成長少年、困惑少女








ちゃんがすき!僕とつきあってください!』





あれは小学校の新学期直前だったか。
家が近所で小さい頃からよく遊んでいた、2つ年下の男の子からの可愛い告白。
当時の私は小学校の4年生で、彼は2年生。
私にとってその子は弟みたいなもので、私はその告白をあっさりと断った。



そして、数年後。












ちゃん、今帰りですか〜?」

「寿樹くんも?サッカーは?」

「今日は休みです。」





可愛かった彼はいつの間にかぐんぐんと背が伸び、その身長はいまや190cm。
隣を歩いて話すだけでも、大分上を見上げなければならなくなった。





「今度の日曜、試合があるんですよ。ちゃん、見に来ませんか?」

「あー、日曜ねー。うーん。」

「用事でも?」

「・・・そういうわけじゃないけど・・・」





昔は弟にしか見えなかったのに、最近では高い身長のせいもあり、
どうにも意識しだしてしまって、ちょっと困っている。
試合なんて見に行ったら、おそらくだけど、この気持ちに拍車がかかってしまいそうで怖いのだ。





「・・・来ないんですか?」





それでもやっぱり、可愛い弟っていう気持ちも抜け切れてるわけでもなくて。
そんな悲しそうな顔をされたら、なんと答えていいのかわからなくなってしまう。





「わ、私が行かなくても、応援はいっぱいいるでしょ?」

「いますよ。」

「それじゃあいいじゃない。」

「いいえ、ちゃんがいいんです。」





ほら・・・!また可愛いことを言っちゃってもう・・・!
寿樹くんは確かに可愛い。それにかっこいい。
だけど、昔、彼の可愛い告白をあっさりと断った私は、今以上を望んではいけない気がする。
そりゃ子供の頃のことだけど、寿樹くんだって傷ついたはずだ。
それでもこうして慕ってくれてるのに、私がそんな感情を持つわけにはいかないんだ。





「僕に見惚れてしまうのが怖いですか?」

「・・・っえ?」





その一言に、思わず顔をあげた。
寿樹くんはそんな私を見て、にっこりと笑う。





「怖いんでしょう?たかが中学生の試合でそんなことを思ってしまうのが。」

「そっ・・・そんなことないよ!何言ってるのもー寿樹くんは!」

「だったら来てください〜。暇なんでしょう?」





・・・しまった。
そう返されたら行かざるをえなくなってしまうじゃないか。
あー、もう、最初から用事があるから行けないとか言っておけばよかった・・・!





「わかった。行くよ。」

「ありがとうございます。」

「・・・嬉しそうだね、寿樹くん。」

「もちろん嬉しいですよ?知ってるでしょう?」

「・・・中学生くらいになったらさ、寿樹くんは私から離れていっちゃうだろうなーって思ってたよ。」

「なぜですか?」

「だって、そういう年頃でしょ?他の子もお母さんとか同世代の女の子と話すの恥ずかしがったり。」

「僕は違いましたけどね〜」





小学校の頃からあることだけど、年の近い女の子と一緒に帰ったり、
仲良くしたりするだけで、からかわれたりする。
だからこの頃から今まで名前で呼んでいたのに、名字で呼ばれたり、昔ほど一緒に遊ばなくなったり。
少なくとも私の知る男子はそうだったのだけれど、寿樹くんはずっと変わらなかった。
私を見つけると笑顔で追いかけてきてくれるし、名前の呼び方だって昔のまま。
もちろん、私としてはそういうのは嬉しかったけれど。





ちゃん。」

「・・・っと、わ、わわ!いきなり近づいてこないでよ。びっくりする・・・!」

「ふふ、順調です。」

「・・・?何が?」

「別に?ちゃんは気にしなくていいですよ〜」

「いやいや、気にするよ!」

「じゃあ気にしててもいいですよ?答えは教えませんけど。」

「な、何それっ!」





そして、寿樹くんは成長していく度に、行動や心情が読めなくなってきている。
おかしいな。過ごす時間は増えているのに。





「僕が昔、ちゃんに言ったことです。」

「昔って・・・どれ?」

「それは自分で考えてください〜」

「もー!寿樹くん!」










ちゃんがすき!僕とつきあってください!』

『・・・あのね、寿樹くん。そういうのは、もっと大きくなってから言うことなんだよ?』

『・・・大きく?』

『うん。寿樹くんはまだ早いの。』

『大きくなったらちゃんは僕とこいびとになってくれる?』

『そのときに寿樹くんのこと、すっごくすっごく好きだったらね。』

『それじゃあ僕、ちゃんが僕のことをもっともっと好きになるようにしてあげる!』





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