてんねん。
この爽やかな朝からすることかっちゅーねん。





「でも勿論例外もいるよ?」

「あたしを見て言うな!ケンカ売っとんの?!」

「売っとらん売っとらん。」

「カー!腹立つわ!あのサルといい、光徳の友達は腹立つ奴ばっかやな!」





あ、俺が話題に出てきた。でも全く嬉しくない登場の仕方や。
ちゅーかなんで初対面のハリケーンにサルサル言われとんの俺。
いや俺もハリケーン言うとるけど、心の中だけやん?実際口に出してないやん?べ、別に怖いわけやないで?





「でもまあ、そんなに卑屈にならなくてもいいと思うぜ俺は。」

「・・・光徳がそう言うてた?」

「いや、言ってないけど。」

「だから乙女の純情を弄ぶなボケー!」

「じゃああんまり期待しないで適当に流して。俺の考えなんだけどさ。」

「・・・。」

「ノリックってあんまり自分の感情表に出す奴じゃないじゃん?
そりゃいつも笑ってるけど、そうやって暗い感情とかも隠してる感じ。」

「・・・だから何?」

「でもアンタの前だと簡単に感情出すんだなーって思って。
ノリック、いつも穏やかなのに急に怒鳴ったり、不機嫌になったりしてさ。」

「それは何、あたしが光徳に本気で嫌われてるって言いたいの?」

「わーお、悲観的ー。」

「そうやなかったらなんやねん!」





が茶化すように笑った。
対してハリケーンは今にもに飛び掛りそうな勢いや。





「自分だけが特別とは思わないんだ?」

「・・・なんやそれ。おめでたすぎるわそんな考え。」

「ダメ?」

「・・・だってあたし・・・嫌われてるもん・・・。一緒に出かけよ言うてもいつもはぐらかされるし・・・。
それが悔しくて強引に誘ったりして、きっと光徳うんざりしてるもん・・・!」

「そういうのは俺よりも幼馴染のアンタの方がわかるような気がするけどなー。」

「・・・!」

「ノリックは本当に誰かを嫌ったらあんなもんじゃすまないだろ。
相手、絶対ひどい目にあうと思うんだよな。あの笑顔が魔王の笑みに変わるぜきっと。」

「魔王て・・・!でも確かにせやな!」





おーい、言われとるでノリックー。
でも俺も否定はできんけどな!お前は間違いなく腹黒や!
ノリックはあの笑顔でめっちゃモテてるけど、絶対みんな勘違いしとるっちゅーねん。
世の中の女はあんな黒い笑顔なんて見てへんで、俺の爽やかな笑顔に気づくべきなんや。

いや、別に俺がモテへんとかそういうことを言ってるわけやないで?断じて違うで?





「でもあたしは優しくされたいねん!あんな態度の特別は嫌や〜!」

「それは君がもう少し大人しくしてみたらいいんじゃないのかな?」

「何それ。あたしが狂暴とでも言いたいんか?」

「別に狂暴じゃないけど、あんまりキャンキャン言われるとやかましくはなるよな!」

「正直すぎやー!アンタ昨日会ったばっかやろ?!気を遣えっちゅーねん!!」





昨日の俺と同じこと言っとる。なんや、俺たち実は同志なんやないのかハリケーン。





「あたしはあたしや!自分を抑えることなんてできへん!」

「おお、かっこいー!」

「アンタに褒められても嬉しくないわ!ちゅーか頭さわるな!だから、撫でるなっちゅーねん!
どこまで子供扱いすれば・・・コラー!聞いとんの!!」





まるで小学生の妹とその兄の図やな。実際はハリケーンの方が年上なんやけど。
見えへんなあ・・・全然見えへんなあ。しかしハリケーンが何を言っても動じてないはさすがやな。
そういや翼が「アイツは底がしれない」とか「先が読めない」言うてたことあったっけ。
あれいい意味やろか、悪い意味でやろか。















「なんやあれ、結構いいコンビに見えてきたなあ?」

「・・・そうか?」

「おわっ・・・むがっ・・・」





突然後ろから聞こえてきた声。俺は思わず声を漏らしそうになったけれど、
その前に口を押さえられて声にはならなかった。
ちゅーか勢いよすぎて痛いんやけど・・・!もうちょっと手加減してや!!





はあなどれへんで〜。アイツ、あんな感じで女落としまくってるらしいで。」

「なんやそれ。」

「ノリックってそんなに意固地やったっけ?」

「何言うとんの。僕ほど素直で可愛い奴はなかなかおらへんで〜?」

「ほー。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・だから、僕は年上が好きやねん。」

「おお。」

「どっちかっちゅーと、やかましいより物静かなほうがタイプやねん。」

「ほう。」

「だけど、なんやろな。ちょっとイラつくわ。」

「ちょっと?」





俺を押さえ込んでいるシゲへ、ノリックが初めて視線を向けた。
シゲは余裕で笑って、ノリックはいつものヘラヘラ笑顔やない。めずらしく真剣な顔や。





「あーもー、おかしいわ。こんなん僕やないわ〜!」





ノリックはそう言うと、じゃれあっているように見えるハリケーンとの方へと走りだした。
ハリケーンは驚いたような顔で、は笑いながらノリックを見た。





「み、光徳?!」

「走りに行くんやろ?」

「え、あ、うん。」

「今日は僕も一緒に行くわ。」

「あ、え、何・・・え、ええ?!」

「行かへんの?」

「い、行く!行くに決まっとるやん!!」

「ほな、朝飯までには戻ってくるわ。」

「はいはーい。行ってらっしゃーい!」





は満面の笑みを浮かべて、ノリックへと手を振って見送った。
ノリックも少しだけ照れくさそうに笑みを浮かべて、ハリケーンと一緒にどこかへ走っていった。





「青いなあ。」

「甘酸っぺー!」

「青いも何も俺らまだ中学生やろ?お前らが熟しすぎなんじゃ・・・」

「「なんか言ったか?サル。」」

「ゆ、言うてへん。」





く、くそー。なんやなんて俺より年下のくせに・・・!
しかもどさくさにまぎれてサルとか呼びよってからに・・・!
俺はサルやない、動きが俊敏なだけや!それが何でサルになるんや!
俺のどこをどう見たらサルなんや・・・!





「好きな子の前で素直になれないって、なんかこう見ててドキドキしてくんな・・・!」

「せやな。懐かしいわ〜。」





だからお前らは一体いくつや!
俺と同世代やろ?!なんでそんなに達観しとんねん!










「そういや、話変わるんやけど。」

「ん?」

「俺、この間タツボンに怒られてん。」

「え?何で?」

「『に余計なこと言うな!』って何のことやと思う?」

「えー、俺なんか言ったっけな〜。水野のことだから神経過敏になってんじゃねえ?」





・・・多分、神経過敏とかそういう問題やないんやろうなあ。
俺、桜上水の水野とは試合で戦ったくらいしか記憶にないんやけど、と同じ東京都選抜やもんなあ。





「せやなー。アイツ細かいこと気にするからなあ。」

「だよなー。水野ももっと視野を広く持ったほうがいいぜ!」





お前らはある意味広すぎや。





ああもう、なんやろな〜。ノリックやシゲも含めて、うちの選抜はえらい個性ある奴ばっかやと思ってたけど、
他の選抜も大分変な奴ばっかりやな。そこのなんて個性のかたまりやん。





「なんか井上が俺に熱い視線を送ってるんだけど!!」

「だ、誰がや!」

「ああ、気をつけたほうがええで。コイツは東京でも俺にもストーカーしててん。」

「キャー!おーまわーりさーん!!」

「でかい!声がでかいっちゅーねん!!本気やと思われるやろーー?!」





あー疲れる。シゲやノリックや他の奴らにもよくいじられてて、時々おいしいなんて思ってしまう俺やけど
出会ったばかりのにも遊ばれるなんて思いもしなかったわ。

都選抜の奴らはコイツとどうやってつきあっとるんやろうか。今度翼たちに聞いてみるとしよう。
・・・なんかあまり素直に教えてくれる想像もできへんのやけど。

そしたらまあ自分なりに探してみるか。
同じ東京にいるんやし、ダチが共通してるってことは俺とも長いつきあいになるかもしれへんし。
今はまだ出会ったばかりやし、この短い時間で既に疲れてるし、
なんだか危険な状態にも追い込まれているけど・・・って、散々やな俺!

まあそれでも、一緒にいて退屈しないのも本当やし。
もう少しコイツのことを知ってみるっていうのも、おもろいかもしれへんな。





「まったく、ほとんど初対面のくせに気遣いっちゅーもんがなさすぎや。お前もハリケーンも。」

「「ハリケーン?」」

「・・・しもた!」

「・・・昨日今日で出会った井上の『ほとんど初対面』は?」

と・・・ノリックの幼馴染?」

「ちゃ、ちゃうわ!ちょ、ちょっと嵐とか竜巻みたいな活きのええ奴やなって・・・悪い意味なんてこれっぽっちも」

「いやあ、ノリックとハリケーンさんが帰ってくるの、楽しみだなあ。」

「せやなー。」

「ちょ、ちょっと待てー!あいつらに言うたらツッコミじゃすまんやろ!!
そんな可愛いもんですまされへんやろ?!」

「さーて、じゃあ俺らはノリックママの手伝いでもするか!」

「せやな、世話になってる身やしな!」

「お前ら話を聞け言うとるやろー!!」





でもあれやで。もうちょっと俺に優しくしてくれてもええんやで?
むしろだけやなくて、皆そうしてくれてええんやで?



なんて言うたってどうせお前らおもしろがるだけやろうから、心の中でだけ叫んだる!





いつか・・・そう、いつかな!きっとこの心の叫びが、お前らに届くって俺は信じてるで!










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