「英士さ、彼女出来ただろ?」

「は?」

「出来たんだろ?わかってんだからな!な、一馬!」

「いや、そうかもなって言ってただけ・・・」

「よし、白状しろ!」

「いきなりなんなの、二人とも。」





同じクラブに所属しており、昔から付き合いのある友達二人から、突然の質問を受けた。
どうしてそう思ったのかと怪訝な表情を浮かべると、友達の一人、若菜結人は持っていたスポーツドリンクを乱暴に置いて、不満気に俺を見た。





「だって最近付き合い悪いじゃん!俺たちの誘いも断って速攻で帰っちゃうしさー!」

「ああ、別にそれは・・・」

「俺らが油断してる隙に彼女なんて作りやがって!抜け駆け!」

「あのさ、何か誤解してるみたいだけど、彼女なんていないよ。」

「嘘!」

「本当。」

「嘘だー!」

「嘘じゃないってば。いい加減にしないとその口無理やり黙らせるよ。」

「ちょ、ちょっと待て英士!ほら、結人も英士がちゃんと話してくれるって!」

「そんなこと言ってないけど・・・」





何でもないと言っているのに、引く様子を見せない結人を、もう一人の友達、真田一馬がなだめた。
確かに最近、彼らの誘いを断って帰っているのは事実だ。人に会っているのも本当。
特に話そうとも思っていなかったけれど、これ以上、結人がしつこくなるのも面倒だ。俺は二人に彼女の話をはじめた。













ゴースト














「・・・本当に女だった・・・!」

「本当にって何。彼女が出来たって思ってたんじゃないの?」

「いや、ちょっとノリもあって。」

「なにそれ。」

「夜にだけ会うってなんか不思議だな。連絡先も知らないんだろ?」

「知らない。」

「なんで聞かないんだよー!その子のこと好きなんだろ!?」

「・・・別に、そういうつもりはないんだけど。」

「「は?」」






と話すことも、一緒にいることも、居心地がいいと思っているのは事実。
だからこそ俺も、彼女に会いに夜の学校へ向かっている。
けれど、それ以上の何かを求めているってわけじゃない。





「だって英士、その子のためにわざわざ学校行ってんだろ?それって好き以外どういう・・・」

「なんでもかんでもすぐに恋愛に結びつけなくたっていいでしょ。」

「じゃあ友情?」

「友情・・・それもどうなんだろう。」

「それも違うの?じゃあなんなんだ?」

「さあ。」

「さあって・・・!適当に言って、煙に巻こうとしてんな!?」





俺自身、居心地がいいと思い、彼女も笑顔を見せてくれている。友達ということに間違いはないと思う。
けれど、彼女と出会っている状況が特殊だからか、友情と表現するには何か違和感を感じた。





「もー!その子ばっかり構ってないで、俺らとも遊べよう!」

「だって結人たちとはいつでも会えるし。」

「いつでもじゃねえよ!一馬なんて遠いとこからこっちまで来てんだぞ?」

「でも呼べば来るでしょ?」

「え?ああ、来るけど・・・。」

「こら一馬!そこは俺よりもその子の方が大事なの!?とか言っとけ!」

「言えるかそんなこと!」





俺はいまだ彼女の連絡先すら知らない。
夜にふらっと現れて、お互い別々に帰ることが暗黙の了解になってしまったからだ。
何度も送ると言ったけれど、彼女はそれを拒む。連絡先を聞いたとしても、同じ反応を返すんだろうと、なんとなく思う。

彼女に関する謎はまだ残ってる。けれど、どこまで触れていいのかわからない。
深く関わろうとすれば、彼女があの場所へ来なくなってしまうような気がして。



















最近のはよく校内を歩いて周ってるみたいだ。彼女曰く、学校の七不思議なるものを確かめているそうだが、未だ成果はない。
裸足で歩く音、相変わらずの格好。そのうち、彼女自身が七不思議にでもされてしまいそうだ。





「見つかった?」

「ううん。七不思議っていうからには、何か理由があると思ったのに。妙な音がするとか、動き出すとか。」

「学校の七不思議なんてそんなものだよ。どこかの話を似せたり、ちょっとしたことを大げさに言ったり。」

「そっか。やっぱり幽霊なんていないのね。」

「少なくとも、俺は見たことないね。」

「最初、私のこと幽霊だと思ったくせに。」

「それはお互い様でしょ。」

「ふふ・・・っ・・・けほ、ごほっ・・・」

・・・?」





突然咳き込んだに近づく。
けれど彼女は手で制止すると、顔をあげて何でもないというようにニッコリと笑う。





「ちょっと薄着すぎたかな。」

「・・・っていつも白いワンピース着てるよね。気に入ってるの?」

「白いワンピースを着て出かけたいって言ったら、お母さんがたくさん買ってきちゃって。」

「・・・白いワンピースばかり?極端だね。」

「うん。でも似合ってるでしょう?」

「まあね。」

「ありがと。」





自慢するように一回転してみせると、は満足気に笑った。





「・・・。」

「郭くん?」

「・・・あのさ、。」

「なに?」





が自分のことを話したくないと思っているのなら、あれこれ聞く出すつもりはなかった。
彼女のことを知らなくたって、こうして会って話すことができていたから。

けれど、時間が経つほどに、違和感を感じ始めた。
楽しそうに笑って見えるのに、何度となく不安になった。
その笑顔の中に見えていたのは、楽しさだけじゃなかったからだ。

違和感に気づいてから、どうしても彼女に聞きたいことがあった。

答えを聞いて、安心したかった。








「学校、いつ頃通えるようになるの?」








夏休みが終わったら、人の出入りも増え、遅くまで学校に残る人数も増える。
校舎にもぐりこむことも、こうして会うことも出来なくなるだろう。それに・・・

が学校に来ていないのは、体が弱いからだと聞いてる。
けれど、どこが悪くて、どうすれば学校に来れるのか。俺は何も知らない。





「どうかな。」





一言だけを返して、彼女は笑った。
何も言っていないのに、笑っていたのに、それ以上のことを聞くなと拒絶しているように見えた。





、」

「そろそろ時間だ。帰ろう、郭くん。」





が自分のことを隠したがっていることはわかってた。
だから、彼女が自分のことを話さないならそれでもいいと思っていた。

でも、夏休みが終わることで、繋がりが無くなってしまうのは嫌だった。
学校じゃなくたっていい。夜じゃなくたって構わない。
もっと彼女を知りたかった。もっといろいろなことを聞いて、話してみたかった。



恋愛じゃなくても、友情じゃなくても、形なんてなんだってよかった。



ただ、それだけだった。



けれど結局、俺の独りよがりな感情だったんだろうか。








次の日から、は学校に現れなくなった。








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