「よお結人!お誕生日おめでとー!」
「・・・。」
「え?何しけたつらしてんの?!せっかくお祝いしてやってんのに!
なに?当日じゃないのがダメなの?平日だったんだから仕方ないだろ?」
「・・・。」
「電話でもしろって?そこまで?ちょっとやだ結人、そんなに俺に祝ってほしかったの?!
お前意外と可愛い奴だな、仕方ないから抱きしめてやろうか?」
「・・・
、いい加減その小芝居やめたら?」
「うん、いつ止めてくれるのかと思ってた。俺の思いが通じたな!さすが英士!」
「ううん、うざかったから。」
「ねー・・・って、うざ?!うざい?!」
もはや恒例となっている
と英士の痴話喧嘩。
いつもの俺ならばそこに乗っかって一緒に騒いだりもするんだけど、今はそんな気分には到底なれない。
ぼんやりと二人を見ながら、無意識にひとつため息をつく。
「ちょ、結人にため息つかれたんですけど!」
「今の俺をみてついたの?そうだったら見逃せないね。」
「そうよね!いつもため息つくような行動してるのは結人のくせにね!
俺のまじめさを見習ってほしいよね!」
「のその言動も聞き流せない。」
「ええ!そこは乗っかってよ!否定するとこじゃないよ英士くん!」
「お前ら・・・いい加減まじめに話聞いてやれよ。」
何もしゃべらない俺をほっといて、話が進んでいくのはよくあることだ。
しゃべってても俺を無視して話すすめられたりもするけど。
それはまあ置いといて、見かねた一馬が二人に声をかけた。
「えー、だって結人がへこんでるってどうせ彼女のことだろ?」
「今週の誕生日にでも何かあったんじゃないの?」
「また何かやっちゃったんだろ!そんで彼女が怒って喧嘩中とかそんなとこな!」
「え・・・そ、そうなのか?」
ちくしょう、こいつら普段アホなくせに妙に勘はいいんだもんな。
ていうか簡単に言い当てられる俺が単純なの?
悔しいけれど、こいつらが言ってることは大体当たってる。
今週の俺の誕生日、俺は彼女と会って二人でお祝いもしてたんだ。
もうちょー幸せだった。あいつ可愛いし、色っぽいし、優しかったし。
でも最終的に、幸せだったはずの日に彼女は怒って帰ってしまったのだ。
「・・・見つかった。」
「何が?主語をつけろ主語を。」
「・・・本。」
「ちょっと英士、俺には解読不能なんだけどどうしたらいい?」
「ほっとく。」
「そっか!」
「いやいやいや、お前ら諦めはやすぎんだろ?!」
口にするのも悲しくなるんだけど、なんなんだろうこいつら。
もう本当に俺に気遣わなすぎだよな。
唯一二人を止めようとする一馬が天使に見えてきた。末期だ。
「・・・あれ?もしかしてエロ本?」
「!!」
「あ、結人めっちゃ反応した。これか。これが正解か。」
「・・・ああ、つまり彼女に見られて喧嘩になったってこと?」
「ダメだなー。そういうの気にする子はすごい気にするんだから厳重に隠しとけよー。」
「・・・っ・・・」
いとも簡単に言い当てられてしまい、言葉を失う。
そう、実はあの日彼女が怒って帰ってしまった理由はそれだった。
「い、いや、でもさ!持ってても変じゃねえじゃん?!むしろ俺たちの心の癒しじゃん?!」
「変じゃねえけどさ、それを彼女に見られたっていうのがなー。」
「持ってるくらいいいじゃん?怒ることないと思わね?!」
「それが許せるか許せないかは人それぞれだろうけどな。
結人の彼女はそれくらいで怒ってしまうピュアさがあったわけだ。」
「そうなんだよ!気強いくせにそういうとこすげえ純粋すぎるんだよ!」
「お、めずらし。彼女に不満?」
「そこが可愛い!!」
「のろけかよ。
お前なんかエロ本に埋もれて絶交されてしまえ。」
せっかくの誕生日だったのに、ちくしょう、なんでちゃんと隠しとかなかったかな俺!
男はこういうもんだって説明して信じてくれるかな。つーか仲直りはいつできるんだよもう!
「それにしても
、よくあのヒントで原因がわかったね。」
「任せて!じっちゃんの名にかけて!」
「古い。」
「っていうのは冗談で、俺この間電車で結人の彼女に会ってさ。」
「え?!」
「結人とはうまくやってるー?って聞いたら、あんま反応よくなくてさ。」
「えええ?!」
予想外の展開に俺は思わず間抜けな声をあげた。
確かに
たちにはあいつを紹介したこともあるから、お互い知ってるだろうけど・・・。
この間ってたぶん俺の誕生日のあとのことだよな?あいつ何か言ってたのか?!
「とりあえず結人がなんかやっちゃったんだろうなと思って、フォローしようとしたわけよ。
アイツはえろくてアホなとこあるけど見放さないでやってって。」
「
!!」
「そこ感激するところなの?」
「・・・えろくてアホ言われてんのに・・・」
「そしたら話がおかしな方向へ行って、男の人は皆そうなのかって、えろい本とかビデオとか持ってるのかって
とか聞かれちゃってさー。いやあ、いきなり何を聞くのかと思ったよね俺は。」
「それでそれで?!お前なんて答えたんだよ?!」
「『全員共通の答えなんてない!しかし、俺の周りは興味ある奴と持ってる奴のほうが多いぜ!』」
「
!!そう、そうなんだよ!俺、持っててもおかしくないんだよ!わかってくれてそうだった?!」
「納得はしてないんだろうけど、そういうものなのかとは思ったみたいだぞ多分。」
さすが
!俺の師匠!
俺の知らないところで、しかも俺らの事情も知らずにそんなフォローを入れてくれてたなんて!
やっぱり俺、お前についていくぜ!
「で、その後さ、彼女がいても持ってるもの?って聞かれたんだけどね。」
「うんうん。」
「『それも共通の答えなんてない!』」
「おお!」
「『でも・・・俺は持たないかな。彼女が出来たら彼女だけを大事にしたいし・・・。』」
「おっ・・・え?」
「『結人もきっとそうだと思うぜ!』って。」
「・・・な・・・」
「・・・。」
「・・・結人・・・」
「・・・な、なっ・・・何言いやがってくれたああああーーー??!」
予想外も予想外。まったくもって予想できないことが起こっていた。
フォローどころか追い討ちになってる!待って待って!それだと俺、彼女を大事にしてないみたいじゃん!どうしてくれんだよ!
やばい、どうしよう、関係修復不可能になってるかもしれない・・・!
「いや、だってホラ、俺もちょっとかっこつけたいじゃん?あと女の子に『彼氏はエロ本を持たない』って
夢を見せてあげてもいいじゃん?可愛いじゃん?」
「いらねえ!いらねえよそんな夢!現実を教えて!」
「いや、夢じゃないよ?現にエロ本持ってない奴だっている
「そんなのはどうでもいいんだよバカーーー!!」」
「あああ、どうしよう。あいつ潔癖なところあるんだよ。
そこがいいところなんだけど。
まじめすぎるところがあって融通も利かないんだよ。
いや、そこがいいんだけどね。」
「とりあえず怒るのか嘆くのかのろけるのか絞ってから話そうぜ?」
俺の知らないところで、誕生日からさらに関係が悪化してるなんてないだろ。
ちくしょう、せっかく誕生日だったのに、そして今日は俺の誕生日祝いで集まってたのに。
なんだよ今年の誕生日は散々じゃねえかよ。
ああ、なんか目の前がかすんできた。
「なあ結人、泣くなよー。」
「・・・っな、泣いてねえ・・・いや、泣くよ!泣くだろバカ!!」
ずっと落ち込んだままの俺に、
がため息をつきながら声をかける。
「大体結人が部屋片してなかったからいけないんでしょうが!お母さんは悲しい!」
そんな的確に言い直さなくてもわかってるし!
けど本当に母親に泣かれてそうな状況で、余計悲しくなってくる。
「間抜けすぎてなぐさめの言葉も出てこないね。」
英士、お前は俺が間抜けでもそうじゃなくてもなぐさめの言葉なんてかけないだろ。
「ゆ、結人。まだフォローきくかもしれないし、気を落とすなよ・・・」
一馬、お前の気の毒そうな表情に俺はブロークンハートです。
「結人がうざったいから、今日はナンパでもして遊んで帰ろっか?」
「・・・。」
「なんだいきなりそれ・・・」
「だってホラ、あそこにとても素敵な女の子が!」
「・・・。」
「あ。」
落ち込んで俯いている俺をいじるのにも飽きたらしい。
ついにはナンパか!主役の俺をさしおいてナンパかちくしょう!
あれ、でも
がナンパとかしようなんて言うの、はじめてだな・・・。
はともかくとして、英士も一馬もそんなキャラじゃないだろうに。
「声かけてみたいと思わない?」
「・・・そうだね。かけてみようか。」
「・・・あ、ああ。」
って、えええ?!
英士と一馬が食いつくってどれだけいい女?!
「何言ってんだよお前ら・・・」
思わず顔をあげて、俺は言葉を失った。
「声かけてきていい?結人くん?」
「・・・なっ・・・なな、なん・・・」
「いい女だろ?」
「え、そりゃ・・・って、ええ?!」
「そんないい女が待ってるわよ!はやく行ってらっしゃい!」
「え?う?あ、は、はい!」
何がなんだかわからないまま、
の勢いに押されて俺は走り出した。
その先にいるのは、誕生日からまだ一言も話していなかった愛しい俺の彼女。
「・・・な、何してんだ?こんなところで・・・。それに、その格好・・・。」
「お、おかしい?!変なら変って言ってもいいよ?!」
「おかしくなんてねえよ!すげえ可愛い!」
「!」
理由はまだよくわからないけれど、とにかく彼女は一人、広場のベンチに座っていた。
さらに言えば、いつも会うときよりもずっと可愛くて、大人っぽい姿でだ。
これって・・・化粧してるのと、服装のせいだよな。やべえ、いつもよりさらにどきどきしてきた。
「あ、あのね・・・」
「え?あ、な、何?」
「・・・この前・・・結人の誕生日だったのに、怒って・・・ごめん。」
「え?いや、俺も・・・あんな・・・」
「・・・この格好もね、この場所も、
くんがセッティングしてくれたの。」
「え?ええ?!何で
?!」
「この間偶然会って・・・この間のこと、ちょっと・・・相談したんだけど。」
「電車で会ったんだろ?それは聞いたけど・・・」
だけど
の奴、取り返しのつかないこと言っただけだったんじゃ・・・。
なのになんでこの状況になってるんだ?なんだこれ、夢でも見てるのか俺。
「
くんは彼女がいたらああいう本、持たないって。」
「う・・・」
「じゃあ結人は何なのかって思ったんだけど・・・」
「いや、だからそれは・・・」
「それは結人が他の人よりすけべだから仕方ないんだって。」
「え・・・、って、はあ?!」
「それと、そんなことで結人を判断するのかって聞かれてはっとした。」
「・・・?」
「男子がどういうことに興味あるとかくらいはわかるつもり。
だけど、あの時はびっくりして・・・感情的になっちゃったんだ。」
「・・・。」
「・・・私・・・そんなに胸おっきくないしさ・・・」
「!!」
なんか今、ぼそりと聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ?!
ちょっと待て!そこは問題じゃないだろ!そりゃ大きいのは好きだけども!
って違え!問題は胸じゃなくて、誰が相手なのかだろ?!何をいまさら・・・!
・・・でも、そっか。ああいう本が嫌ってだけじゃなくて、不安にもさせてしまうんだな。
そうだよな、当たり前だ。
「捨てる。」
「・・・え?」
「お前を不安にさせるくらいなら、全部捨てる。」
「結人・・・。」
真剣に、まっすぐに彼女を見つめた。
驚いたように俺を見上げて、けれどすぐに優しく笑ってくれた。
あーちくしょう、やっぱり可愛いなもう!
「
くんが言ったとおりになったなあ。」
「へ?」
「結人はすけべだけど、私が全部捨ててって言えば迷いなく捨てると思うって。」
「!」
「言わなくてもそう言ってくれたけどね。でも無理しなくていいんだよ?
男の子はそういうものなんだろうし?」
「い、いーや!捨てる!捨てるからな!」
「せっかく彼女公認で持ってもいいって言ったのにー。」
「いーもんね!俺、いらないし!」
「ふは、意地っ張り。」
どん底だった誕生日から少し遅れて、俺はまた幸せな一日をすごすことになる。
いつもより可愛い彼女と仲直りして、こうして笑いあって。
「そういやその格好は
がしたって・・・アイツそんな特技あったの?」
「ううん、これは
くんの知り合いの美容師さんに格安で頼んでくれたの。
そ、その・・・この格好が
くんからのプレゼントってことにして・・・って。」
「・・・なんだよもう
の奴!何にも知らないフリしやがって!」
すべては
の計画通りだったってわけか。
なんだかいつもアイツにはしてやられてる。だけどそんな
に俺はいつも助けられてるんだよなあ。
「お誕生日おめでとう、結人。」
「うん、ありがと!」
少し遅れてやってきた最高の誕生日祝い。
俺の背中を押してくれた親友たちは、いつの間にかいなくなっていた。
なんだよ、俺の誕生日に集まって、なのに俺一人でぐちぐちしてて。
祝ってくれるっていうお前らのこと、責めてばっかりだったのに。こんな俺でも笑って見送ってくれるなんてさ。
俺がどうしたら喜ぶか、あいつらはわかってたのか。
人のことからかうし、優しい言葉はかけてくれないし、さらには追い討ちまでかけるような奴らだけど。
結局最後にはいつも、俺の悩みなんて吹き飛ばしてくれるんだ。
可愛い彼女が隣で笑ってくれる。
ひねくれて、だけど優しい親友たちが背中を押してくれる。
あー、俺って幸せ!
「なんだ、そういうこと?」
「結人と彼女の事情も知ってたのかよ。
なんか俺、お前らの会話にひやひやしてたのバカみたいじゃねえかよ!」
「いやいや、一馬くんの慌てぶりがないとリアリティに欠けるからね!
敵をだますにはまず味方から!Yes!」
「敵?!結人敵?!」
「ところで俺にも黙ってるってどういうこと?」
「英士こわっ!!
いいじゃん、英士も慌てる結人と一馬が見れて楽しかっただろ?」
「まあそれはそうだけど。」
「お前ら人で遊ぶな!!」
「うーん、じゃあ結人のために考案してた誕生パーティは別の日か、来年に持ち越しかー。」
「そういえばパーティするって言ってたっけ?何するつもりだったの?」
「『好き嫌いは大きくなれないぞ!結人くんのトマト嫌いを直せ!トマトづくしのトマトパーティー!』」
「結人卒倒すんぞ。」
「それは楽しそうだったね。残念。」
「英士ーー?!」
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アホで単純で大げさで皆のムードメイカー!(褒めてます)でも実はかなり深い子結人!
彼はただの友達はむしろ余裕でからかう側だと思うんですが、親友たちには逆にからかわれていればいいと思います。
からかわれて不憫に見えてもそこには愛がたくさんこもってて、そして結人もそれをわかっている。
彼らの友情がだいすきです!もちろん結人もだいすきです!
お誕生日おめでとう!
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