「リョーイチ。今年も来てるわよ。」

「今年も?」

「去年も同じ包みを見た気がしたけど?差出人は、えーと・・・」

「・・・か。」

「ふふ、毎年こうして誕生日に贈り物をしてくれるなんて、いいお友達ね。」

「・・・いい友達・・・」





ドイツにいる俺の誕生日に、わざわざこうして贈り物をくれる。
東京都選抜で知り合い、一緒に戦ってきた仲間。
アイツがいい奴であることを俺は確かに知っている。

けれど、悪ノリが過ぎることも重々承知だ。
それは昨年送られてきた俺へのプレゼントを思い返せばわかるだろう。





「・・・。」





さらに今年送られてきたプレゼントも1枚のCDとなれば、
俺がそれを再生するのを躊躇することも頷けるだろう。

だが、これは奴の厚意なのだ。無視するわけにもいかない。
俺はひとつため息をつくと、そのCDをパソコンにセットした。





『せーのっ』

『『『天城、誕生日おめでとー!!』』』





またも懐かしい顔ぶれが並んでいる。
俺ではついていけないと思ったテンションも、騒がしさも、いつまで経っても変わらない。
ずっとこうしてつるんでいるのだろうと思う。





『さあさあ、今年もやってきました天城くんのお誕生日!』

『そうですねえ。今年は何を用意したんですか?』

『11月11日ということで!ポッキー手品でも!』

『ふざけてるの?そんなの誰も見たくないよ。』

『ええ!俺のポッキー使いは半端ないよ?!』

『ポッキー使いって何?』





そしてまたも呆れるような掛け合い。
俺は思わず小さく笑みを浮かべつつ、彼らのやり取りを眺める。





『まあ去年は純粋な天城くんのお怒りを買っちゃったからな!でも今年は絶対喜ぶと思うぜ!』

『へー!なになに?!』

『天城が一番欲しいものを用意してみた!』





俺が一番欲しいもの?なんだろう。サッカーシューズ・・・?
いや、でもそんなもの荷物には入ってなかったし、そもそも最近俺がそれをはきつぶしたことなんて知るはずもない。
それじゃあ・・・なんだ?





『天城の彼女のスク水姿をゲットしました!!』

『キャー!!』

『うわー。』

『ちょっ・・・!』

「っ・・・ごほっ!!げほっ!!!」





ちょ、ちょ・・・ちょっと待て!!
なんだそれは!何でお前が・・・!あ、ああ同じ学校だからか・・・っていや、そういう問題じゃない!!





『それじゃあ天城、そのままちょっと待っててな!愛しの彼女の水着姿流してやるから!』

「いや、ちょ、ちょっと待て!!」





動画に向かって言っても意味がないことを知りながら、けれど叫ばずにいられなかった。
百歩譲ってが彼女と同じ学校だから、プールの授業か何かで彼女の姿を見たとしよう。
だけど、なんであいつがそんな動画もってるんだ?!





『それじゃいっきまーす!』

「おい・・・!!」





その言葉と同時に、画面に映された数枚の写真。
俺はそれを視界に入れると、一気に脱力した。





『あ、ごめん間違えた。俺らの夏の姿だった。』

『ちょっとちょっと、今俺も期待しちゃったんだけど!』

『いや、天城にうきどき感を感じてもらおうかと思って。』

『じゃあ、結局ないんだ。』

『うん。でもいいじゃん、俺たちの元気な姿を見てよ天城!』

『誰も男の水着姿なんて見たくねーってのー!』

『嫌なもの見ちゃった。』

『何それ!今の聞き捨てならないんですけど!』

「・・・。」





・・・この怒りをどこへ向ければいいだろうか。
か。本人に向けてでいいよな。誰も文句ないよな?





『ということで、俺たちの夏の姿でした。どうよ?』





どうもこうも。俺になんと答えろと。





『そうだ、おまけでCDの中に動画ファイル以外にもあるから見といてなー。』

「・・・おまけ?」





俺は頭を抱えつつ、そのファイルをどうするか少し考えた。
なんだか開けない方がいいんじゃないだろうか。
この脱力感と疲れを一体どうしてくれるんだアイツは。

だが、やっぱりそれがどんなに空回っていようが、疲れてしまおうが
厚意からきているものを邪険にはできない。そうだな・・・見るくらいならしてもいいか。





「・・・!」





そこにあったのは、彼女が楽しそうに笑っている写真。
もちろん、先ほど言っていた水着姿ではない。
そんなもの、もしアイツが持っていたら本気で怒ってるぞ俺は。

学校の行事だろうか。私服姿だ。友達と一緒にはしゃいでいる。
彼女から写真が送られてないわけじゃないけれど、やっぱり元気な姿を見れるのは・・・嬉しい。





「・・・?」





写真と一緒に入っていたファイルの最後に、テキストファイルがある。
俺はそれも開くと、その中にはからのメッセージ。





『いい写真だろ?大事にしろよー!
それと言っておくけど、これは彼女の友達経由にもらっただけだから。怒らないでね!
彼女から写真も送られてきてるだろうけど、かぶってないよな?怒らないでな!』





いつの間に彼女の友達とまで交友を持ったんだ・・・。
しかしそんなに怒るな怒るな言わなくても・・・そんなに俺は沸点が低く見えるのだろうか。





『それからさ、天城も写真送ってやれよな〜?
写真が少ないって嘆いてるらしいぞ。いくら天城が写真好きじゃなくても、彼女のためと思って。』





確かに俺はあまり自分から写真に写ったりはしない。
周りに誘われたりしない限り・・・。そしてそれを送ったりも滅多にしない。
だが・・・確かにそれでは今の俺を伝えるには不十分だろう。





『でさ、そのついででもいいから。俺にも送ってよ。
友達がどうしてるかってちょっとくらい知りたいじゃん?
ちょっと、男同士できもいとか言うなよ?!天城そんな子じゃないよね!』

「・・・ふ、ははっ・・・。相変わらずだな・・・」





いつも騒がしくて、悪ノリばかりで、人をからかって。
俺はいつだって呆れてばかりだ。だけど、それでもアイツが人を惹きつける理由を知ってる。

写真は苦手だが、そうだな、少しくらいは自分から写ってみてもいいかもしれない。
それで彼女が喜んでくれるのなら。そして、調子のいい友達も。













こちらでの生活を写真に写して送った数日後、からメールがきた。





『燎一くんの笑顔が見たいな☆』

「・・・。」





送った写真が仏頂面だとでも言いたいのだろうか。
数分後、また着信音が鳴る。





『できればはにかんだ感じで!』

「・・・・・・・・。」





・・・アイツに写真を送るのは当分やめておこうと思う。







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